王太子の接吻事件
今月1話目となります。
タイトルで『はい?』となった方、最後まで読んでいただければ『あぁ』と納得していただけると思います。
――世界暦380年 8月10日 エルメリス王国 エルメリス空港 航空自衛隊 偵察航空隊
日本とグランドラゴ王国によって瞬く間に近代化が進められているオーストラリア大陸に存在する2つの国家の1つ、エルメリス王国の王都メリエルダの外れには、日本とグランドラゴによって建設・延伸された滑走路を持つ空港があった。
そこでは現在、航空自衛隊百里基地所属偵察飛行隊の『RQ―2』バルチャーが飛び立とうとしていた。
既にアメリカ大陸の工場で量産されつつある『RQ―2』は、本来ならば解散されるはずだった偵察飛行隊の存続を決定させる結果となり、既に大陸各地を含めれば30機以上が就役している。
偵察飛行隊そのものも大幅に増員されたが、大きな偵察は戦略衛星がやるようになったこともあり、偵察飛行隊の役目はどちらかと言えば敵地に侵入してもっと細かい情報を取ってくることとなっていた。
今回も偵察部隊の役目はバルバラッサ帝国の首都バルバロニア上空へ侵入し、衛星だけでは判断しにくい細かい情報を得ることである。
相手の保有している航空戦力が、航空自衛隊と比較しても遥かにレベルが低いからこそできる話である。
また、今回はそのレベルの低さゆえに最新鋭機(F―3)を大量に送り込むことははばかられたため、航空護衛艦『あまぎ』で運ばれ、カタパルトで射出された後空港に着陸した『FT―4』35機が主力を務めることになる。
『あづち』の『F―3B』は『FT―4』が来た時点で『あづち』へ帰投し、万が一対処できないほどの『数』が現れた時に出撃することが決まっている。
ちなみに、『FT―4』は55話で説明した『22式空対空誘導弾』ポッドを2基搭載しているため、全部で4発のミサイルを発射できることから、相手のワイバーンの数・50匹を考えると余程下手なパイロットが大量に撃ち漏らさない限りは問題ないだろうと考えられている。
何せ『FT―4』は元が『T―4』練習機なので、運動性能も高く、ドッグファイトでも負ける要素は少ない。
武装の12.7mm機銃もなんとか800発の弾丸を搭載するスペースを確保したため、高度を活かした一撃離脱戦法も用いれば十分に太刀打ちできるだろうと考えられていた。
『RQ―2』もまた、基地を発進した後に日本沖合で航空護衛艦『あまぎ』に着艦し、そのまま搭載されて運ばれてきたものである。
機数は合計3機。ローテーションを組ませることを考えれば3機で十分だろうと統合幕僚監部には判断されていた。
エルメリス空港の即席管制塔から、滑走路上にタキシングしている『RQ―2』バルチャーに指示が飛ぶ。
『管制塔よりメルダ1へ、離陸を許可する』
『こちらメルダ1、これより離陸する。土産話を楽しみに待っていてくれ』
『こちら管制塔、イイ話を楽しみにしている。帝国の羽トカゲには十分注意されたし』
『了解。油断しないよう注意する』
『RQ―2』のターボファンエンジンに火が灯ると同時に、機内に装備されている『反重力装置』が電気信号を受けて作動し、一気に機体が軽くなる。
『メルダ1、テイクオフ』
『安全な帰還を祈る』
勢いよく走りだした機体は、わずか500m(本来ならばこの水準の航空機は1km以上の滑走路を走る必要がある)で『フワリ』と浮き上がると、聞いたことのない者たちからすれば『雷鳴のよう』と言われるアフターバーナーの轟音を上げながら、目にもとまらぬ速さで空の彼方へと消えていった。
『RQ―2』が見えなくなるまで見送ると、空港管制官を務める丸山2等空尉は、『ふぅ』と息をつきながら背もたれによりかかった。
「お疲れ様です、円山先輩」
「犬飼か」
後輩管制官の犬飼3等空尉が、コーヒーを差し出していた。
「全く、政府も色々無茶を言ってくれるよな」
「でも、俺は楽しみですよ。だって、『俺たち』の起源が分かるかもしれないっていうじゃないですか」
そう言う犬飼の耳には、セントバーナードのような犬耳が見える。顔立ちも日本人のようなアジア系ではなく欧米人のような顔立ちだ。そう、彼は大陸系日本人であった。
