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暴走

俺はジョアンと爺さん達と来た道を通って結界に向かってた。


「おい、クライス! 速過ぎるって!」


この時、俺は完全に油断していた…。


シルバーウルフが街を破壊した話を聞いていたのに…。


一番前を走っていた俺に向かって、右前方から大きな何かがすごい勢いで飛んで来た。


反射的に出した右腕は、気付いた時には肘辺りから先が無くなっていた…。


それを確認した同時に激痛が襲う。


「ぐわっ!!」


「クライス!!」 「小僧!!」


飛んで来た大きな物体は次の瞬間、慣性の法則を無視するかのように着地と同時にまた俺をめがけて飛んで来た。


俺は咄嗟に体を捻って後方に飛び退いたが、地面を蹴った右足の膝下から先が無くなっていた。


「クライス!」


ジョアンが俺に駆け寄り、爺さん2人が俺と飛んで来た物体の間に立って身構えた。


俺の手足を食い千切った物体の正体は、綺麗にキラキラ光る銀色の毛並みを風に靡かせた大きな大きな狼、ジャイアントシルバーウルフだった。


「くそっ! …あの時やられた借りを返してやる!」


そんなジョアンの魂の叫びとも言える言葉を無視して、食い千切った俺の足の靴をペッと吐き出した。


「ぶっ殺す! お前はぜってぇに許さねぇ!」


「落ち着け、ジョアン! …全滅は避けたい。 みんな振り向かず逃げることだけを考えてバラバラに逃げるぞ…。」


「いや、俺が殺る。 その間にクライス連れて逃げてくれ。」


ジョアン達が話をしている間に、俺は薄れゆく意識を懸命に繋ぎ止めて、なんとか腕と足にヒールをかけて治した。


「父さん、ここは俺にやらせてくれ。」


「お、お、お主、腕と足は!?」


「パーフェクトヒールまで使えるのか……。」


欠損した腕と足を治したことに驚くジェントさんとジフさんを無視して、俺はジョアンの代わりにシルバーウルフと戦うと宣言した。


「ふざけんなっ! ごはっ…。」


当然却下されるのはわかっていたので、腹に一発強烈なのをお見舞いして、ジョアンの意識を刈り取った。


「すいません。 俺が相手するんで、父さんをお願いします。」


「じゃ、じゃが…。」


心配してくれる気持ちは有り難いが、今は余計な気遣いに腹がたった。


「アイツもオレを待ってるんで。」


「子供を置いてワシら老人が逃げる訳には…。」


「すいません、正直足手まといなんで行ってください。 こう見えてもオレもかなりキレてるんですよ…。」


それでも引き下がらないジェント爺さんには悪いとは思いつつ、手足を食い千切られた痛みの怒りについつい本音が出てしまった。


「わ、わかった…。 ホレ、ジョアンはワシが担ぐから、お主も行くぞ。」


「き、気を付けるじゃぞ。」


「すいません…。 ありがとうございます。」



シルバーウルフは俺達のやり取りを気怠そうに見ていたが、みんながいなくなり俺だけになると、臨戦態勢を取るように毛を逆立てた。


(ちょっとちょっと! 大丈夫なの!? あんなに大きいシルバーウルフなんて、私見たことないわよ!)


(あのシルバーウルフはヤバいよ! 僕がアイツに気付いた時には、もうクライスの腕が食べられたあとだったんだよ!?)


(アイツは確かにヤバい…。 でも、なんかわからないけど、逃げちゃダメなような気がするんだよ。)


この時、戦うことを主張する自分に自分自身一番驚いていた。


なぜなら、前世では殴り合いの喧嘩はもちろん、口論ですら避けて生きてきたからだ。


子供の頃から、ちょっかいを出されても言い返したりやり返したことなんてなく、大人になっても意見を出し合うことさえも出来る限りやらずに生活していた。


それなのに今は死ぬかもしれない戦いに挑み、アイツを殺そうとしているのだ。


「ははっ。 これは、ブランの遺伝かな?」


今のオレは死ぬ恐怖よりも怒りの感情の方が強く、また自分の力を試すことが出来るというワクワクした気持ちも持ち合わせていた。


俺はどこから攻撃されても対応出来るように、隔絶魔法を発動出来るようにしてシルバーウルフに近付いた。


完全に油断しているシルバーウルフの初撃を隔絶魔法で防いだ後一撃で仕留める、それしかないと思っていた。


そうやって真面目なことを考えながらも、さっきジフさんが呟いたパーフェクトヒールを聞いていた俺は厨ニ病を発症した。


(欠損部位を治したヒールがパーフェクトヒールなら、隔絶魔法はパーフェクトシールドってところかな? 誰も見てないし、ストレス解消に魔法をそれらしい名前で叫んでみようっと!)


