確かな存在
「······ンッ······ン、しっかりしろ! ジンッ!!」
誰かが私のことを呼んでいる。焦りと心配が込められたような必死な声。しかしその声は耳が幸せになるようでひどく心地がいい声だった。ゆっくりと目を開けるとその人物はいつもの冷静さのあるかっこいい顔に見合わない涙を目に浮かべていた。
「ん、ん〜」
そして目を開くとふわふわの耳をピンっとあげてクレースすぐに抱きついてきた。
「ジンっ······よかったぁ。ごめん、すぐに私が駆けつければケガなんてしなかったのに······」
クレースの口調は崩れ、ただただ安心したような顔で思っていたことを言ってきた。
「大丈夫だよほら、もうどこも痛くない」
そう言って笑顔で体を動かしてみせた。ガルはふわふわの毛をすりすりと肌に擦り付けてその隣ではトキワが腰を抜かして脱力しながらふぅっと息を吐き、ボルは嬉しそうな顔でこっちを見ていた。
「それにね、私の武器にも意思が宿ったの!」
そしてロードの宿った武器をクレースに見せた。
「これは······相当な意思が宿ったな。まあジンだから当たり前か。偉いぞ〜ジン」
「えへへ」
クレースはまるで小さな子猫を撫でるかのようにジンの頭を優しく撫でる。
「僕も宿ッタ」
「そうか」
「············」
「お、おいボルがかわいそうだぜ、ちょっとは褒めてやれよ」
「あはは、でもみんな無事でよかったよ」
そしてそんなボルにメルティが話しかけてきた。
「もしかして、あなたの武器に宿った意思はゼルタスという名前でしたか?」
「うん、ソウダヨ。ゼルタスと契約シタ」
「そうですか······よかった、本当に。ありがとうございます」
(安心したわあなたの記憶はここに残って生き続けるのね)
あたりを見るとキュートスやバイルド、それに鳴々も安心するように息をついて互いの無事を喜んでいた。遺跡にいた意思たちは全員無事であり避難した意思は全員助かったのだ。
だが、ゼルファスの杖から解放されたソーニャはひとりでボロボロになった大きな剣の前に立っていた。その”大剣”はただ地面に突き刺さり無機物としての役割を果たしている。しかしソーニャにとってはそれはただの大剣などではなかったのだ。ソーニャだけにはわかっていたのだ、そこには”彼”が確かに存在したということが。
「······ウィルダムッ」
ソーニャは静かにその大剣を優しく抱きしめる。すると大剣はまるでずっとそれを待っていたかのように灰となって崩れ去る。ある意思は存在し思い出を紡ぎ続け、またある意思は新たな記憶を紡いでいくのだ。
(ジン、僕はね君との出会いが奇跡だなんて思えないんだ。きっとこれは誰かが紡いでくれた運命だって僕はそう思う)
(······ロードがこの心に入ってきた時、私の心には確かに何かがあったんだ。ハッキリとは思い出せないけど確かにここにあったんだ。だから私は失わないようにずっとそれを、ここに置いておく)
「それにしても、外部から侵入されるような結界ではまたいつ敵に襲われるかわかりませんね。どうすればいいのでしょうか。困りました」
バイルドたちは今回の経験をからニュートラルドの安全性を懸念していた。また敵が入って来れば今度は本当にどうなるか分からないのだ
「ああ、それなら私の知り合いにつてがある。安心しろ、もっと強い結界を頼んでおく」
「本当に、なんとお礼を言えばいいのでしょうか」
「それじゃあ、私たちは帰るね。待ってくれている人がいるから。でも、またいつでも頼ってよ」
「はいそれでは私たち意思が全員で外の世界に通じる道を開きます」
そして意思たちは結界に向かって魔力を流す。バイルドとキュートスは羨望の眼差しでクレースを見つめ鳴々はボルの方を向いてその意思を託すようにギュッと手を握り別れの挨拶をする。
魔力は次第に溜まり、ジンたちは元の世界に戻るために開いた亀裂にゆっくりと歩みを進める。そしてクレースはふと何かに気づく。
「ジン、そういえばここまで私たちはどうやって来たか覚えてるか?」
クレースは自分の頭にあったはずの純粋に全く思い出せないそのぽっかりと空いた記憶をジンに聞く。しかしその答えはジンにもわからない。ただジンはわからないはずのその存在を、確かに自分の胸に持っていたのだ。
「きっと、私の大好きな友達がここまで連れてきてくれたんだよ」




