『詰め』に向けて
今月1話目となります。
いよいよ追い詰められていくバルバラッサ帝国と、追い詰める方策を話し合う各国です。
――世界暦380年 12月10日 バルバラッサ帝国 首都バルバロニア
バルバラッサ21世は、派遣した部隊がほうほうの体で戻ってきたことに仰天していた。
事情を聴きたくても、残念なことに陸将軍ゲルニアが戦死したのみならず、多くの兵士が恐怖にさいなまれていて、全く事情聴取できなかったのだ。
どの兵士も『空から……空から光が……』だの、『ギガンテス・ドラゴンが……一撃で……』といった荒唐無稽かつよくわからない話ばかりしか出てこない状態であった。
「いったい何がどうなっているのだ……エルメリス王国に負けたとは思えぬ……なにも情報が入らんと言うのは厳しいな」
宰相以下、多くの家臣たちがああでもない、こうでもないと意見を交わしているが、どれも建設的とは言い難いものばかりである。
すると、軍事にも詳しい技術開発大臣がボソリと呟いた。
「まさか、超古代文明?」
その言葉に、その場にいた全員がビクリ、と反応した。
「超古代文明だと?」
「町1つを一瞬で焼き払う力を持っていたという……」
「音の速さを超える竜を持っていたという……」
「200mを超える船を保有していたという?」
「空の彼方、星の世界へ消えたという……」
その顔には、畏怖が張り付いていた。
バルバラッサ21世とて、幼い頃から超古代文明については色々と聞かされていた人物である。
その恐ろしさは、伝承だけでも震え上がるほどである。
「エルメリス王国がいきなりそのような物を見つけたとしても、そう容易く使いこなせるとは思えないが……だが、そうとでも考えなければ説明がつかないな」
すると、農務大臣が手を挙げた。
「そういえば、海軍はどうしたのですか?」
「む? まだ連絡が入っていませんが……」
すると、海軍の伝令役が『伝令‼伝令―ッ‼』と叫びながら皇帝の間へと駆け込んできた。
「報告いたします‼ 海軍船団300隻、エルメリス王国に到達する前にぜ、全滅した模様‼」
あり得ない報告に、その場にいた者たちがざわざわと騒ぎ始める。
「そんなバカな‼」
「300隻もの船団がエルメリス如きに潰せるはずがないだろう‼ なにがあったというのだ‼」
「まさか、本当にエルメリスが超古代文明の力を手に入れたか、超古代文明そのものと手を結んだか!?」
バルバラッサ21世は持っていた杖を『カンッ‼』と鋭く打ち付けた。
「静まれ‼ 有翼人の如くピーチクパーチク囀ったところで事態は解決せん‼」
そう言われては、誰もが黙らざるを得なくなる。
「皆の者、落ち着け。今気にせねばならぬことは、『陸海軍が滅された』という事実だ」
すると、家臣たちもハッと気づいたように顔を上げた。
「そうか! このままでは、首都侵攻もあり得る‼」
「い、急いで防衛網を固めなければ‼」
「し、しかし、残っているのはワイバーン50騎と守備隊5万ほど……派遣軍とは比較にならないほど小規模な軍勢しか存在しませぬ‼」
苛立ったバルバラッサ21世は再び杖を打ち付けた。
「だから静まれというのが分からぬのか‼」
激昂した皇帝の言葉は家臣たちを恐怖させた。
「守るということは、建国以来考えたこともなかったが……できることをしなければな。古代文明の資料を参考に、できることを考えるのだ。よいな?」
ようやく落ち着きを取り戻した家臣たちは、皇帝に深々と頭を下げ、防衛に関する論議を始めるのだった。
しかし、そこはこれまで防衛という概念を持っておらず、常勝無敗を続けていただけに、いざ守るという考えをしてみても、全く思い浮かばない。
古代文明に関して書き記した資料も加えられ、またもああでもない、こうでもないと議論がなされた。
その結果、いくつかのことが決定した。
○首都警戒のために、夜間を除き常時ワイバーンを4騎上げておくこと
○首都の4つの門の警戒を倍にすること
○土を盛り上げて壁を作り、敵の侵入経路を限定すること
○兵器更新の速度を上昇させること
○国民から志願者を募り、志願兵を育成して数をある程度確保すること
などであった。
バルバラッサ帝国は、己にできる範囲で防衛を成そうと動き出す。
――世界暦380年 12月8日 エルメリス王国 首都メリエルダ
