やはり我が国の最新鋭機製造は高すぎる気がする
今月2話目となります。
遂にオリンピックが始まりました。
私の書いている世界ではオリンピックの開催どころではないですが、現実もはっきり言って開催している場合ではないと思っていました。
それでも開催したからには、金メダルよりも『感染者を出さないこと』に注力してほしいです。
世界暦380年 11月15日 バルバラッサ帝国・首都バルバロニア
バルバラッサ帝国の現皇帝・バルバラッサ21世は、自身の眼前に広がる蜥蜴人で構成された軍勢を見て満足気であった。
この日帝国は、この世界(オーストラリア大陸)唯一の国家となるべく、エルメリス王国へ本格侵攻を開始する、そのための出兵式であった。
明日は港へ赴き、300隻の軍船の出港を見送ることになる。
バルバラッサ21世は用意された式台の上に登り、居並ぶ兵たちに対して声を張り上げた。
「勇敢にして精強なる我が兵たちよ! 時は満ちた‼ エルメリスの有象無象共は生意気にも石垣や街を拡張するなどの策を用いたようだが、蜥蜴人と竜人族の精強なる軍勢の前では、そのようなまやかしなど通じない‼」
『石垣や街を拡張する』とは日本とグランドラゴ王国による数か月以上の拡張工事や防衛政策のことを言っているのだが、向こうに蜥蜴人や竜人族が近付くとそもそも種族でバレてしまうので、遠目にわかることをあれこれと観察することしかできなかった。
そのため、偵察隊は石垣による巨大な城壁や堀は目の当たりにしていたが、城壁は見せかけだけのハリボテで、堀に至ってはただの妨害工作という程度にしか思っていなかった。
バルバラッサ帝国は他にエルメリス王国しか存在しないという、非常に狭い世界で生きてきた。そのせいで、『自分たちこそが世界で至高の存在である』という意識が刷り込まれているため、城壁や堀という防衛戦略の概念はあまり発達していない。
「なにも考えるな‼ ただひたすらに奪い尽くし、叩き潰せぇっ‼」
「「「オオォォォォォォォォォォォォッ‼」」」
どちらかと言うと兵を素早く展開する機動力を重視しているため、飛竜を用いることによる偵察や哨戒はしっかり行なっているのだが。
今回の遠征に際しても、ワイバーンは150匹のうち100匹は遠征に使用され、50匹で本国防衛に当たる。
軍勢の内訳を見ると、以下のようになる。
○軽歩兵 2万人
○重装歩兵 1万人
○弓兵 7千人
○龍騎兵 3千人
○重竜兵(オーガ・ドラゴン以上の竜を駆る者たち) 500人
○攻竜兵 200人
○飛竜兵 1000人(竜の運搬要員や世話役も含めて)
○輸送・輸送護衛兵 2万人
このうち、重竜兵にはアロサウルス以外にもスピノサウルスやティラノサウルスによく似た恐竜が、攻竜兵には鉄板の鎧を着せたアンキロサウルスやトリケラトプス、さらにとても数の少ないブラキオサウルスに似た恐竜が含まれている。
ちなみに輸送兵にはパラサウロロフス類に近い草食恐竜が配備されており、彼らに荷車を引かせている。
ワイバーンを運ぶ荷車を引くのもこの恐竜の仕事だ。
ブラキオサウルスとティラノサウルスは特に強力で、壁を崩した後は騎兵と共に突っ込ませることで敵を潰走状態に陥らせることが帝国軍の強みであった。
というか、ティラノサウルスやブラキオサウルスは強すぎて『これまでの』エルメリス王国の武装では倒すことはおろか、傷をつけることすら困難なほどに強かったため、この2種類が出る時点で勝利はほぼ確定と言えるのだが。
いや、『言えたのだが』と言うべきか。
彼らも少し前に正体不明のなにか(航空自衛隊の『R―2』バルチャーのこと)から偵察を受けたという報告が飛竜隊から軍上層部に上がっていたため、当初の予定よりもかなり戦力を増強して今回の侵攻部隊を編成しているのだが。
哀れなことに、彼らはエルメリス王国以外に敵がいなかったために『敵の分析能力』という点でも文明水準以下のレベルしか保有しておらず、皇帝が用心して軍備を着々と整えさせたとは言っても、あくまで『現有戦力でできるレベル』の範疇であったことが彼らの不幸であった。
なにせ彼らは、外に国があるということを全く知らないために港町を偵察に行くという考えすら全く持っていなかったので、日本やグランドラゴ王国の船舶が往来していたことすらも全く知らなかった。
空港は工業地帯に隠れるように建設されていたため、ピンポイントに飛行機の離発着を見るタイミングで見ていなければ飛行機の存在にも気付かない。
