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折れない心

「母さん、おかえりなさい!」


「ただいまクライス。 ちゃんと仲直りしたみたいね、ジョアン。」


「まだ許した訳じゃないけどな。」


「もー、いい歳して子供にヤキモチなんて大人気ないわよ。」


「いいんだよ。 クライスは俺よりも中身は大人だからな。」


(おいおい、そういうギリギリの発言はやめてくれ…。)


「もう、スネちゃって。 嫌ねー、クライスはあんな男になったらダメよ?」


「ははは…。」


(ユニも、もうこれ以上ジョアンを煽るのは勘弁してくれ…。)


「それにしても懐かしい話してたわね。」


「母さん達が冒険者として活動出来るようになったのは、いつからなのか父さんに聞いてたんだ!」


「冒険者としてねぇ…。 やっと冒険者らしいことをやり始めたのは、コルンが体調悪くなる前だから、1つ前の街のガラパダの街からね。」


「えっ? その前のルルタボの街でやっとDランクになって討伐の依頼受けただろ?」


「ランクが上がったことに浮かれて、無理してビックボアの討伐依頼を勝手に2人で受けたヤツのこと?」


「ユニ? あっ、わ、わかった! わかった……。」


「その後、下見だけって言うから仕方なくコルンと付き合ってあげたのに、ビックボアを見つけたもんだから私とコルンが止めるのを無視して“ここまで来たついでにサクッと狩ってくる!”って凄い笑顔で森に入って行ったわよね? “今日はご馳走だぞ!”とか言いながら。」


「父さん達強かったんだね!」


「ユニ! あの時は本当に悪かった! 調子に乗ってすいませんでした! だからその辺で…。」


「森に入ったと思ったらすぐに出て来て、兄さんと真っ青な顔でこっちの方に走って来るから何かと思ったら、ビックボアに追いかけられて涙目で逃げて帰って来たわよね?」


(この話は二度としないでおこう…。)


「そ、その後ちゃんと2人で討伐しただろ!」


(まぁ、2人で討伐したのなら許してもらえるか…。)


「私とコルンを囮にしてね。」


(これはダメだ…。 今、不用意に発言すると大怪我をするな…。)


「2人が何食わぬ顔で近寄って来た時、本気で殺意が芽生えたわよ。」


「いや、アレは…。」


「しかも謝るかと思ったら、第一声が“ふぅ~、焦ったぜ。”と“マジで死ぬかと思った。”だっけ? あの時のことは死ぬまで忘れないから。」


(最低だな…。)


「しかもあの街で受けた討伐依頼はアレだけなのに、冒険者らしいとは言わないでしょ。」


チラッ。(もはやフォローのしようもないな…。)


「そ、それでもあの時の俺達は冒険者だっただろ!」


(子供か!)


「……。 それでねクライス。」


(今ジョアンの晩メシ抜きが確定したな…。)


「私達はガラパダの街のギルド…冒険者達を管理するところね、そこに行こうとした時にちょうどギルドマスター…ギルドの責任者の人と、入口でばったり鉢合わせしたの。 その人は兄さんの持っている剣を見て“お前、マドスの息子か?”って、聞いてきたの。 マドスは私達のお爺さんの名前だったから、兄さんはびっくりしてギルドマスターに掴みかかっちゃったのよ。」


「ああ、あの時は驚いたな。 掴みかかった瞬間に腹に一発入れられて、あのグランが気絶しちまったんだもんな。 その後すぐにユニがマドスは爺さんの名前だって言わなかったら、俺達全員牢屋に入ってたかもしれねぇな。」


(コイツ、ハートが強過ぎんだろ! メンタルどうなってんだよ…。)


「あの時は本当にびっくりしたわ。 だけどそのおかげで、ギルドマスターのブレンドさんと仲良くなれて、やっと冒険者らしくなれたのよ。 ブレンドさん、元気にしてるかなぁ…?」


(こっちも負けてない…。 今の会話のカットインにまったく動揺しないなんて。 …いや、そんなことよりこの話の流れ! もうこれは聞くしかない! むしろこのタイミングしかない!)


俺は意を決して母さんに聞いた。


「母さ…」


しかし、俺が最後まで話すことはなかった。


「ユニ! ユニはこれからもう一度冒険者として生きるのと、このままここで暮らすのと、どっちがいい?」


……。


まぁ、俺が聞くより本気度は高くなるから別にいいけど?


