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「どうした? ぼーっとして。 疲れたか?」


「あっ、いえいえ。 考えたら教会のこととかこの国のこととか、何にも知らないなー、って思ってたんですよ。」


「そうか…。 じゃあ俺が最初から説明してやるよ。 時間が無いから簡単にだけどな。」


「ありがとうございます!」


「始まりは…大昔、この世界には魔族と人間がいた。」


(もうすでに出だしが違う違うわね…。)


(とりあえず最後まで聞こうよ。)


「魔族は強力な魔法と強靭な肉体を持っていて、豊かな人間の大陸を侵略しようと海を渡ってやって来た。 この大陸に辿り着いた魔族は街に住む人間を殺し尽くし、街や村を乗っ取っていった。 そんなある日、魔族よりも強い人間が現れた。 それが勇者クライセル。 たくさんの魔族を葬った英雄だ。」


(クライスって、なんだか勇者みたいな名前だね。)


(勇者みたいになって欲しかったのかもね。)


(名前負けしないように頑張らないと…。)


「で、その勇者の仲間に教会の設立の要因となった、フィトスとテリルっていうのがいたんだ。」


(教会の名前は、人の名前だったんだね。)


(しかも、二人の名前を繋げてたんだ。)


(二人共すごい話に食いついてる…。)


「まぁそれから色々あって、勇者達は侵略者の魔族達を見事にやっつけて、平和な日々が戻ってきました。っていうのがこの世界の歴史だ。」


(なんか内容が薄っぺらいわね…。)


(歴史の話よりも教会の話が聞きたいから、今はそれで十分だよ。)


「皮肉にも魔族の侵攻で、人間の国はほとんどが魔族に滅ぼされてしまった為、結果的に街や国単位ではなく人間として団結することが出来たことが魔族に勝てた要因だと言われている。 で、ここからが教会の話だか、領主が使っていた館はもともと魔族の奴らが使っていた城だったらしくて、戦争で残った城の一部を使って領主の館にしたそうだ。 で、その魔族の城に乗り込む為に、さっき言ったフィトスが、お前達が住んでる辺りに結界を張って魔族や魔物が入って来れない安全地帯を作ったという話だ。 そんでどうやったか詳しくは知らないが、テリルが仲間に刻印魔法とかいう魔法を使って、人間に化けた魔族が結界内に入って来れないようにしていたそうだが、それが時と共に契約魔法に変化していったんだろう。 …って偉そうに説明したが、俺の知識じゃなくて知り合いの魔法使いからの受け売りなんだけどな。」


(なるほど…。 もともとは出れなくする為の魔法じゃなくて、入れないようにする為の魔法だったんだ…。)


「で、フィトスとテリルが張った結界の中に人が集まり、村が出来てそれが大きくなって街や国になっていったんだ。 そして、その結界を管理していた人達がフィトスとテリルを崇拝していた人間で、その人達が勇者達に感謝している人を集めて出来た組織が聖フィトステリル教会となったわけだ。 だからこの大陸の人間はほとんどが聖フィトステリル教を信仰していて、一部を除いてほとんどの国は結界によって出来た国ばかりだ。 そして、その結界を管理してるのが教会となると、その国のお偉い様と言えども教会には文句言えない。 しかも大陸のほとんどの人間が聖フィトステリル教の信者だから、教会と下手にやり合ったら国王ですら無事ではいられないって訳よ。」


「それで国軍ではなく領主軍の騎士団と教会で争いが起こったんですね。 でも、第三勢力であるもう一つの騎士団も教会の息がかかってた人達なんですよね? その国は大丈夫なんですか?」


「ラカタパが協力要請したのは、唯一教会が出来る前からある国“リーズエル”の軍だ。」


「なるほど! …ということは、ここの領主は自国の王ではなく、隣国に助けを求めたってことですか?」


「ああ、たぶんな。 ここからはオレたちの推測でしかないが、リーズエルも教会の勢力が大きくなり過ぎていることを危惧していたんじゃないかと思う。 それでなんとか教会の力を削ぎたいと思っていたところに、ちょうどラカタパの領主から教会と戦う協力要請が来た。 この推測が合っていたら、リーズエルからすれば最高の条件で教会と戦う口実を得ることが出来ただろうな。」


