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ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜  作者: ふーみ
ボーンネルの開国譚
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証明

 海の近くに着くと、ジンとリンギルは二人向かい合い構えた。傍から見れば、体格の大きなエルフの男と細く色白の小さな少女が向かい合っている光景。


 しかしリンギルに余裕などなかった。


(何だこの雰囲気は······クレース殿か?)


 そう思い、リンギルはジンから視線をそらす。しかしクレースは殺気など放っていない。違和感を感じつつもリンギルは冷静にジンの動きを観察する。


身近に感じる死の危機。

いつのまにか額から汗がつたい緊張を隠しきれないでいた。


(······ジン殿か)


 リンギルは体の細胞一つ一つが危険信号を発しているのを感じた。

 自分でも気づかないうちに深い臨戦態勢に入っていたのだ。

 いままでないほどの警戒を、全て目の前の少女へと払っていた。

 この緊張感はリンギルの『意思のある武器』である大剣、「ゼーン」にも伝わっていた。

 それに応えるかのようにゼーンはリンギルからの雷魔法を纏う。

 リンギルの額から大粒の汗が滴り落ちた。


 その瞬間、ジンは一瞬にして大量の魔力を練り上げる。

 通常、魔力の練り上げには相当な時間と集中力が必要となる。

 だが一瞬でリンギルの総魔力を超える量を練り上げたのだ。


 しかしリンギルに驚く間などない。

一瞬でも隙を見せれば待っているのは死。そう確信するほどの覇気を放っていた。


「ハァアア”ア”ッ———!!」


 巨体から放たれた凄まじい投擲。

 雷を纏ったゼーンの速度は裕に亜音速まで達していた。

 ゼーンは空気を揺らし、雷鳴が響き渡る。


「なッ—」


 だがジンは投げつけられたゼーンを目で追い、最小限の魔力量でゼーンの軌道を少し上にずらした。

 ゼーンはすぐにリンギルの元に戻り、雷を纏ったままジンに向けて大きく振りかざす······が、リンギルはゼーンの重みとともに地面に叩き潰された。


「何が······起こった」


 リンギルは立ち上がろうとするが、体が重く立ち上がれない。

 まるで自分だけ何倍もの重力に押し潰されているようだった。


「もうわかっただろう。お前では歯が立たない、ジンはまだ武器すら使っていないぞ」


 我慢の限界を迎えていたクレースは間に入りジンを抱きかかえた。


「待って、解除しないと」


「ッ——」


 リンギルの感じていた重圧は突然消えすぐさま身体は起き上がった。


(今のは······)


 眼前で繰り広げられた別次元の魔法にリンギルは圧倒的な力の差を思い知らされていた。

 ルースとリエルは驚きを隠せずに口をポカンと開け、リンギルはゆっくりと立ち上がる。


「想像以上でした。お見事です」


自然に口から溢れた称賛の言葉。緊張は解け、リンギルはもう一度ジンを見る。

そこにあったのはクレースに抱えられ無邪気な笑顔を見せる少女の姿。

先程までの覇気を放っていた人物とはまるで別人のようだった。


************************************


そうして戦いが終わると全員でエルフたちのいるシュレールの森に向かった。

シュレールの森に着くとエルフたちは昨日のお礼を口々に述べる。


「先程は失礼をしました。実のところジン殿のことは皆初めから信じておりました。試すような真似をしてすみません」


「あっ、そうだったんだ」


 そう言うジンのことをリエルとルースがうっとりとした目で見る。


「そこの二人はどうした?」


 クレースの言葉に二人は慌てたように視線を逸らす。


「いえ······そのなんというか······」


「なんて可愛らしいお方なのかと······」


 リエルとルースは顔を赤らめてそう言った。


「まあ仕方ないな、気持ちはわかるぞ。ジンは可愛いしな。私の妹だからな」


「えっ、そうなんですか!?」


「違うよ。クレースが言ってるだけ」


「すまない、二人が失礼をしました。先程言われていたことだが、我らエルフ族は一向に構いません。貴方様に我らエルフ族の忠誠を誓いましょう」


 リンギルは軽く咳払いをした後そう言った。


「本当に、いいの?」


 一連の流れを見れば力で分からせるという悪党みたいなことをしてる気がする。

 ······まあいっか。


「ああ、むしろこちら側から願おう」


だがリンギルの目は真っ直ぐだった。

その目に一切の陰りはなくとても嘘をついているようには見えない。

こうしてシュレールの森のエルフたちは実質的にジンの配下となったのであった。

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