それにしても、よくこのタイミングで聞けたな…。


あっ。


ああ、ダメだ…。


このパターン…、いつものヤツだ。


自分の部屋に戻ってクロックとキララにこれからのこと相談だ。



「どっちって……。 私はジョアンが…。」


「違うんだ! ユニがどうしたいかを教えて欲しいんだ!」


「そんなこと突然言われても…。」


「わかってる。 すぐに答えが欲しい訳じゃないんだ。 ただ、ユニの本心が聞きたい。 ユニが今、本当は何を思っていて、どうしたいのか? それが聞きたいんだ。 ブランや姉貴達がいなくなってから今までずっと、俺のやりたいようにやってきた。 それは凄く感謝してる。 だから、今までユニがしてくれたように今度は俺がユニの為にしてあげたいんだ!」


「そんな、私は…。」


「俺はみバカだからだからはっきり言って欲しいんだ!」


「ジョアン……。」


「ユニ……。」




「相変わらず仲の良い夫婦ね。 見てて胸やけしそうだわ。」


(それに関しては俺も心から同意するよ。)


俺は両親がいつもの“2人だけの世界”に入ってしまう前に、さっさと自室へと戻りクロックとキララに今後の話をした。


「でも、クライスがあの2人と一緒に行きたいと思ってたのは意外だったよ。」


「そうね。 それは私も思ったわ。 …ハッ!? まさか、私達よりもあのおバカ夫婦と一緒にいたいっていうの!?」


(そういうつもりはないけど、子供の俺が一人でギルドに行ったって相手にされないと思うから、保護者として2人がいてくれたらなんとかなるかな?っと思ってね。 うまくいけば2人のコネとか伝手で、偉い人と知り合えるかもしれないでしょ?)


「さすがクライスだね!」


「私が契約相手として見込んだだけあるわね。」


(はいはい、ありがとう。 それにしても、もう少しギルドのことを調べないとダメだなぁ。 年齢制限があるかもしれないし、手続きに必要な物とかお金がいるかもしれないし。)


「今聞きけばいいんじゃないの?」


「アンタねぇ、今行ったらややこしくなるでしょ!」


「なんで?」


「2人だけの世界を邪魔したら、クライスがまた怒られるでしょ。」


(うん、今は遠慮したいな。 ジョアンに怒られるよりも、身内がイチャついてる姿を見る方がキツいから本当に勘弁して欲しい。)


「ふーん、僕にはよくわかんないや。 それにしてもここを出ることは問題ないの? なんか出て行くことが前提になってるけど大丈夫?」


(確かに上級の契約魔法まで使ってるのに、素直に出してもらえると考えるには少し楽観的過ぎるかもしれないな。 出て行ったとしても追いかけてくる可能性があるし、最悪契約解除した時点でバレてて、もうすでにこちらに向かっているかもしれない…。)



ガタガタッ! ドンッ! ガッターン! ズダダダ!


「クライス! クライス!」


「どうしたの? 少し落ち着きなよ。」


「悪い、やっぱり一緒に行けないわ。」


「何が? 急にどうしたの?」


「ユニが! ユニが妊娠してるみたいなんだよ!」


「えー! おめでとう!」


「だから、悪い。 一緒には行けない。」


「そんなこと気にしなくていいよ! もともと一緒に冒険出来たらいいな、っていうぐらいの話だったし。」


「そう言ってもらえると助かる…。 それで、お前はこれからどうする? あっいや、別に出て行けって意味じゃない。 むしろユニの為にもいてもらいたいってのが本音なんだが。」


「別に急ぐ訳じゃないし構わないよ。 まだギルドのこととか聞きたいこともたくさんあるから。 何よりユニの可愛い子供を見たいし、俺が出て行くのはそれからでもいいかな。」


「ありがとう、助かるよ。 じゃあちょっとユニの様子見てくる! あとユニ“さん”だからな!」


「えっ? あっ、ちょっと! …って全然聞いてない。」


そんなんだから、ビックボアに追いかけられることになるんだよ!



…さて、これから本格的に旅に出る準備しないと。


まずは…、とりあえず教会の動きを確認しとこうか。


そういえば教会の人間が監視している場所すら知らないから、そこから探さないとダメだな。


あと、敵の数や強さがわかればいいんだけど、さすがに監視する側の人間もそんなマヌケではないだろうし…。


とりあえず、ジョアンに聞くか。


(クロック。 キララ。)


「どうしたの?」「なに?」


「これから教会に潜入しようと思うんだけど、相手に見つからないようにする魔法とか無い?」


「光魔法なら一時的に目眩ましさせる魔法があるけど?」


(うーん、それは相手に見つかった時の最終手段としてはいいけど、見つからないようにする為の魔法が欲しいんだよねぇ。)


「じゃあ、時空魔法の空間隔絶魔法は? 本来は自分と相手の間の空間を切り離して、物理攻撃も魔法も全て防ぐ為の魔法なんだけど、自分の姿が入り込んでない空間を切り離したら、姿が写らないから見つからないと思うよ。 魔力の消費が激しいから本当は最終手段として使う魔法だけど、異空間収納の魔法が使えるクライスなら大丈夫だと思うし。」


(それなら早急に空間隔絶魔法を使いこなせるようにしないとダメだな。)


こうして俺は、新しい魔法の習得をする為に頑張ることにした。

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