当然航空自衛隊も『FT―4』の訓練のために多くの離発着を行なっていたはずなのだが、そこはそもそも望遠鏡すらまだ開発できていない(鎌倉時代かそれより少し古いくらいの文明水準)国なので、『街を』偵察するつもりでそちらばかり見ているとほとんど気付かなかったのである。
現代人からすると、呆れるほどの杜撰さである。
「では、出陣せよ‼」
「ははっ‼」
陸将軍ゲルニアが敬礼すると、彼の配下の将軍たちが部隊を率いて、街の中へ歩き始める。
兵たちはそれに続くように整然と歩き出し、街の中を行進していく。
その勇ましいパレードを、歓声を上げて見送る街の一般市民たちは、この後に起こるであろうカタストロフィを誰も想像できていないのである……。
当然、そんな彼らの出撃は日本側に筒抜けであった。
陸上自衛隊の偵察部隊に加えて、航空自衛隊の『RQ―1』(日本版グローバルホーク)無人偵察機が5000mの上空からしっかりと偵察していたのだ。
以前から偵察していた『R―2』と比べるとはるかに静かな上にその大きさから『大きな鳥』くらいにしか見えないらしく、帝国軍も半ば存在を知りながら放っておいているというありさまだった。
もっとも、そのお陰で日本側は情報を集め放題だったのだが。
偵察機に備え付けられているカメラを見た管制室では、オペレーターの毒島が『ほえぇ』と間抜けな声を上げていた。
「凄いですねぇ。あんなに人がいっぱい歩く姿、本土以外で初めて見ましたよぉ」
彼女もまた大陸系日本人で、わずか22歳にして無人偵察機のオペレーターを任された猫耳族の女性である。
最初は通信用の機器をどうするかという話になったが、『マイクロイヤホン型にして耳の穴に直接入れればいいのでは?』という意見を採用した結果、彼女の耳の穴の中には、近代的な小型イヤホンが収められている。
「こんなもの、スペルニーノ・イタリシア連合やニュートリーヌ皇国の軍勢に比べると……巨大な恐竜のインパクト以外は大したこと無いと思うけどな」
隣に座っている先輩オペレーターは2つの戦いで衛星や航空機の撮影した写真を見ているせいか、若干反応が薄い。
「もぉ、先輩ったら……素直に『スゴイ』って言ってなにが悪いんですか?」
「お前の素直さはとてもいいことだと思うが、その間延びしたような言い回しだけはどうにかした方が良いぞ」
「うぅ、それは分かってますけどぉ……」
「とはいえ、確かにお前の言う通りかもな」
「夫婦漫才している場合じゃないですよ。『こちら偵察隊。敵主力部隊が出撃しました。また、港湾部に多数の軍船が停泊している。300前後の船が、間もなく出港すると考えられる。こちらも海上自衛隊に対処を求める』」
先輩オペレーターが椅子にもたれかかると、別の管制官がすぐに報告を行う。
これにより現在上陸している各自衛隊は戦闘準備に入り、いつ敵が来てもいいように即応体制を整えておくのだ。
城壁の上では陸上自衛隊が『87式対戦車誘導弾』をセッティングし、王国兵も大型弩弓や新型投石器、そして焙烙の点検を行なっている。
グランドラゴ王国から輸入した山砲や野砲などはまだ習熟途中なので、今回は並べられていない。
街の各所では『87式偵察警戒車』や『軽装甲機動車』に加えて、即応できる最大戦力である『16式機動戦闘車』も動き回るようになり、空にも『UH―2』や『OH―1』が飛び回るようになった。
街の後方にある、数kmほどの大きく開けた空き地では『MLRS』や『99式自走155mm榴弾砲』が、いつでも使えるようにと整備されながら待機している。
自軍の兵士に加えて自衛隊も動き回るようになったことで、街の人々もなにかが起きたとなんとなく悟っていた。
「なんだか急に兵隊さんが増えたのぉ」
「王国兵だけじゃなくて、日本兵も増えたわね」
「いよいよ帝国が攻めてくるのだろうか……」
「なぁに、日本が味方してるんだ。俺たちは勝てるさ」
「日本が勝つ方に俺は有り金全て賭けた!」
不安になる者、日本というとんでもない国が味方しているので勝てるだろうと楽観視する者、どうなるかは分からないと言いつつ賭博を開いてどっちが勝つかとスポーツかなにかと勘違いしている者など、様々である。
さらに、港町の海上でも護衛艦が出港し、哨戒を行うようになっていた。
今回は水上要撃力という点での航空戦力を必要としなかったので、『P―1』などは派遣されていない。
個別対艦戦闘が可能な護衛艦は『たかなみ』、『まきなみ』、『てるづき』、『ふゆづき』、『ねのひ』、『ゆうぐれ』、『たかお』に加えて、『たざわ』型補給艦の『たざわ』と『くっしゃろ』だけである。