元は大陸東部の川沿いに住む犬耳族の少年だった。好奇心旺盛な彼は、日本に吸収されたことで、勉強によって知識を得ることに目覚めた。
転移から10年が経ち、18歳になるころには大学及び専門知識の多くを身に着け、その優秀さから特例枠として防衛大学校に入学。そして卒業して憧れていた航空自衛隊の航空管制官に就職した。
そんな時、政府が新しい国……しかも、この世界ではほかの国に認知されていないであろう存在を見つけ、援助することを決めたと聞いた。
しかも、驚いたことに自分たち亜人族の起源となる情報があるのかもしれないという仮説を政府は立てている。
これを聞いた時、犬飼は矢も楯もたまらず海外派遣へ志願した。
そして、今ここにいる。
「俺は、歴史の1ページになるんだ……」
「独り言もいいけど、ちゃんと仕事しろよよ」
厳しい先輩だが、円山はこの異種族の後輩のことを高く買っている。
彼らは、『RQ―2』が持ち帰るであろう情報を楽しみに待つのだった。
――同日 バルバラッサ帝国 首都バルバロニア上空
太陽が中天に差し掛かる頃、エルメリス空港を出発した『RQ―2』は相手の首都上空に辿り着いて偵察を行なっていた。
偵察機パイロットの根来3等空尉は、眼下に広がる、時代劇やドラマ、アニメにでも登場しそうな古い街並みに思わず『ヒュゥ』と口笛を吹いていた。
「こりゃ凄いな。フランシェスカも古かったけど、木と石を組み合わせた建築様式の多かったフランシェスカと比較すると、こっちはまるで古代ローマみたいなほぼ完全な石造りの家が多い気がするな。ちょくちょくエルメリスにちょっかい出してエルメリスの発展を妨げているらしいが……当の自分たちは随分いい思いをしているようだな」
根来の後ろ、モデルとなった『RF―4E』ならば後部座席が設置されている所にはAIロボットが搭載されており、首都バルバロニアの姿を映像及び写真撮影し、次々と本部へ転送する。
すると、ロボットが『ピピッ』とアラームを鳴らす。
『燃料、40%を切りました。あと30分で帰還不能残量に達します。また、データの収集率は上層部の要求する数値を十分満たしていると判断できます。一度帰投するべきです』
AIが機内のデータを把握し、損傷具合、燃料の残りなどの情報から、どうするべきかをパイロットに判断させる機能である。
「了解。そういうことなら、一度離れるかね」
機首を翻して首都から離れるが、保有しているはずのワイバーンに追われるような気配は微塵もない。
恐らく、エルメリス王国が航空戦力を持っていないことから上空を哨戒飛行するという概念が薄いのかもしれない。
「よし、んじゃおさらばおさらば……ん?」
根来は軽口を叩き帰投しようとすると、地上の土でできた滑走路らしい物から飛び立とうとする影が見えた。
『敵飛行戦力を確認しました。現在離陸準備中の模様。脅威度低レベル。飛行してきたとしても速度の関係から追い付けるものではないと考えられます。また、攻撃方法も単調なものというデータがありますので、脅威度レベルは変りませんが、我々の存在をあまり知られるのも得策ではありません。今のうちに離脱することをお勧めいたします』
日本が開発したAIシステムは、これが意外とよく喋るのである。お陰で、パイロットは寂しい思いをせずに済んでいた。
これもあって、偵察機パイロットは独り言を呟く者が多いという状態になっている。
当然、飛行していない時にもブツブツと独り言を呟く癖が出るものだから、他の人には変な奴扱いされることが多くなるのだが、本人たちは気にしてない上に、かつて『F―4EJ改』ファントムに乗っていた者たちも複座型という特徴からお喋りの者が多く、むしろ仲間扱いされるようになるという現象が起きるようになる。
その結果、かつてファントムが空を飛んでいた時のことを後方勤務になったベテランから聞くことができるということで意外と高評価だったのだが、それは別の話。
と、ワイバーンが上昇してくるが、5千mまで上昇した『RQ―2』を下の方から見るだけでそれ以上は上昇できないようだ。
「……ワイバーンが高度4000mまでしか上がれないって話は聞いてたけど、本当だったんだな」