帝国軍を撃退した陸海空各自衛隊は、エルメリス王国第1王女であるデリティーを含めてバルバラッサ帝国へ逆侵攻をかけようという会議を行なっていた。
陸上自衛隊エルメリス王国派遣部隊司令官を拝命した速水陸将は、人工衛星が撮影した地図を指しながら幹部たちに説明を続けている。
ちなみにどうでもいいことかもしれないが、この速水はかつてシンドヴァン共同体でガネーシェード神国のアラクネによって殺害された速水外務副大臣の親戚だったりする。
世界という奴は意外と狭いものである。
「敵首都の中央には石造りの大きな城らしき建造物が確認できます。バルバラッサ帝国は『円』を基調とした街づくりをしているらしいですね」
一方、人工衛星によって作られた精巧な地図に、デリティーやエルメリス王国軍関係者たちは唖然としている。
「これが……空に浮かぶ星から取られた写し絵か」
「なんと精巧なのだ。こんな物がこの世に存在するとは思わなかった」
「あぁ。かつてこの世界では、このようなモノが当たり前にあったのかと思うと、そら恐ろしいものだ」
「だが、味方であるというのならばこれほど頼もしいものもないな」
畏怖と頼もしさを胸に、彼らは口々に呟く。
「今回の首都攻撃に際して、まずは敵の軍事基地、特に飛竜隊と呼ばれる航空戦力を沈黙させる必要があります。そこで、まずは第1段階として敵首都沖合へ護衛艦隊を向かわせて航空護衛艦『あまぎ』に搭載している『F―3C』で、敵の航空戦力と基地を叩きます。敵の航空戦力が消滅した後、航空自衛隊の『AC―3』彗星と陸上自衛隊の『UH―2』で、残存陸軍を徹底的に叩きます」
『AC―3』の……攻撃の届かない空から投射される凄まじさは、先だっての戦闘だけでも十分に証明されている。
「(まさか、大火力を得た航空戦力があれほどの破壊力を持つとは……進歩とは恐ろしいものだ)」
デリティーは冷や汗を流しながら『蹂躙』と言えるその光景を思い出していた。
と、デリティーはチラリと奥の方を見た。
そこには、武藤2等陸曹や一般隊員も話を聞くために座っている。
「(彼も、あの渦の中に飛び込んで戦ったのだな)」
一見すると人の良さそうな、そして優しそうな彼が、人を手にかけるという姿が、デリティーには想像できなかった。
だが、彼も真剣な顔で作戦を聞いている。その顔は、覚悟の決まった人間のものだった。
「(彼も、一人前の兵士というわけか)」
そんな兵士としては『当たり前のこと』に、どことなくホッとしてしまうデリティーであった。
初陣はこの大陸に来てからであったが、命じられたことをこなし、そして同時にその倒した相手の遺体を回収し自ら弔ったことにより、彼は覚悟を決めていた。
「また、首都攻撃に際して護衛艦で砲撃を行い、敵の港湾設備を壊滅させます。 また沖合で待機中の『あづち』型揚陸艦と『あまぎ』を利用してヘリ部隊の補給を行います。また、現在本国に積極的な攻勢に出るため航空機の派遣を要請しています。これが到着すれば、港湾攻撃がより確実なものになるでしょう」
どんな飛行機が来るかは今の時点では分からないが、デリティーたちからすれば、『あの僅かな数であれほどの力を発揮したのだから、強力なものに違いない』と考えていた。
「粗方の敵を掃討した後、首都郊外に待機中の戦闘車両で一気に首都に進攻し、皇帝を確保し非戦を誓わせなければなりません。敵の行動と皆様のこの大陸における概念を聞く限り、『街を捨てて自分は逃げる』という感覚を持っているとは思えないので、今回は車両による肉薄を検討しました」
ヘリコプターによるヘリボーン作戦でもいいのだが、できる限り敵戦力を叩いておきたいという考えが防衛省上層部にあったため、車両を投入してゲリラ戦にならないように徹底的に掃討することが決まったのである。
すると、デリティーが手を挙げた。
「1つ、質問してもいいだろうか?」
「どうぞ」
「帝国を打倒したら、貴殿らがこの大陸を支配するのか?」
当然の質問だろう。だが、外交官の楯山は苦笑しながら答えた。
「それは不可能です。日本は今も大きすぎる島嶼多数と大陸2つ(この場合は南北アメリカ大陸のこと)を統治しておりますので、これ以上支配権を広げてしまうと、今でも問題が多発しているというのに、色々と手に負えない部分が生じます」
