剛轟
閻魁門で起こった復活の波動はボーンネルにまで届いていた。
「この魔力は······」
「ああ。ここからは離れるがこの魔力はまずいな」
明日の作戦に備えて部屋で準備をしていたジンとクレースは確かに強烈な魔力の変動を感じ、ガルの毛を逆立っていた。
「魔力量をだけ考えればSランクほどか····? どうしたゼグトス」
「あのレベルの魔物が考える手段として方角も考慮すると一番手間がかからないのは閻魁門の解放でしょうか」
「閻魁か······それはまずいな」
「閻魁? 何それ」
「昔に鬼帝が封印した災厄と呼ばれていた鬼の魔物だ。解放されれば間違いなく鬼帝が動く」
パールはジンの方を向いて何か言いたげな様子をしている。どうやらジンのことが心配なようだった。
「ジンはここにいて。わたしがみんなやっつけてくる」
パールは大きくて綺麗な目でジンを見つめる。その言葉は決して嘘ではない。
パールにとって今一番願っていることはジンが怪我をしないことだった。
「大丈夫だよパール」
「そうだぞパール。ジンはお前が思っているよりも強い。それに私がいるからな」
「しんぱい······」
「な、何がだ 私のどこに心配する要素がある」
クレースはムキになるがパールはすぐさまジンの後ろに隠れた。
「ジン。クレースこわい」
「お前ジンに抱きつきたいだけだろ。離れろッ」
「うっ——」
前後から抱きつかれ身体が締め付けられた。
クレースの胸部は大きい。このままでは呼吸ができなくなる。
「やめて、ジンが苦しそうはやく離れて」
「お前が離れればよいだろう」
「うっ—クレース······息が····」
互いに一歩も引かずにいると痺れを切らしたガルが「バウっ」と吠える。
そうして仕方なく二人はジンから離れるのであった。
その姿をゼグトスが羨ましそうに見る。
そしてエルダンはその光景を見てどこか安心していたのだ。
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そして翌日、作戦決行日。再び総合室に集まっていた。
パールは目を閉じてダロットの居場所を探知する。
「いまあの魔物はバーガルとボーンネルの間にいる」
バーガルというのはバーガル王国という国のことである。
ボーンネルの北に位置するその国。剛人族の居住地とはすぐ近くにあるのだ。
「ということはゼグトスの読み通りだな。閻魁を引き連れていると考えた方がいいだろう」
「ッ———」
すると突然パールが驚いた様子で何かを感じとる。
「転移魔法を使用している! それも3つ同時に」
ゼグトスはそれを聞くと即座に転移魔法のための魔法陣を展開する。
「みなさん、それぞれ飛ばします。準備してください。ジン様、どうかお気をつけて」
「三つ同時に転移魔法ってどこぞのバケモンだよ」
トキワは苦笑いをするが、次の瞬間それぞれの集落に全員が転移していった。
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——集落2
トキワ、リンギル、ボルの三人が着くとそこにはBランクからAランクまでの魔物が数十体出現している状況。
勿論、普段ならばこれほどの魔物は出現しない。この辺りを満たす魔力濃度を考えれば魔物が外から連れてこられているのは明らかだった。
「トキワ、ボルあいつ······」
現れた魔物に囲まれるような位置、異質な存在を放つ魔物が一体いた。
魔物たちは列をなして、中心にいる魔物に統制が取られたような様子。
その魔物は二本のツノを生やし光沢のある赤色の外骨格を持っていた。
「結構本気みてぇだな。集落のやつらを守りながらこの数はちっとしんどい······わけはねえが」
「雑魚だ、ザコ」
炎を握ったトキワは余裕の表情を浮かべていた。
背後にあった集落を守るように三人は立ち武器を構える。
「三人だけか? 舐めてやがんなぁ」