『所有しているデータによれば、ワイバーンは体内の反重力器官を用いたとしても〈体重を打ち消して浮き上がる〉のが精一杯のようです。それ以上の飛行には、強力な羽ばたきを必要とします。また、呼吸などの限界から、これ以上は無理であるというのが収集されたデータの結果となります』
ワイバーンは意外に重く、その体重は優に200kgを遥かに超える。それを打ち消すだけの力を発揮するというだけでも反重力器官の凄まじさが窺える。
防衛装備庁と川崎重工業はこの反重力器官を用いて超・大規模輸送機を作ろうとしているわけだが、反重力器官の出力を上昇させ、さらにいくつも配置しなければならないので、その収集に時間がかかりそうであった。
グランドラゴ王国やイタリシア王国など、ワイバーンや巨鳥を有する国から多数を輸入しているため、2国にとっては貴重な外貨となっている。
「そうだよなぁ……んじゃ、とっととお家に帰るとしますかね」
最後の最後まで軽い口調を維持したまま、根来は瞬く間に飛び去っていったのだった。
『上空に見慣れない影を見つけた』と対空監視所から報告があったため、空軍は飛竜隊を発進させ、要撃に当たらせようとした。
しかし、相手飛行戦力は目にも止まらない速さで飛び去っていってしまった。
飛竜隊の隊長を務めるエルヴィスは、自分たちの想像を遥かに超える力を見せつけた飛行物体を脅威と感じていた
「……なんだったんだ!?今の飛行物体は‼」
近くを飛ぶ部下も大声で話しかける。彼らはまだ技術の関係上通信機の類を持っていないので、コミュニケーションを取るには接近して大声で話しかけるしか方法がない。
「分かりません‼ 少なくとも、友軍は現在飛行している者はいなかったはずです‼ 要撃で上がった我々が最初に空へ上がった存在のはずです‼」
「本当か!?」
「そんな馬鹿な‼ じゃああれはなんだというんだッ‼」
「我々は、なにと戦っているんだ……?」
日本の存在を知らないバルバラッサ帝国は、意味不明な脅威に怯えつつも侵攻のために力を蓄え続けるのだった。
一方、日本側もそれは同じである。帝国の攻撃に対して、同じく備えを継続させるのだった。
――世界暦380年 8月22日 エルメリス王国 港湾都市アルフロイ
これまた日本の改良が『少しだけ』施されて多数の船舶が一斉に停泊・接岸できるようになった港湾都市アルフロイ。
こちらでは現在、日本のみならずグランドラゴ王国の船舶も多数訪れるようになっていた。
日本からの要請を受けて、彼らの近代化に必要な歩兵砲やカノン砲に歩兵銃、さらに『リチア軽戦車』や王国が開発した兵員輸送車などを積んだ輸送船(日本の貨物船を参考に、王国が日本から導入したブロック工法で建造した船舶)も多数接岸していた。
中でも、グランドラゴ王国最大の輸送量を誇る(と言っても、日本の中型自動車運搬船に近い大きさだが)巨大輸送船舶・『ガビル・ドラゴニュート』が入港しようとしていた。
この船はドラゴニュート19世の息子であり、王太子の名前を冠する船であった。何故このような名前になったのかと言えば、『前線の者たちを支える一助となりたい』というガビル王太子の望みであった。
ガビル・ドラゴニュートは日本の書籍で軍事を勉強し、前線への兵站を途切れさせないことが戦争では重要なことであると知り、新しく建造された輸送船に自分の名前を冠してほしいと造船した『スワンプ造船』に依頼したのだ。
彼は特に、日本が第二次世界大戦から現代にかけて補給船及びそれを形成・維持する能力が十分でないことで、米軍の潜水艦及び航空攻撃によって大いに苦しめられたという話を聞き、そう頼んだのである。
『偉大な王太子の名前を冠してほしいとは大変名誉なこと』として、建造当時王国の新聞では大騒ぎとなったほどである。
そんな船が、ゆっくりとアルフロイの港に入港しようとしていた。
ドワーフ族でこの船の船長を務めるシールは、眼前に見える日本の輸送艦や補給艦、更に軍艦を見て緊張していた。
「凄い賑わいだな。他の船にぶつけないように注意しろ」
「はい。タグボートがあればもっと助かるんですが……よく見ると、日本のタグボートもほとんど見られませんね?」
