第2話 生徒会室へ連行される
第2話 生徒会室へ連行される
そんな感じで高校入学からの日々を帰宅部として送っていたわけだが、中間テストが終わった6月の初め僕の高校生活を180度変えてしまうような出来事が起こった。
その日も授業が終わり僕は帰宅の準備をしていると、校内放送がかかり職員室に来るように僕の名前が呼ばれた。何も呼ばれる覚えが無いけれどなんとなく怖かった。背中が少し汗ばんで来るのが分かった。
なんとなく足取りの重さを感じつつ教室を出て職員室へ向かう。そして僕はドアの前で少したたずむ。職員室のドアを恐る恐る開けると生活指導の佐藤先生が何か資料を読んでいた。
佐藤先生は顔がいつも赤ら顔で怒り顔の人相。だからいつも威嚇しているように見える。そして実際指導に厳しい先生なのでこちらも緊張して紅潮してくる、こういう先生は正直きつい。通称サトゴリラ。
ただ......僕はこの先生が苦手な理由は先生の怖そうな表情だけではなかった。授業中いつも生徒を見てない振りして細かく観察している。最初は独身だから女子の事だけ見てるスケベ爺いかと思ったけど、男女の区別なく全ての生徒の一挙手一投足を細かく観察している。
例えばこの前中間テストが帰ってきたけど、その時僕はとてつもない衝撃を受けた。ただ単に間違った箇所にバツを付けてあるだけでなく、どうしてそのような誤りをしてしまったか、誤った思考をとった原因まで正確に指摘してある。
因みに関口の答案にはこんな事が書いてあった。
”お前がこの作者の気持ちを見誤った原因は授業中スマホで勉強していた塾の課題内容と混同してしまったからだな"
人間観察が得意な自分と同じ種類の人間のような感じがしてある種の苦手意識が芽生えてしまった。
佐藤先生は僕に気付いて資料から顔を上げると僕に椅子をすすめ、
「松川、よく来たなまあ座れ」
と意外にもやさしく言ってきた。
僕は緊張していたので、
「はあ、失礼します」
と小さく蚊のなくような声でいい椅子に浅く腰掛けた。
できるだけ手早く済ませて立ち去りたい、その気持ちで一杯だった。
「あのな今日は話があってな」
目元に皺3本と右の口元上昇7秒でも、口元の上昇が先ってことは完全な作り笑い。まっまずい......あれは、何か悪巧みの絵顔!!なんか厄介ごとに巻き込まれる気がする!
「なんでしょうか」
僕は小声で聞いてみる。その間頭の中の脳細胞が "何かやらかしたか俺は?"のワードで全速力で検索を掛けている。
先生はつぶやくように言った。
「おまえ部活はどこにするんだ?」
おおっと、それは予想外の質問、それはグーグル先生でも回答不可です。
「え? 中学と違って高校は自由って聞いたんで今のところどこにも入るつもりは無いんですが」
相当動揺している為、僕は声が少し裏返ってしまった。とても先生の表情を呼んでどうしてそんな事を言って来たかを推測する余裕は無い。
僕の意志を確認すると先生はいつも赤みがかった顔をさらに紅潮させ、やや大きな声で言った。
「なんだと! お前は帰宅部か! まあいい、どうせそんな事だろうと思ったからお前は生徒会に入れといてやったからな、感謝しろよ!今日これから挨拶に連れていってやるから、そこに座って待ってろ」
いや何?このむちゃぶり、ちょっと何とかしないとな。
「ええ? あの、勉強の時間が取れなくなってしまうんですが。それに生徒会の役員って選挙で選ぶのがテンプレみたいなもんでしょう?」
「なんだお前のその例えは? 大丈夫だ! おまえは書記補佐として生徒会のサポートをしてもらう。選挙など補佐だから不要だ。お前のタイピングスキルは相当なものだって関口が言ってたぞ」
チッ、関口の野郎~余計な事を、と心の中で舌打ち。
「あと勉強については お前ならこの前の中間だって全ての科目で100点に近い点数だったじゃないか」
「いや、それは山勘が当たったのとこの学校のレベルが......」
そう言いかけ僕は説明に困った。確かに中間テストの点数はほぼ全て100点に近いスコアを叩きだした。でもその理由は正確に言うと山勘ではない。だって先生の細かな表情や仕草を見ればテストに出るところとか大体分かるから。でも模試や入試では役に立たないこのスキル。
佐藤先生は僕の "この学校のレベルが"という付けたしの言い訳に過剰に反応する。
「なに~!」
血管浮き出だして怒るのやめて!怖いから~
「いや、なんでもありません」
結局僕は内申を人質に取られ3階の生徒会室に連行、いや連れて行かれた。
