向日葵
夏の日差しが容赦無くノースリーブで露出した素肌を焦がす。
ちょっとした外出のつもりで日焼け止めを塗ってこなかったことを後悔した。
麦わら帽子を目深にかぶって、田舎の舗装されていない道をサンダルで歩く。
高校を卒業して都会の大学に行ってから、実家に帰ってくるのは夏休みと冬休みだけになった。
それも来年就職したらもっと短くなるだろう。
そう思うと無性に、昔友達と遊んだ公園まで行ってみたくなったのだ。
その公園は子供の足で30分くらい歩いた山の麓にある。
遊具といっても古いブランコに滑り台、そしてジャングルジムがあるくらいだけど、夏になると公園を取り囲むように向日葵が一面に黄色い花を咲かせた。
サキちゃん、リンちゃんと私はいつもその公園で日が暮れるまで一緒に遊んだことを思い出す。
いつも一緒だった。
小学生の頃は30分かけて歩いた道も、大人だと10分程度でたどり着く。
子供の背丈ほどに伸びた向日葵畑の中の細い道を10メートルほど私は歩き、視界が開けて公園が姿を現す。
遊具はすでに撤去されていて、ただ樹脂製のベンチだけがそこが公園であった名残をとどめている。
ところどころ雑草が生えているけど、少し赤みを帯びた土の部分と砂場は私たちが遊んだ頃と変わっていない。
私はベンチの上にハンカチを敷いて腰掛け、足を投げ出してぼんやりと周りを見渡す。
懐かしい景色だった。
今にも向日葵の中から3人が顔をだしそうな、そんな気がした。
もう一度会いたいな・・・・。
サキちゃんは小学3年の時に、リンちゃんは小学校5年の時に神隠しにあった。
私が子供の頃、神隠しは珍しいことではなかった。
数年に1回、村の子供が山で行方不明になっていた。
その都度警察や自警団が山に捜索にはいるけど、見つかることはほとんどなかった。
それでも村人たちがこの村から出て行くことはなかった。
たとえ出て行っても、亡くなるとこの村に戻ってきて墓地へと土葬される。
土地というものは人間を自分たちの所有物として育み、そして死ぬと養分として吸収していく。
一種の食物連鎖がなりたっているのだろう。
神隠しすらその一環として諦めている・・・、そんな雰囲気が村にはあったのだ。
今では住む人が少なくなったため神隠しが起きたという話も聞かない。
私は高校生になり、都市部の学校に入学するためこの村を出ていった。
ヒマリちゃんは・・・・・。
そうだ、なぜ忘れてたんだろう。
私たちはいつも4人で遊んでいたんだ。
ヒマリちゃんはいったいいついなくなったんだろうか。
風が吹き、向日葵がまるで私の心の声に反応したように前後左右に揺れた。
「私はここだよ・・・・。」
「ユキちゃんもおいでよ・・・・。」
サキちゃんとリンちゃんの声がしたように聞こえた。
そろそろ帰ろう・・・。
私はベンチから立ち上がってスカートを軽くはたいた。
帰り道を探すが、通ってきたはずの道が消えている。
360度、向日葵が埋め尽くしていて、その向日葵たちはすべて私の方に花を向けていた。
まるで太陽を追いかけるように。
夏の暑い日なのに、私の背中に冷たい感触が走る。
早くこの場を立ち去りたい。
そう思って、私は向日葵畑に分け入る。
子供の背丈ほどだったはずの向日葵はいつの間にか私の背丈より遥かに高くなり、視界を奪う。
ずいぶん歩いたはずだけど、いつまでたっても公園の外にたどり着かない。
そのうちにひまわりの葉が私の手足に絡まり付き、身動きがとれなくなる。
「ユキちゃん・・・・、あそぼ。」
目の前に人の顔ほどあるひまわりの花が私の顔を覗き込んでいた。
見つめていると向日葵の花がだんだんと人間の顔に見えてくる。
ヒマリちゃんだ・・・・。
ヒマリちゃんの口は大きく開いた。
タネのような歯が無数に生えている。
その口はだんだんと私に近づき・・・、私の頭を飲み込んだ。
気がつくと私は仰向けに倒れていた。
太陽はすでに西の山に沈みかけて、空には星が瞬き始めている。
熱中症にでもなったのだろうか。ずいぶん長い間意識を失っていたようだ。
私は起き上がって家路に向かう。
向日葵はいつも通りの子供の背丈ほどの高さで、公園の外に向かって道が伸びていた。
リアルな夢だったな。
日が落ちた頃、家にたどり着く。
家の前には警察の車が止まっていて、人が集まっている様子がある。
ひょっとして私の帰りが遅いからと心配して警察を呼んだの?
恥ずかしく気まずい思いのまま家の門をくぐり玄関で母を呼ぶ。
「ただいま。遅くなってごめんなさい。」
返事はない。
私は家の中へと入って行く。
応接間には泣き崩れている母とそれを支える父。
二人の警察官が向かい合わせに座っている。
警察官が父と母とに言った。
「熊の仕業じゃないかということで地元の猟友会の方々が山狩りに入りました。娘さんの遺体は市民病院で司法解剖されますので・・・。」
「私はここにいるよ。」
叫んでも誰も振り向いてくれない。
居間には布団が敷かれており、そこに誰かが寝ている。
私は恐怖の予感を感じながら布団をそっと覗き込んだ。
その身体は多分私だと思う。
白いノースリーブのシャツは血に染まり赤くなっていたけど。
でも、本当に私かどうかはわからない。
だって、首から上は何もないんだから。
誰かが私の両手を背後から引っ張る。
振り返るとそこには昔のままのサキちゃんとリンちゃんがいた。
「ユキちゃん、行こうよ。ヒマリちゃんが待ってるよ。」
私は無言で頷き、二人についていく。
私は二度とこの村を離れることはなくなった。
私の頭部はすでにこの土地の養分となったし、残った胴体も間も無く土に埋められ養分となる。
来年の夏、公園に大人の背丈くらいの向日葵が咲いていたら話しかけてください。
それはきっと私です。
子供ばかりで寂しいので、あなたも一緒にいてくれたら嬉しいな。
久しぶりにまともにホラーを描いてみました。
ホラーの小道具は夜の闇で
「灯りの無い、漆黒の闇の中を私は懐中電灯の灯だけを頼りにひとり歩いていた・・・。」
とかすると、ほっといても雰囲気が盛り上がります。
私のホラーもだいたいそんなもんで、駄作が少しでもマシに見える、うどんに七味、ラーメンにコショウ、ホラーに闇といったところです。
それをあえて夏の昼間で、かつ英語名サンフラワーというくらい明るい代名詞のヒマワリをテーマに怖い話が書けるかなと思ってチャレンジしてみたんですが、いかがでしたでしょうか。




