巨竜圧倒・夜戦必勝
今月2話目となります。
ドンパチパート2回目にして遂に陸・海の部隊が……
航空自衛隊の航空攻撃によって大半が潰走状態に陥った帝国軍だったが、先頭の装甲竜たちは無事だった。
本当ならば彗星の105mmライフル砲で叩いてしまっても良かったのだが、それだと撃ち漏らしが発生する可能性が生じてしまうので、地上戦力の打撃力で的確に殲滅することを陸上自衛隊では最初から計画していた。
今回の『16式機動戦闘車』と『96式装輪装甲車』を中心とした統合打撃部隊は堀の内側から出撃し、前線に出ている恐竜部隊を叩くことを命じられていた。
統合打撃部隊の隊長を務めることになった中村1等陸佐は、『82式指揮通信車』に乗り込み、矢継ぎ早に指示を飛ばしている。
「では、第1打撃群は右翼へ、第2打撃群は左翼へ突っ込め。鶴翼の陣を取って敵を機動力で殲滅する。以上だ」
『了解‼』
今回派遣されている16式機動戦闘車は合計で20輛なので、それぞれ二手に分けての運用となる。
中央を攻撃されそうになれば、普通科部隊の対戦車兵器と機関銃陣地で足止めし、敵部隊を殲滅した機甲戦力と挟み撃ちにする予定である。
既に16式機動戦闘車が戦場を走り回り、データリンクによって自分の仕留めるべき獲物を次々と割り振られている。
「各車、攻撃開始‼」
攻竜兵の隊長を務めるメルデスは、自分の目が信じられなかった。
無敵を誇るはずの帝国軍歩兵部隊が、空からの猛烈な攻撃によって、瞬く間に溶けるように消失し、そのまま大半の兵が逃亡してしまった。
あれほどの激しい攻撃を受けては、恐らく残存兵は半数にも満たないだろうと推測される。
「しかし……我々が無事だったのは幸いだったな」
「はい。トライデント・ドラゴンとアーマード・ハンマードラゴンの力を見せつけてやりましょう」
トライデント・ドラゴンはトリケラトプス、アーマード・ハンマードラゴンはアンキロサウルスのことである。
ハッキリ言って、そのままであった。
肉食恐竜は凝った名前になっているにも拘らず、草食恐竜は肉食恐竜と比較して数が多いこともあって面倒臭がられたのか簡単な名前にされたのである。
閑話休題。
そんな攻竜兵は味方が乱されたからと言って退くわけにはいかない。
元々攻竜兵のコンセプトが『どのような状況に陥っても撤退せず』という精神論丸出しの方針だったからである。
ある意味、第二次世界大戦時の旧日本陸軍のような一面があるのだ。
要は、『玉砕も厭わない』レベルの精神構造である。
この世界では元々敵がいなかったので、これまではそれでもよかったのだが、日本のような圧倒的な力を持つ存在を相手取るなどということはハナから想定されていないため、部隊には緊張が走る。
「おのれ……まさか航空攻撃だけで主力が蹴散らされてしまうとは想定外だった……だが、なんとしてでも囲みを突破し、ハリボテを破壊せよ‼ その向こうには戦果が待っている‼」
「「「ははっ‼」」」
とはいえ、攻竜兵の乗るアンキロサウルスは急いでも人が歩くより少し速いか人が走る速度と同じ程度しか速度が出せない。トリケラトプスもそれにあわせているため、まさに牛歩状態なのだ。
「将軍、敵が地面に掘った穴を避ける必要があるため、直線的に道を進むことになります」
「あの穴、最初は欺瞞かと思ったが……よく見れば想像以上に深いではないか。全く、偵察隊はなにをしておったのか……」
「仕方ありません。あのような穴を街の外周に沿って掘るなどと、そのような戦術は我々の概念に存在しませんでしたから……」
参謀が傍らでメルデスの気持ちを代弁しつつ『まぁまぁ』と窘めた。
「まぁ、あれほどの投射力を見ると、どれほどの力を持っているのかが気になるところだが……ん?」
前方から土煙を上げながら、『ブオオォォォォォォッ‼』と近づいてくる『なにか』が見えた。
「な、なんだ!?」
「わ、分かりません‼」
『なにか』は二手に分かれると、背中についている角のような物がこちらの方を向いた。
「あれは……鉄の竜か? なにをする気だ?」
「距離はかなり離れていますが……」
概算で大体1.5kmほどはある。そんな距離からなにをしようと言うのか。