生徒会室は3階の西側にあり、"生徒会室"と筆書きで古めかしく書かれたクラスプレートはくたびれたサラリーマンのように垂れ下がっていた。
佐藤先生はノック無しにドアを開けると、生徒会室に入っていった。僕は入り口から中をそれとなく覗くと何人かの役員らしき生徒がパソコンの前で書類を作成していた。
「よお、清水悪いな忙しいところ」
「ああ、佐藤先生待ってましたよ」
そう佐藤先生が男子の役員と思われる1人に声をかけると、身長がやけに高い清水と言われた生徒に書類を何枚か渡した後、何かいろいろと話し出した。
今だ!このチャンスを利用しない手はない!僕はそうっとその場からフェードアウトして立ち去る作戦を頭の中で瞬時に立案し、右足だけをそう~っと後ろずさりさせた。
その時佐藤先生のおでこに無数の皺が走るのが分った。まずい!と思った次の瞬間ーーー
「まつかわ!!!」
「はっハイ」
「バックレェたら! どうなるかああ......分るな?」
「ひっ」
どうして僕が逃げようとしたの分ったの? 僕と同じでわかるの? そんなに背後から負のオーラ出さないで、お願い!
そして......まだ入り口にいる僕を部屋になかば強引に招きいれた。ぐぬうぅぅ御主には負けた! と一人負け侍の心境。
「こいつがさっき話した松川だ」
「へえ~この子が、わかりました。じゃあウチで引き受けますんで」
「ああ宜しく頼むわ、じゃあな松川しっかりな!」
そういうと佐藤先生はドアをやや強く締め出ていった。ドアが閉められると僕はいきなりの展開に何を話していいやら全く訳がわからず、挨拶だけでも形だけしようとしどろもどろ自己紹介をしてみた。
「あ、あの、松川です」
「君の事は知ってるよ松川君、何人かから聞いてるから、あと同級生だからため口でいいよな?」
えっ、何人かって誰? 先生以外に僕の事知ってるやついるの?
僕は動揺して思わず口がうまく回らず変な感じで
「えっ?同級生?1年なんでしゅか?」
うわ、ダセ~!なんですかとタメ口で言おうとしてへんな赤ちゃん言葉になっちまった。
「へ?しゅか?」
そう言うと清水君はあっけに取られた後少しだけ笑うのを我慢するような苦笑をしていた。口元を左右にそんなに歪めて笑うの堪えなくてもいいけどね、馬鹿にされるの慣れてるからさ。
そして清水君の苦笑につられるように、生徒会室の奥のほうで書類を作成していた別の女子と思われる役員の笑い声が大きく聞こえてきた。
「ぷっあっははは!なにそれ~1年なんでしゅか!だって~めちゃ面白い~!あっ!ああ~書類が!」
すかさず清水君が奥にいた女子役員をたしなめた。
「おい、そこ笑い過ぎ! しかも他校に出す書類しくじってるし、それお前が全部書き直しな。あとちょうど良いよちょっとこっち来いよ、新しい人佐藤センセから紹介してもらったから」
「は~い」
そう言うと奥のほうから清水君程ではないけど、僕より少しだけ背が高くて色白でロングの女子が近づいてきた。
「田中、紹介するよこちら松川君、松川君ここにいる笑声に品が無いのが田中。下の名前は怒るから後で自分で聞いてね」
「ゲス海、そんな事言って後で覚えてろよな! さてあなたが、松川くんね~よろしゅく~お願いしま~す。あとさっきの書類判子ずれっちゃたから作り直し手伝ってちょう~だい!」
「はい、あのよろしくお願いします」
顔が紅潮してくるのをごまかそうと、少し体を横向きにして隠しながら早くこの瞬間が終わることを、切に願う。女子は苦手なので表情はまともに見れない。
「あれ、なんか顔が赤いよ、どうしたの?ねえ?」
「いや、なんでもないです」
頼む、これ以上話しかけないで! ついでに近い! 否が応でも僕の視界には田中さんの顔が入り込んでくる。なんなの嫌がらせ? でも僕の女嫌いは誰も知らないことなのに。
それにしても、この田中さんって大きな瞳でまるで外人みたいな色白の顔、でも肩までかかった髪の色が綺麗な黒、ハーフじゃない感じでなんだこの人は。
僕が田中さんの顔を恐らくやぶ睨みの変な表情で見ていると、田中さんも僕の表情の変化が気になったらしく距離を近づけてきた。
「あのさ、私松川君に何か変な事したかな? ひょっとして嫌われちゃった?」
そこへ、まるで僕の事を全てお見通しのような感じで清水君が、僕にさらに近づこうとする田中さんを遮るように言う。
「おい、ハナ棒そのくらいにしとけよ、これ見て」
その瞬間、田中さんの顔色が怒気に満ちた阿修羅のような表情になり大きな声で怒鳴った。
「おまえ清水! その呼びかた止めろってあれほど言ったろう!」
あっ田中さんの両目のまぶたと眉毛が1度づつ上下に細かく動いている......
