創世紀
“この世界には3つの大陸があり、それぞれ精霊族・人族・魔族が暮らしていた。
精霊族がいる大陸は自然豊かで、そこで暮らす者は食べる物にも困ることなく、また争いもない平和な日々を過ごしていた。
人族が支配している大陸は、精霊族の大陸ほど豊かではないが、土地を耕し麦を育てる者や、山で狩りをして生活する者、また海に出て魚や貝などを食べて生活する者など、皆が裕福とは言えないまでも飢えに苦しむ者はほとんどいなかった。
また、それなりに大陸内での争いはあったが、平和に暮らしていた。
しかし魔族の大陸は、土地が痩せていて作物は育たず、飢える者が溢れ、食べる物を奪い合うために争い、更に土地は荒れていくという悪循環を繰り返していた。
とうとう耐えきれなくなった魔人達は、他の大陸に助けを求めた。
ある者は精霊族の大陸へ。
ある者は人族の大陸へ。
精霊族の大陸に行った者は、住むところや食べる物に苦しむことの無い平和な暮らしが待っていた。
そして、そこで暮らしていた者達との間に子が出来た。
聖獣と魔人の間に出来た子供が“獣人”と呼ばれるようになり、エルフと魔人の間に出来た子供が“ダークエルフ”と呼ばれるようになった。
また人族の大陸に行った者は、その外見から人間に恐れられ、迫害を受けた。
人間は自分達の領域を侵す魔人を殲滅せんと討伐隊を組んだ。
それに対抗すべく人間と戦うことを選ぶ者と、擬態して人間として生きることを選ぶ者もいたが、大半の魔人は魔族の大陸に帰ることを選んだ。
そして魔族の大陸に戻った者達は、人間達に迫害されたことを触れ回った。
そうすることで、この大陸に残った者達の負の感情を、自分達から人間へとすり替えようとした。
結果、初めこそこの大陸を捨てた者達の自業自得という意見もあったが、魔人を迫害した人間への怒りが徐々に高まり、最終的には自分達の同胞を殺した人間共を滅ぼそうと立ち上がることになった。
これが人間と魔人の最初の戦いである。
魔族は魔術という圧倒的な力で、人族の大陸の半分を奪い取ることに成功し、人間を滅ぼすのも時間の問題と思われた。
しかし、人族にも魔術を使う者達が現れ、魔族の侵攻に陰りが見え始めた。
人間でありながら魔術を使う者、それは人間として生活をしていた魔人と人間との間に出来た子で、その中に魔人の血を色濃く受け継いだ者達がいた。
だがその者達の半数近くは、器である人間の肉体や精神では、魔人の力を制御することが出来ず、理性が欠落して破壊の限りを尽くすようになった。
そしてそういった者達を、人間は悪意に満ちた魔人のような者として“悪魔”と呼んだ。
残り半数の者達は理性を保ち、力を制御することに成功し、悪魔と呼ばれる者達を斬り捨てた。
そうして悪魔を退けた者達を、勇気ある者として“勇者”と呼んだ。
幾人もの勇者達の活躍と、もともと数と戦略を駆使して戦っていた者達が一緒に戦い、長い年月をかけて魔人達の侵攻を押し返していった。
そして魔人達は、とうとう人族に敗れ大陸から追い出さた。
敗れた魔人は魔族の大陸に逃げる者達と、精霊族の大陸に逃げる者達がいたが、そのほとんどは死に絶えた。
魔族の大陸に帰った僅かな魔人達は戦いの日々で得た経験や極限の精神状態でいた所為か、大陸に残っていた魔人よりも遥かに多くの魔力量を有し、魔術の威力も高まっていた為、神のような力を持った魔人達を“魔神”と呼び、更にその中で一番強い者が魔族の王“魔王”として皆に崇められた。
この時魔王は人間がこの大陸に攻めて来ることを危惧し、全魔族に対して人間の大陸をただの大陸と罵り、精霊の大陸をそのまま精霊大陸と呼び、魔族の大陸を魔力溢れる者達が住まう大陸という意味で魔大陸と呼んだことで、魔族は崇高で特別な存在であると皆に喧伝した。
そして自分が死んだら、次の魔王や魔神は血縁者から選ぶのではなく、強者から選ぶことを宣言した。
このことにより、魔王の人気と地位を確立し、魔人達は自分こそが次期魔王になる為に強くあろうと努力した。
こうして魔王の思惑通り魔族全体の戦闘力と士気が上がり、人間が攻めて来ても一方的に蹂躪されることを防いだ。
また、精霊族の大陸に逃げ延びた魔人達も魔力が高まっていた。
力を手にした一部の魔人達は精霊大陸で傍若無人な振る舞いにより、その地に住まう者達の怒りを買った。
そしてその魔人を討伐する為、エルフ・ダークエルフ・獣人、そしてドワーフの連合軍が魔人討伐の為に戦い、幾らかの犠牲を出しながらも暴れていた魔人を殲滅した。
もちろん力を手にした魔人の中にも平穏に暮らすことを望み精霊族の生き方を尊重し、共に生活する者もいた。
しかしエルフはその者達を危険視し、また死んでいった同胞の敵討ちをするべく、“魔人は精霊族に仇成す者であり殲滅すべし”と主張した。
(ドワーフは他の種族と根本的に思想が違っていた為、魔人の脅威が去ったと同時に連合軍から抜けていたので、この問題には関与していなかった。
またエルフ達も“ドワーフとは関わりたくない”というのが本音であった為、連合軍から抜けたことに文句を言う者はいなかった。)
