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猫が駄目なら

「はあ~……」

「お嬢様……」

 朝から何度目かも解らない溜息を吐くと、リィナが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「ごめん。大丈夫だから」

「大丈夫そうに見えません。今日はお休みになられては?」

 学園へと向かう馬車の中で、これまた何度目か解らない会話を繰り返す。

「ん~…でも、落ち込みは激しいけど、身体はどこも悪くないし…」

「どこも悪くないとおっしゃいますけど…心も体の一部だと思いますよ?私は」

 リィナ、良いこと言うなぁ。『心の病』なんて言葉、前世でも近代になってから言われ始めたことなのに、この中世時代風の世界でそんな風に言えるだなんて。

 などと感心しつつ窓の外を見ると、すでに学園の門がすぐそこに見えていた。あ~あ…ここまで来てしまったら、今度はトンボ帰りするのも億劫だ。

「気分が乗らなかったら、途中で帰るから」

「……そうですか?」

 今からでも引き返したさそうなリィナに、パタパタと手を振って見せて馬車から降りる。と、御者のバートがこれまた心配げな顔で、馬車から降りる私の手を取って支えてくれた。

「お嬢様、ワシは馬車場で待っております」

「あ……ええと…うん。ありがとう」

 最後まで授業受けたら、6時間は待つ羽目になるのに。

と、一瞬断ることも考えた私だったが、なんとなく無駄な気がしたので、彼の好きにさせることにした。


 それにしても、我ながら使用人にまで愛されてんなぁ、私!!??


 これも前世で培った地味で控えめな性格のお陰かしら??原作ゲームのアウローラは、もう少し意地が悪い感じがしたし、これってやっぱそうだよね??たぶんだけど…。

「じゃあ、行ってくるわね」

「「いってらっしゃいませ」」

 自画自賛でちょっぴり自分自身の機嫌を取りつつ、未だ憂鬱な気分のままながらも私は『よっしゃ!1』と気合を入れて、その、いつ見てもきらびやかで豪華な門扉をくぐったのだった。



 『脚本家が猫嫌い』


 前世ではこのゲームに猫が存在しない理由について、『脚本家が猫嫌いなのでは?』というまことしやかな噂が飛び交っていた。

 と言ってもドマイナーな(悪い意味で名を馳せたが)ゲームのことをとやかく言うのは、ほんの一部のコアなファンやアンチの人達だけではあったが。

 とにかく、脚本家個人の猫嫌いが、世界観の設定にまで影響を及ぼしている、というのがもっぱらの噂であった。まあ、私はSNSでそんなささやきを見ただけで、真偽のほどまでは知らないんだけど。


 ともあれ、そういう理由で猫がいないのなら、それはそれで納得もいく。

もちろん、仕事に私情挟み過ぎな気もしないでもないが。


 そんな世界に生まれ変わってしまったのは不幸だった。

 

 今となってはそうでも考えて納得するよりない。

 ──と、昨日から無理矢理そう考えてるんだけど、実際はなかなか納得できないままでいた。そりゃそうだよね。人生設計…というか『私の楽しい隠居生活』がかかってるんだもん。簡単に諦められる訳がない。


 いっそ、猫っぽいモノでも良いんだけどな~


 ふと、授業を上の空で聞きながら考えた時、稲妻みたいに一つの案が脳内に閃いた。


 そうだ。


 魔物だ。


 魔物でも良いんじゃない。


 確かにこの世界には、猫という動物は居ない。

 けれど、魔物になら?


 ──そう、魔物になら、いるのだ。

 猫っぽい生き物が。


『……これだ!!!!』

 思いついた途端に、生きる力が湧いてきた。

 ついでにめちゃくちゃワクワクしてくる。

 なんていうんだろう。

 ウズウズとして今にも走り出したい気分というか??


 ああ、でも、コレ覚えがある。


 これはアレだ。


 新たな推しを見出した時の気分??


 やばい。楽しい。

授業中でなければ奇声を上げていたかも知んない。


「うふふ…」

 ニヤニヤが止まらなくて扇子で口元を覆い隠した。

『休み時間に入ったら、図書室へ行って魔物のことを調べてみよっと』

 私はあまりにも楽しい考えに夢中になっていて、その間の授業内容とちょっとした事件をほとんど覚えてなかった。空に妄想の世界を見ていたそんな私の目の端で、何やらヒロイン女子がキーキー言っていたような気もするんだけど…はて??

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