少し落ち着きを取り戻した俺はそんなくだらないことを考えながらも、シルバーウルフをどうやって仕留めるかを考えていた。


(一度でもパーフェクトシールドを見られたら、警戒して戦闘が長引いてしまう…。 そうなったら、子供の俺の方が断然不利だ。 最初の一撃でケリをつける!)



「待たせたな、ワン公。」


そう言って挑発した瞬間、ヤツは目にも留まらぬスピードで俺に大きな口を開いて噛み付いてきた。


俺は右手を出して、準備していたパーフェクトシールドを発動した。



ドゴォーン!!



ヤツが目に見えない隔絶魔法改めパーフェクトシールドの壁にぶち当たって、凄まじい轟音が辺りに響き渡った。


俺はシールドで攻撃を防いだ後すぐに攻撃しようとヤツに近付いた。


シールドにはまだ俺が映っているはずなのだが、シールドにぶつかったシルバーウルフは壁から出てきた俺を、よろめきながらもしっかりと俺がいる方を見て、開いていた口をそのままこちらに向けて黒い炎のブレスを放ってきた。


咄嗟にパーフェクトシールドでブレスを防いだが反撃のタイミングを失い、俺はたった一度の反撃のチャンスを逃してしまった。


(最悪だ…。 切り札のパーフェクトシールドも見られたし、遠距離も近距離もヤツの戦闘能力が上。 腕と足を治したから魔力も結構使ったし、強力な武器も無い…。 完全に油断をしていたのは俺だった…。)


俺は周りで自分より強いヤツがいないのをいいことに調子に乗って、心の何処かでシルバーウルフも案外簡単に殺れるんじゃないかと侮っていた。


(止めてくれたみんなを心の何処かで見下して、忠告を聞くことすらしなかった。 自分は転生者という選ばれた人間で、この世界では自分こそが最強だとすら思っていた…。 思い上がりも甚だしい!! ……この人生は全力で頑張るんじゃなかったのか? 本当はもっとやれたんじゃないのか…? それなのに…本当に俺は、…いったい何をやってるんだよ!!!)


「ウガァーーーッ!」


俺は雄叫びを上げながら全魔力を身体強化に使った。


その瞬間、激痛が全身を駆け巡った。


目玉や鼓膜、脳みそに至るまで内臓の臓器すべてが破裂したかと思うほどの激痛が襲い、体は全身の皮膚が焼け爛れているところに塩を塗りたくられたような痛みで俺は理性を失った。



気が付けば俺は、荒れ果てた大地に大の字で横になり、ぼやけた視界で空を眺めていた…。


なんとか動く首と視線を横にし、左腕はぐちゃぐちゃに焼け爛れて指は無く、右腕は骨がボキボキに折れていて指も曲がってはいけない方に曲がっていることだけは確認出来た。


「殺ったのか…?」


視線を体から外に向け辺りを見渡した。


俺の周りには肉塊が散乱していた…。


「……。」


もう一度空を見上げて、クロックとキララの名を呼んだ。


しかし、ひゅーひゅーと言う空気を吐き出すだけで声にならなかった。


反応は無く、静寂が辺りを包み込み、空は次第に暗くなっていき、俺は闇に包まれた。


(目も耳もダメになっちゃったか…。 結局俺は何をやっても中途半端…。)


【オイ! 勝手にくたばるな。】


(…誰だ? …もう、誰でもいい。 …どうせ助からない。 くたばるなと言われても、これだけの怪我してるんだから無茶言うな。)


【一時的に仮死状態にしたから、痛みなんて感じんだろうが。】


(……。 ホントだ…。 うおっ、体が半透明になってる! かの有名な幽体離脱か!?)


【今の貴様は体から精神体を引き剥がした。 そんなことより、俺様のペットであるパクをあんな姿にしといて、簡単にくたばれると思うな。】


(…ペット? …パク?)


【そうだ。 貴様が殴り殺した狼だ。】


(パクって。 パグなら知ってるが、あんな化け物じゃないし…、そもそもアレにそんなかわいい名前を付けるなよ…。 っていうか、飼主ならペットの躾くらいちゃんとしけよ! 何人死んだと思ってるんだよ!)


