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隠居後の楽しみと新たな事態

 あれから数日。結局、魔物を飼い慣らす良い手段については特に進展はない。無念。

「じゃあ行ってくるわね」

「はい。行ってらっしゃいませ。お嬢様」

 ミィナに見送られて馬車に乗り込んだ私は、学園に着くまでの間に考え事をしていた。とは言ってもそれは、今後の楽隠居計画や魔物の飼育方法という、私の人生設計に関することではない。

 いや…実のところ、その一環といっても良いかも知れないが、それとはまた別の…けれど人生を楽しむための重要案件でもあった。


 それが何かというと──


 いかにホモと思われない程度で、しかし、そこはかとなく匂わせられる設定で、BL小説を書くか!?


 ──である。あ、なんか今、どこかの誰かに思いっきり引かれた気がする。

「うーん…要は火のないところに煙をたたせられるようにすれば良いわけよね」


 同性愛はこの国の国教である『ファイローラナ神女教』の協議で禁忌とされていた。


 以前、そのことを知った時は絶望したが、よくよく考えてみれば前世でも、火のないところに勝手に煙をたたせた二次創作を愉しんでたんだから、この世界でもそれが出来るような一次作品を書いちゃえばいいんだよね、と最近になって気付いたのだ。

 まあ、そこがなかなか難しかったりするんだけども??

 将来、無事に楽隠居生活を手に入れたら、自分の好きな話を書いて自費出版したい。そう、これもまた、私の未来設計のひとつであった。なので、とにかく今から細かい設定とか、キャラクターとか、世界観を考えておこうと思ったのだ。


 いつでも自費出版できるように、暇をみて書き溜めておこうとも。


 その上で一番の問題が『同性愛の禁止』だったから、抜け穴を突いて『匂わせBL』を書こうかなって考えた訳だ。まあ、要するに直接的な表現がなけりゃ良いんだよ。…たぶん。あとは各々の脳内で楽しんでくれればそれで大丈夫かな!!って。


「きっとこの世界にもいると思うんだよ…隠れ腐女子」

 誰も居ないのを良いことに独り言ちる。

 そんな同志と一緒に楽しめたら、楽隠居生活も薔薇色になると思う。

 前世でも生きる糧だった『推し活』が、この世界でも引き続き楽しめるのなら、それはきっとなによりも、私の隠居生活を彩ってくれるはずだから、だ。


 残念なのは今のところ、自家発電しか手段が無い、というのは……まあ、仕方ないけども。うん。


 こうしてネタ考えるのも、ワクワクして楽しいし。

 学園までは馬車で30分以上かかるから、ちょうどいい暇つぶしにもなるしね。


 もちろん、忘れないようメモは常に持ってるよ!!

「あ……そうだ、この設定も…」

 と、随分と厚くなったメモ帳に、今思いついたばかりのネタを書き込む私だった。



 今日は放課後、図書室へ寄ろうかしら。


「皆様、おはようございます」

 馬車の中で思いついたネタに肉付けしながら教室へ入る。と、何故だかいつもと雰囲気が違っていた。なにかしら??なんだかざわついている??

「あ…おはようございます…アウローラ様」

「オイレンブルク令嬢、おはようございます…」

 私に挨拶を返してくる令嬢や令息の様子も変だ。なんか、誰も彼も微妙に目を逸らしてくるから『ンン??』と気になって、彼らが横目でチラチラ見ている机を見てみる──と。


「………え?」

 なにこれ……


 ちょっと説明の補足をしておくと、この学園における教室は、前世での大学(行ったことないが)の講義室みたいな作りで、生徒らは何人も座れる長机の後ろへ等間隔で置かれた椅子に着座していた。

 つまり、決められた席順はないし、皆、その日のその日の気分で席を変える。

 けれど、私はなんとなく気に入ってる同じ席に、毎日のように座っていた。もちろん、そこが空いてれば、の話だけども。

 でも、そんな私に周りの人も気遣ってくれてるのか、今ではそこに座る者はほとんどいなかった。おかげで、最近ではなんとなく『私の席』との認識になりつつあった。


 その、机の上に。


 馬鹿。アホ。ブス。お前の母ちゃんデベソ。


 って…昭和か??

 これは、昭和のギャグマンガなのか??


 とセンスを疑いたくなるような落書きがデカデカと…ホントにデカデカと書かれていたのだ。しかもお世辞にも上手とは言い難い文字で。


 誰が書いたか知らんが、字が下手だな、おい??


「………………」

 にしても、呆れて物が言えないって、こういうことかな??

 確かに、この席は誰の席でもない。

 しかし、前述の通り、最近は私の席との認識がある。

 だからきっとたぶん、ていうか、十中八九、これは私に対する嫌がらせ…なのだろうけども。


 それにしては、いくらなんでもレベルが低すぎる…。

 相手は小学生低学年なの??それとも保育園児かな!?


「…………………」

 その、あまりにも稚拙すぎる嫌がらせに、私は、しばし開いた口が塞がらなかったのだった。

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