フィリップ島沖海戦
今月2話目となります。
瞬く間に広がっているオミクロン株ですが、どうか皆さん、感染しないようにご注意ください。
ワスパニート王国海軍所属フリゲート『ユキカゼ』は、この船に搭載されているわずかな戦力で、日本から見れば旧態然とした駆逐艦とはいえ、3隻もの敵を相手にしなければならなくなった。
向こうの方が領海を侵犯しているのだから、沿岸警備や哨戒を任務とする『ハルサメ』級フリゲートは、全力を以て敵を拿捕しなければならない。
既に敵は発砲を開始しており、『ユキカゼ』の周辺に多数の水柱が上がる。
だが、蟻皇国海軍の駆逐艦乗りの練度の低さなのか、元々偵察を目的としていたために戦闘を想定していなかったからなのか、その砲弾はまるで『ユキカゼ』には当たる様子がない。
「かなり散布界が荒いな……まずは一番大きな船を仕留める‼ 主砲、弾種両用弾用意‼」
「両用弾? 対艦用のHEAT弾でなくてよろしいのですか?」
「相手は多少覆いがあるとはいえ、『露天に近い』状態の艦橋だ。砲弾の炸裂による爆風と砲弾の破片が飛び込むだけでも、大きな打撃になるはずだ」
説明を受け、砲術長がパネルを操作して『両用弾』を選ぶ。ちなみに、この文字は中国語である。
ワスパニート王国と蟻皇国は、公用語(この場合は書き記す言語)が中国語だったので、このような措置になった。
「了解。弾種両用弾、装填完了‼」
「落ち着いて狙え……」
やがて、『ユキカゼ』に搭載されたFCSが相手の駆逐艦を捉えた。
「撃ち方始めぇ‼」
「てぇっ‼」
――ドォンッ‼
52口径105mm単装砲から発射された近接信管搭載の砲弾は、寸分違わず蟻皇国駆逐艦の艦橋に向かって飛翔していった。
一方、蟻皇国海軍所属駆逐艦『満了』でも、発砲煙を確認していた。
「敵艦発砲‼」
「バカめ。我々ですら当てられぬのに、ワスパニートごときが当てられるか」
艦長の甲沃伸大尉は鼻で笑った。自分たちが満足に当てられないのだから、相手も当てられるはずがないだろうと高を括り、回避運動すら取らせなかった。
先ほど警告射撃で命中弾が出たにもかかわらず、である。
正確には、先ほどの砲弾がペイント弾だったことが災いして、命中の際に水音しか発生しなかったものだから、蟻皇国側は『命中していない』と勘違いしてしまったのだ。
故に、その直後だった。
――ガァンッ‼
先ほどミルモス自身が述べたように、この駆逐艦の艦橋は薄いとはいえ露天艦橋ではなく屋根や壁がついている。そのため、近接信管を用いた砲弾の破裂にも、ある程度は対処できていた。
そう。『ある程度は』という条件が付くのだが。
この駆逐艦の艦橋には窓がない。故に、至近距離で破裂した砲弾の破片と爆風は勢いよく艦橋に飛び込んできた。
艦長の甲沃伸以下、艦橋に立っていた8名の人間は砲弾の破片と爆風により、一瞬で意識を『永遠に』刈り取られたのだった。
「敵艦の艦橋に命中‼」
「「オォォ‼」」
初弾からあっさりと命中したことと、敵艦がフラフラと蛇行し始めたのを見て、『ユキカゼ』の艦橋では歓声が上がった。
ミルモスも唖然としている。
「なるほど……この命中率と威力と砲弾の性能……これまでとは戦いの次元が大きく違うとはよく言ったものだ……日本の兵器、これが日本本土に配備されているものならば、どれほどの性能か……」
「敵艦、再度発砲‼」
感嘆の熟考は、見張り員の絶叫によって強制的に中断された。
だが、再び水柱は船から40mほど離れたところで上がった。
