中身はおっさん
初めて小説を書きます。
ストレスなく読んで頂けるように頑張りますが、誤字脱字、おかしな言い回しがあれば許してください。
息苦しくて目が覚めた。
目の前には金髪美女の顔があった。
不思議に思うも、夢と判断してまた目を閉じる。
周りがうるさくて意識が半分覚醒してしまったのだろう。
“いつもの”寝ている俺の横で妻がテレビをつけているのだろうか?
イビキがうるさくて聞こえないからと、なかなかのボリュームでテレビをつけていたことがあった。
俺は俺で、頑張ってというのも変な言い方だが、“起きないように頑張った”ということがあったので、またかと心の中でため息を吐く。
しかし今回は完全に目が覚めてしまったのだが、起きたら何か言われることがわかっていたので、妻に気付かれないように様子だけ確認しようと薄目を開けた。
しかし、想定していた部屋の景色ではなく、先程の美女の顔が目の前にあり、鬼気迫る顔で何かを叫んでいる。
テレビにアニメが映っているのかとも思ったが、会話が何を言っているのかわからなかいし、仰向けで寝ているのにテレビが見える訳がない。
恐る恐る辺りを見回してみると、家の中ではなく知っている景色でもない。
辺りは木が生い茂り、空を覆い尽くしそうな程に木が伸びている場所で、実物は見たことないが馬車だったであろうモノがめちゃくちゃに破壊された状態で散らかっていて、そのすぐ近くに馬の死骸があった。
そして目が覚める原因となった音の方を見ると、バス並みにデカい狼と、手首から肘まである楕円形の盾を付けて両手でロングソードを持って狼に対峙している茶髪の男がいた。
もう既に男の方はボロボロの状態だった。
・・・。
男の顔はよく見えないが、たぶん若い。
正直興味ないのだが、頑張って欲しいと思う。
女は茶色が混じったキラキラと光る金髪を腰まで伸ばしていて、瞳の色は碧く綺麗な容姿をしている。
年齢は20才前後かな?
その女は俺を胸元でしっかりと抱き締めながら、男に何かを叫んでいる。
俺はというと、デッカイ狼に殺されるより先に、美女の胸の谷間で窒息死しそうになっていた。
本気で苦しくなってきたので少し離れようとしたが、自分の身体を思うように動かすことが出来なかった。
俺は夢の中では思うように動けないタイプなので、その所為かと思ったがどうやら違うようだ。
俺は赤ん坊の姿になっていた。
俺は今年40才になる、どこにでもいるおっさんで、年上の妻と子供が3人の5人家族。
自分で言うと悲しくなるが、趣味は特にコレといったものは無く、酒もタバコもしないのではなく体が受け付けないので出来ないし、ギャンブルも勝てる気がしないのでお金が勿体無いからやらないという具合で、自分から家族や誰かの為に何かしようという甲斐性もない、どうしようもないクズ人間とまではいかないが、ダメ人間寄りのつまらない男といった感じである。
妻は俺よりも稼ぎ、家族の為に自分の時間を犠牲に出来る人なので、俺は家の中で肩身の狭い思いをしている。
もちろん自業自得なのだが、妻の為にしたことは大体結果が裏目にでるので、それならば迷惑かけないように大人しくしていようということで今に至る。
そんな感じの為、俺が仕事から帰った時間が家族の就寝時間となり、独り静かに晩ごはんを食べる。
食べ終わると、自分の食器と家族が使った食器を洗う。
そして、洗濯機から洗濯物を取り出して干す。
それから風呂に入り、寝る前に明日の子供達の弁当用に、米とお茶の用意をする為、米を炊きお茶を沸かす。
寝床は、3人目の子供が産まれてからはリビングのソファが俺のベッドで、夏も冬も関係なく一年中使っている薄い裏起毛素材の掛け布団を1枚羽織って寝る。
やっとのことで寝る体勢になるが、寝る前にするようになったことがある。
それは、なろう作品の異世界転生系のラノベを読むことだ。
自分が主人公なら、どんな風に生活するのかを想像しながら、今日もベッドで携帯の画面をスライドする。
携帯に映る文字をスライドしているうちにいつの間にか寝落ちしていて、気が付けば朝。
意識がハッキリしてくると、“携帯はどこだ!?”と体や頭の下、時にはベッドの下から携帯を見つけ、“画面は無事か!?”と割れていないかを確認する。
そして最後にトイレに入り“変なサイトに飛んでないか!?”と焦りながら起きるというのが、俺の日課となっていた。
自分で思い返しても、本当に残念で気持ち悪いオッサンである…。
正直この生活に不満もあったが、変える方法を考えることもせず、また変えようと行動を起こす勇気もなかった。
だから、今のような立場になってしまうのは自分でもわかっていた。
それにしても、この状況はどうしたものか。
どうするといっても、赤ん坊の俺ではどうしようもない。
いや、仮に大人であったとしてもあんな馬鹿デカい狼の化け物なんて、前に立つ男と2人で挑んでもとても退治出来るとは思えない。
それこそ俺は、キャンキャン吠える小型犬が襲ってきたとしても、殺すどころか追い払う自信すらない。
たぶん「ひえぇっ」という悲鳴をあげながら逃げるのが関の山だ。
ドゴッ!
