婚約破棄と新国王
「それで、なにがあったの?」
家へ入ってミィナと二人でお茶とケーキを楽しんだ後、私は、先刻の彼女が慌てて駆け込んできた要件について話を進めた。すると、ハッと思い出したようにミィナは、勢い込んで緊急事態について話し始める。
「お嬢様、先ほど王都から町役場へ告知が届いて──リュオディス様が退位されたと…」
「えっ、殿下……いえ、陛下が……?」
「はい。リュオディス陛下が退位なさいました」
「そんな……」
婚約破棄のあと数年して、リュオディス殿下は王位を継いだ。
もちろん、その隣には婚約者として、神女キャスリーナ嬢が。
いや、まあ、それはともかくとして。
国王となったリュオディス陛下は、これまでの間、賢王と称えられるほどの善政を敷いてきた。
農地改革、税制改革、国家間の問題、細かいことでは、都市間の街道整備など、これまでおざなりにされてきた数々の問題を速やかに解決してきたのだ。
おかげでこんな田舎町にも、都会の情報や物資がすぐに届くし、国民の生活も以前に比べればかなり豊かになってきている。
私はそんな彼の活躍を耳にしながら、いつも心で応援していたのだ。
私にはできなかったことを、彼の隣でやってくれている、婚約者のキャスリーナ嬢に対しても。
ちなみにキャスリーナ嬢からは、ちょくちょく手紙が届いていた。
内容は近況報告とか、他愛もない世間話とか、前世のゲーム話とか(笑)
その文面は悪役令嬢にマウントを取ってるって感じじゃなくて──どちらかというと友達に手紙で気安く連絡を取ってきているだけ…って感じだった。
その証拠に手紙の書き出しはいつも『親友アウローラ様』だ。
いつ親友になったんだ…と初めの頃は心の中で突っ込んでたけど、今はもう、親友って言葉にあまり違和感がない。良い子だしね、彼女。なんか憎めないって言うか。
話が逸れたけど、そんな訳だから、リュオディス様が退位する理由が解らなかった。
「まさか、ご病気とか…なにか大変な理由が…?」
「それは解りませんけど…代わりに弟王子が即位されたそうです」
「ああ……そうよね…」
リュオディス様のすぐ下の第二王子は、兄に劣らず賢く見識があると評判だった。私も彼なら兄の跡を継いで、良い国王になれるのではないかと思う。だから、彼がリュオディス様の後継となるのは至極当然のことだった。
「あと……その…」
「ん?……まだ何か…?」
なぜこのタイミングで退位したのか。
なにか重大な理由があるのか。
もしかして身体を壊したとか?
様々な不安や疑問が脳裏を掠めていた私に、ミィナはまだ何か言いたげな様子を見せた。だが、何故かとても言い難そうにしている。なんなんだろ??と不思議に思っていると、
「リュオディス様は退位と同時にキャスリーナ嬢と婚約を破棄。そして…キャスリーナ嬢はそのまま、第二王子と──いえ、新国王と結婚されました」
「……………えっ」
一瞬、頭が真っ白になった。
言われてることが良く理解できない。
え??なに??これってどういうこと??
最近届いたキャスリーナ嬢からの手紙には、特になにも書いてなかったのに。
「いったい二人になにがあったの??」
確かにいつまでも『婚約者』という立場のままで、キャスリーナ嬢を王妃にしないのは何故なのか?と、何年も不思議に思っていたけれど。それはきっと国の改革がひと段落着くまで、あえて結婚せずにいるだけなのだと思っていた。
不仲説も聞いたこと無いし、噂すら流れたこともない。
むしろ二人は歴戦の戦友のように、国の改革に励んでいた──はずなのに。
それなのに………何故??
「お二人の間に何があったのかは…さすがに解りません」
「そうよね……」
ミィナも困り顔で首を振るしかなかったみたいだ。まあ、私も答えが返って来るとは思わなかったけど。