もっとも、補給艦の2隻に関しては対艦誘導弾(ASGM―1改良型)と艦首に搭載されている55口径155mm連装砲、そしてRWSだけである。
しかも、元がタンカー型の船体なので機動戦闘に向いておらず、余程近くまで向かってきた時でなければ戦闘は行わないことになっている。
あくまでこれらが自衛用の火器であることも影響している。
つまり、実質戦力と言えるのは7隻だけなのである。
もっとも、相手の船も300隻ほどということらしいのでしっかり距離を取って戦っていれば十分撃滅できる数なのだが。
場合によっては『F―3B』が洋上支援に回る可能性もある。
もっともその場合、ミサイルは木造船相手にはもったいないので機銃掃射か通常爆弾(Mk.82)での爆撃になるが。
幸い相手には航空戦力はあっても空母はない。
元々陸戦力も海戦力も、第二次世界大戦中にレーダーと近接信管が開発され、戦後に対空誘導弾が開発されるまでは航空攻撃に対して非常に脆弱だった。
戦車などの車両に至っては現代に至っても制空権の確保を第一の前提としていなければ動きづらいと言われるのもむべなるかな、というところである。
陸上戦力とは元来、航空攻撃に特に弱い。
堅固な装甲に身を包む戦車でさえ、上面装甲はさほど厚みがないのでそこを抜かれると弱いのだ。
余談だが、一応変な日本人が入り込まないようにということで海上保安庁が巡視船『いつくしま』と転移から3年後に完成した(転移直後の混乱とゴタゴタで建造が大幅に遅れた)『れいめい』を派遣しているが、これはあくまで海上警察船舶なので戦力とは数えられない。
ちなみにこの『れいめい』は現実のものと異なり、建造中に転移してしばらく放置された後建造を再開された影響で、新世界に対応するべく対空レーダーを搭載している。
それらの経験から建造されたのが『いつくしま』だ。
閑話休題。
ダークエルフのデリティーに思いを寄せる武藤も、警戒レベルが引き上げられてから街の中を巡回しているが、緊張しっ放しであった。
『武藤、まだ敵は来ていないんだ。緊張するなら敵が来てからした方が良いぞ』
「す、すみません。なにせ初めての実戦なので……」
『そうか。お前、今までずっと内地で訓練ばっかだったもんな』
「は、はい」
『そんなにガチガチじゃ、そのうちポッキリ折れちまうぞ?』
「そ、そんな防人系女子じゃあるまいし……」
『いーや。これが意外と馬鹿にできないんだなぁ。俺はニュートリーヌ皇国との戦いに行ったことがあるって言ったろ?』
そう、早坂はニュートリーヌ皇国との戦いに参加したことのある1人だった。
『あの時もな、やたらとハイになる奴は後々で精神的にもバテちまった。要するに、首都の包囲戦まで精神が持たなかったんだ。だが、冷静に、大局的に物事を見られた奴は最後まで任務を全うしたんだよ。杉田1等陸尉の隊なんかはまさにそうだったって聞くな』
杉田はニュートリーヌ皇国戦において冷静沈着に行動し、『やるべきことをきちんとやった』という点が防衛省に高く評価され、現在はさらに上の地位へ上がるべく幹部試験に備えて勉強している。
彼が順当に上の地位となれば、必然的に副官の小野2等陸尉が上へ引き上げられて部隊を指揮、その上に杉田が立つということになるだろうと周囲にも期待されていた。
もっとも、当人からすれば『たまには帰って子供の顔が見たい』というのが結構切実な願いだったりするのだが、今の日本を取り巻く情勢はそんなことさえも中々許してくれないのである。
『ま、杉田1尉って噂じゃ休日に奥さんが面会に来てくれたのが嬉し過ぎて空き部屋に引きずり込んでたっぷりとイチャついたとかで駐屯地司令から大目玉食らったって噂もあるけどな』
「全然冷静じゃない!?」
そもそも、そんな問題を起こしながら(相手は自分の奥さんなので問題と言えるかどうかは色々不明だが)それでも彼が残されているあたり、いかに今の自衛隊が人手不足か窺える。
ちなみにこの噂は本当だが、大目玉、に関しては違う。
怒られたのは事実だが、基地司令は苦笑交じりに『我慢できんのは分かったが、そういうことは家でやれ』と減給で済ませたという。
ちなみに、防衛省及び政府に報告したらやたらと重く受け止められ、『自衛隊員のストレス発散についての会議』についての議論を大幅に加速させる要因となったのだが、それは別の話。
最後に1つ、この時のことがきっかけで、杉田はもう1人子供を授かった。
それが息子で、20年以上後に自衛隊に幹部自衛官として入隊、名を残す指揮官になるのは、遥か未来の話である。
