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2人目のポンコツ

「どういうことですか?オイレンブルク令嬢」

 平坦そのものと言った声色で、先生が問い掛けてくる。

 これまた長髪の男だ。顔は良いけど好みじゃない顔の上に、腰まである長髪とか勘弁してほしい。一応、後頭部のすぐ後ろで結んではいるけども。って、外見の好き嫌いを論じてる場合じゃなかったか。

「どうと言われましても……」

 何もしてない身としては、この状況はとても説明しづらい。

 なにせ落書きした犯人が、自ら罠にハマった…とは、さすがに言えないし。さて??どうしたものか??

「机に落書きがされていたようですわ。私も驚きましたけども」

「ほう…落書きがね……」

 とりあえず客観的に見たままのことを言うしかなかった。先生はそんな私の言葉に、思慮深い表情で頷いて見せている。よし。これまでのポンコツ男と違って、こいつは話が通じそう──

「自分のしたことを他人事のように言うなど、恥を知らないのですか!?」


 ダメだったーーーーーーーーー!!!!


「は?私が落書きをしたと…先生はそう、おっしゃっておられますの!?」

「それ以外のどう聞こえるのです??」

 秒でポンコツぶりが露見したよ、先生…!!っていうか、どっかで見たような顔だと思ったら、あのクソゲーのパッケージに居たよね、アンタ!!つまりヒロインの攻略対象ってことだわね!?


 つまり悪役令嬢の敵じゃん!!!!!!!!!

 ミリでも期待した私がバカでした!!


「ですが私が教室へ入った時にはすでに落書きしてありましたのよ?ついでに、私の字はソコに書かれたものとは異なりますし、ペンだって持っておりませんわ?」

 言っても無駄かなとは思いつつ、とりあえず反論を試みてみた。

 いや、数日前のポンコツ1号…ことレイドール様の例を考えると、この人たちに人の話を聞く能力は備わってないと思うんだけど、ね??でもまあそれでも一応、言うだけのことは言っておこうかと。無駄かも知んないけども。

「証拠は抹消済みという訳ですか…なんと周到な…!」

 あああ…ほらね…やっぱ無駄でした。


 この人らの脳には悪役令嬢たる私が犯人だと、強固にインプリンティングされてるんだろうな。そういう意味では原作の駄作ぶりが丁寧に発揮されてるわ。…しなくてもいいのに。


「お疑いなら持ち物を調べて頂いても構いませんわ…ああ、あと、その筆跡も」

 きちんと調べれば簡単に私の無実は証明されるだろう。けど、たぶん、まず調べること自体しないんじゃないかな?この人…と思ってたら、

「周到な貴女のことですから、証拠など出てくるはずもありません」

 先生はため息しか出ない返答を口にした。


 ていうか私のことそんなに良くご存じなんですかね、この人??


 私の記憶を掘り返してみても、授業を受ける以外の個人的な接触はほぼ皆無なんですが。っていうか、ひょっとして喋ったのも、これが初めてじゃなかったかしら??

 だと言うのに私のすべてを知り尽くしたような言いようは、なんだか知らんがムカついた。よく知らない他人に、自分のことを『そう言う人間』と決めつけられることほど、もやもやすることはないと思った。

「調べてもみないうちから、そういうこと…」

「あの、先生!僕、見ました!」

 ムカつきのまま文句を言おうとしたら、すぐ隣に座っていた男子が立ち上がって会話に割り込んできた。

「………え?」

 んん~??誰だっけ、この人??なんていうか見るからにモブって言うか、キャラデザの人に適当なデザインをされたに違いないって顔の男子生徒だ。私は顔どころか名前すら知らないけど…彼はいったい何を見たって言うつもりなのかな??

 気になって口を閉じて彼の発言を待っていると、

「昨日の放課後、そこの彼女が机に何か書いてるのを、僕見ました!」

 だからオイレンブルク令嬢は犯人じゃない。そう、きっぱりと言い放ったモブ顔君に、私は思わず拍手を送りたくなった。


 はいっ!!目撃者登場!!これでヒロインも言い逃れ出来まい!!


 ホッとしつつキャスリーナ嬢の方を見ると、両手で覆い隠しきれてない部分の顔が、舌打ちでもしそうな邪悪な表情を浮かべていた。おいおい…解り易すぎるぞ、ヒロイン…!!

 それはさておき。目撃者登場で、先生はどうでるつもりかな。

「目撃者まで用意するとは、本当に貴女という人は、どこまで汚い手を…!」

「…………ッッ」


 あー…うん。予想はしてた。してたけど、さすがに疲れてきた。

 あと、なんか哀しくなってきた。泣きそう。


 私は本当に何もしていないのに、どうしてここまで言われないといけないのか。何故、まともに話すら聞いて貰えず、最初から悪と決めつけられてしまうのか。

「君も悪に加担するのはやめておきなさい。身のためにならないよ」

「え…いや、僕は本当に……」

「今ならまだ引き返せます。そうですね。今この場で証言を取り消すというなら、ご実家の子爵家にも迷惑をかけずに済むよう、この私が取り計らって差し上げましょう」

「あ………ええと……」

 せっかく勇気を出して証言してくれたモブ顔君も、先生に脅迫ともとれる説得に屈しそうな勢いだ。


 いや、たぶん、そこまでが強制シナリオなんだろう。


 この場に私の親友である令嬢たちや、婚約者である王子もいないことが、そのことを証明していた。

 だって年齢が上の王子はともかくとして、同い年の令嬢がこの場に居ないってどういうことよ??そのくせ、教室の人数は揃ってるって、バグじゃなければわざととしか思えない。いや、あのクソゲーならバグの方が正解なような気もするけど。

 要するに私の味方が誰一人としていないのだ。


 ここは先生ルートの断罪シーンなのかも知れないな…。

 ならどうあがいても私は悪役令嬢として断罪されるしかない。そう、諦め半分投げやり半分で、けれど、涙を見せるのは絶対に嫌だからと、毅然と前を向いて先生の顔を睨み付けた。その時──

「僕の婚約者を犯人扱いとは、どういうおつもりですか、シーリズ先生?」

「…………え」

 バタンと音を立ててドアが開き、険悪ムードの教室内に颯爽と現れたのは──

「……え、誰?」

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