その時、こちらに向けられた角が『ピカッ』と光ったと思うと、落雷かと思うような轟音が響き渡った。
――ダンッダンッダンッ‼
「ぬおっ‼」
すると、前方を走っていたアンキロサウルスの頭部が爆発四散し、騎手を巻き込んでそのまま地面に大きな音を立てて倒れ込んだのだ。
「な、なにが起きた!?」
「ま、まさか敵の攻撃が命中したのか!?」
「バカな‼ あれほどの距離が離れて……いや、先ほどの空からの攻撃もかなり遠くから投射していた。我々の敵にとっては、それくらいのことは可能、ということなのか!?」
見れば、護衛のティラノサウルスも一撃で絶命させられている。
「ば、バカな‼ ギガンテス・ドラゴンまでもが一撃だと!?」
ギガンテス・ドラゴンはティラノサウルスの現地名である。肉食恐竜としては最大級であったことからギガンテスの名前が付けられたらしい。
さらに鉄竜から光の筋が飛んでくると兵たちがバタバタと倒れていくため、将たちは完全に浮足立ってしまっていた。
「く、くそっ‼」
直後、後続の鉄竜たちが発射した光により、メルデスはそのまま光に呑み込まれてこの世を去った。
時速50kmほどという、公道を走る速度としてはそこそこの速度(公道は大体制限速度40kmで60kmほどまで出す場合が多い)だが、最大速度からスラロームへ移行しながら射撃することもあると想定した設計になっている16式機動戦闘車の射撃指揮システムからすれば、走っているとはいえ直線上の的を狙うのはさほど難しいことではなかった。
16式機動戦闘車20輛が通過しながら次々と放った105mmライフル砲の多目的榴弾は、恐竜たちの頭を正確に撃ち抜き、さらに同軸機関銃やRWSを発射することで瞬く間にその戦力を減らしていったのだった。
『目標2破壊。次目標へ移行する』
『機銃、残弾僅か。注意されたし』
『了解』
さらにその後に96式装輪装甲車が重機関銃や擲弾銃を次々と撃ちこんで敵の数を減らしていき、MINIMIを搭載した軽装甲機動車と高機動車が続き、十字砲火を浴びせていく。
ホブゴブリン・ドラゴン・ライダーは乗騎諸共光の筋に撃ち抜かれて、紙切れのように崩れ落ちていく。
瞬く間に先頭の兵から順に溶けるように消失していく姿は、帝国兵に絶望を叩き付けるには十分すぎた。
もはや帝国軍は軍としての体を成さず、ただただ逃げ回るだけの烏合の衆と成り果てていた。
残っていたアロサウルスやカルノタウルスの一部がライダーに命じられて高機動車に襲い掛かろうとするが、ひとたび戦列を離れた者には、中距離多目的誘導弾が襲い掛かる。
十字砲火を潜り抜けて襲い掛かろうとしている者を狙うため、帝国軍はもはや逃げることもできずに的となる他なかった。
そして、最後は僅か2頭しか存在しないブラキオサウルスであった。
――ブオオォォォォォォッ‼
『おぉ、怒ってる怒ってる』
『そりゃそうでしょ。仲間が次々とやられてるんですから』
16式機動戦闘車の二手に分かれていた列の先頭は、合流するとブラキオサウルスの頭部を狙った。
『さすがにちょっと高いかな……?』
『普通に首を吹っ飛ばす方が早いんじゃ?』
『だな』
胴体ではHEAT弾か装弾筒翼安定徹甲弾を用いなければ倒せないと考えられ、それでは恐竜を苦しめたまま逝かせることになる。
『敵であろうと最大の敬意をもって、送るべし!』
『撃てっ‼』
――ダンッダンッ‼
16式機動戦闘車2輛からほぼ同時に発射された多目的榴弾は、狙い違わずブラキオサウルスの首を吹き飛ばし、その巨体を大地に横たえさせることに成功したのだった。
こうして、帝国軍は輸送兵及びその護衛の兵を含めて潰走、本国へ逃げのびたのは2万にも満たなかったという。
――翌日 エルメリス王国 港湾都市アルフロイ沖合200km
ここは、港湾都市アルフロイの沖にある海域では、海上自衛隊の護衛艦『たかなみ』、『まきなみ』、『てるづき』、『ふゆづき』、『ねのひ』、『ゆうぐれ』、『たかお』、そして航空護衛艦の『あまぎ』による8隻が哨戒を行なっていた。