「こちらの兵器と違って主砲に人が付いているから艦橋に打撃を受けても発砲は可能か……敵の主砲を黙らせることはできるか?」
砲術長が振り向いて渋い顔をする。
「この船の主砲でも、ちょっと難しいかもしれません。ただ、『やってやれなくはない』と思います」
砲術長の言葉を受けて、ミルモスは再び考える。
「……では、機関を停止させるのは?」
「そちらの方が簡単ですね。HEAT弾を艦の中央からやや後方に撃ち込めば、それだけで機関員は吹き飛ばされるでしょうし、主機関も多くが破壊されるでしょう」
ミルモスが再々度思考の海に身を預け、10秒。
「よし。敵艦の主機関を破壊した後、速力が落ちたところで主砲にも撃ち込め。速度が落ちれば命中率は大幅に上がるだろう」
ミルモスの決定に異論はないようで、ケリャーノもまた頷いた。
「それでよろしいかと思います」
「主砲、弾種対艦弾‼敵艦後方、主機関を狙え‼」
「了解‼」
艦首に備え付けられた主砲塔が旋回し、『満了』の後部、煙突の近くを狙う。
「それにしても、敵もやりますな」
「恐らく、艦橋がやられたので各砲術員の判断で撃っているのだろうが、艦橋が統制や観測をしていないせいで、先ほどよりさらに散布界が荒くなっているように感じられる」
実際、旗艦の統率を失ったせいか、他の2隻からの砲撃も散発的になっていた。恐らく、格下だと思っていた相手から思わぬ大きな一撃を受けたことによって、大幅に士気が下がってしまったのだろう。
「というか、駆逐艦の主砲とはいえ、この距離で当てられないというのは……」
「先ほどの考え通り、戦闘を想定していなかったからなのか、戦闘訓練もろくにしていない新兵の訓練を兼ねていたのか……まぁ、臨検すればわかるだろう」
「発射準備よし‼」
「撃てぇっ‼」
――ドォンッ‼
『ユキカゼ』の主砲から放たれた105mm砲弾は、またも寸分違わず敵艦の後方、狙っていた部分に命中した。
その直後、敵駆逐艦から小さな爆炎が『ボッ!』と上がったと思うと、瞬く間に速力が下がっていく。
「敵艦の機関部に命中した模様! 速力落ちています‼」
「畳みかけるぞ! 主砲、再度対艦弾‼ 敵前部主砲を狙え‼」
「はっ‼」
だが、自動装填装置による装填中、『ユキカゼ』の左舷わずか2mに大きな水柱が上がった。
――ボオオォォンッ‼
「うおおぉぉっ‼」
副長のケリャーノが絶叫にその場の全員が反対を向くと、別の駆逐艦が距離を詰めて砲撃を仕掛けてきていた。
「しまった! 旗艦に集中しすぎた‼」
敵は『ユキカゼ』が旗艦に夢中になっている間に接近し、至近弾を出したようである。
当たらなかったのは奇跡、とまでは言わないが、それでもかなり運がよかった。艦橋に立っている者たちの背中に、嫌な冷や汗がツツッ、と流れたのは言うまでもない。
と、細かいなにかが命中する金属音が響いてきた。
「敵艦、機銃を発砲‼」
「こちらの気を旗艦から逸らす気だな……ケリャーノ、どうするべきだと思う?」
幸い、この『あそ』級フリゲートは巡視船時代に比べれば大幅に装甲を強化されているため、機関銃程度であれば難なく受けられる。
それでも、艦内に響く金属音はかなり耳障りだというほかない。
ケリャーノはガキンガキンと耳ざわりな音が響く中、素早く思考をまとめた。
「幸い、敵旗艦の指揮能力と航行能力は大幅に損なわれています。ならば、他の艦に多少は目を移しても問題ないかと愚考します。まずは、敵艦全てを停止とまではいかずとも、この海域にとどめるべきかと」
先ほどから15ノット近くの速度で航行を続けているため、このままではそれほど時間が経たない内に蟻皇国側の領海に入ってしまう。