この動きは、清水君への凄まじい敵意、って言う事は清水君に殴りかかるぞ、本気だ!僕は咄嗟にそう思った。
「ゲス海ぃいいいいいい覚悟しろよおおおおお!!」
田中さんのこぶしが勢い振り上げられる、そしてその拳が向かった先にいる清水君の顔の表情を伺うと......え?え?まるで微動だにしない? 清水君の表情はまるで変化無く穏やかさを保っていた。こんなに敵意を向けられているのに表情一つ変えないって事は考えられる可能性は3つ。
可能性その1清水君は武道の達人、どんな攻撃でも瞬時にかわせるスキルの持ち主。
可能性その2 清水君は相当な間抜けの馬鹿。
そして三つ目の可能性は、相手が手加減してくれることを事前に分っている、そしてその理由はお互いに信頼し合っているような関係が二人にはあるって事。
この中で一番可能性の高そうなのはって事は......
「今はその件はいいから」
そういうと、さっき佐藤先生が渡した書類を田中さんに半ば強引に押し付けるように渡した。
「ちょ、ちょっと何だよこの書類は?え?嘘......マジ?」
田中さんは渡された書類の最初の何行かを読んでいると表情から落ち着きを取り戻したようだった。そしてその表情は少しだけ悪意に満ちた笑みを浮かべる顔つきに変わった。
「えっ、ああそういう事分かった、ふ~ん女の子と話すのが、へえ~だから佐藤ゴリラがここに押し込んだのか、納得~」
「ということだから、田中は松川君を丁重に扱ってくれよ」
「分かった、では~私はあまり近づきすぎないほうがいいよね~松くん?下の名前は何?」
ええ! 女の人と話すの苦手って分かっていただいたんじゃないの?
でも、さっき本当に清水君を殴ろうとしたからなここは穏便にさっさと済まそう。危険回避が僕のモットー。
「考基です」
「へえ~こうきくんだね~私は田中宜しくね」
「はあ、宜しくお願いします」
田中さんは奥の机に戻っていくとさっき失敗した書類の作り直しを始めたようだった。人には下の名前聞いて、自分は言わないのね。
「これから、生徒会の表向きの簡単な仕事から教えるからね、まあ最初は手書きの書類のPC打ち込みとかになるから緊張しないで」
「わかりました」
表向き? まあ、形式的って事かな?
清水君は古びたキャビネットからファイルを何冊か取り出すと僕に手渡しながら言った。
「そうだな、取り敢えず今日はあそこに1台空いているデスクトップがあるから電源入れて、この書類の書式を本年度用に変更してくれるかな?分からないところがあれば聞いてくれればいいから」
僕はA3位の書式がたくさん挟まったファイルを渡され更新作業を頼まれた。
まあだいたい予想していた通りだな。でもいいか、暇な時はここで勉強して時間をつぶせば親父と母さんの喧嘩を聞かなくてもいいからな。
そう思い書類の更新作業を始めてから1時間くらい経過した時、清水が自分のスマホの画面を覗いてとたんに表情を険しいものに変えた。ただ、その険しい表情の中の清水君の大きな瞳を覗き込むと、彼の瞳の奥にある瞳孔は、獲物を捕らえる瞬間のチーターのように広がっていた。
背筋が寒くなるような目の輝き。心の奥底では何かこれから起こる面倒な事を楽しんでいる。そんな気配が感じられた。
「あっ、チッ!またか、田中ちょっと来てくれ一次活動は中断だよまただ」
「ええ~?!また?ひょっとしてあいつ?困ったな~これ以外にも書類作りがてんこ盛りで残ってるのに~こんなときに二次活動なんて~清水1人で行ってよ~」
「だめだよ、第一もともとは田中のLINEつながりだろう?ちょっとは責任感じてくれよ!」
「分かったよ」
そう田中さんは渋々つぶやくと、その後何か閃いたようにこっちに顔を向け僕に話しかけようとした、田中さんの表情はまるで親戚の子供が、僕が疲れているのに遊んで欲しそうな時のような感じだった。
僕は咄嗟に何故か分からないが、彼女の表情を見た途端無意識に声が出てしまった。
「いやです、代わりに介抱なんか!」
田中さんと清水君が同時に「えっ?」と言うと同時にあっけにとられた表情をした。
「どうして、今からあなたに頼もうとした事分かるの?」
「いや、僕、今なんて、自分でもなんでこんな事いったかわからないや」
そういうと、僕は顔が硬直して何もいえなくなってしまった。
清水はその様子をなんとなく察したかそれとも急いでいたからか分らないけど、場を取り繕ってくれた。
「いいよ、今日は急ぐし俺がやるから」
「わかった、じゃあこうき君と私はサポートだね」
「そうだなじゃあいこうか、田中タクシー呼んで」
この人たちは一体何をしようとしてるんだ?