ダークエルフと獣人達は、自分達の先祖ように精霊族の生き方を受け入れ、精霊族と同じ様に生きる魔人もいる為、共存することを容認するよう主張した。
このお互いの主張は平行線を辿り、精霊大陸ではエルフ対ダークエルフ・獣人連合の形が作られるかに思われた。
エルフは以前からダークエルフが肌の色が違うことや精霊魔法ではなく魔人と同じ魔術を使うことなど、純粋なエルフではないダークエルフと一緒にされることが気に食わず、また同じエルフとして振る舞うことも許せなかった。
そして獣人に対しても、身体能力こそ高いものの魔法が使えないくせに、純粋な精霊族の自分達エルフと、対等に接してくることが気に食わなかった。
エルフ達はそんな彼等を、汚れた血を受け継いだ者達として見下し、“混血”という蔑称で呼んでいた。
だからこそ、自分達の意見に反対するということや自分達に意見してくることも気に食わなかったが、その者達の主張に従うことがなによりも許せなかった。
またダークエルフ達も、以前からエルフ達の見下した態度に腹を立てており、何度か衝突を繰り返していた。
その為、今回のことが引き金となり、エルフとダークエルフの不仲がとうとう全面対決の様相を呈することとなった。
自分達ダークエルフを見下すエルフを、共に戦い討ち滅ぼすように獣人に申し出るが、獣人は“他種族と干渉せず”とだけ伝えてきただけで、まともに取り合おうともしなかった。
その対応にダークエルフは怒り獣人との連合を解消、とうとう三つ巴の形になった。
獣人は獣人で、自分達の信仰はエルフ達が崇める世界樹ではなく、先祖である聖獣達を信仰していた。
聖獣は魔力を持った獣が長い年月を生きて、人の姿を手に入れた者のことで、獣人とは違い獣にも人の姿にもなることが出来、魔法が使えない代わりに、短時間ではあるか自身の限界を超えた力を使うことが出来た。
獣人達は口には出さなかったが、“自分達は神の血族であり自分達の方が格上”というのが、獣人達共通の認識だった。
そして、世界樹とエルフ達を、樹液に群がる“虫”と見下していた。
そしてダークエルフは、その周りを飛ぶ目障りな“羽虫”という扱いで、どちらも不快な存在程度に思っていた。
その為、ダークエルフはエルフより格下であるというエルフの主張には共感出来たが、獣人達にとってエルフとダークエルフ違いなど最早どうでも良かった。
その後、大陸内での小さな争いはあったが、しばらくは平和な時が流れた。
しかし、その平和は長く続くことはなかった。
人間達は虎視眈々と、魔族に報復する準備を整えていた。
特に一番被害を受けた魔大陸に近い複数の国が、勇者を多く輩出した国と結託し、打倒魔族という大義名分を掲げ、大陸を統一していった。
それと同時に、精霊大陸へ行きドワーフと親交を深め、強力な武器を手に入れた。
そして、エルフやダークエルフ・獣人達と交易を行い、お互いの利益の為と偽って、一方的に人間達が得するようにし、言葉巧みに精霊族全体の力を削っていった。
そして、かつて悪魔を拘束するための魔術を使って、弱った精霊族の者を奴隷とし、人間の大陸へ戦争兵器として送り込んだ。
その結果、もともと数が少なかったエルフ、ダークエルフ、獣人はさらに数を減らし、人間達は精霊大陸ほぼ全てを掌握した。
2つの大陸を手中に収めた人間の国は、全戦力を魔大陸に向けた。
勇者達はこの世界が平和になることを信じ、来る日も来る日も魔族と死闘を繰り広げた。
最後の魔神を倒し、とうとう残りは魔王だけとなった時、本国から帰還命令が下る。
人間や精霊族の大陸各地で一斉に暴動が起ったという連絡が届いた。
(一説には各地に根付いた魔族達が暴動を起こしたとも言われているが、人間は全ての種族を敵に回していたので、首謀者がいたのかすら不明な状態であった為、真相は依然として藪の中だ。)
多くの勇者の命を犠牲に、やっとの思いで帰還した勇者達が見たモノは、国とは到底呼るモノではない無惨に破壊され尽くした状態の廃墟であった。
そして一人の勇者は、魔王と精霊王に不戦の誓いを交わし、3大陸の戦いは終結した。
皮肉にも、人族・精霊族・魔族の全てが壊滅的な被害を受けたことで、世界は平和を取り戻したように、静かに時を刻み始めた・・・。”
「って言うのが、この世界の歴史なんだ。」
「へー。 じゃあ勇者や魔王っていうのは、本当にいるのね。」
(それからどうなったのか、クロックは知ってるのか?)
「んー、確か精霊大陸は精霊王と呼ばれる世界樹の化身が、大規模な結界を張って、外界と空間を隔離して眠りに就いたとか聞いたけど、本当かどうかはわからないなぁ。」
「なんで肝心なところを知らないのよ! 使えないわねぇ!」
「だって、仕方がないじゃないか! その時はこの大陸にいたから、精霊大陸のことなんて知らないよ!」
(キララ言い過ぎだぞ。)
「フンッだ!」
(まったく・・・、この話は終わり! 父さんも帰って来たみたいだし。)
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