実際、未開拓のフロンティアということで瞬く間に大陸開拓は進められたが、転移から10年以上が経過した今、広すぎる国土はそれなりに政府の重荷になりつつあった。
だからと言って、今更手放すわけにもいかないのが実情だが。
「なので、方策などはこちらから指導しますので、後はエルメリス王国にできる限りお任せしようと思います」
現在エルメリス王国は官民問わずに近代化が進められており、もう間もなく産業革命前後の技術を完全に自分たちの物にすることができるだろうと指導に当たっている現場の人たちからは言われている。
「日本国と諸国のお陰で、我々は想像以上の学問と技術を得ております。日本がいなければ、我らは蹂躙されるだけの存在だったでしょう。本当にありがたいことです」
学問もそうだが、思想、人としての在り方、日本の歴史から開国までの経緯、そして国として辿ってきた過ちなども含めて全てを教えることにしている。
これまでバルバラッサ帝国という暴力的な相手しか存在しなかったエルメリス王国は、今後日本を通じてグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国、アヌビシャス神王国といった諸国と付き合うことになるのだろう。
その時に備えるためにも、外交も含めて日本やグランドラゴから教導を受けている。
特に、グランドラゴ王国はここで大きな発言力を持っている。
なにせ、『この世界』の外交については、日本よりも昔からこの世界に存在する国家であった諸国の方が詳しいからだ。
「分かりました。どうか、よろしくお願いいたします」
もうしばらくすればレシプロエンジンの製造方法も供与し、飛行機も作れるようになってもらわないといけない。当面は日本の製造した『ヒルンドー』型戦闘機や、練習機兼軽攻撃機の『AT―9』を導入してもらうことになるだろうが、それでは日本の産業にばかり負担がかかることになるので、やはりいずれは作れるようになってもらわなければ困るのである。
特に『ヒルンドー』型戦闘機は複葉機なので練習機とするには十分な能力を持っている。
本当はもっと性能の低い機体から始めてもいいのだが、そのためだけに航空自衛隊で保管されている古い練習機(アメリカから供与されたT―6でさえ単葉機)を掘り起こすのも手間な上非効率的なのである。
だとすれば、今生産している品物の生産ペースを少し上げる方が効率的(というか、はるかにマシ)である。
既にそれぞれの見本機を持ち込んでおり、アヌビシャス神王国出身のダークエルフのパイロットが見事な飛行技術を披露した。
ちなみに、グランドラゴ王国は現在日本から建造技術ごと輸入した『ダイヤモンド』級戦艦の船体を参考にした空母『ピンクダイヤ』を建造中だが、この空母はもう3隻建造し、そのうち1隻はアヌビシャス神王国に輸出する予定となっている。
アヌビシャス神王国の『ヒルンドー』型戦闘機は複葉機であることからカタパルトを使わなくとも『信濃』並みの空母であれば十分に離着陸が可能であった。
急速に近代化を進めるアヌビシャス神王国にとって、近代的な航空母艦を得ることは将来の国益につながると考えているのである。
もっとも、そのために軍事費は桁外れな勢いで上昇しており、神王国の財政をかなり圧迫している。
それを見た日本が『このままではよくない』と考え、アヌビシャス神王国に近代的な大型船舶の建造方法(具体的には『しきしま』型巡視船)や漁船に転用できそうな船の建造方法を伝授していった。
既に神王国では日本に留学していた者たちから様々な技術がもたらされ、国産の鋼鉄船の造船所などもできあがりつつあった。
日本から原理と技術は導入しているので、将来は大きな船も作れるようにと日本の呉にある貨物船ドックなどを参考にした物を作った。
輸入する予定の空母とは別で、練習用兼近海警備用として軽空母を3隻建造するつもりらしく、予定では『鳳翔』レベルの軽空母を作りたいと考えている。
だが、日本はそれを聞き、『古い商船(貨物船やタンカーなど)でよければ民間から安く買い上げてお譲りしますので、それに甲板などを施して軽空母としては?』と提案すると、神王国は飛び上がらんばかりに喜んだ。
しかも、補強工事や寿命延長改修は日本側がやるということで、もう涙ものである。
