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非人遣い  作者: 一姫
3/6

市場と役所

家から数キロ離れた場所まで来ると、市場が見えた。

所謂露店街のような場所である市内ど真ん中の大きくて広い道。

ここに店を構え、3ヶ月もった店は数代後まで続くと語り継がれているほどに歴史のある露店街だ。





最近では変装した王族やその側近達も何かしらを買いに来るという程。

一体天下の王や王の側近たちがこんな市場から何を買うのかと思いきや、買っていったと噂のものはみな食べ物ばかり。


(なんだ?王家は飢えでも感じているのか?)

 

そう碧が思うのも無理はないだろう。

露店街で食べものばかり買っていく王族など聞いたことも無い。

側近程度の人間であれば無論、露店街の食べ物が食べたくなる場合もあるだろうが、王族がこんな場所に売っている安っぽい食べ物をわざわざ金をはたいてまで買うかという事だ。

碧にとって金持ちとはそんな場所で買って食うなんてもってのほかだと言わんばかりの態度と目付きをもつ人間のことを指す。

だからこそ王族の人間が露店街で食うものを買って己の胃袋に納めるなど、嘘だろうと思っていた。

とはいえ碧に直接関係のあることでもないので一切気にもしていない。

まぁせいぜい好きなものを食えるそんな贅沢を身をもって知ってもらいてえなと思うだけであった。

 

(でも確かに)

 

露店街に並ぶ食べ物は以前に比べて質が良くなっているようにも見える。

王族や武官、側近などが買いに来るからなのか、見た目も匂いもかなりいい。

それどころか、碧の手まで伸びそうになるのをなんとか抑えるのが大変だった。







長々と歩き、露店の飯のいい匂いを嗅ぎすぎたようだ。

ぐぅ、と腹の虫が鳴き始めた。

 

『碧、どこかで何か食べたらどう?空腹のままだと大変なことになるわよ。』


パリエはおもむろに己のドレスからかなり小さい懐中時計を取り出して碧に見せる。

時計の針が小さく進んでいることを確認してしまった。

 

(なんてこった…今日は金なんて持ち合わせてないんだよなぁ)

 

『あら何よ碧。お金もってきていなかったの?』

 






パリエたち、綿色妖精パステルフェアリーとの会話方法はいくらかある。

一つは人間との会話同様、口を吐いて出た言葉と言葉の交わし合いの会話。

そして視線での会話。

目配せと言うに近い。

そして最後に、思考の交換だ。

市場や人の多いところではこの思考の交換が一番役に立つ。

思考の交換と視線での会話を組み合わせれば普通の会話と何ら変わらない。

ただ、弊害もあるのはある。

碧は一応人間のため、自分から思考の交換をもちかけることは出来ない。

思考の交換をするには綿色妖精パステルフェアリーたちの率先的な意思が必要不可欠なのだ。

とりあえず急いで腹ごしらえをしなければ、パリエの言う通り大変なことになる。

とはいえ所持金なんぞ持ち合わせていない今の碧。

何かを得るにはその対価を支払わねばならないのがこの世の中の摂理というものだ。

 

(先に市役所に寄ってから考えるか)

 

それくらいの時間はもつだろう。

持ってくれなければ困るなぁ、なんて大して危機感を感じてはいないような様子の碧とは裏返しに、パリエは焦りを見せる。

そわそわしたり、羽を素早く動かしたりして、焦りを強調する。

 

『碧…あなた間に合わなくても知らないわよ!?』

 

(パリエ心配し過ぎだよ。それに焦っても食べるものが出てくる訳でもないんだから…)

 







ようやく着いたと見上げる市役所はかなりの大きさ。

王宮とは別に構えられているこの市役所内の手紙受付の人間に文を手渡しすると、見慣れたゴリゴリの男から「またお前か」とでも言いたげな顔を向けられる始末。

こちらとしてもこんなに頻繁にここに来ることは避けたいのだが、どうにもこうにも、この手紙の送り主…あおね、と読むのだろう、この男が碧へ勧誘文書ラブレターを送ることを辞めないことが原因で、二週に一度このようにわざわざ遠い道を歩いてこねばならない羽目になっている。

いつもならば碧の名を確認すると帰らせてくれるのだが、どうやら今日は違うようだ。

 

(何だ?)

 

己のことになると鈍いと言われる碧でもさすがにこの空気感はわかる。

手紙受付の人間のすぐ傍にやってきた、役職を持っていそうな官僚、碧のことをじぃっと見つめる。

見た目的に褒められることは多々ある碧だが、このように見つめられることは無い。

しかもただ見つめられているだけではなく、明らかになにか探られているような目付きだ。

 

(官僚に目をつけられるようなことはしていないつもりだけど)

 

しかも受付の男もなかなか帰っていいとの許可を出してくれない。

この場は、彼の許可がなければ帰ることが出来ないのだ。

特に身元がはっきりしているかどうかもわからない賤民相手には。

ぐぅぅ、とまた腹の虫が鳴く。

これはそろそろまずいかもしれない、と思っても相手には関係の無いことだ。

例え碧の腹が極限に減ってしまい、飢えで死にそうになっていたとしても関係ないと言うだろう。

極限に腹を空かした碧がどのようになってしまうかを知らないからこそ。

まさに知らぬが仏というものだ。

 

(これは本当にまずい…なにか一口でも食わんと)


『碧、もう時間が…』

 

そんなことはわかっているというのに、何せこの男どもが帰してくれない。

何としてでもこの場を離れたい一心ではあるが、頭をはたらかせて余計空腹になる訳にも行かなかった。






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