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第1話 帰宅部失格

生徒会2次活動


第1話 帰宅部失格




第1話 帰宅部失格




 僕の隣の席に座っているクラスメートの関口はよくしゃべる奴だといつも思う。




 




 悪い奴ではないが関口は自分自身の自虐的なことも含めて大声でいつも話すので、正直ちょっとうざい。






 でも煩わしいと思いながらもこいつとは何故か妙に気が合う。最初は意味が分らなかったけど、最近はその理由が分ってきたような気がする。







 なぜなら関口は表情を含めて嘘をつかないからだ。






 今日も僕が放課後教室を出ようとした時に、関口は制服を後ろからグイッとひっぱりいきなり大声で話しかけてきた。




「おい、松川ちょっと話せないか?」




 


    


     唇の両端、3度上昇 両方の眉毛 4度下降 5秒以上






 そう!これこれ!これがこいつのいつもの笑顔。





こいつはいつも分り易い位のドヤ顔の上に大声でやかましいな~






「なんだよ関口、これから帰っていろいろやる事あんだよ」






「ああ~まつかわ~あれか~ヒヒヒ、ピー(伏字)な動画見るとか」




「あのな!」







 僕の口から思わず大きな声が出ると他のクラスメートがびっくりしてこちらを振り向いて見ている。これ以上関口に大声で余計なこと言われたら何誤解されるか分からんからな、ちょっとだけ相手してやるか。




「馬鹿いうなよ分かったから、何だよ」






「なあ、松川おまえなんで女と話さないの?  ひょっとして女苦手?」




「なんだよ、いきなり......ね~よそんなこと、ただ面倒なだけだよ」






「そうかあ? でもお前だけだよあれだけ女避けてるのは。いくらなんでもあんな避け方だと返ってハブられていろんな噂立てられるぞ?」






「いいよどうせ俺は……」






 僕はそう言うとうつむいて何も言えなくなってしまった。






 僕は小さい時から女性と関わるのが苦手だった。自分でもその原因はだいたい2つだと分かっている。ひとつ目は 父親と母親の不仲である。






 物心ついた時からほぼ毎日僕の父と母は喧嘩ばかりしてきた。原因は父の酒癖の悪さだ。そのため母の愚痴ばかり聞かされてきた僕は母を気の毒に思うと同時に、自分が選んだ相手じゃないか勝手だな! 僕は二人の間に生まれたくて生まれてきたんじゃないのに。 






 そんな、どうにもならないむかつく感情が頭をもたげて来るのがすごく嫌になってくるし、気の毒な母の立場を考え必死でこの自分勝手な考えを押し殺してきた。1人っ子だから誰にも相談できなかった。






 だから高校生ともなれば自然とみんな誰が気になるだの誰と誰が付き合ってるらしいとか、どっかでデートしたらしいとかの浮いた話がよく出てくるが、僕はとてもそんな事に加わる気分になれなかった。






 このどうしようも無い女性への感情が気持ちの奥底に居座って、誰かと仮に付き合っても楽しくやれるなんて想像できない。それに不細工な僕の相手など誰も相手なんぞしてくれる訳がない......そんな考えがいつのまにか意識にこびり付いて離れなくなってしまった。






 そして、二つ目の理由は子供の時に経験したある出来事が関係していると自分でも思っている。






 僕は小学生のとき図書委員をしていた。図書委員は面倒な雑用係りでありクラスでいじめられていた僕は無理やりその委員をやらされていた。一切の抵抗は許されなかった。






 いじめられていた原因はメガネ。小さい頃から視力が0.01の為度が強いメガネをしてたから付いたあだ名がメガネザル。子供はどこまでも純粋で残酷だ。






 その上家庭での重たい雰囲気が顔に出てしまっていたからなのか目つきが悪い、暗い、睨んでいるみたいとクラスメートによく言われた。 






 そんなせいもあってかクラスメートともあまり話をしなくなり、それが仲間はずれに拍車をかけていく負の連鎖になっていった。






 そしてそんな自分の置かれた状況を担任が助けてくれるはずもなく、その後ある事情から転校を経ても自分自身の置かれた状況に変わりがなかったので、転校先でのポジションも前と同じ図書委員だった。






 図書委員の仕事は放課後クラスの学級文庫を返却しリクエストがあがっている本をクラスに持ってかえるのだが、クラスが4階にあるので本の持ち運びが重たかった。正真正銘のバツゲーム扱いだった。






 そしてそんなバツゲームとしての図書委員をしていた転校前のある冬の日に、僕にとってちょっとした変化があった。




 僕が図書室で本の返却整理をしている時、おそらく1学年下くらいの色白の女の子に声を掛けられた。






「あのさあ~この本どこにおいたらいいの?」






 うわっ!なんだこの女の子は?いきなり話しかけてきて、ちょっと緊張するなでも、教えてあげないと可哀想だな。






「ええと、それは確か人物名鑑の後ろそっちの本は科学図鑑の前だよ」






 3年以上も図書委員をやっていた僕は本の位置を熟知していたので、彼女の持っていた本をすばやく置き直していった。






「すご~い!どうしてそんなに詳しいの~?」




「いや、それは」






 クラスで仲間はずれの罰ゲームの代わりに図書委員3年もやってるとは恥かしくて言えなかった。






 それから僕はどういう訳かその子と一緒に本の整理をすることが多くなっていった。そしてそんな事が何回かあった後ある日、詳細な経緯は忘れたが本の整理をしている時僕はその子に後ろから抱きつかれた。突然の事だった。