そうなってはこちらも見逃すしかなく、あとは外交的な話し合いで解決することになるのだろうが、あの傲慢な蟻皇国が音声などを突きつけたとしても、『知らぬ存ぜぬ』を貫き通すであろうことは目に見えている。
それどこころか、そのことを逆に利用してこちらに大軍を以て攻めかかりかねない危うさすら持っているのだから恐ろしい。
なので、確実に拿捕する必要があるのだ。
「よし。その挑発、あえて乗ろう! 目標を先ほど発砲してきた艦に変更せよ! 射撃準備完了し次第撃て‼」
「了解‼」
主砲が先ほどとは反対の方へ向くと、敢えて『ユキカゼ』は速度を少し落とした。揺れを少なくして、少しでも命中率を高めるためである。
また、確実に損害を与えるために今度は最初から対艦弾で発射する。
「弾種、対艦弾! 目標、敵艦艦橋部。照準よし‼」
「撃てぇっ‼」
――ドォンッ‼
『ユキカゼ』の発射した対艦弾は艦橋下部に命中し、内部で猛烈な爆発が見えた。
恐らく、HEAT弾のノイマン効果によるメタルジェットの噴射であろう。
「中の人間がどうなったか、想像したくはありませんな」
「全くだ。恐らくズタズタだろう」
理論上、蟻皇国はもちろん、イエティスク帝国が保有している超巨大な戦艦の装甲すらも撃ち抜けるという原理の砲弾では、駆逐艦相手にははっきり言ってオーバーキルである。
にもかかわらず配備されているのは、『万が一戦艦と出くわしてもいいように』という日本の配慮である。
配慮しすぎてむしろ危険な方向なのも間違いないのだが。
「続いて機関部を狙え‼」
「はい! 目標、機関部‼ 再度対艦弾‼」
――ギュウウンッ、ガキッ
主砲塔が重厚な音を立てて、しかし素早く狙いを変更する。
「装填よし! 照準よし‼」
「撃てぇっ‼」
――ドォンッ‼
敵駆逐艦の煙突の下から、またも派手な爆炎が上った。
「敵艦に命中を確認! 速度低下‼」
「よし、残りの1隻も確実に……」
だがその直後、強烈な振動が船体を襲った。
「どうしたっ‼」
『船体中央部に被弾‼』
見れば、最後の1隻の後部主砲から煙が上がっている。あれが命中したらしい。
「被害報告‼」
『誘導弾設置予定装甲に被弾‼ 擦過痕のみ‼』
艦橋にホッ、という息が漏れた。
「危なかったな……」
「えぇ。本艦で『数少ない』本格的な装甲が施されている個所で助かりました」
先述した通り、この船には砲塔を除くとほとんど装甲化されている箇所がない。
だが、対地・対艦誘導弾である『ASGM―1』を設置するまで、その部分をあまり無防備にするのはいかがなものかという意見が防衛装備庁で出たのだ。
そこで、苦肉の策というわけではないが、『ハルサメ』級フリゲートは『10式戦車』や『16式機動戦闘車』に用いられているモジュラー装甲の原理を応用し、10式戦車と同等(つまり最低でも120mm戦車砲に耐えられるくらい)の装備型装甲を施してもらったのだ。
これがあれば、この装甲箇所と砲塔限定ではあるが、旧時代的な10.5cm砲くらいの攻撃には耐えられる想定だ。
なお、『解析されたら厄介なのでは?』という声も上がったには上がったが、『まず解析は無理』と防衛装備庁及び有識者の見解と、同盟国への安全を配慮した結果、装備されることになったのだ。
「全く、日本国という国はどこまで様々なことを想定しているのか……我々では想像もつかないな」
「ですが、おかげで本艦は未だにほぼ無傷です」
「うむ。主砲発射準備は?」
「装填完了。既に敵艦艦橋に照準を定めています」
「よし、撃てっ!」
「てぇっ‼」