「そりゃそうだ。贅沢言うなよ。日本も我が国も、こんな辺鄙な所まで派遣できるほどの数はないんだからな」
「まぁ、確かにそうですけどね……」
『ガビル・ドラゴニュート』は波によってわずかに揺られながらもゆっくりと港の奥へ進んでいく。
その『ガビル・ドラゴニュート』の目の前に、かなり先進的な形状の軍艦が停泊しているのが見えた。
「ん? あれは……」
「日本の新鋭艦……えぇと、『たかお』という名前だったと思います」
「日本製の最新防空システムを搭載した軍艦か。なんともスリムだな」
スサノオシステム搭載型護衛艦1番艦『たかお』は、王国の戦艦からするとスリム過ぎて頼りなくも見えるが、その底力は戦艦よりもはるかに高いと言われている。
「くれぐれもぶつけるなよ。国際問題になりかねん」
「分かってますよ」
航海長がゆっくりと船の動きを操作する。
だが、その時事件が起きた。狭い湾内で多数の船が行き交うということは、それだけ互いの発する波の影響を受けるということでもある。
この時、別の所から出港しようとしていた日本の自動車運搬船が発生させた波が、『ガビル・ドラゴニュート』に対して強烈に直撃した。
揺れ自体は大したことはなかったのだが、航海士が誤って舵輪を『たかお』の方へと動かしてしまう。
「うわぁっ‼」
「総員、なにかに掴まれッ‼」
相手は自分たちを遥かに超える排水量を誇る超大型船である。それが起こす水量たるや、彼らの想定をはるかに超えていた。
「だ、ダメだ‼ ぶつかるッ‼」
その直後、『ガリガリ』という嫌な音を立てて日本の『たかお』に、『ガビル・ドラゴニュート』はぶつかってしまっていた。
「被害確認! ぶつかった艦の被害確認も急げっ‼」
「了解‼」
幸いなことに軽微な損害で済んだようだが、シールは軍艦にぶつかってしまったことに顔を青ざめる。
「なんてことだ……やってしまったぞ‼」
「も、申し訳ありません船長‼」
舵輪を握っていた航海士が真っ青になりながら頭を下げる。彼は責任感だけで今船長の前に立っていた。
そうでなければ、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだっただろう。
「……いや、お前の責任ではない。多くの船が行き交うこの状況を、私がもっと考慮した指示を出すべきだった」
相手の被害を副船長が確認したらしく、ブリッジへ戻って来た。
「どうやら、相手は左舷の一部がへこんだ程度で済んだようですが……」
「いや、『へこむほどの損害を与えた』と考えておくべきだろう」
船長は最悪の想定をするべきだろうと考えていた。
場合によっては、自分のみならずこの船に乗っていた者全員の首が切られることになるだろう。だが、なんとか交渉して、少しでも部下たちの罪は軽くなるようにしてもらわなければならない。
「……俺の荷物に王国最高級のブランデーがあったな?」
「は? はい、ありますが……あれは船長の」
「それを持ってこい」
「船長?」
「……お詫びに行くのに、手土産もないのは失礼というものだろう」
シールは、たった1人で日本の軍艦に乗り込む決意をしていた。
日本人はこの世界の住人たちから比べるとかなり穏やかな人間性をしていると聞く。だが、自分たちの軍艦がぶつけられたとあってはどうだろう……シール船長はそう考えていた。
「そ、そんな!」
「無茶ですよ船長‼」
「無茶も紅茶もあるものか‼ここで誠意を見せなければ……王国の船乗りの名が泣くだろう‼」
それでも、誇りあるドワーフ族が非を犯したにもかかわらず謝らないというのは彼の中ではあり得ない話であった。
「短艇を準備しろ! 急いで謝罪に行く‼お前たちは、引き続き接岸作業をしていろ‼」
「は、はいっ‼」
部下が用意した短艇に乗り込んだシールは、急いで日本の護衛艦『たかお』に乗り込み、艦長への面会を求めた。
面会の要求はすぐに受理され、シールは副艦長によって艦長室へ通された。
艦長室では、『たかお』艦長の津村が待っていた。
「グランドラゴ王国物資輸送船『ガビル・ドラゴニュート』船長のシールと申します。この度は、大変申し訳ないことをしてしまいました。その……お口に合えばよろしいのですが……」