各護衛艦からは哨戒ヘリコプター『SH―60K』が飛行し、6機が対艦ミサイル『ASGM―1』を装備していつでも攻撃に移れるようになっている。
1機は7隻の直上を飛び回り、近辺の哨戒を行なっている。
また、艦隊直上では『あまぎ』から発艦した『E―2』早期警戒機も飛行し、敵ワイバーンを警戒している。
今回の敵の航空戦力は合計でも150、そのうち100は陸上支援に用いられているとのことなので、海上戦力に随伴している可能性は低いと考えられていたが、念のためである。
この臨時護衛艦隊の艦隊司令部は施設が整っている『あまぎ』に置かれており、艦隊司令として小山海将補という人物が乗艦していた。
小山は側に立つ『あまぎ』艦長の浪川1等海佐に問いかける。
「敵の船団は300隻前後とのことだが、大丈夫かな?」
「問題は無いと考えられます。今回の相手はスペルニーノ・イタリシア連合にも劣る木造帆船のようです。球形砲弾の大砲……初期のカルバリン砲すら装備していないようですので、余程接近されても、火矢で護衛艦の塗装が剥がれる程度で済むかと。乗り込みさえ許さなければ、大丈夫ではないでしょうか?」
だが、小山は彫りの深い顔立ちを引き締めながら首を横に振った。
「万が一攻撃を抜けられた場合、衝角での衝突もあり得ると思うが、その点は?」
かつての海戦は、相手の船員を弓矢で傷つけて弱らせたところで、船首に備わっている衝角をぶつけて横腹に穴をあけて沈めるというものであった。
実際、安土桃山時代に豊臣秀吉が朝鮮出兵を行った際には、李舜臣の指揮する亀甲船団による高速突撃で輸送船団を次々と沈められて、現地部隊の補給が滞り大苦戦したという話がある。
私(作者)の非常に勝手な私見だが、日本という国はどうやら外征において、そもそも古くから補給・輸送という行動がヘタクソだったらしい。
その伝統は第二次世界大戦にまで受け継がれ、大日本帝国軍の補給・輸送を軽視する方向性へ向かい、現代の自衛隊においてもあまり改善されているとは言えていない。
「こちらは一応鋼鉄艦とはいえ、第二次世界大戦レベルの軍艦に比べると装甲はないに等しい。万が一にも速度を乗せられてぶつけられたら、と思うとな……」
「実際、『たかお』が少し前に英国(グランドラゴ王国)の輸送船にぶつけられてへこんでいますからね」
あの時はぶつかった、とは言ってもゆっくり押し込まれたような状態だったので少し船体がへこむだけで済んだが、もし一点に衝突の衝撃が集中したらと思うと、相手がいくら木造船でも確かに恐ろしい。
「まぁ、そうならないように急いで沈めてもらう必要があるわけだな」
「そうですね。砲撃の精度と相手の速度を考えれば、相手との距離が10kmを切った段階で砲撃を始めれば、連射速度と砲撃精度の観点から問題は無いかと思いますけどね」
この中では一番旧式の『たかなみ』型の装備するOTOメララ社製127mm単装速射砲でさえ、対水上戦闘で約15kmの有効射程を持つ。
相手の武器が火矢及び大型弩弓程度であることを考慮すれば、なんの問題もない射程だ。
しかも、OTOメララは1分間に45発、Mk45の5インチ砲(127mm)でさえ、1分間に20発発射できる。
つまり、1分間の全力射撃を行なった場合、20×6+45×2で210発。もう30秒もあればあっさりと全滅させられる計算となる。
相手が接近する間もなく終わることになれば、それでいいだろう。
「さて、そうなると……」
「『たかなみ』搭載のシーホークより報告!」
通信員の鋭い叫びにより、小山は考えを一時中断した。
「『護衛艦隊より西部約200km海域にて木造船団を確認。掲げている旗からバルバラッサ帝国であると確認した』とのことです」
「旧式の帆船だけあって移動速度が遅いな。まだそんな海域とは……ワイバーンは確認できるか?」
『こちら司令部、ワイバーンの存在は船上、上空に確認できるか?』
『こちらアルケミー1、先ほどから敵船団の上空を飛行しているが、航空戦力を持ち出してくる様子は確認できない。少なくとも船内にワイバーンを収容している様子ではない』
『こちら司令部、了解した』
通信士は小山の方を振り向いた。
「司令、どうなさいますか?
