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親子

会話がメインになります。

楽しんでもらえると嬉しいです。

「ここでいいだろう。」


僕と父さんは家から少し離れた森の方へとやって来た。


「じゃあいきますよ。」


「待て。 その前に…、今ここには俺達しかいないんだ。 そろそろ本当のこと、話したらどうなんだ?」


「本当のこととは?」


「もういい。 お前、本当は何者だ? クライスになって何をする気だ?」


まずいなぁ。 結構確信を持って言ってるよなぁ。



「ちょっとちょっと! マズいんじやないの?」


(キララ、少し黙っててくれる?)


「だってバレてるかもしれないのよ!」


「キララ、これはクライスの問題で、クライスが決めることだから、僕達はクライスのことを静かに待っておこう。」


(ありがとう、クロック。 ごめんね、キララ。)


「もー、わかったわよ! 静かにしてるわよ!」


(キララもありがとう。)



「何者って、クライスですよ。」


僕は精一杯のしらを切った。


「産まれた時からか?」



「なにがですか?」


「中身だよ。」


ヤバい。本格的にヤバいよ。 だがここで折れる訳にはいかない。


「中身?」


「お前がクライスを名乗るには無理がある。 言葉で表現しにくいが、とにかくなんていうか、“不気味”だ。」


不気味って…。 確かに色々と焦っていたから、子供らしさは微塵も無かったなぁ。


「無理があるって…、父さんが知っている子供に、僕みたいな子供がいないっていうだけのことじゃないんですか? 家庭環境が違えば性格だって違いますよ。」


「そういうところだ。 なんだかんだ言ってもお前はまだ3歳だ。 いくらお前が天才だとしても子供である以上、経験からくる状況判断や未来予測には限界がある。 それなのに、お前の対応は完璧過ぎるんだよ! 口は立つし、何をするにも卒なく無難に物事をこなす。 大人でもお前のように対応出来ねぇよ!」


なかなか的を得てるなぁ。


「そんなこと…。」


「それだけじゃねぇ。 一番最初に違和感を感じたのは、赤ん坊にしては訴えかける声や表情、動作が的確過ぎることだ。 話せないのに、お前の要求はなんとなく理解出来た。 おかげで子育てに苦労しなかったが、子育てした実感がねぇ。 そして決定的なのは話せるようになってすぐに文字や物の名前を聞いてきた時だ。」


そりゃあ随分可愛くない赤ちゃんだったろうね…。


「そりゃあ、文字を覚えると色々便利だし、物の名前を覚えるために聞きますよ。」


「文字を見たこともない子供が、なぜ文字が便利だとわかる? ここでの生活に、文字の必要性は無かっただろう。 そもそもお前は文字を見ることもなかったはずだ! それに物の名前を聞く時も、まず目についた物をこれは何って聞くのが普通だろ。 それがなんで使い方を知ってる物から聞いていくんだよ。 理解という言葉の範疇を超えているんだよ! どう考えてもおかしいんだろ!?」


もう誤魔化せないなぁ…。


「…どうしたら、信じてもらえますか?」


「…いっそのこと、“僕はクライスではありません。”って言われた方が信じられる。」


僕は自分の心臓の音が早くなっていくのがわかった。

頭だけでなく手足の血の気が引いていき、バレる恐怖なのか緊張なのかわからないが、手足が震えが抑えられなかった。


「僕がクライスでないなら、父さんは僕を一体何者だと思っているんですか?」


「転生者…。 エルフや魔族の生まれ変わりと言った方がいいか?」


!?


本当に心臓が破裂するかと思うぐらい驚いた…。

この世界の人間の口から、その言葉が出てくるとは思わなかったが、今はそんなことどうでも良かった。

それよりも、そんなことよりもまず確認しなくてはいけないことがあった。


“いつからその答えに辿り着いていたのか?”