赤色の魔物のランクはおおよそAランク。しかしながら知性を持つ分その魔物は手強い。
リンギルはそう感じていた。
(······ボルが戦うのは見たことがないな)
そんなことを思いつつボルの様子を伺うがトキワのような闘気は感じられなかった。
そもそもボルの手には武器が握られていなかったのだ。
「殺せぇエッ!!」
魔物が手を前にやると周囲にいた大量の魔物が一斉に動き始めた。
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——集落1
「あの魔物ここに来る。でもおっきい魔物はまだ見えない」
先程から感知魔法を使用していたパールは警戒するように促す。
確かに昨日感じたような強い力はまだ感じなかった。
「来たか」
クレースが上を向くとその視線の先から一体の魔物が急降下し空中に止まった。ダロットである。
「哀れな奴らだなぁ。しかも四人と一匹とは、舐められたもんだ」
ダロットは手を前に突き出して指示をする。
すると操られた剛人族が列をなし大きな足音を立てながら進軍してきた。
「こいつらは操られているだけだ! 殺さないでくれ!」
叫ぶエルダンは進軍してきた仲間を抑え押し出していた。剛人族はエルダンに敵意を持ち襲ってきたが傷をつけるわけにはいかない。エルダンは必死に痛みを耐えていたが隣から鈍い音が聞こえた。
「お、おいクレース。何を」
クレースは容赦なく向かってきた剛人族を殴り飛ばしていた。
「何って、ジンが怪我したらどうするんだ」
「······く、クレース」
心配してくれるのはありがたいが、その威力からは手加減など一切感じられなかった。
殴られた剛人族の人はたった一発で気絶している。
「閻魁を解放したんだろ、いまどこにいる。一緒じゃないのか?」
クレースが聞くとダロットは余裕そうな笑みを浮かべた。
しかし何も言わずダロットの後ろからはBランクからAランクの魔物が次々と出てくる。
「なんだよ、分かってんのかぁ。それでまだ挑んでくるとはなぁ。そりゃあ自分の力を過信しすぎだぜ。この数に加えて質の高い魔物を揃えてんだよ。いいかげん諦めろ今なら配下に加えてやる。もし断るのならこの剛人族を皆殺しにする」
「ふざけたことをッ!」
エルダンの我慢はとうに限界を超えていた。
怒りは魔力と化し身体中を駆け巡る。すると剛人族特有の灰色の肌は突然光沢のある黒色に変化した。
「剛轟」
剛轟——それは剛人族のみが使用できる特質変化である。
均等な魔力を全身に巡らせたことにより皮膚は硬く強化され身体能力は何十倍にも跳ね上がる。
エルダンは元の身体能力が高いためこの状態ではAランクの魔物であっても敵ではない。
加えてエルダンは『意思のある武器』である『牙震』を持つ。
柄の両端に金鎚と斧が付いている特殊な形をした武器。非常に威力が大きい分、エルダンのように異常なほどの筋力がなければ扱えない。
(いいかげん、我慢の限界だ)
牙震の声がエルダンの頭に響いた。牙震の怒りでその手は震え筋肉は隆起する。
「ッ———」
(消えたッ——)
ダロットの視界からエルダンの姿が消える。
上から気配を感じすぐさま空を見上げた。
(はぁ? 今まで見下ろしてたはずだろ。なぜ上にいる、なぜ見下ろされている)
脳での処理が追いつかなかった。転移魔法陣の使用した痕跡など一切見られない。
「ブハッ——!!」
状況を理解できないまま激痛が走った。
「······!!」
まだ意識は消えていない。だがダロットは立つことができなかった。
脳に強烈な痛みを感じ、頭を押さえる。
「クソがぁ。想像以上だったなぁ、これは面倒だなぁ」
「ほう、まだ立つか。まあこれでは終わらんがな」
ダロットは辛うじて起き上がった。エルダンはダロットの方を見て少し感心をするがその目は確かに勝利を確信していた。立ち上がったダロット魔物に攻撃の指示を出し距離をとった。
この集落でも戦いが始まったのだ。




