場違いの戦力
「怯むなッ!! ここを守れねば民に被害が出るぞ!!」
メスト大森林にはバーガル王国の衛兵が総出で凶暴化する魔物たちを抑えていた。
現れた魔物はBランクの「ガーグナイト」に加え大量に発生した「アーミーアント」という巨大な蟻の群れ、Aランクでは「スパイラルホーン」と呼ばれる螺旋状に歪曲した巨大なツノを持つ魔物に加えて、幻覚や神経麻痺、猛毒など様々な状態異常を引き起こす「アブアラーネア」という人の何倍もあるような蜘蛛の魔物だった。
さらにそれぞれの魔物が凶暴化し、向かってきた衛兵たちのみを襲っていたため被害は甚大だったのだ。
バーガル王国の近衛兵であり今回の指揮を執っていたのはリュードという男であった。リュードは衛兵たちが全くもって現れた魔物たちに歯が立たず目の前で死んでいく光景になす術もなく、ただ救援部隊を待って時間稼ぎをしていたのだ。
(クソッ、この凶暴性、それにこの数。我が国の戦力では危うい)
そんな時、リュードの耳に報告が入った。
「リュード様! ギルメスド王国騎士団が近くまで来ているそうですッ。現在は魔物を討伐しながらこちらに向かっています」
「よしッ、おそらく向こうにも出ているのだろう。至急協力を仰げ!」
「ハッ!!」
メスト大森林を挟んで隣国に位置するギルメスド王国とバーガル王国は交易の面や政治の面から見て古くから交流が深い。それに加え両者人族が多く住むため、文化的な関係も深いのだ。
リュード達がいるところから少し離れた場所にはギルメスド王国周辺で凶暴化していた魔物を処理していたバルバダ、ミルファ、キャレルの三人とその部下の騎士団が引き続き魔物討伐を行なっていた。
「ヤベェな、このまま行けばバーガルまで行っちまう。それに数が思ったより多い」
「そうね、私達が苦戦するようじゃバーガルには厳しいわ。ここである程度は食い止めないと」
「だから言っただろ、僕はこのレベルに昨日一人で耐えてたんだ」
昨日キャレルは二人に小馬鹿にされて少し腹が立っていたのだ。
「報告! バーガル王国から救援要請です! 凶暴化したAランクの魔物が多数出現し、総出で迎え撃っているようですが事態は一刻を争うとのことッ!」
「マジかよ、ここを終わらせんのも結構キツいぜ。他の奴らには来んなって言っちまったしな」
「本当に貴方は馬鹿ね。カッコつけずに他のもの達を連れてこればもっと楽にできたのに」
「ったく、悪かったよ。それよりさっさと片付けんぞ。気を抜いてりゃあこっちが全滅してしまう」
「報告! アブアラーネアの毒による被害が甚大! こちらの回復班では間に合いません!!」
「アブアラーネアは私がやる。貴方達二人は他の魔物を」
ミルファの使用する武器は細く鋭いレイピアだ。意思のある武器ではないもののトライマキア鉱石【黄金石】と呼ばれるヒュード族が防具に使用していたアレグライト鉱石【輝石】よりもさらに一段階硬度が高い鉱石を使用しているためその耐久性と切れ味ともに非常に高い。
ミルファは一気に前線へと上がっていき軽い身のこなしでくらえば即死の猛毒を危なげなく避けつつアブアラーネアを一体ずつ確実に処理していった。
「貴方達! 一度後衛に戻りなさい、奥はさらに魔物が多くなっている」
ミルファの言う通り奥に行けば行くほど魔力濃度は高くなっておりアーミーアントの群れが統制の取れた動きをしていた。
(スパイラルホーンもいる、普通はこんなところまで姿を現さないのに······)
「危ねえぞッ!!」
ミルファに突進をしてきたスパイラルホーンをバルバダは大斧で食い止める。
「チィッ!」
(いつもより重え、それに速い)
体勢が少し崩れた状態で防御したため、バルバダの体全体に衝撃とともに痺れが走る。
なんとか威力を殺しその場に止まったバルバダにたたみかけるようにして凶暴化した大量のガーグナイトが持っていた剣でバルバダの鎧に激しい打撃を加えた。
「バルバダッ!!」
大量のガーグナイトからの攻撃にアレグライト製の鎧はひび割れバルバダの皮膚を傷付ける。
「問題ねえ! キャレル! 魔法で一帯を焼き尽くせッ! 森林に被害が出るが仕方ねえ!」
「了解ッ。······火の精霊よ、我が魔力に応え大いなる炎の力を振え。メガフローガッ!」
キャレルの放った巨大な業火は急速に森林を燃やしつつ、アーミーアントやガーグナイトの体を燃やし尽くしていく。
ーしかし、
「オイッ! なんでこんな魔物がここにいるんだよッ!!」
キャレルは驚きと混乱の感情で思わず叫んだ。
その炎はスパイラルホーンやアブアラーネアを焼き尽くす前に現れた巨大な魔物により一瞬でかき消されたのだ。
三人の目の前に現れたのはヘルワイヴァーンと呼ばれる正真正銘、Sランクの魔物だった。
「今すぐ、八雲の誰かを呼んできて!! 凶暴化してるッ」
ヘルワイヴァーンは通常、メスト大森林に現れることはない。
普段は遺跡跡などを住処とし、凶暴性はあるものの縄張りの中にいるため自ら人間の暮らすような場所まで来る魔物ではないのだ。
ヘルワイヴァーンは巨大な尻尾を大きく振るい鞭のようにしならせると猛烈なスピードでキャレルを攻撃した。
「ハイエントッ!」
一瞬にして自身に身体能力上昇の魔法を付与し両手に持った片手剣と盾でその攻撃を受け止める。
「キャレルっ!!」
しかしバキっという嫌な音とともにキャレルの盾は割れ、木々なぎ倒しながら遠くに弾き飛ばされた。
そのままヘルワイヴァーンは雄叫びを上げブレスで辺りをさらに焼き尽くした。
「ミルファッ! 俺たちで死んでも時間を稼ぐぞ!!」
「待って!······何の音····」
すると二人の近くにはまるでハンマーで体全身の骨を粉々にされたような嫌な音が響いてきた。
そしてその音は徐々に大きくなり、木々が倒される音とともにゆっくりと近づいてきた。
「敵かッ!」
警戒する二人は次の瞬間、目の前の光景を見て二人同時に大きな尻餅をついた。
ヘルワイヴァーンは鈍い音とともに地面に頭を叩き潰され、一瞬のうちに絶命したのだ。
「あっ、ヘルワイヴァーンダ」
ボルはたった今殴り殺したヘルワイヴァーンに少し物珍しそうな顔を見せつつスッと着地した。
その様子を見た二人は尻餅をついたまま驚きの顔を見せて硬直する。
「終わったぜ、すぐ帰るか。ジンに怒られちまう」
「そうだな、かなり訓練になった」
「ふぅ、ついていくのがやっとでしたよ」
傭兵達は少し疲れた様子だったが幸い誰も怪我をすることなく凶暴化した魔物を倒しきったのだ。
ボルは尻餅をつく二人を一瞥したがミルファの紋章を見て少しムスッとした表情をするとそのまま向きを変えて帰っていった。
バルバダとミルファはボル達に話しかけようとしたが恐怖で声が出ない。
そしてそのままボルたちをじっと見つめていたのだった。