――ドォンッ‼
またも砲弾は吸い込まれるように敵駆逐艦の艦橋に飛び、命中と同時に爆炎を上げた。
「命中‼」
「敵艦再度発砲‼ 直撃弾の可能性大‼」
「総員衝撃に……」
だが、残念なことに敵との距離は既に3kmを切っていた。当然ながら、そのセリフから1秒と経たずに砲弾は艦首部分に命中した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
航海士の女性が悲鳴を上げるが、ミルモスはなんとかその場で踏みとどまった。
「被害……は、ないな」
見れば、主砲塔に焦げ跡が見られたが、日本製の頑強な装甲を施されたことで砲身も砲塔も無事に見えた。
「主砲制御システム、装填装置、共に異常なし‼」
「主砲、発射可能です‼」
再度の命中弾にヒヤッとさせられた艦橋の面々だったが、またもかすり傷で済んだことにホッとしていた。
「敵機関部に照準‼ 定まり次第撃て‼」
「了解‼」
数秒後、画面に『LOOK ON』の表示が出る。
「撃て‼」
「てぇっ‼」
『ユキカゼ』から放たれた最後の砲弾が命中した駆逐艦は、機関部から大きな煙を上げて減速していった。
『ボボボ……』という音を立てながら炎上する敵艦3隻は次第に速度を落とし、遂に停止する。近づくとさらに1隻につき3発の砲弾を叩きこむことで砲塔を無力化した。
これで、敵艦は経戦能力をほぼ完全に喪失することになった。
「艦長、友軍艦から通信です‼ 『まもなくそちらへ到着する。相手艦船を……』」
と、そこへ3隻のタグボートと『ユキカゼ』の姉妹艦である『ムラサメ』が近づいてきた。海軍が曳航用にタグボートを要請してくれたらしい。
ケリャーノは『ほぅ』とため息をついて肩の力を抜いた。
「いやはや。一時はどうなるかと思いました」
「そうか? 私は『ユキカゼ』を信じてたぞ」
「はっはっは。艦長は『ユキカゼ』の話を聞いてから、すっかりユキカゼが大好きになりましたなぁ」
ミルモスが少し前に『ユキカゼ』の艦長に就任した際、日本の自衛隊員から聞かされた話のことであった。
『陽炎型駆逐艦・雪風』は、幸運艦である、と。
太平洋戦争という、世界のほぼ全てを敵に回した大規模な戦争を経験する中で、様々な激戦を潜り抜けながらも終戦まで生き延び、さらには戦後に引き渡された国でも幸運を発揮して現役を全うした船がいた、という話を聞き、ミルモスはとても感動したのだ。
彼女に言わせれば、軍人だろうと民間人だろうと、命をみだりに捨てることは悪、という考えが根付いている。
ニュートリーヌ皇国の兵士たちとは違うが、『生きる意志はなによりも強く、生きることを諦めなければいつかはいいことが起きる』という、ワスパニート王国の古くからの教えなのである。
「そうだな。私は『彼女』にこの名前をつけてもらったことを、とても誇らしく思うよ」
「そうですな」
こうして、ワスパニート王国海軍所属フリゲート・『ユキカゼ』は初陣を勝利で飾り、偶発的武力衝突である『フィリップ島沖海戦』を、駆逐艦3隻相手にフリゲート1隻で制するという大戦果を挙げたのだった。
もっとも、『あそ』型巡視船を参考にした『ハルサメ』級フリゲートが1800tなのに対し、相手駆逐艦は全て1千t前後と大きく排水量に差があったことはツッコんじゃいけないお約束。
こうして、蟻皇国籍の駆逐艦3隻はワスパニート王国海軍所属フリゲートに攻撃を仕掛けたため、正当防衛の反撃を受けた末に拿捕された。
――2031年 12月17日 日本国 東京都 首相官邸
この日、首相官邸では緊急会議が開かれていた。