「さあ松君もくるんだよ」
「裏口まで行くから、今日は靴もってきてないよね?」
「えっ靴?どうして靴なんか持ってこなければならないんですか?」
「裏口からタクシー乗るから」
へ?なんで裏口なんだろう、まあ取り敢えず靴を取ってくるんだな。
僕は下駄箱から靴を取って裏口までくると、タクシーが止まっていた。既に清水と田中は乗り込んでいたので後から乗り込むと、清水は徐に
「柏木町のショッピングセンターまで」
とだけ運転手に告げて車は走り出した。
タクシーで15分ほど走り僕達がショッピングセンターに到着した時、正面玄関の一角に人だかりが出来ていた。
僕達は人ごみを分けて入っていくと、既にセンターの救護係りの人が僕達と同じ高校の制服を着ているネクタイの色から3年生と思われる生徒の介抱をしていた。
ただ介抱しているといっても、椅子で押さえ付けらた上からペットボトルで水を与えているだけだったが。
その3年生の男子の額は汗でびっしりと覆われ、喉仏がやや下がり気味に唾をゆっくりと飲み込んでいる仕草から、だいぶ疲れた様子だったので、もう抵抗はしないように見えた。清水は近くにいた責任者と思われるスーパーの救護係の人に声を掛けた。
「すいません、ご迷惑をお掛けしました、同じ高校の生徒会会長兼、風紀委員長の清水と言います」
清水君はそう言いながら自信満々に近づくと、名刺を1枚出してその人物に渡した。
ええ!高校生で名刺? すごいね生徒会って名刺持てるの? 知らなかったよ。
清水と応対した40代後半と思われる救護係の責任者の男の人は清水君にやや斜め向きに構えて不信感を表していた。そう、まるで親父の会社で働いている職人さんが給料を一晩でパチスロで使ってしまって、給料日の翌日に前借に来た時、親父の足の向き方にそっくりだと思う。
だけでも、その救護係りの人は最初は少し怪訝な表情をしていたが、清水の毅然とした態度に徐々に信頼感を寄せ始めているのが表情から分かった。
「ああ、同じ高校の生徒さんね、この子なんだか奇声を上げながら非常階段上っていこうとしたから、うちの店員が止めたら少し抵抗してね。椅子で取り押さえてしばらくしたらようやく動かなくなったんだけど、今救急車とか警察呼ぼうか迷ってたんだよ。しかし、この子酔っ払ってるの? 目つきが変だよ?」
そう救護係りの人が言うと清水は
「いや、実は彼はちょっと持病がいろいろあって薬を飲み間違えたらしいんですよ、さっき家族の人から電話があって、薬を間違えて持たせたと連絡が入りまして」
と理路整然と冷静に説明しだした。
えっどうして?