シールは頭を下げながら素早くブランデーを差し出した。津村は日本人らしく『ご丁寧にどうも』と言いながらひとまず受け取っておく。
「『ガビル・ドラゴニュート』……あぁ、王国で最近建造された、最新鋭の輸送船でしたね」
「ご、ご存知でしたか……波にあおられてぶつけるなど、船乗りとして未熟な証! しかし、責任は船長である私にあります‼ どうか、どうか国際問題にだけはしないでいただきたいのです……」
シールはこれ以上ないほどに頭を下げた。
だが、津村はどこまでも穏やかだった。
「いえいえ。謝らなければならないのはこちらの方ですよ」
「……え?」
「ウチの『たかお』にキスしていただいて誠に光栄であるというのに、そのように気を使わせてしまって、本当に申し訳ないです」
「あ、え……?」
すると、津村がチラリ、と某艦船擬人化ゲームの『たかお』のイラストを見せた。そこには、『バカめ、と言って差し上げますわ』と書かれた、可愛らしくも美しい、長身でグラマラスな黒髪の女性のイラストが描かれている。
一応名前上は『高尾山』の方の『たかお』なので、『高雄』の『たかお』とは違うと言えば違うのだが、そこは日本人らしくこじつけたのである。
「いや……その……あ」
ここでようやくシールは気付いた。
「(もしや、日本側は今のジョークで『気にしていない』ということを伝えようとしてくれていたのでは!? な、なんというユーモアセンスだ‼)」
旧世界でも、海上自衛隊の練習艦『かしま』がアメリカに寄港していた際に、イギリスの客船『クイーン・エリザベス』号にぶつけられるということがあった。
しかし、国際問題になりかねない話であるにもかかわらず、時の『かしま』艦長は謝罪に来た船長に対して笑顔で『女王陛下のキスを受けられるなど、光栄であります』と返したと言われている。
これは、日本の海上自衛隊(ひいては旧海軍)が元は英国海軍の流れをくむ組織であり、『英国紳士たるもの、いつ何時でもユーモアを介せなければならない』という考え方に基づくものだった。
これは日本でこそほとんど話題にならなかったものの、海外のメディアは海上自衛隊の見事なユーモアをこぞって取り上げたという。
津村は、そんな先人に倣ったのだ。
実際のところ、幸い『たかお』は多少艦体がへこみはしたものの、戦闘行動に支障はない場所だった。
有事となっても無傷で帰還できればその後で修理すればいい程度の損傷であることから、後で市ヶ谷(防衛省)と外務省に報告する必要はあるだろうが、日本では問題にならないだろうと考えている。
「そうだ。そういうことでしたら、今夜我が艦は当直を残して非番の者ばかりなのですが……」
「は、はい?」
「今宵このブランデーを、皆で頂こうではありませんか。『王太子殿下からの』賜り物ということで、我々の友好を祝して」
津村がウィンクすると、シールは『あぁ、完全に負けた。見事なものだ』と諦観の境地に至った。
そして、ようやくシールも笑顔を見せた。
「……艦長、そのパーティー、ぜひ船員一同と共に参加させていただきます」
「えぇ。皆で大いに楽しみましょう」
その夜、船員と海上自衛官の交流という形で祝宴が開かれ、双方大いに楽しんだのだった。
このことはそれぞれの大使館や外務省、外務局経由で両国の報道機関に伝わり、『津村艦長の神対応』として各国で大々的に報道されることになるのだった。
ぶつけられたのは日本側であったにもかかわらず、謙虚に相手を持ち上げて『気にしないでほしい』という姿勢を見せた日本人独特の感覚と、英国海軍から受け継いだセンスあってのものである。
今回報道されたのは、やはり日本人が自衛隊という存在に対して強い関心を示すようになったからであろう。
津村艦長は日本で称賛されたのみならず、グランドラゴ王国からも『名誉国民』の称号を貰うのだった。
アーケードでは後段作戦が発令されましたが、その最中に瑞鶴改二と榛名改二(中破ホロ)がこの手に……いやぁ強いのなんのって。
特に瑞鶴。搭載機数加賀並のクセに加賀よりはるかに足が早くて搭載機数のバランスが良くてと……反則ですね。
次回は24日か25日に投稿しようと思います。




