いじわる姉妹にしいたげられた聖女様は、やがて世界を救い幸せになりました
むかしむかし、あるところにとても可愛らしい少女がいました。
少女の名前はティア。
ティアが生まれ育った家庭は、とても貧しい家でした。
それでも両親の愛を目いっぱい受けて、ティアはすくすく元気いっぱいに育ちました。
お母さんは、口ぐせのように、ティアにこんなことを言い聞かせました。
「あなたは、聖女様の血を引いているのよ?」
ティアは、くりっとした目を瞬かせて聞き返します。
「お母さん? 聖女様ってな~に?」
「世界を救った尊いひと。
世界が闇に包まれたときに、神様に祈りをささげて闇をうち払ったんですって」
「すご~い!」
「王子様と聖女様が結ばれて、この国ができたのよ?」
世界を救った聖女と王子様のものがたり。
数多くの絵本も出回っている人気の恋物語。
それはティアも大好きなお話で。
――いずれ幸せになるのよ
それは大切な、お母さんとの約束で。
今のティアの、最後の心のよりどころになっていました。
◇◆◇◆◇
とつぜんの事故で両親を失ったティア。
とおい親戚の貴族に引き取られることになりました。
「みすぼらしい格好ですこと」
「育ちの悪さが体中からしみだしています」
新しい家族はとてもいじわる。
ティアは召使いの格好をさせられ、いつも意地悪な姉妹にこき使われていました。
「ほこりが残っていましてよ」
「やり直しです」
クスクスという笑い声が聞こえます。
ティアは泣きながら屋敷を掃除していますが、手伝うものは誰もいません。
使用人の間でも、ティアのことは苛めて良いという暗黙の了解があるのです。
ここにティアの味方はいませんでした。
そんなティアの心を守ったのは、今は亡きお母さんとの思い出だけ。
形見の絵本は、いじわる姉妹にビリビリに破られてしまいましたが。
聖女様と王子のお話は、たしかにティアの心の中に残り続けていたのでした。
◇◆◇◆◇
朝が来なくなりました。
この世界から、太陽が失われ永遠につづく夜が来たのです。
「天罰だ!」
「神よ、我らを許したまえ」
永遠に続く夜。
パニックは屋敷の中までも伝わってきました。
お母さんとの思い出がよみがえります。
闇をうち払った聖女のおはなし。
「あなたは、聖女様の血を引いているのよ?」
みんなが困っています。
ここには嫌な人しかいないけど。
亡きお母さんの願いを叶えるために。
ティアは祈りを捧げます。
すると、どうしたことでしょう。
ティアを中心に光の柱が生まれました。
「いにしえの約束を果たそう。
今こそ再び、世界に光をもたらそう」
光の中心から出てきたのは、神々しい天使様。
幻想的な光景にぽかんと口を空けるティア。
こうして、世界に光が戻ってきて。
聖女によって、再び世界は救われたのでした。
◇◆◇◆◇
「王子様が来たよ」
召使いとしてこき使われている私は、お屋敷中のパニックに気が付きませんでした。
家の恥とまで言われて、倉庫に押し込められたティア。
ものがたりでは王子に見初められてしあわせになった聖女様。
ティアは部屋の倉庫でひとりぼっち。
「我が家の品位が疑われるので。
合図をするまで出てこないでくださいね」
「ドブネズミにはお似合いですわ」
そう言い残すいじわる姉妹は、いつになく気合の入ったドレスを着ています。
屋敷では家をあげて、王子の歓迎パーティー。
「いけません王子」
「そちらには……」
ざわざわ、という声が聞こえます。
そして次の瞬間――
「やっと見つけた!」
王子様は服が汚れるのも気にせず、倉庫を開け放ち中に飛び込んだのでした。
何を隠そう王子様は、闇を払った聖女様を探していたのでした。
「聖女様、ぜひ僕と結婚してください」
ほこりまみれのティアに、王子様はひざまずいてプロポーズ。
あぜんとする屋敷の人々などまるで視界に入っていないよう。
――思い出したのはお母さんとの約束
聖女として闇を払って。
王子様と結ばれる。
「よろこんで」
ティアは差し出された手を取りました。
それはおとぎ話の再現。
――お母さん、つらかったときもあったけど
――わたし、幸せになれたよ
◇◆◇◆◇
ティアはいまでは、この国のおひめさま。
国中の人々が、ティアと王子様の結婚を歓迎しています。
聖女様と王子様の恋物語。
まるでおとぎ話の再来。
今、ティアは世界中の憧れの的ともいえる存在になっていました。
めでたしめでたし
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