「シーホークを全機帰還させろ。航空戦力がないのならば、管制の『E―2』だけで十分だ」
「了解」――『こちら司令部よりシーホーク部隊へ、直ちに帰還せよ。繰り返す、直ちに帰還せよ』
すぐに各機から『了解』の返答が相次いだ。
それから1時間後、各ヘリコプターが帰還し、護衛艦隊は一路、西へ20ノットの速度で向かうのだった。
その約6時間後の夜、バルバラッサ帝国海軍船団300隻は流れる風に任せながらゆっくりと航海を続けていた。
海将軍バルドラは暗い海を見つめながら参謀に問う。
「どうだ、兵たちの具合は?」
「はい。やはり我ら蜥蜴人は水の近くで過ごすことが得意な種族でございます故、皆士気旺盛でございます」
「ふむ……しかし、こうも揺れるのはやはり厳しいな。なんとかならんものか?」
「それはなんとも……超古代技術では、200mを超えるほどの、しかも鉄でできていたという超々巨大船舶も存在したそうですから、それほどまで大きくなれば揺れもかなり少なくなるとは思いますが……このような帆船では望むべくもありません」
それでもバルバラッサ帝国の船舶は文明水準からすると大型で、長さというだけでも70m近くはあり、兵員と食料を大量に搭載できる。
しかも、バルドラの乗る旗艦は最大級の大きさで、85mまで巨大化したのみならず、少し厚めの鉄の板で補強してあった。
超古代文明の遺跡に残っていた『装甲戦列艦』を参考にしており、これを用いて火矢を防ごうという算段である。
正直、火矢どころか徹甲弾の概念がない砲弾くらいは防げるのでオーバースペックなのだが。
しかも、超古代文明ではなぜか船の喫水線下を丸く突き出させていたので、それを参考になんとか木材を加工して球状艦首を作ったところ、速度が今までよりも上昇したのでそのままこれは採用となった。
彼らは知らないが、これは球状艦首ことバルバスバウという。
だがこのせいで、実はこれらの木造船に衝角は備わっていない。
「ふむ……とにかく、各船の距離に十分注意させろ。ぶつかって損傷したら目も当てられんからな」
参謀は恐る恐るという様子でバルドラに意見した。
「やはり、夜は岸辺に係留するべきなのでは?」
「そうしたいが、一刻も早く敵を倒す必要がある。そのためには、昼夜を問わず進む必要があるのだ」
「それは……そうですが」
実際、篝火や小さなランプ以外の灯りが存在しないため、150mから200mほど離れているお互いの船がどこにいるのかさえもよく分からない。
夜空の月明かりはとてもキレイに見えるのだが、各船団を照らすほどではないため、仲間はもちろん、敵を視認することすら厳しい状態である。
「ハァ……こんな時に敵に出くわさなければいいのだが」
「敵も見えないならば気づかないのでは?」
「そうだといいがな……奴らには夜目の利くダークエルフとドワーフ族がいる。彼らは厄介だぞ」
ダークエルフ族とドワーフ族は鉱山で活動することも多いせいか夜目の利く種族なのである。
そんなことを心配しながら進んでいると、前方から『バァンッ‼』と何かが破裂するような音が聞こえてきた。
「ん? なんの音だ?」
「船がぶつかったのでしょうか?」
「それはいかんぞ。すぐに様子を見させろ」
だが、音は立て続けに聞こえてくる。そして、前方から炎を上げている船が見えて、バルドラたちもようやく気付いた。
「敵襲‼ 敵襲ーッ‼」
全船団に篝火を振り回すことで伝えられる合図が伝達される。
「バカな‼ なにも見えない夜に攻撃を仕掛けてくる戦法など、聞いたことがないぞ‼ どうやってこちらを見つけたんだ!?」
「まさか、こちらが見落としている小舟で火矢でも撃ちこんできたのでしょうか?」
