魔力開放
完全にやり過ぎました。
誰にも見つからないように森の中で修行をしていたはずが、俺を中心に半径10メートルの草木は吹っ飛び、そこだけ荒野ようになっていた・・・。
(・・・ヤバい! これはホンマにあかんヤツや! こんなん絶対誰か来るやん!)
「クロック! キララ! 今のうちに逃げるぞ! ・・・あれ? クロック? キララ?」
だが返事は無かった。
「クロックー? キララー? おーい! どこいったー!・・・あっ、いた。」
「イテテッ、・・ヒドイよ、クラ・イ・・ス?」
「ちょっとー、なにしてんのよ!って何これ!?」
クロックとキララは草木と一緒に吹っ飛んでいた。
起き上がったクロックはなぜか目の前の光景に目を輝かせていて、キララは呆れていた。
「凄い・・。 クライス凄いよ! 魔力開放でこんなこ、うわぁ!」
「ちょっと!」
「クロック、褒めてくれるのはうれしいが、今はとりあえず逃げるのが先だ!」
俺はクロックとキララを引っ掴んで、全力で家に向かった。
「クライスは凄いなぁ。あんなことが出来るのも、毎日毎日頑張ってるからだよ!」
契約した胸から顔だけ出して、クロックが褒めてくる。
(クロックが毎日俺に付き合ってくれてるからだよ。本当にありがとうな。)
「私だって毎日付き合ってるわよ!」
左手から肩にキララがよじ登ってきた。
(キララもありがとう。)
「わかってるならいいのよ!フンッ!」
「でもクライスが日に日に成長していくのがわかるから、毎日楽しいよ! 魔力操作も凄く上手くなったけど、特に魔力量が人間とは思えないぐらい凄くよ! 歴代の魔王でもあんなこと出来ないよ!」
「魔王なんているの?」
(キララは魔王のこと知らないのか。)
「キララは光属性だから仕方ないよ。 魔王のことを知ってるのは僕達時空魔法の妖精みたいな、長生きしている妖精だけで、火・水・風・土・光・闇の6大属性でも、闇以外の5大属性の妖精は数が多い代わりに短命なんだ。 もちろん人間やエルフ、魔族と比べれば長生きだけどね。 闇と無属性の一部の妖精は数が少ない代わりに長生きで、その中でも特に僕の時空魔法は数が特別少ない代わりに、他の下級精霊が数十年で消滅するところを数百年生きるほど長生きなんだ。 そして、中級だった僕はニ千年ぐらい消滅することなくクライスと出会ったけど、キララ達光属性の妖精は上級でも数百年で消滅しちゃうんだ。 だから、キララが魔王のことを知らなくて当然なんだ。」
そうか。
「で、魔王っているの?」
(クロック、説明してあげたら?)
「しかたないなぁ。」
(やっぱりちょっと待った。 だれか倒れてる。)
「完全にさっきの魔力にやられてるわね。」
(マジか・・・。)
自分でも魔力量の増加には実感があったが、アレはさすがに人間を卒業してしまったのではないかと不安になった。
(さすがに放置するのは寝覚めが悪いから、ちょっと助けに行くか。)
「だけど、向こうからクライスのお父さんが来てるよ。」
(わかってる。 だから、普通に走って普通に起こすよ。)
タッタッタッタッ・・・。
「おじいさーん。 どうしたのー? 大丈夫ー?」
「おそろしく棒読みね。」
「まぁ、クライスの魔力に触れて、気を失っただけだからね。」
(・・・ヤバい。 息してないし、心臓も止まってる・・・。)
「そんな! 魔力に触れただけで死ぬなんて聞いたことないわよ!」
(蘇生魔法使うか。)
「だけどもう、すぐそこまでおじさん来てるよ!」
(仕方ない、心臓マッサージだ。・・・爺さん、本当にごめんなさい。 さすがに人工呼吸は爺さんには出来ないよ。 だって、マウストゥーマウスだよ! キレイなお姉さんなら出来たけど、・・・この口には無理だよ!)
「また変なこと言い出したわね。 ジンコウなんとかとか、マウスなんとかって何? っていうか、なにしてるの?」
(これは心臓マッサージって言って、心臓の働きを俺が代わりにやってるんだ。 人工呼吸は俺の口から相手の口に息を吹き込んで、強制的に呼吸をすることだよ。 口対口だからマウストゥーマウスって、・・・俺が名付けた。)
ややこしいからなるべく使わないように気をつけていたのに、こっちにはない言葉を普通に使ってしまった。
「ま・まぁ確かに、口づけをそんな簡単にやるもんじゃないわね!」
(そういうこと。・・あっ、心臓が動きだした! 良かったぁ〜。 念の為に肋骨が折れてた困るからヒールかけとくか。)
「おい、クライス! こんなところでなにしてる? それよりお前は大丈夫だったのか?」
「うん、少し気を失ってたみたいだけど、怪我はしてないから大丈夫。 このお爺さんも気を失ってるだけみたいだけど。」
「そうか・・・。 今日はもう家に帰れ。 俺もこの先の様子を確認したら、すぐに帰るってユニに伝えといてくれ。 それから帰ったら・・・いや、なんでもない。 ジフ爺さんは俺が見とくから早く帰れ。」
(なんかバレてるっぽいなぁ。 なにがどこまでバレたのかなぁ? とりあえず今日はもう早く家に帰ろうっと。)
「はい。父さんも気を付けてね。」
俺はこの時、言い訳を考えていたので、いつもはしない大きなミスを犯した。
父の命令を“忠実に”実行してしまった・・・。
「うぅ・・、おお、ジョアンか。 いったい何が起こったんだ?」
「この先からかなり高濃度の魔力が放出された。 何か知ってるか?」
「いや、肩が痛かったから森に薬草を取りに行って、帰って来たがなにもなかったぞ? 行きも帰りも誰とも出会わんかったし。」
「そうか。 今日はもう家に帰った方がいい。 ジフさん、一人で帰れるか?」
「あぁ。 もう大丈夫だ。 家はすぐそこだから一人で帰るよ。 お前さんも早く帰って家族と一緒にいてやりなさい。」
「向こうに誰もいないなら、少し気になることもあるし、俺も急いで帰る。 ジフさんも気を付けて。」
「ありがとうよ。 お前さんも気を付けてな。・・・そういえば、肩も腰も痛みがなくなって体が軽いのぉ。」
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