王都からの知らせ
「あら、ミィナ……そんな慌ててどうしたの?」
走って来たのは私の元専属侍女で、乳姉妹でもあるミィナであった。
本来ミィナは私が王都の公爵邸を出る際、そのまま侍女頭として屋敷に残る予定だった。なのに彼女は『お嬢様をお1人に出来ません』とお父様に訴え、約束された地位や給料を蹴り飛ばして、一緒に領地へやってきてしまったのだ。
「一緒に来ても、公爵邸で貰えるほどの給料とか払えないよ?」
「そんなこと問題ではありません。生活費くらい自分でなんとかします」
一応、止めたけど、ミィナは頑なにそう言って、自らの意思を曲げなかった。
結局、そんな彼女に父は、退職金としてかなりの額を与えたみたい。もちろんミィナは断っていたのだけど、『受け取らないと退職を認めない』などとお父様に言われてしぶしぶ受け取ったようだ。
しかもおそらく、一生、食うに困らない金額を。
そんな大金を受け取ったミィナは私の家の近くに家を買い、町で仕事を見つけて働きながら、しょっちゅう私の様子を見に来ている──という訳だ。
なんでそうまでしてミィナが、私に尽くそうとするのか良く解らないけど。でも、あまり知人のいない町へ移住するのに、子供の頃から側に居てくれた彼女が着いてきてくれるのは正直心強いし有難かった。
「なにかあったの?」
「さきほど王都から連絡がありまして……」
よほどのことが起きたのか、ミィナは息を切らせながら言葉を継ごうとする。たぶん、仕事場から走って来たんだろうな。家からだとホントすぐ隣だから、ここまで息は乱れないだろうし。
ていうか、町からだとすると、結構な距離走って来たのでは。
「まずは家へ入って。お茶出すわね」
「いえ、そんな落ち着いてる場合じゃ…」
「ミィナの好きなケーキあるわ」
「ごちそうになります」
疲れた様子のミィナを心配して家へ誘うと、彼女は最初、手を振って断ろうとした。が、ケーキのことを伝えると、途端にスタスタと私の家へ向かって歩き始める。う~ん。よほど好きなんだな。フェアリー堂のチーズケーキ。
あ、フェアリー堂って、近くの町の有名な菓子店のことね。
ミィナとこの町へ越してきた後、一緒にそこでお茶したんだけど、その時、チーズケーキを食べて惚れこんだらしい。一目惚れ…いや、一口惚れ?かな??まあ、確かに絶品だからね。私も好きだ。
彼女の言う『大変な事態』というのがなんのことかは気になるが───それよりも今は、大好きなチーズケーキに目を輝かせながら、いそいそと歩くミィナの姿が微笑ましくて。
私はニコニコと笑顔で彼女の背中を見詰めながら、小さなタマを伴って我が家へと足を踏み入れたのだった。