速度が遅いとはいえ、練習用兼近海警備というだけならばそんな改造空母でも十分用をなす。
とはいえ、日本にも狙いはあった。
グランドラゴ王国だけでなく、アフリカ大陸北部半分を支配するアヌビシャス神王国は、発展性が高いだけでなく、いざという時のイエティスク帝国に対する防波堤や、今は大人しいとはいえニュートリーヌ皇国が万が一反乱を起こした際にこれまた歯止めをかけるだけの力を持っている方が、日本にとっても都合がいいのである。
日本から嫁入りした元海上保安庁の医療官だった黒川美月と、彼女に関わる医療関係者の影響もあって、神王国の医療水準は大幅に向上し、さらに未来を見据えた国王パンテーラが日本からの技術を得て農地開拓(保水技術などで砂漠でも育てられる作物を育てる)を推し進めたこともあって、神王国は広大な土地を活かせるだけの能力を得つつあった。
ここまでの援助はグランドラゴ王国の次に手掛けているので、日本の優先度が窺える。
また、他国とのバランスを保つために、日本はフランシェスカ共和国から大量の『水』を輸入し、アヌビシャス神王国へ供与していた。
いくら保水技術(この場合は給水ポリマーを活かした保水技術)を持っても、気温が高すぎては元となる水分が少ないため、川の近くでしか作物を育てられないという話になってしまう。
なので、水源豊かな土地から水を安定的に大量購入して、水不足気味な土地に供与しようと考えたのである。
これはニュートリーヌ皇国の水源地帯からも同じことをやっており、皇国の財政再建にそれなりの力となっている。
いずれにせよ、西側諸国は既に日本を中心とした体制を築きつつあり、今後数年以内には大陸間弾道弾さえなければ、の話だが、連合することで現代国家(ただし先進国とは言わない)の軍隊とも海の上ではそれなりに渡り合えるようになってもらうようになる。
ただ、これで問題になったのは。海上戦力と航空戦力はそれなりに拡充できてきたのだが、陸上戦力の要・戦車と装甲車が不足していることであった。
日本としては各国に発展してもらい、それぞれの特色ある戦車などの戦闘車両を作ってもらいたいのだが、今の所まともな戦車を作れそうなのはグランドラゴ王国だけである。
まぁ、それがセンチュリオンレベル(17ポンド砲)を想定してあれこれ教導していたら、なぜかその魔改造モノのオリファントモドキ(105mmライフル砲)になっているという、迷走を通り越して迷路の壁をぶち壊してある意味違う、ある意味正しい出口に辿り着いてしまったような状態なのだが。
日本から技術供与があったとはいえ、発想は間違っていないので日本側も王国の頭脳には驚いていた。
しかし、せめて他国にも戦後第1世代レベルは作れるか持っていてもらわないと、全て日本におんぶに抱っこになってしまう。
それについても日本は現在考慮中であり、当面は供与戦車でどうにかしようという考えがある。
ただし供与する場合、現行戦車のパーツや車体を流用したグレードダウン型、というのが望ましいところである。
現在の防衛装備庁の要求は以下となる。
○10式戦車の車体と砲塔を使用していること
○主砲の口径は105mm以下、ただし第1世代MBTレベルになるよう調整すること
○主砲の種別は滑腔砲ではなくライフル砲にすること
○主砲弾は多目的榴弾とHEAT弾、そして散弾にとどめておくこと。装弾筒付翼安定徹甲弾はなし。
○エンジンにはブラックボックス付きで10式戦車と同じ物を使用すること
○電子機器は『74式戦車』レベルに抑えること
○防衛目的が主なので、油気圧サスペンションは付属させること
このような要望だ。
装甲車に関しては16式機動戦闘車の車体を利用し、上部に自動装填装置付きの35mm単装機関砲と同軸の7.62mm機銃、そして有線誘導式の対戦車誘導弾(重MAT)を搭載するタイプを製造させる予定だ。
ちなみに、これは日本本国ではボフォースのモノを魔改……コピーした40mm機関砲、同軸機銃とRWS、そして01式軽対戦車誘導弾を改良し車載型とした誘導弾を搭載した新型の装甲戦闘車として採用する予定だ。
ん? それは89式装甲戦闘車とコンセプトがほぼ同じじゃないかって? 無限軌道と装輪式では日本における汎用性が異なりますよ?
