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教会へ

馬車に乗ってすぐ、俺は強烈な睡魔に襲われた。


夢の時間は終わりを告げる。


またいつもの、ルーティンだらけの日常が始まる。


次の同じような夢が見ることが出来れば“自分で魔法を使いたい”と思いながら……眠った。



目が覚めた。


助かった俺達は街に向かっていたようで、目が覚めた時には街の中に入ったところだった。



・・・。



いやいやいや、違う違う違う。


いや街に入ったところなのだが、俺が言いたいことはそういうことではない。


いや、眠ったっていう時点で少し自覚はあったんだけども、まだ

覚悟が出来ていない。


目が覚めたらいつも通りソファで寝落ちしていました。っていう軽い感じで考えていた。


しかし現実は、俺の望むようには出来ていなかった…。



とりあえず今すべきことは現状の確認だ。


馬車の中から見える景色は中世のヨーロッパのような建物と、そして粗末な布で作った服を着た人の姿が見えた。



馬車の中では、俺が眠っている間も女は男の手当てをしていたようで、顔に疲労の色がくっきりと浮かんでいる。


小さな怪我は大方治っていたが、左腕の怪我が思うように回復しないところを見ると、治るのに時間がかかるのか、魔力が足りないのかのどちらかだろう。


御者席の商人は、女に何か話しかけた後、護衛に向かって何か指示を出した。



しばらくすると教会のような建物の前で馬車は止まり、護衛の男達が怪我をしている男を運んで行く。


女も俺を抱いて馬車を降り、入口で神父のような男と何度か言葉を交わした後、一緒に建物の中に入る。



辺りを見渡すとシスターのような人物もいたので、教会で間違い無いのだろうが、俺が知っている神父・シスター像とは違い、首から下はまるで武闘家だ。


ハッキリ言って顔と身体のバランスが全く合っていない。


服装は拳法着のようなものを着ていて筋骨隆々だが、顔には虫も殺さないような優しい笑顔が貼り付いている。


そのギャップが逆に怖い。


助けてくれた3人もそれなりに強面で、商人の馬車に平然と走ってついて来て護衛をするぐらいだから、それなりにはガッシリしているが、バキバキのマッチョ神父を見た後では少し頼りなく見えた。



そんな周りの様子を眺めていたのだが、ふと瀕死の男の姿が目に入った。


俺達の為に戦った男には申し訳ないが、このまま死んでしまうかもしれないと思ってはいても、どこか他人事のような感覚だった。



そんな事を思っていると、先程入口で相手していた神父と一緒に、まるで仙人のような真っ白の眉毛とヒゲを長く伸ばした爺さんが、立派な司祭服の裾を引きずり、身の丈程の長い木の杖をついて歩いて来た。



爺さんは男の怪我の具合を確認した後、静かに女に語りかけている。


そして数回やり取りがあった後、今まで見えていたのかわからない眉毛に隠れていた目を、これでもかというくらい「カッ」と見開いて、真剣な眼差しで女に質問している様子だ。