議題は当然、『ワスパニート王国と蟻皇国の偶発的衝突』についてである。
首相は資料を読むと、『ハァ……』とこめかみを押さえながらため息を吐いた。
「これ、完全に蟻皇国側に非があるじゃないか。向こうは認めそうなのか?」
首相に話を振られた外務相は首を横に振る。
「皇国とはまだ外交チャンネルが開けていないので、ワスパニート及びシンドヴァンを通じての回答になりますが……正直、芳しくはないようですね」
蟻皇国が先史人類の遺跡を掘り起こして解析を続けている覇権国家だという話は聞いているが、イエティスク帝国を上回るまではあまり目立った行動はとらないだろうというのが防衛省の見解だった。
しかし、今回偶発的とはいえ、戦闘が発生してしまったことによりその関係が大きく変わる可能性が出てしまった。
「防衛相、もし万が一ワスパニート王国と蟻皇国が戦争になったとして、ワスパニート王国は勝てるか?」
一方、振られた防衛相も難しい顔を崩さない。
「防衛に徹していたとしても、まず無理ではないかと考えられます。兵器単体での性能はある程度王国側が勝っていますが、蟻皇国には海軍に弩級戦艦や空母という存在に加えて、圧倒的な頭数があります。そもそも、陸軍の大部隊で地続きの首都まで押し込まれたらその時点でほぼ終わりです」
蟻皇国が今に至るまで格下だったはずのワスパニート王国に攻め入らなかったのは、イエティスク帝国が背後に控えていたからである。
イエティスク帝国も皇国同様に世界征服を狙っているが、かの帝国は現在制圧したシベリア方面の東側を整備するのに手一杯らしい。
なので、今は積極的に皇国に対しては仕掛けてこないだろうと考えられている。
「陸上戦力では、蟻皇国が『38(t)』と『Ⅱ号戦車』に酷似した軽戦車を保有しており、ワスパニート王国は『Ⅲ号戦車』モドキと『Ⅲ号突撃砲』モドキです。性能面、そして迎撃という点では歩兵と連携することで間違いなくワスパニート王国が有利になります」
ワスパニートが現在配備している『Ⅲ突』モドキは戦車アニメでも語られている通り、元々待ち伏せなどの防衛戦で力を発揮する車両である。
しかも、砲の口径が76.2mmの対戦車砲なので、紙装甲の軽戦車程度ならば一撃で撃ち抜ける。
「ですが、配備数はまだ少なく、防衛側の方が若干有利ということを差し引いても、圧倒的な数で押し切られてしまうでしょう」
「戦闘機の上空支援があればどうだ? 戦車は基本的に航空戦力には無力だろう?」
戦車は正面からの攻撃にはめっぽう強い(え、チハ? あれは歩兵支援の戦車だからそもそも比較にならない)が、側面、背面、そして上面はどうしても弱いのである。
これは第二次世界大戦時から変わらない話で、大戦時のドイツではかの『シュトゥーカ大佐』ことハンス・ウルリッヒ・ルーデルが1t爆弾を積んだ急降下爆撃やポン付けした37mm対戦車砲でバカスカとソ連戦車(及び装甲車や歩兵や大砲やら軍艦やら)を血祭りにあげたことは有名であり、そんな彼の考えを取り入れて冷戦期にアメリカで開発されたのが、『戦車破壊王』と名高い『Aー10』サンダーボルトである。
攻撃ヘリの対戦車誘導弾にとってかわられるかと思われたが、湾岸戦争の際に砂漠という過酷な環境下で不調が発生し稼働率が低くなっていた『AH―64』を尻目に、『Aー10』が鬼神の如き暴れっぷりを披露したのはその世代で軍事に詳しい方ならばご存じだろう。
何よりすごいのは主砲の『AGUー8』アヴェンジャーは劣化ウラン弾を用いることで戦車を地面ごと耕すことができるほどの威力、と言われている。
