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ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜  作者: ふーみ
ボーンネルの開国譚
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シュレールの森

 ジンは家に戻るとロードを手に取った。

 誰にも見つからないように忍び足で家を出てクレースの向かった方へと急ぐ。


(ジン、戦いに行くのかい?)


『意思のある武器』であるロードがそうジンに語りかけた。


(うん、もう終わってるかもしれないけど)


(わかった、任せて)


「バウっ!」


 ガルも乗り気だ。そうしてロードを手に取り真剣な面持ちでガルとロードとシュレールの森に向かった。


 シュレールの森に到着すると牙蜘蛛というBランクの魔物が七体倒れていた。

 その中心には血のついた刀を地面に突き刺して真剣な顔をしたクレースが立っている。

 クレースの持つ刀は『威雷(イライ)』という名でクレースと契約をしている『意思のある武器』である。そしてクレースはジンがきたことに気がつくと大きく目を見開きすぐさま駆け寄った。


「ど、どうしてここにいる、危ないから早く帰ろう」


 傍から見ればクレースのジンに対する態度は過保護と思われるかもしれない。しかしクレースのジンに対する愛は本物なのだ。その後すぐシュレールの森を後にし、ゼフの鍛冶場に集まった。


「本当にいたね、Bランクがあんなに」


「ああ、だが牙蜘蛛は本来竜の草原にいる魔物だろう。問題はなぜボーンネル領にまで入ってきたかだな」


 竜の草原はボーンネルの西にあり、竜の草原とボーンネルがシュレールの森を挟む形になっている。しかし普段は竜の草原から魔物が流れ込んでくることなどほとんどないのだ。


「まあ、今考えてもどうにもならん。このことはまた考えよう。それより前にした話は考えてくれたか?」


 前にした話、返答を先延ばしにしていたことだ。相談してきたことは至って単純だが、実際にやるとなればかなり大変なことなのだ。ボーンネルには現在、国を治める王が存在しておらず多種族がそれぞれの地域で別々に暮らしている。そこでクレースはこの国をまとめ上げて私に王様になれというのだ。


「うーん、なんというかあまり気が進まないなあ。どうして王様が必要なの?」


「このまま王がいなければ異種族間での争いがさらに多発する。現に争いが起こっている地域もあるしな……それに私は、ジンの下につくこと以外は考えられん」 


「でも人の上に立つのは嫌だな。私はさ、みんなが種族も身分も関係なく同じ一本の線に並んで仲良く暮らしていくのが夢なんだ。平和にね」


 その言葉を聞いてクレースは安心したように笑った。


「そうか、正直なところお前ならそういうとわかっていたがな。だが今の言葉を聞いて確信した。ジン、この国の王足り得るのはお前しかいない。そのために、私はずっとお前の側にいる。最後の最後までな」


 ······私は、クレースのことが大好きだ。クレースだけじゃなく、ゼフじいもガルもここにいるみんなが。

 クレースは、いつも私を信頼する目で見てくれる。

 この目で見てくれることが堪らなく嬉しい。

 だから私は彼女の愛を、ありったけの信頼で返したい。


「私はクレースを信じるよ、今までもこれからも」


「そういってくれて嬉しい」


 今度は安心したようにクレースはまた優しく笑いかけた。

 クレースは何の疑いもなくただその言葉を信じていた。

 いいや二人の間にあるものは信頼という言葉だけで片付けられるものではなかったのだ。



 ー翌日。 


 ジンはクレースと一緒にゼフの鍛冶場に向かった。


「ジンと朝からデートとはなぁ、えへへぇ」


 クレースはいつものようにジンにだけデレっデレの姿を見せる。


「変なこと言わないの、早く行くよ」


 そして鍛冶場に着くと、昨日話した事の次第をゼフに詳しく説明した。


「······ということなんだ」


「そうか······」


 ゼフじいは私の話に静かに頷きながらゆっくりと聞いてくれた。そしてしばらく考え込むとゆっくりと口を開く。


「わしはジンが決めたなら一向に構わん」


 そういつもの頼りがいのある声で力強く言ってくれた。


「ただ一つ言うのなら、ひとりで王になろうとはするな。

 たった一人の力で王になろうとする者は狂王が成れの果てだ。実際にそういうものがいたからな······

 皆と共に成長し、皆を頼り、皆に頼られるのが本来王のあるべき姿だ」


 ゼフから発せられるその言葉はジンの心の奥深くまで響くほどに重みのある言葉だった。


「どうも最近シュレールの森のエルフが魔物に苦戦しているとインフォル聞いたぞ。まずはそこに行ってきたらどうだ?」


「そうか、エルフがか。確かにBランクの魔物はかなりの数いたからな」


「じゃあ行こうクレース」


「ああ、その代わりトキワの奴も連れて行こう。いざとなればあいつを盾にしよう」


 しかし出発しようとしたその時、トキワが慌てて鍛冶場に入ってきた。


「シュレールの森で火事だッ——サラマンダーがでたらしい」


「サラマンダーはAランクだろ。予定変更だ、ジン。ゼフとここで待っててくれ……ジン?」


 少し違和感を感じ振り返ると先程までいたはずのジンの姿が消えていた。

 一瞬頭が真っ白になりすぐさま我に返る。


「ジンは!?」


「いつの間に」


 めずらしく焦るゼフをみてトキワは直感的にまずいと感じた。

 そして二人はそれぞれ武器を手に取るとシュレールの森に急いだのだ。

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