女は少し逡巡して俯いていたが、何かを決意したように爺さんの目を見て頷いた。


それを見た爺さんは、しばらく女の目を見ていたが、「ふむ。」と頷き、横たわる男に向き直り大きく息を吐き、詠唱を始める。


詠唱を始めた瞬間、老人の腕の周りに女が使っていた魔法よりも色が濃い緑の光が現れる。


緑の光がどんどん増えていき、横たわる男に向けた爺さんの手の平の前に集まり緑色の光の玉が出来上がった。


集まった光の玉を男に近付けていくと、光は男の身体の中に吸い込まれていった。


男の身体が緑色の光に包み込まれる。


そして光は強くなり、人型の発光体となった男の身体は徐々に光が消え、完全に消えた時には怪我する前のキレイな身体になっていた。


魔法を使った爺さんは、男の怪我が治ったのを確認し、椅子に座った。


男は意識を取り戻し、目だけで辺りを伺う。


それと同時に女は俺を抱えながら男に抱きつき、声を上げて泣いた。


男は、自分と女に挟まれて苦しんでいる俺に気付き、女をそっと離して俺の頭を撫でる。


そして身体を起こして、周りを見渡した。


様子を見ながら椅子に座る司祭の爺さんを見ると、僅かに表情を強張らせた。


そして軽くため息を吐き、なぜか怪我を治した司祭様ではなく、ここまで運んでくれた冒険者達と商人に先に話しかけ、お礼を言っているようだった。


しかし、冒険者達も商人も司祭の方に先にお礼を言うように促す訳でもなく、軽く話をすると、話を打ち切るようにして部屋を出ていった。


男は4人が出ていった後の扉を見つめていた。


するとまた軽くため息を吐き、笑顔で振り向いてこちらにやってくる。


男は女をそっと抱きしめて、何度か言葉を交わすと、また俺の頭を撫でる。


そして今度は大きな深呼吸をしてから、司祭と神父の方に振り返り、2人に近付いて行く。


そんなやり取りを司祭の爺さんは気にした様子は無かったが、神父はやはり不服であったらしく、先程までの笑顔が嘘のように男を睨み付けていた。


男は椅子に座る司祭の爺さんを見ると、右手を胸に手を当てて跪き頭を下げる。


そのまま男は何かを話していると、突然男が爺さんの方を睨み付け何かを言った。


その言葉を聞いた途端、神父が怒り殴りかからんと男に詰め寄ろうとする。


しかし、爺さんが杖で神父を制する。


そんなことも気にせず、男は話すのを止めない。


一通り話し終わると、男はまた頭を下げて爺さんが話し出すのを待った。


爺さんはゆっくりと話し出し、その言葉を聞いて男は顔を歪ませ、男は静かに言い返す。


その後の話し合いは静かだが、かなりピリピリムードでしばらく行われていた。


俺は2人が何を言っているのかわからないので、ずっと睡魔と戦っていたが、ようやく終わったので3人で教会から出てきた。


俺達が部屋から出る時も、神父は男を睨みつけていた…。



教会を出た俺は、そろそろ覚悟を決める時なのではないかという気持ちになってきていた。


もうこの人生を受け入れよう。


今の俺は体は赤ん坊、頭脳はおっさん。


それはもうただのヤバい生物だ。



・・・、受け入れると決めた瞬間に、早くも軽い現実逃避をしてしまった。



そこで、ふと我に返った。



でも俺には家族がいた…。


なぜかこの体になってから、家族だけでなく自分の名前さえ思い出せない。


家族がいた記憶さえも薄れている…。


俺は一家の大黒柱ではなかったが、妻や子供達がいた。


3番目の子供はまだ幼く、唯一の女の子で家族でたった1人俺にあんな笑顔を向けて、俺のことをパパ、パパと満面の笑みで接してくれた天使。


他の子達も比較する訳ではないが、最近でこそあまり会話しなくなったが、もっと一緒に遊んであげればよかったと思う長男と次男。


そして、会えなくなって本当に初めて気付いた最愛の嫁。


苦労をかけて本当に申し訳なかったと思う。


そんな後悔しか出来ない人生だったが、この人生は後悔しないように、真剣に考えようと思う。



俺がいなくなって本当に大丈夫だろうか……。


いつまでもクヨクヨしてたって変わらない!


考えても仕方がないことは考えない!


きっと俺がいなくても問題ない!


むしろ清々しているはず!


・・・よし、大丈夫!


俺は俺の人生をやり直す!


異世界だが、やり直す機会を得たのだ!


もう俺は立ち止まらない!


誰も俺を止められない!


決意したのは数分前。いや、時計は無いので体感の話だけど。



それよりもこの世界は残酷だ!


やる事が無い!


いや、そもそも赤ん坊だからやれる事も限られてるんだが。


テレビやパソコン・スマホ・タブレット、そんな物が無いのは覚悟していた。


ただ、言葉がわからないうえに、文字を勉強しようにも本の類いどころか文字を目にすることが無い!


紙は高級品かもしれないから期待はしていなかったが、羊皮紙すら無い。(まぁ、羊皮紙なんて見たことないけど。)


部屋にはベッドと質素な棚だけ。


わしゃ囚人か!!




ダメだ、このままでは気が狂いそうだ。


転生するなら言葉がわかるか、自分で動ける年齢でないとかなりキツい。


何もない部屋の中。


しかもこの生活がいつ終わるのかもわからない。


出口の見えない迷路に独りきり。


永遠とも思える、やる事がない無の時間。


それは恐怖と絶望だけが友達という苦行。


・・・。


いや、このままでは前世の俺と何も変わらない!


出来る事を考える!


出来る事はなんだ!


変わる為に動く!


変える為に動く!


惰性で生きるな!


無いものを無い!


今あるものを考えろ!


あるもので出来ることを考えろ!



今の俺に何がある?


時間がある!



この世界に何がある?


魔法がある!



じゃあやる事は一つ!


俺は魔法使いになる!



いや、ダメだ!


もっと上を見ろ!


最終目標は高く!


出来る目標は低く!



俺はこの世界で1番の魔法使いになる!


そのためには、まず何でもいいから魔法が使えるようになる!


全力で取り組んで、ダメなら他の方法を試すのみ!



こうして俺の生き方が決まった。

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