実際、『Aー10がどうしたゴラァ!』と出ていった『Tー72』戦車が、その僅か5分後に穴だらけになって見つかったという話もあるのだ。
日本ではその性能を参考に『Aー1』飛竜に搭載するガトリング砲『信長』を製造したわけだ。
「確かに『ヒルンドー』型戦闘機の爆弾でも、軽戦車を戦闘不能にするには十分すぎるでしょう。しかし、敵も航空機を持っています。艦載機の性能は『フェアリーソードフィッシュ』程度なので、同じ複葉機で低速・低高度でも戦闘力を発揮できる『ヒルンドー』なら余裕で勝てるでしょう。しかし、やはり数が多すぎます。日本から旧式の地対空誘導弾(ホーク改良型や81式短SAMなど)を輸出したとしても、足りるかどうか不明です」
「そんなに敵は多いのか?」
「人口2億を超えますからね……しかも覇権国家ということを考えれば、かなり兵数は多いと考えるべきでしょう。質より量を重視していることを考えれば、現在のグランドラゴ王国やアヌビシャス神王国が加勢したとしても戦況は厳しいかもしれませんね」
兵器の性能差が近い場合、数の差というのは大きな暴力となる。これは古今東西、変わらない事実だ。
ただし、日中戦争中の我が国や、ベトナム戦争の際のアメリカ、アフガニスタン侵攻の際のソビエトのように圧倒的に装備と数で劣るはずの相手に勝てないという話もある(この場合はゲリラ戦に徹された、質を大幅に上回る量を用意されたなどがある)ため、一概に言えないのも事実ではあった。
「なるほど……では、海軍の場合は?」
「これも非常に難しいですね。相手には弩級戦艦があります。一方ワスパニート王国には射程40kmの対艦・対地誘導弾を8発搭載した『ピストリークス』級巡洋艦が2隻、それ以外はノックダウン生産された1800tの『ハルサメ』級フリゲートが今のところ十数隻のみです」
「蟻皇国は弩級戦艦以外にどんな船を持っている?」
「推定でも前弩級戦艦を十数隻、1万t弱の巡洋艦と、4千t弱の小型巡洋艦を合計30隻以上、さらに1千t前後の駆逐艦を100隻近く、そして空母も多数保有しているそうです」
「なんだそれは。まるで勝負にならないじゃないか」
ちょっとした性能の優劣など意味をなさない、赤子と大人のケンカ並みに差があるのだ。
「はい。先ほど申し上げた通り、グランドラゴ王国は『ダイヤモンド』級戦艦が加わってようやく敵艦隊を倒せるであろう規模、アヌビシャス神王国では最近配備が始まった『バーラエナ』級航空母艦を4隻(どれも日本の古い貨物船を改造したもの)保有していますが、これのうち2隻を投入しても厳しいのではないかと」
「なんてことだ……これは、我が国が出なければ時間はかかるが滅ぼされてしまうな」
「はい。既にワスパニート王国からも『緊急事態が発生する可能性がある』と通達が来ています。しかし、自衛隊で動かせる戦力は……」
「厳しいか」
「はい。『今の時点では』厳しいと言わざるを得ません」
「うむ。ならば、外交官を派遣して時間稼ぎをしてもらう必要があるかもしれんな。外務相、その辺りの人選を任せていいか?」
「かしこまりました」
さて、ワスパニート王国と蟻皇国はどうなってしまうのか……
フィリップ島沖海戦はワスパニート王国側の大勝利に終わりました。
艦これなら『S判定』が付くくらいの圧勝です。
ただ、これは艦の性能もさることながら、運も大きく作用しました。
そんな局地戦での運をつかみ取った王国は、この後どうなるのか……次回は2月の12日か13日に投稿しようと思います。




