王子様登場
「で……殿下!!」
視界に飛び込んできたのは、目にも眩しいきらびやかな金髪。
その髪はくせっ毛の私とは違ってストレートで、しかも肩の下まで伸ばして流している。
なんていうか、いつ見てもサラサラでトリートメント(いや無いけど)が行き届いている感じだ。
「何か騒がしいけれど、どうかしたのかい?」
涼し気な紫色の目が私を見て細められる。私より頭一つ半は高いところから見下ろす視線は柔らかい。白を基調とした制服が良くお似合いで、見るからに王子様って容姿をしていた。ていうか、王子様そのものなんだけども。
「あ……いえ、その」
茶番が続く混乱の現場に颯爽と現れたのは、この国の王太子にして私の現婚約者。
リュオディス・アルト・スティクレール。
いずれ私を悪役令嬢として断罪する予定の男主人公だ。いや、そのはずなんだけども…ゲーム序盤であまりのクソさにぶん投げちゃったから、どういう流れでそうなるかがサッパリ解んないんだよね。まあ、良いけど。なんとかなるでしょ。たぶん……。
「良いところにおいでくださいました!!殿下!!」
さて、シナリオ通りに登場した王太子殿下に、さっそくポンコツ男…こと、レイドール・ユトス・コルターナくんが食い付いた。うんうん。まあ、ここまではプレイしたから知ってるよ。ここからさらに、私は殿下からもお叱りを受けるんだよね。
人の話を聞かないアホ×2倍で、頭痛くなったからよく覚えてるよ。
「オイレンブルク令嬢が、彼女を突き飛ばしたのです!!」
自信満々に見ても居ないことを見たように報告するレイドール様。ああ、もう君の残念な頭の中では、それ事実になってんだね??つーか、君も生まれたばっかりの雛かよ??って、脳内で突っ込みつつ私は覚悟を決めて殿下の対応を待つ。
というか、いやもうほんと面倒だから、早く終わって欲しいんですよ。
という訳で、さあさあ、どうぞ、断罪してやってください。
「……………」
半ばやけくそで開き直って反論もせずにいると、殿下がゆっくりと端正な形の唇を開き──
「何を言っている。アウラがそのような真似をするはずがあるまい」
「…………………は??」
ちょっと待て。
なんで私のこと庇ってるんです??
そこは『酷いことをする女だ、君は!!』だったでしょ!
「……リュオディス様?」
「……えっ」
「……えっ??」
私もだけど、レイドール様も、ヒロインの彼女も、予定外の殿下の返答に言葉を失くしてしまっていた。あらら。ちょっと、てっきり殿下は味方だと信じ切ってた二人が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってるじゃない…どうするの、この空気??
「いや、あの、ですが、彼女がそう言って……」
レイドール様は何とか立て直そうと、背中に庇ったヒロインを指しつつ言を継いだ。
頑張れ!!レイドール様!!殿下に否定されて、もうさっそく自信がなさげな顔になってるけど、私は君を応援してるぞ!!ファイトだ!!未来のポンコツ宰相!!!!
「だから、その彼女が言っていたではないか。自分で転んだと」
えっ、そこ、聞いてたの??殿下の正論そのものの突っ込みに、私は素直に驚いてしまった。
まあ確かに自分で言ってたよね。『自分が悪い』だから『オイレンブルク令嬢は悪くない』って。それはそうなんですけど、でも、あなたがそれ言っちゃ話が進まないでしょ。
いきなりこんな初っ端から、シナリオ変更ですか。
つーか誰の仕業だよ、この改変??
少なくとも私は何もしてなかった。
だってヒロインに足かけて転ばせたりしてないもんね。
むしろ、させてもらえなかった、と言おうか……??
「さあ、教室へ行こうか。遅刻するよ、アウラ」
「え……あ、ええ…」
ごく自然にエスコートされた私は、ごく自然に殿下の腕を取り、流れるような足取りでその場を脱することに成功した。えええ??良いの!?悪役令嬢の私が、男主人公と仲良く離脱しちゃっても??
後には何が起こったのか理解できずに愕然としたヒロインと、大口を開いたまま間抜けな顔を晒しているレイドール様が残されたのだった。
人間…やっぱり、顔だけじゃダメだ。
うん、ある程度の脳みそ必要だわ。