「最高の条件? ラカタパに恩が売れるからとかじゃないんですか? っていうか、すいません…、そもそもここってなんて言う国なんですか?」


「…、教えてもらってなかったんだな…。 ここはマカドっていう国の一番西にある街で、初めて人間が魔族に勝った地として、そこそこ有名な所だぞ。」


「そうなんだ…。 父さんも母さんもそういう事、全然教えてくれなくて…。」


「まぁ確かに、結界の外の話をするのはキツいもんな…。」


「もう結界から出れるのがわかったんで気にしてないですけどね。 それよりもリーズエルの最高の条件ってなんなんですか?」


「これもあくまで推測なんだが、お前が言ってたラカタパに恩が売れるっていうのももちろんあるが、そもそもリーズエルは戦場が自国じゃないから、戦場のことは気にしなくていい。 目的は教会の力を削ぐことだからな。 しかも主力はラカタパでリーズエルは他国、更には援軍要請を受けただけだ。 様子を見ていつでも好きなように参戦出来るし、勝っても負けてもどっちでもいいから、極端な話参戦しなくてもいい訳だ。 勝ってもいいだろうが教会から恨まれないようにする為にも、負けた方が都合がいいだろうな。 まぁ、勝てば責任をラカタパに押し付ければいいし、負けたら自国に帰ればいい。 そもそも戦況が不利になれば、ラカタパを見捨てて“教会と敵対する気は無かったが、援軍要請を受けたので仕方なく同盟国としての義理を果たした”とでも言えば、大腕を振って帰還出来るからな。」


「なるほど…。 どんな条件を出されてもラカタパは飲まざるを得ないから、好きなように条件を出せる。ってことで最高の条件でってことですね。」


「ああ。 教会と多少関係がこじれたとしても、大義名分は準備出来てる。 あとはいかに教会の力を削げるかだけだったんだがな。 ここで予想外の敵が出現したんだよ。」


「その敵が父さんを教会送りにした、向こうで話してるジャイアントシルバーウルフって呼んでるヤツですね?」


「そうだ。 ラカタパの騎士もリーズエルの騎士も、教会の兵士もすべて殺した後、街を破壊していった。 まぁ、街の中で騎士団と教会が戦争してたから避難してた人間も多く、シルバーウルフの直接的な被害はそれほどでもなかったのが不幸中の幸いだったが、これだけ街を破壊されたんじゃここにはいられんだろうし、難民として隣国のリーズエルか隣村のキータに行くか、お前達がいた結界の中に行くか、選択肢は3つに1つだな。」


「おう、こっちは終わったぞ。」


「こっちも一通りの説明は終わったぜ。 で、これからどうすんだ?」


「とりあえず、結界内に残ってるヤツと一緒にリーズエルに向かうって話になった。 キータに連れて行くよりはリーズエルの方が教会の力もそこまで大きくないから、安全だろうってことになってよ。」


「わかった。 今からすぐに行くのか?」


「いや、俺達はリーズエルに行く準備をする。 残ってる水や食料があるかもしれんからな。 街には人も馬もいなかったんだろ?」


「瓦礫の下までは確認してないが、家に残ってる人間はいなかったし、生きてる馬もいなかった…。」


「そうか…。」


「おい、クライス! 俺達は戻って契約の解除だ。 結構な人数いるけど大丈夫か?」


「そういや聞いたぜ。 お前が契約解除したんだってな。 それなりに名前が売れてるヤツにも出来るか聞いんたが、そんなこと出来る訳がないって言われてな。 教会の契約魔法の解除なんて、勇者達ぐらいしか出来ねぇって怒るヤツまでいたが、まさかお前みたいな子供が出来るとはなぁ。」


「いやぁ、たまたまですよ。 たまたま。」


「たまたまで出来たらみんな苦労しねぇよ。 ガハハハ。」


「じゃあドナム、そっちは頼んだ。 クライス、急いで街を出る準備をするぞ。」


「はい。 じゃあ、ドナムさん、アインさん、グェンさんもお願いします!」


「おう! こっちは任せな!」


「気を付けてな!」


俺はジョアン達と一度家に帰る為に結界の中へと向かった。

読んでくれてありがとうございます。

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