船団は直ちに戦闘準備を整えようとするが、なんと言っても真っ暗に近い状態なので、船内のあちこちで兵がぶつかったり転んだりと、酷い有様を通り越して無様とさえ言える状態であった。
「小舟から火矢だと!? そんなちゃちなモノではない‼あの勢い良く燃え盛る船を見ろ‼ 明らかになにか強大な力を受けて爆発したと思われる破壊力だ‼ あれはまるで……超古代文明が持っていたと言われている爆炎を撒き散らす武器『大砲』のようだ‼」
バルドラたちが調べている超古代文明には歴史ごとに様々な大砲が存在したらしく、現在帝国ではその中でも特に古い物、球形砲弾を発射する大砲を研究中であった。
もう少しすれば製鉄技術の向上から実用化できそうで、実用化できれば現在の軍船に搭載することで砲艦にできる。
だが、今受けている攻撃は鉄の弾をぶつけるなどという攻撃を遥かに凌ぐ威力を有していた。
「くそっ‼ マストの上の見張り員からなにか報告は‼」
「ありません‼ 敵船団の姿、未だ確認できず……」
そもそも、海戦における夜戦というのは近代に至るまでは何回か起きていたが、それはかなり一方的なものになっている。
要は、敵から見えない状況では、いくら見張りを立てていても限界はあるからである。
陸戦でもそれを利用して少数の兵で敵の陣にこっそりと夜襲をかけて、敵陣を混乱に陥れたところで引き上げて敵が同士討ちをするのに任せるという方法で戦果を挙げることもできる。
だが、帝国の海戦では海の上に浮かぶ船で戦うという都合上、相手の船を破壊するならばともかく、間違って味方の船を破壊してしまったら大問題である。
大日本帝国海軍は明治から昭和に至るまで『探照灯』を用いて敵船を捜索してから肉薄し、魚雷を撃ち込む夜戦が伝統と言えるくらいに得意だったが、それとて遠くを照らす道具が発明されてからの話である。
第二次世界大戦時には米軍が優秀なレーダーを開発し、日本の夜間肉薄水雷攻撃を見切ったため、あっという間に夜戦雷撃・攻撃は通用しなくなったという話がある。
特にこれで泣きを見たのは、当時の帝国海軍の中でもやはり雷撃を得意としていた『華の二水戦』であろう。
大戦後はレーダーが一般的になったため、高出力のレーダーを用いることで、夜であろうとも敵の位置が正確に判明するようになっていた。
しかも、現代軍艦のレーダーは非鋼鉄船による自爆テロを防ぐ意味合いもあって、鋼鉄船以外であろうともレーダーに映るように改良や工夫が施されているため、バルバラッサ帝国船団は丸裸も同然であった。
自分たちは目を封じられているにもかかわらず、相手から一方的にパンチを受け続けているようなモノである。
その時、マストの上にいた見張り員が叫んだ。
「敵らしき影を確認‼ 遥か彼方で、光が弾けるのを見ました‼ 恐らくそこに敵がいるものと考えられます‼」
「方角は‼」
「この船を基準に北東の方角‼」
要するに、1時から2時の方向である。時計がまだ存在しないため、このような大雑把な報告しかできないのだ。
「よし! 敵船団に向けて突っ込むぞ‼ 面舵一杯‼」
「面舵いっぱーい‼」
船団は篝火の信号を受けてすぐに右へ曲がり始めるが、その間にも船は次々と爆散していく。
「く、くそぉっ‼」
直後、バルドラの乗る船にスサノオ艦『たかお』から発射された5インチ砲弾が命中した。
5インチ砲弾はちょうど燃えやすい油の貯蔵庫に突っ込み、そこで爆発すると、油と空気を巻き込んで船体全てに広がる大爆発を起こす。
結果、今までにない大きな爆炎を上げながら轟沈していったのだった……。
次回は9月の11日か12日に投稿しようと思います。
なお、それとは別で『こんな話も書いてみたいな』という概要も投稿しますので、暇があったら見てみてください。




