10年後の世界で
「おおきいの、採れたねえ」
「みゃっ!!」
自身の体より大きなダイコーンを持つタマに、にっこりと微笑みかけながらそう言うと、タマは嬉し気に目を細めてダイコーンを抱え直した。
モフモフの両手が可愛い。
猫というにはでっかいけど。
仔猫の頃は手のひらサイズだったタマも、今や私の腰くらいまでの背丈がある。まるで転生前の世界で好きだったゲームに登場してた、直立二足歩行の猫みたいだ。さすがは魔物。
「このくらいで良いかな……」
家庭菜園の手入れを終えて、作業道具を片付けた。柵に囲まれた小さな菜園だけど、たくさんの野菜が実っている。私って実はこういうの向いてるのかも??などとにんまりしつつ、収穫した野菜を入れた籠を持って、すぐ近くに建てられた家へ向かって歩き始めた。
「みゃ~」
そんな私のあとを、とことことタマも付いてくる。あ~癒される。歩きにくそうなのにダイコーンは離さないところがまた可愛かった。
ここは父であるオイレンブルク公爵の領地。
王都よりは田舎だけれど、そこそこ大きな町の郊外に建てられた、『私』こと公爵令嬢アウローラの『終の棲家』だ。
小さな平屋の一軒家と、小さな畑があるだけの、ほんとにささやかな住処。
でも、私とタマが住むだけなら、十分すぎるお家だ。
ここに住み始めて、もう10年になる。ちなみに独身。っていうか、これぞ独身貴族ってやつ??(笑)
父からは特に何も言われてないから、今後も結婚する気はなかった。
「お前の人生だ。好きにしなさい」
10年前のあの日──殿下との婚約破棄の日──に、父はそう言って私を送り出してくれた。
散々泣き晴らした私の顔を、気遣うような優しい笑顔で見詰めながら、公爵家のことは気にするな、とも。
「ありがとう。お父様」
まあ、もともと父には子供が私しかいなかったうえに、肝心のその私は王太子に嫁ぐ予定だったから、公爵家の後継は親戚から養子を迎える予定であった。だから、私もそこは心配していない。養子候補の従弟は優秀で良い子だし。
そんな訳で私は、子供の頃から──というか、前世の頃から((笑)の夢だった、優雅なお1人様生活を始めた──という訳だった。
まあ、正確に言うと飼い猫……ううん、『家族』であるタマと一緒の、嬉し楽しい二人生活だけれど。