 その瞬間何なのか分からなくなって頭の中が真っ白になって、意味が分からなくなった。






 ただ僕が覚えているのはその子が赤い長袖の服にチェックのズボンを履いていた事と、その時顔が紅潮してくるのが分かって、半ば強引に振りほどいて図書室に本をそのままにして出て行ってしまった事だった。






 その事だけならびっくりしただけで済む話だったけど最悪だったのは、僕は慌てていたのでランドセルを学校に置き忘れ帰宅してしまい、帰宅後ランドセルを用務員のおじさんに届けてもらった事と、その翌日その事がどういうわけかクラス中に知れ渡り僕はますます仲間外れにされてしまった事だった。






 彼女の名前は覚えていない、っていうか、聞いてもいないと思う。






 その数週間後、僕は彼女と図書室で会うことが無いまま父親の仕事の関係で隣の県の小学校に転校になった。子供の頃のちょっとした刹那系の思い出のひとつだ。






 まあそんなこともあって小学生の時から今まで女子と話すのは緊張してしまいできなかった。いや1度だけ中学の時女子と話そうと試みたが、緊張しすぎてどもってしまい気持ち悪い扱いされたからそれ以来女子とは会話をしない事にしている。






 変な意識するなと関口を含めて他の男友達には言われるけど、これはもう無意識なんでコントロールできない。そんな事をぼう~と考えていると関口が僕のおでこにデコピンを食らわしてきてふっと我に帰る。






「まあ、お前がそうなら仕方ないけどな。でも俺は少なくともお前の事分かっているつもりだから、何でもってわけじゃねえけど相談してくれよ!じゃあな、おれバス来たから!」






 そう関口が言った時、いつまにか僕たちは校門から出ており、関口は隣町行きのバス停に向かって走り出していた。






「ああ、ありがとな」






 そう関口に小さく言葉を掛け、その言葉が聞こえたかは分からないが関口はバスに乗り込む時、片手を上げてバスに乗り込んでていった。






 僕の名前は松川まつかわ 考基こうき 、近隣の公立高校が全て統廃合により消失してしまったため、交通費がかからない地元の私立高校に進学した。






 僕の近い将来の目標として高校卒業後、大学はなんとか行きたいと思っているけれど、家がそれほど裕福でもないので奨学金を狙わないと相当厳しい、だから選んだ選択肢は帰宅部だった。






 少しでも入試準備に放課後の自由な時間を充てるため部活動などやっている暇はない。






 ただ帰宅部として学校から戻り2階の自分の部屋で1人になっても、学校とは別の意味で騒がしいことには変わりはなかった。






 夜7時ごろに建設会社を経営している僕の父親は現場周りを終わり、いったん自宅に戻ってくる。近所の飲み屋に行く為に服を着替えていると母といつも口論になる。






「この前また、あそこのバーから請求書が来てたけど、どうしてこんな金額になるまで飲み歩く必要があるの?会社のほうもうまくいってないのに」






「うるせえ! 付き合いがあるんだよ!」






 そんな怒号を聞きながら耳栓をして教科書を開く。でも次第に物を投げつける音が聞こえてきたり、怒鳴り声が次第に大きくなってくるとそれも意味が無くなってくる。






 そっと忍び足で下の階にいってみて二人の様子を見てみる。






 眉間付近、両眉4.5度、両方の拳開かれたまま。両目の血管は......それほど太くないか......





大丈夫あの顔つきなら今日は母さんの事殴らないな、そう感覚でわかる。






 僕は小さい頃から父親の顔色ばかり見てすごしてきた習慣と、小学生の時からいじめられてきた経験から人の気持ちの動きが表情、しぐさ、目の動きみたいなところから細かく分かるようになってきた。別に自慢でも誇りでもないけど、なんとなく身についた嫌なスキル。






 親父の表情を注意深く見る、今日は大丈夫みたいだな。




 親父のおでこのしわが深くない事から、母さんを殴らないことがわかると少しだけ安心してホットする。




「しょうがない、いつものところにいくか」






 僕は何時も通り二人に気づかれないように、そっと裏口から家を出て自転車にまたがり近くのファミレスに向かう。






 そしてレストランについた後僕はいつも通りドリンクバーを注文して教科書開いて思う。






 どうしてなんだろうな、家があるのに惨めだ。






 そしてその後思わず独り言になって口に出る。




「帰宅部なのに家にいれないなんて......」






 気持ちが少し痛くなってくるのを思いっきり甘くしたコーヒーを飲んでごまかした。

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