死ぬということ
「だァからあ、そいつがヘルワイヴァーンを一撃で倒したっつってんだろ」
バルバダとミルファが傷ついたキャレルを治療しつつ連れて帰ると司聖教のものたちが慌てた様子で話しかけてきた。
「ありえぬだろ、凶暴化したヘルワイヴァーンだぞ、瀕死だったのか? その者は誰だ?」
「いいや、現れたばかりだった。それに倒したのは人族だ」
「なんだとッ!?」
司聖教の顔には驚きとともに焦りが見えていた。
「アンタらには関係ねえだろ。こっちは怪我人もかなりいるんだ、後にしてくれ」
そしてバルバダとミルファはそのまま救護室に向かっていった。
「どう思う、ミルファ?」
「どうというのは?」
「司聖教の奴らだ。いくらなんでも怪しいだろ。······凶暴化は、アイツらの仕業じゃねえか?」
「····正直なところ、私もそう思うわ。でも動機が分からない。魔物たちを凶暴化させたところでここにも被害が出るのは目に見えているはずなのに」
ミルファはその可能性を示唆しつつも考え込むように押し黙った。
「「ッ!」」
すると二人の目の前にはベオウルフが現れた。二人はそれに気付くと疲れた体を無理矢理動かして急ぎその前に跪く。
「ベオウルフ様、なぜこのようなところへ」
「いや、悪かったな。かなり無理させちまった。お前らは大丈夫か?」
「はい、ご心配なく。こちらこそ八雲朱傘の名を汚してしまい申し訳ありません。剣帝様のためにもこれから精進させていただきます」
「大丈夫だ。しっかり休め」
「「ハッ!!」」
その光景を見ていた司聖教は恨めしそうな顔をしてベオウルフたちのことを見つめた。
憎しみの念を表には出さずともその顔にははっきりと翳りがあったのだ。
そして司聖教の瞳には既に光など差していなかった。ただ暗く、深い闇に呑み込まれた司聖教たちの忠誠心は、既に剣帝の元には無かったのだ。
ーギルメスド王国の地下。
その場所は闇深く、到底光などさすことは無い。そしてたいまつの薄暗いわずかな光にその顔は照らされた。
頬杖をついたその人物はニヒリと笑いつつ暗い目を開く。その顔は底が知れないほどの闇を纏い、その目は強く激しい野望とともに何も無い真っ黒な空間を見つめた。
その者の名はファンベルト・ラグナルク。白い髭を生やしたラグナルクはその老体を持ち上げ、立ち上がる。
威厳あるその出立ちは辺りに緊張感を与え、重たい空気が漂っていた。
「待っておれ、贋物の帝王よ。贋物は、真なる帝王には勝てぬ」
その場には跪く司聖教に加え、血を流して倒れる中央教会の騎士の姿があった。
「ウン。凶暴化したヘルワイヴァーンもイタ。バーガルの人は助けにいったけど、もう手遅れだった人も多カッタ」
帰ってきたボルたちはメスト大森林で起こったことを報告していた。
「そうだったんだ······ブルファンには申し訳ないな····」
「ジンが落ち込むようなことじゃない、事態が急過ぎただけだ·。問題は、この凶暴化の原因だ」
「そうじゃな、おそらくは何者かによるものだと考えた方がよい」
「原因が分からない限りは操られる可能性があるからその場所には近づかないようにしよう。エルシアにもみんなに伝えるように言っておかないと。それとインフォル、危険だから今はギルメスドに行かないで、みんなも注意を」
「おっ、おう気づいとったんか。まあジンちゃんにそう言われたらしゃーないな。了解や」
すると魔力波でブルファンからの通信がかかってきた。
(ジンさん、この度はお力を貸して頂き誠にありがとうございました)
(構わないよ、ごめんね。全員は間に合わなくて)
(何をおっしゃいますか。我が国の近衛兵であるリュードも大変感心しておりました。それともう一つお伝えしたいことがありまして)
(ん? どうしたの?)
(戦いの後、急いで来たギルメスド王国のものたちに救援に来た者たちは誰か知っているかと聞かれたそうで。
リュードは何も知らないと答えたそうなのですが、どうやら正体が分かればすぐに報告して欲しいとのことです。どういたしましょうか?)
(あーじゃあ内緒で。今はことを広げたくないからさ)
(了解しました。それでは、本当にありがとうございました。我が国にできることがあればまたなんでもおっしゃってください)
(分かった。それじゃあね、バイバーイ)
(は、はい。バイバイ)
「とりあえずみんなお疲れ様。今日はゆっくり休んでね、何かして欲しいこととかはない?」
「いっ、いえ何をおっしゃいますか。私たちは貴重な戦闘経験を積ませていただいただけで結構です」
ナリーゼはバッとその場に立ち上がり申し訳なさそうにした。
そんな様子を見ていると、真面目だなと思ってしまう。
そして傭兵達は立ち上がり疲れを癒すために温泉へと向かっていった。
話し合いを終えて家に帰ると、ゆっくりと目を瞑り静かに祈った。
(どうか、失われた魂が幸せな場所に辿り着けますように)
今日亡くなったのはバーガル王国の人たちだけじゃない。
日々魔物は人を殺め、人は魔物を殺める。それは、自身の身をそして周りの存在を守るために必要なことだ。
だけど、そこで納得して止まりたくはない。命を刈るということはその者の人生を断ち切るということ。だから魔物達を倒すときは被害が少ないようであればできる限り峰打ちで済ますようにしている。こうして、祈るようにしている。
こんなことを考えていると急に怖くなってきた。
もし、仲間が死んでしまったら。死ぬということは二度と会えなくなるということだ。
そんなこと絶対に嫌だ。考えるだけで寒気がする。もう誰も、近くで大切な人に死んでほしくない。
ずっと近くにいてほしい、ずっと近くにいたい。
そんな時、部屋にいたブレンドが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「かなし? ジン?」
「大丈夫、なんともないよ」
「よかった。やったぜ」
そう、私には仲間がいるのだ。決して手放してはいけない仲間が。