「ぐぁはっ!」
そんな事を考えているうちに、男が狼の化け物に吹っ飛ばされてこっちの方に飛んで来た。
剣は根本あたりから折れていて、盾は粉砕していた。
盾を持っていた腕は直撃を受けたのか、盾があったはずの肘の下が抉れていて、今にも千切れそうな状態でプラプラしていたが、それでも男は立ち上がろうとしていた。
血の吹き出し方が妙にリアルに感じるが、現実でそんな怪我をしている人を見た事がないので、映画を見ているような気持ちだった。
そんなことを考えていると、女は俺を抱き抱えたまま男に近付き、千切れそうな腕に手をかざして何かを呟く。
その瞬間、淡い緑色の光が女の手から放たれ出血が治まっていく。
しかし、千切れかけの腕は怪我が酷過ぎるのか治る様子はない。
(大変だ!)
こんな状況であるにも関わらず俺は、魔法が使える世界ということに興奮する。
(もし俺が魔法を使えたら、あんな狼なんて軽く追い払うのになぁ。)
と、自分勝手な妄想をした。
「ひえぇっ」
妄想をしながらチラッと狼を見たらめっちゃ目が合った。
狼が俺のことをロックオン状態でずっと見てくる。
いや赤ちゃんだから、実際には“ふにゃぁ”とぐずっただけで誰も気にしないが、恥ずかしかったので誰も聞いていないが自分に言い訳をする。
俺よ、夢であるなら目を覚ませ!
・・・。
くそー!
なぜ目が覚めない!
こうなったら仕方がない。
おい、茶髪頑張れ!
死んでも追い払え!
・・・必死の叫びも誰の耳にも届かなかった。
その間にも化け物は獲物を見るように、俺をガン見しながらゆっくりと近付いてくる。
男は生気のない顔で朦朧としながら、立とうとするが立ち上がれず前のめりに倒れ込む。
女は泣きながらも、何か呟きながら男の腕に手をかざして傷を治している。
狼はその間にも、ゆっくりと一歩一歩近付いてきた。
そして大きな口を開けて食らいつこうとした。
その時、遠くから“シューン”とも“シュイーン”とも聞き取れる音とともに矢が飛んで来た。
狼の化け物は当然の如く矢を避ける。
矢が飛んできた方を見ると、壊れた馬車の向こうに弓に矢を継がえる男がいた。
さらにアニメやゲームで見るレザーアーマーを身に着けた男達2人が、それぞれ剣と槍を持って叫びながら駆け寄ってきた。
狼の化け物は、駆け寄って来る男達を確認した後に俺を一瞥し、鬱蒼と茂る木々を軽々と飛び越えて去って行った。
化け物の恐怖からは解放されたが、俺達を守って戦っていた男は意識を失い倒れたままだ。
俺達は、助けてくれた男達が護衛している商人の馬車に乗せてもらうことになった。
俗にいう幌馬車というヤツで、荷台がテントのように布で覆われているヤツだ。
助けてくれた男達が茶髪男を馬車の中に運び、俺達がその後に乗り込んだ。
馬車の中には売り物があったが、なんとか茶髪男を寝かせるスペースを作ってもらい、狭いながらも俺達3人乗り込むことが出来た。
商人は御者席で馬を操り、助けてくれた男達は平然と馬車の横を走ってついて来た。
馬車はゆっくりと動き出し、どこかに向けて走り出した。
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