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別視点1

「ハァ、ハァ、ハァ。」


「ユニ、その子を連れて逃げろ!」


「無理よ、ジョアン! 逃げ切れないわ!」



私は兄のブランと、村の幼馴染のジョアンとその姉コルンの4人で冒険者をやっていた。


兄とコルンは結婚してからも冒険者を続けていたけど、依頼で少し離れた村にやって来た時、コルンのお腹に子供がいることがわかって、コルンは冒険者をやめて宿で私達の帰りを待つようになった。


コルンは昔から体が弱く冒険者には向いてなかったけど、少し回復魔法が使えたので、兄が子供の頃からの夢だった冒険者になった時に、心配だからと少し遅れて冒険者になった。


今考えると、兄と一緒に冒険する為に回復魔法を勉強していたように思う。


そしてとうとう産まれる日がやってきた。


コルンの出産は難産で出産することは出来たが、コルンの容態は危険な状態だった。


私は初級の回復魔法のヒールなら使えたが、ヒールでは軽い怪我しか治せない。


中級のハイヒールでもそこそこの怪我は治せるが、体調不良などは上級のエクスヒールでないと治せない。


上級の回復魔法は教会の司祭様以上の偉い人しか使えないし、冒険者で使える人も世界で数人だろう。


この村にも神父様はいたが、見習いで初級の回復魔法しか使えなかった。


当然こんな村には医者なんているはずもなく、上級の回復魔法が使える冒険者もいなかった。


隣の村までは片道で丸一日がかり、今のコルンを助けられる人がいるかもわからない。


また街に行くには、馬を乗り替えて走り続けても片道3日はかかるうえに、上級の回復魔法が使える教会の人間となると、司祭様以上の方がこの村に来ることになり、そんな方がこの村に来るのを待っていると、いつになるかわかったものではない。


出産は村のおばさん達が手伝ってくれたが、コルンの容態が悪くなっていくのは私達素人目に見てもわかった。


そんなコルンの様子を見た兄は、コルンと産まれてきた子の為に“精が出るものを取ってくる”と森へ狩りに向かった。


でも兄は暗くなっても帰って来ず、心配したジョアンが兄を探しに森へ向かったところ、森の入口で左腕を失った状態で倒れている兄を見つけた…。


ジョアンが言うには、兄は既に息を引き取っていて、左腕は何者かに食い千切られた状態で、胸には大きな爪で引き裂かれた痕があった。


ジョアンはコルンにそのことを隠そうとしたのだけど、ジョアンの様子を不審に思ったコルンはジョアンに詰め寄って、ブランが死んだことを無理矢理聞き出した。


兄の死を知ったコルンは次の日、息子の名前を告げると、兄の後を追うように息を引き取った。



私とジョアンは兄達の子“クライスラー”を連れて、4人で暮らしていた街に帰ることにした。


村を出発して5日目の朝、街までもう少しという所で、突然乗っていた馬車が横に吹き飛んだ。


街まで送ってくれる為に、馬車出して御者を買って出てくれた村のおじさんの姿は無く、馬車に繋がれていた馬は見るも無残な姿になっていた。


目の前には大きな銀色の狼。


シルバーウルフのようにも見えるけど、こんなに大きなシルバーウルフなんて見た事が無い。


そもそも単独行動しているシルバーウルフなんて聞いたことが無いし、この威圧感は普通の魔物でないことは明らかだった。


そして直感的にコイツが兄の命を奪ったのだとわかった。


それはジョアンも同じだったようで、すぐに戦うことを放棄して逃げることを選んだ。


なぜなら、私とジョアン2人掛かりで兄に挑んでも全く相手にならなかった。


その兄を殺したコイツは、何事もなく私達の前に現れたのだ。


兄の敵を討吹き飛ばした。


ジョアンが持っていた剣は折れ、盾はシルバーウルフの攻撃を防ぎきれず破壊され、盾を装備していた腕の肉までも抉り取られていた。


気付けば私はクライスラーを抱いていることも忘れ、シルバーウルフが近寄って来ていることにも気付かず、無我夢中でジョアンの腕にヒールをかけていた。


こんな大怪我を治るせないことはわかっていた。


それでも、もうこれ以上誰にも死んで欲しくなかった。


(でも…もうダメ…。 みんな食べられる…。)


そう思った時、矢が飛んできた。


ヤツには避けられたけど、その後すぐに2人の男が剣と槍を持って走って来た。


よく見ると、街のギルドで兄とよく喧嘩していた冒険者だ。


シルバーウルフは2人を見た後、森の中に逃げて行った。


「助かっ…た。」


「大丈夫か!」


「ん? 確かブランの?」


「はい…。 妹のユニです。」


「そうか。とりあえず話は後だ。コイツをドリノさんの馬車に乗せてもらおう。」


「ありがとうございます!」


「おーい、アイン! ドリノさんに怪我人を馬車に乗せてもらえるか聞いて来てくれ!」


「あいよ!」


「とりあえず、意味があるかわからないけど、ポーションでも飲ませておこうか。」


「確か1本ハイポーションがあったろ?」


「そんな高価なもの!」


「気にすんな! 困った時はお互い様だ!」


「ありがとうございます。 ありがとうございます。」


「それで、ブランとコルンの姿が見えねぇけど、アイツらは?」


「……。」


「…そうか。 大変だったな。」


「何かあれば僕達に言ってください。 力になれるかわかりませんが、出来るだけのことはしますよ。」


「兄は!…兄はさっきのヤツに殺されました…。 コルンはこの子を産んだ時に…。」


「…惜しいヤツらを亡くしたな。 で、これからどうすんだ?」


「……。」


「まぁ、さっきグェンも言ったが、何かあれば俺達に言って来い! ギルマスにも掛け合うぐらいのことは出来るからな!」


「ありがとうございます…。」


「大丈夫でしたか?」


「ああ、俺達は大丈夫だ。 わりぃが1人街まで馬車に乗せてもらえねぇか?」


「いいですよ。 …って、ユニさんとジョアン君じゃないですか! …ひどい怪我ですね。 急いでラカタパの街に行きましょう! …その後の事は、馬車の中で決めましょう。」

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