装甲戦闘車とは言うものの、89式装甲戦闘車とは異なり銃眼は最初から付いていない。
おまけというおまけで、この車体を更に応用してコストダウンを図ろうと、対空車両としてゲパルトモドキを作ろうとまでしている。
やり過ぎじゃないかって? 今更だ。
対空砲としてエリコン社の35mm連装機関砲を搭載し、機関砲の横に『22式空対空誘導弾』用のミサイルポッドを搭載している。
これらは全て防衛装備庁で提案され、現在三菱重工業、日本製鋼所、三菱電機において製造中で、もうあと1、2年もすれば全部試験車両が完成して各自輸出を開始する予定である。
最後に1つ。
当然これらは近代化するエルメリス王国にもいずれ供与する。
グランドラゴ王国の兵器である程度近代戦術を覚えてもらったら今度は日本の戦術に浸透してもらおうということである。
なんという恐ろしい計画だろうか。
そして、工場にこれらの製品を製造できるように改造を施すというのだから念が入っている。
それはさておき……。
「今度は陸上戦力で敵の勢力圏内に飛び込むわけですから、こちらにも被害が出ることを覚悟しなければいけません。そのため、我々は的確に仲間を支援する必要があります。観戦武官の方には上空を飛ぶAWACSに搭乗し、映像を見て戦いを見ていただくことになります」
『EPー1』は元々『Pー1』哨戒機を基に作られているので、内部にはそれなりに余裕がある。数人くらいならば『お客様』を乗せることも可能だ。
そして、今回に関してはそれだけではない。
「敵ワイバーンにはAWACSでの探索の後、もし哨戒飛行しているようならば『FT―4』を差し向けて殲滅します。もし敵の航空戦力が出てくる前に基地を潰すことで殲滅できれば、滑走路を潰した上で地上のワイバーンに砲撃と銃撃を見舞うことで片付けることとします」
エルメリス王国はもちろん、進歩している上に日本から技術や思想を教導された一番槍であるグランドラゴ王国の基準からしても容赦のない作戦である。
エルメリスも、グランドラゴも『うわぁ……』と引いているが、日本から言わせれば『戦後の師匠であるアメリカ軍(米帝様)のやり方とえげつなさよりは生温いんじゃね?』という感覚である。
実際その通りなので、日本と各国との間には認識という意味で結構な温度差があるのだ。
「他になにか質問などはありますか?」
デリティーが再び手を挙げた。というか、エルメリス王国の中でまともに質問できるほど知識と経験、そして度量を持つ人物が彼女しかいないのだ。
「我々が手伝えること、或いは要望はあるだろうか?」
「そうですね……敵が街の外へ逃げだした時、武装していればグランドラゴ軍と共にその者たちを確保することをお願いします」
逃げてきて士気も下がっている敵ならば、能力に劣るエルメリス王国軍でも十分に相手することができるだろう。
武器もコンパウンドボウなどで強化されているので、数さえ勝っていればまず負けることはない。
恐竜もほとんどが倒されているので、いざとなれば余ることを想定されている『FT―4』の誘導弾を施設や滑走路にぶち込むことも自衛隊は考えている。
「幸い、敵の戦力はほとんどが歩兵のみになっているはずですから、それほど苦戦はしないと思います。もし接近してきて抵抗しようとするなら、コンパウンドボウを突き付けて脅してやるしかないでしょうね」
こればかりはどうしようもない。
士気が下がっているとはいえ、そんな状態で敵に出くわしたら逆上して自棄になって玉砕に走るという可能性もある。
「ですから、向かってくる敵は容赦せず打ち倒すしかないでしょうね」
「分かりました。そういうことならば、我々にお任せください」
彼らは自分たちが弱いことは重々承知しているため、自分たちの手で相手を攻め落とそうなどという無謀なことは考えていないのだ。
「それでは、皆さんよろしくお願いします」
「「はい」」
今月の2話目は18日~20日の間に投稿しようと思っています。