再び閑話休題。
『……ま、要するに人間なんてどうにかなる時はどうにかなるのさ』
「えぇ……?」
早坂は能天気そうに言うが、あえて道化のような言い回しを演じることで武藤の気を軽くしてやろうということのようだ。
『まぁ、いずれにしても数以外は脅威じゃないから、あんまり気負うなって』
「……ありがとうございます」
武藤もそんな先輩の気遣いに気が付かないわけではなく、深呼吸して体を解して再び警戒に臨むのだった。
――2029年 11月16日 日本国 東京都 首相官邸
この日は、エルメリス王国の防衛体制が万全に近い状態を維持できるような体制が整ったという報告から、戦後処理についての会議であった。
「戦後処理、とは言うけど……別に我々が損害を被ったわけじゃないから、エルメリス王国に戦後処理はこうした方がいいと教導するようなものか?」
法律問題という点では法務相、戦争という点では防衛相の方が詳しいので、そちらに質問する。
「そうですね。我々は戦後に資源を少々、そして先史文明に関する情報を頂ければ戦闘に関する報酬としては十分かと」
「はい。使用する兵器が少々高額……特に、対戦車兵器が目白押しですが、古い型番の物から処分するような形にしておりますので、ある程度は新兵器に更新することで賄うつもりです」
「少なくとも、協力的なエルメリス王国を拒む理由は日本にはなく、国際機関が存在しない以上、我々及び、友好国に国家としての承認を仰ぐしかありませんな」
「やはり、旧世界で言う国際連合的な国際機関の設立、そして国際刑事警察機構の設立も急がなければな」
「しかも、有名無実なものにならないような法的拘束力のある機関が必要ですね」
現実で言う国際連合は、常任理事国であるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5ヵ国で構成されているが、国連の条文の1つに『常任理事国が1国でも反対すれば提案は可決されない』という文がある。
そのため、アメリカが提案することにはロシアや中国が反対し、逆に彼らが提案することには残りの3ヵ国が反対するというものであった。
そんな組織にしないためにも、日本が強力なリーダーシップを発揮し、前世界の轍を踏まないように慎重に事を運ぶ必要がある。
「そうですね。その点は法整備をもっと進める必要がありますし……」
「ひとまず、グランドラゴ王国とシンドヴァン共同体を巻き込んで協議していこうと考えています」
「もっとも、当の日本も国連においてはさほど発言力があるわけではない存在だったので、旧世界の悪例を引き合いに出して両国にも理解を求める必要があると思いますがね」
法務相の苦笑交じりの言葉に、首相も同じように苦笑で返して『笑えん話だが』と続いた。
とりあえず戦後処理と言うか帝国への要求に関してはほぼ決まっていることなので、あまり話すことはなくなった。
だが、この日はもう1つ、重大な話をしなければならなかった。
「で、防衛相。『F―5』についてだが……」
それは、『F―15J改』の後釜として本土防衛を担うことになる、『F―22』相当の戦闘機である。
ただし、試験機ができあがった後に『反重力器官』が見つかったため、それを搭載できるかということと、器官を搭載した場合にどれほどの効果が得られるのかを研究する必要が出たため、未だに量産化に至っていない。
「はい……正直申し上げまして、量産化したとしても高額になることは避けられなさそうです」
「やはり、高額化は避けられんか……予定数を減らすことにはなりそうか?」
何せ、とにもかくにも『ステルス塗料』の塗布とその整備のために予算がバカ食いされるのである。
実際、旧世界でも『F―22』を数百機以上も調達する予定だったアメリカでさえ、180機前後で諦めている。
ちなみにこれは『F―22』のみならず、ステルス軍艦として運用思想が『戦艦の再来』とまで言われていた『ズムウォルト級』も、あまりに値段が高騰したために30数隻建造される予定が技術的試験艦として3隻しか建造されなくなったというのは有名な話である。
「そうですね。財務相とは既に会議しておりまして、調達機数を本土東……北海道から関東までの地域に集中することで、残りはマルチロール機である『F―6』に置き換えることとしました。また、東側でも『F―6』と空母機動部隊を用いることで防衛を万全のものにしたいと考えております」