俺はヤバいとは思いつつも、心のどこかでバレることはないと軽く考えていた。


だけどそんな軽い考えでついてた嘘は、かなり早い段階でバレていた。


「……すごいですね。 さすがにその答えが返ってくるとは、思ってもいませんでした。」


「認めるのか?」


「じゃあ、家で話した僕を憎んでいたような言い方は、怪我の原因を作ったからではないということですか?」


「アレも本心だ。 だが、お前を見ているとどっちが本当のクライスなのかわからなかった。 だから、2人きりで話して俺の中の疑念を振り払いたかった。」


もういいや…。


もう疲れた…。


彼が敵になるか味方になるかわからないけど、ここまで育ててくれた彼を騙すには、愛情が深くなりすぎた。


この人には本当のことを話そう…。


そして母さんに話すかは、彼の判断に委ねよう。


本当のことを知ったら、母さん悲しむかなぁ……。


「わかりました。 全てをお話します。 もちろん質問にも答えます。 だから、誰にも話さないと約束してください。」


「それは約束は出来ない。 話を聞いてからだ。」


「じゃあ最後まで話を聞くという約束はしてください。 聞いたあと、母さんに話すかはお任せします…。」


「…わかった、約束しよう。」


「…僕は、…私はあなたの言う通り転生者です。 ただ、あなたが思っているような生まれ変わりではなく、別の世界から、…異世界からの転生者です。」


「異世界?」


「私の前世は、魔法も妖精もいない人間だけの世界でした。 死が身近にあるこの世界を基準で答えるなら平和な世界と言っても過言ではないでしょう。」


「平和な世界…。」


「残念ながらその世界全てか平和ということではありません。 それでもこの世界に比べれば魔物に怯えて暮らさなくていい分、マシな方でしょう。 いや、私が知らないだけで、ここよりもっと酷いところがあったかもしれません。 とにかくそんな世界で産まれた私は、その世界でも一番安全な国と言われるところで育ちました。 戦争はなく、食べる物に困ることもなく、少し体調が悪くなれば手厚い医療も受けられる、そんな世界で私は40年生きました。」


「待て、40年って…。」


「まぁ、詳しく説明するとややこしいのですが、前世では365日で1年として数えるので、こちらの世界の360日で1年で数えると40歳も半分くらい終わってますが。」


「40歳…。」


「その40年の間に結婚もして子供も3人いました。」


「お前、ユニのこと!!」


「大丈夫です。 心配しなくてもそういう気持ちで見たことはありません。 ユニさんはキレイだと思いますけど、母親に対する愛情以上の気持ちはありませんし、体は3歳なので性的な欲求は今の所、持ち合わせていません。」


「……チッ!」


「話を戻します。 前世ではこの世界に無いもので溢れていて、知識や娯楽、科学といった文明が進んでいました。 信じてもらえないかもしれませんが、手の平程の大きさの道具一つで知りたい情報をいつでも得ることが出来て、馬に乗って何日もかかるような遠くに離れた人と文字のやり取りや、今こうやって会話するように話したりすることが出来た。 しかもそんな道具を1人1つ持つのか当たり前のような世界だったんですよ。」


「……。」


「そんな世界で生きてきた人間に、この世界は厳し過ぎます。」


「……。」


「だから私は、あなた達にこの世界の生き方を教わろうと思い、あなた達の子供として暮らしてきました。 私がクライスとして目覚めたのは、あなたが狼と戦っている途中でした。 最初は夢でも見ているのかと思いましたが、いくら時が経っても目覚める気配がないので、クライスやあなた達には大変申し訳ないが、仕方なくクライスとして生活していました。」


「お前っ…!」


「じゃあ、逆に聞きますがあなたはユニさんとサヨナラも言えずに、突然自分が知らない世界で全くの他人として目覚めたら、どうするんですか?」


「……。」


「子供を持つ父として、あなたが私に腹を立てる気持ちは痛い程わかります。 だけど私だって、この子なりたくてなった訳じゃない! 妻と子供達に会えるなら喜んでこの命を捧げる覚悟は出来てる! けど、もうそれが出来ないんですよ…。」


「……。」


「あなたは私にどうしたいかを聞きましたが、あなたは私にどうして欲しいですか? 私が死ねば気が晴れますか?」


「……。」


「黙ってないでなんとか言えよ! 俺はどうしたらよかったんだよ!? この体で、クライスとして生きていくしかないだろ!? 元の世界に戻れるかもわからないのにどうしたらよかったんだよ!?」


「……帰れる可能性はあるのか?」


「わからない。 簡単に帰れるかもしれないし、絶対に無理かもしれない…。 わからないからこそ、今は全力で努力している。 もう少し努力してたら帰れてた、なんてことになったら死んでも死にきれないから。 だからこの人生は全力で努力するって決めた。 もし無理だったとしても、全力で頑張ったけど無理だったって、胸を張って言えるようにしておきたいから。 まぁ、それを伝える人はいないんだけど…。」


「はぁ……構えろ。」


「…えっ?」


「話は終わったんだろ? 構えろ!」


「……。」


「俺がこの世界の、人間としての最低限のことは教えてやる。」


「…ありがとうございます。」


「あと、2人の時に父親扱いはやめてくれ。 見た目は子供だか、中身はおっさんのヤツに父親扱いされるのは勘弁して欲しいからな。」


「わかった。」


「それと、お前が言ったことは信じてやるし、お前の立場も理解してやる。 だが、クライスのことを思うとやっぱり納得が出来ねぇ。」


「……。」


「これは俺のわがままで、単なる八つ当たりなのはわかってる。 付き合ってくれるか?」


「気が済むまで徹底的にやりますか?」


「すまない。 助かる…。」


俺達はそれから母さんが迎えに来るまで模擬戦を続けたのだった…。

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