清水が説明している間も僕は心の中である疑問が沸く。
でも救護係りの人は説明に納得したようだった。
「ああ、そうなんだ、それで、気の毒だね。へえ~最近の生徒会さんはそこまでやるの? 大変だね~じゃあここは任せていいかな?」
「どうもすいません、じゃあいくか、松川君も悪いけど彼の肩もってくれる?」
「あっうん」
さっきまでは少しだけ息が荒々しかったその3年生は、流石に疲れたらしく、少しだけ落ち着いたように見えた。
しかし、二人で男子の肩をつかんだその時一瞬悪寒が走った、恐る恐る目を見ると僕に敵意をむき出しにしているのが直ぐに分かった。
やばい殴られる! とそう思ったその瞬間、清水はいつの間にか注射器のようなものを取り出し、彼の右腕を捲り上げて手際よく何かを注射していた。その後直ぐにその男子生徒はぐったりとおとなしくなっていった。
「さあ、もう大丈夫だからいこうか」
「はっはい」
「あと、田中は彼の持ち物をひとまとめにして持って来てくれ」
「了解!」
3人で目つきがおかしいこの氏名不詳の3年を車に押し込むと、タクシーはその場を急いで走り去った。
タクシーの中でいまいち事態の展開を読めていない僕の戸惑いに気付いたのか、清水はやさしそうな作り笑顔を浮かべて
「有難う、助かったよ」
と言い、その後続けざまに運転手さんに
「すいません、高校に戻ってもらえますか」
と伝えた。
しかしその直後温和を装った清水の表情はどこか恐ろしげな表情に変わり生徒会室にいた時とは全く別の表情になっていた。
そしてその冷たい表情のまま携帯を取り出すと、どこかに電話を掛けて
「今ピックアップしました、しばらく休ませてから帰したほうがいいと思うので保健室の鍵をいつもどうり開けておいてください」
それだけ短く低い声で言うと電話を切ってしまい、沈黙していた。
20分ほど走り、タクシーはまた学校の裏口につけられまだ正体が戻っていない3年生を保健室まで運びベットに寝かせやった。なんだか訳分からないこと言い続けている。
清水は、冷静に状況を踏まえているようで
「ここでちょっとやることがあるかから先に生徒会室に戻っていいよ」
と僕にできるだけ優しく言った。
「あっ分かりました」
っていうかどうして同い年なのに、ため口きけないんだろ俺。
生徒会室に戻ると田中さんは僕の緊張をほぐそうとできるだけ明るい表情で出迎えてくれた、やさしいんだな。
「よっ!初日からにじかつとは!あんたも運が悪いね!」
といって、また近づいてきた。
「はい麦茶をどうぞ、暑かったよね~」
いや前言撤回!緊張ほぐすつもりないでしょうこの人!
「ありがとうございます、あのうすいませんちょっと近いです、もうちょっと」
「ええ~これくらい普通だと思うけどね~」
そういうと、意地悪にもっと近づこうとしてきた。身長は僕よりも5センチくらい高いかな、なんか綺麗だなだけどやっぱり無理!
「いや、これ以上は頼みます目の前がモノクロになってくるんで」
「はい? 何言ってんの?」
ああ、駄目だ目の前がやっぱりモノクロになってくる、そう夏休みのラジオ体操で、寝不足なのに朝から無理に体動かして急に気持ち悪くなって倒れてしまうあの感覚。
もうだめだ自分の体重が重く感じる、シャットダウン!!
僕はその場でがっくり崩れるもう知らない。
「ちょっとまつくん!! まつ君!ま……」
「……君! まつ君!」
なんだかどこかで声が聞こえてくる、ああそうか田中さんに近づかれ過ぎて倒れたんだ。気が付くと、生徒会室の奥にある応接セットのソファーにいつのまにか寝かせられていた事に気が付いた。
僕の傍には清水が座っていた。
「あああ、すいません」
あたふたと起き上がろうとする僕。ああダサすぎ! 嫌になってくる。
「いいんだよ、そのままもう少し横になっていた方がいいよ。それよりすまなかったね、佐藤先生からのレポートを読んでいたのに配慮が足りなかった。あと田中! こっちにあまり近づき過ぎない程度に来て謝れよ!」
「ごめんなさ~い、でも~まさか本当にあんたそんなに女の子に免疫ないなんてこれからどうやって社会生活していくのかね~」
「こら! お前はいつも言いすぎだぞ!」
「は~いごめんなさい~では私は奥で1次活動に戻ります」
「ああ、まあ今日は緊急で2次が入ったから時間も遅いしやれるとこやったら帰っていいよ」
「は~いでは田中は適当にやって帰りま~す」
田中さんはそういうと奥のほうで書類の作り直しを再開した、清水は何か書類を見ている。
あの3年生は何なのだろう? っていうかこの人たちは何でこんな事をしているんだろう?
あとさっきショッピンセンターで清水が救護係の人に言っていた時に起こった疑問がまた沸き起こる。
「いや、ちょっと持病がいろいろあって薬を飲み間違えたらしいんですよ、さっき家族の人から電話があって、薬を間違えて持たせたと連絡が入りまして」
あの説明をしたときの目つき、あれは本当の事を言っていない目だった。なぜあんな嘘をついてまで彼をかばったんだ? 2次活動ってなんだ?