「ただ、『F―5』の設計と製造により、『F―3』……『F―35』を遥かに上回るステルス性を確保することには、成功しました。これは後の兵器開発において、大きなアドバンテージとなるでしょう」
特に、旧世界の最新潮流となりつつあった無人機も、ステルス性を重視した形状になっているため、それを取り入れることは重要なことであった。
つまり、有人とは言え『F―22』に匹敵するステルス性及び飛行性能と空戦性能を得ることができたというのは日本の技術進化に大きく寄与をしたと言えるのだ。
無駄だったと言われればそれまでかもしれないが、それだけでは済まないモノが確かにあるのである。
「もちろん、航空自衛官がそれだけの操縦技術と戦闘技術を習得することが大前提となるでしょうが、前世界でも最高クラスの戦闘機を得たことになります。旧世界を基準とするならば、ですが……既に、新鋭機が開発されているので、先進国間では型落ちになっている可能性もあるでしょうが」
防衛相の少し悲しげな声に、首相は『そんなことはないさ』と慰めの言葉を掛けた。
「ロシアの『PAK―FA』か、中国の『殲20』と同程度の、猿真似に過ぎないかもしれないがな、真似の中にだって、自分たちの独自性を組み込むことはできる」
『PAK―FA』も『殲20』も、第5世代機と呼ばれる『F―22』に匹敵する能力を持つ……と、されている戦闘機である。
推力変更ノズルや超音速巡行能力、そして高いステルス性を有していると言われているが、なにせ秘密の多い中国やロシアの機体であることも影響して、情報はかなり少ない。
「そうならないように、オリジナルを研究させてもらっているわけですからね。それはそうと、設計から色々と変更になったため、武装を装備するパイロンの汎用性も高める設計に変更しました。対地ミサイルや、誘導爆弾(JDAM・LJDAM)も搭載できるようになるでしょう。『F―22』及び『F―35』同様にビーストモードにすれば、ステルス性を犠牲にする代わりに高い搭載量を見込めることになります」
『F―22』でさえも、本来は制空型戦闘機であるというのに爆装させられてマルチロール性をアピールさせられている時代である。設計を変更する必要性が出たならば、パイロンも含めてあれこれと変更してしまおうという考えであった。
「マルチロール性とステルス性と高い制空戦闘能力……全てを併せ持つ超高価な最強戦闘機というわけだ」
「そうですね。ハッキリ言って、『F―117』がコソボ紛争で撃墜されたようなことにならないように十分な配慮をするべきだとは思いますが、この世界の基準を考えれば、余程低空飛行をするか、飛び立つ前に先制攻撃を喰らわなければ問題ないかと愚考します」
アメリカが保有しており、現在は退役・保存されているステルス攻撃機『F―117』は、コソボ紛争において歩兵の携行対空誘導弾の『乱れ撃ち』で撃墜され、その残骸が中国およびロシアに回収されたことによってステルス技術が流出してしまったという苦い話があるのだ。
余談だが、飛び立つ前に先制攻撃を食らうという話も怖いが、第二次世界大戦の欧州戦線では、爆撃した『B―17』の攻撃終了を見計らって飛び立ち、そのまま『B―17』の着陸した航空基地を攻撃したという伝説を持っている人物がいる。
え、誰かって? 現代にまで語り継がれる急降下爆撃の『魔王大佐』ドノです。
「幸い、現在はGPSやレーザー誘導という便利なモノがあるからな。それと超音速で逃げられるという特性を用いれば、そう簡単にはやられんとは思うが……」
「既に開発部には、『墜落時には内部に残る燃料及び弾薬を自爆させて機体の研究を防ぐ』ことに関する研究をさせています。あ、『A―1』には施していませんが」
「あのイボイノシシもどきのイカトンボが被弾した『程度』でどうこうなるようなやわな機体ではないと思いますが……」
「ま、被弾上等を謳うほどだからな。パイロットも大分いい感じにイカれてきたそうだな?」
「ほぼほぼ米兵の影響ですね……なんでも、退役した元アメリカ軍人に『A―10』に乗ったことのある人物がいたそうで、その人物に色々と教導してもらったそうです」
『なんとも言えんな』と首相は再び苦笑を見せた。
「わかった。『F―5』については引き続き研究と再開発の続行を頼む。できることなら、イエティスク帝国と接触する前には量産体制に入っていたいものだな」
日本も諸準備を進めていく。
後段作戦、乙の南太平洋海戦がキツイ……集積地棲姫にボコボコにされたよぉ……
絶対リベンジしたる。
それはそうと、次回は8月の7日か8日に投稿しようと思います。