【パクは小さい時は可愛かったのだ! すぐになんでもパクパク食べるからパクと名付けて可愛がった! 小さい頃はずっと付いてきて可愛かったのに、大きくなると俺様の言うことを聞かなくなった! しかもいつの間にかどっかに行ってしまって、とうとう見つけることが出来なかったのだ!】


(偉そうに言うことじゃねぇよ! しかもそれ、普通に親離れしただけだろ?)


【貴様はパクを殺したんだ! 責任を取って、次は貴様を俺様のペットにしてやる! 光栄に思え! 仕方ないから俺様が作り出した静寂の暗闇(サイレントダークネス)の世界で、体の怪我が治るまでは面倒見てやるから、治ったら俺様のペットとして言うことをなんでも聞けよ! いいな?】


(お前、闇属性の妖精なのか? っていうか、闇属性って回復魔法があったのか?)


【貴様はバカか? 闇属性に回復魔法などある訳なかろう? 貴様の自己修復の能力で怪我が治るのを待つのだよ。】


(…それ、どれくらい待つつもりだ?)


【さぁな。 命の危険が無くなるくらいになるのは数年後か数十年後かそれ以上か…。 まぁ、そんなこと気にしなくても、この亜空間にいる限り死ぬことは無いから心配するでない。】


(ふざけるな! こんなところで自分の体の怪我が治るのを、ぼーっと待ってられるか! 自分で治すから、お前の魔力をよこせ!)


【断る。 怪我が治るまで、貴様は俺様の話し相手でもしてろ。】


(そんな話すことあるかよ! ……わかった、わかった。 じゃあ、こうしよう。 …アレだ、俺と契約しよう。 場所はそうだな…、手にしよう! 左手はぐちゃぐちゃだから右手でいいかな? 俺の右手を君に捧げる。 そしたら俺が死ぬまでずっと一緒だ! いつでも話が出来るし、一緒に旅が出来る。 君は魔力を俺に分けてくれるだけで、逃げることのないペットが手に入るんだ。 悪くないだろ?)


【……。】


来た! コレ来たよ! 妖精は話し相手になってくれるヤツと、いろんな場所に連れて行ってくれるヤツが好きっていうのをクロックとキララから学んだんだ。 絶対にこの話には乗ってくるはずだ!


そしてダメ押しのキラーワードはこれだ!


(なぁ、もう俺達友達だろ? 名前くらい教えてくれてもいいんじゃないのか? って俺の名前を言ってなかったな。 俺の名前はクライスラー。 みんなは親しみを込めてクライスって呼ぶ。 君の名前を教えてくれるか?)


【そんなこと言っても騙されんからな! 怪我が治ったらどっかに行くつもりだろう!】


クソっ! 面倒臭いヤツだ!


だが、今は我慢だ。 こっちは伊達に40年も頭を下げ続けてないんだよ! これしきのことで諦めるか!


(騙すなんてヒドイな…。 せっかく一緒に旅が出来ると思ったんだけど…。 すまなかった、俺が勝手に友達だと思い込んでいたみたいだな…。)


【ま、まぁ、貴様がそこまて言うなら、友達になってやらんこともないぞ。】


食い付いたー! あとは如何にベストな状態で釣り上げるだけ! 


クライスラーになって身に付けた必殺技、ぱぁ!っと効果音が聞こえて来そうな満面の笑顔!


(ありがとう! 俺達は友達だ! 名前を教えてくれるかい?)


【俺様の名前はまだ無い。】


(マダナイ?)


【違う! 俺様に名前なんてモノは必要なかったから、名前は無いのだ! 必要と思うなら貴様が好きに呼べばよかろう!】


どうしようかな? んー…、よしっ! いつもの連想はやめて直感で決めよう! 闇っぽい名前…。


(じゃあ、君の名前はグリアスだ! よろしくね、グリアス!)


【グリアス。 グリアス…。】


このパターン、噛み締めてる感じ?


【仕方がないから、貴様…我が友であるクライスが決めたグリアスと名乗ることにしてやろう! …、確かに左手は損傷が激しいから右手で我慢してやる。 さっさと契約するがいい! さぁ、早く!】


(はいはい。 ありがとうございます。)


こうして俺は3人目の妖精と契約したのであった。

少しずつ長くしていきたいと思います。

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