石橋を叩いて壊したら意味ないけど、その見極めは難しい
今月2話目となります。
ここ数か月ほど、光人社NF文庫シリーズの様々な本を読んでいますが、1冊読むごとにまだまだ知らないことがいっぱいだと気を引き締める事ばかりです。
謙虚に学ぶ姿勢を忘れないようにしたいと思います。
――世界暦380年 6月10日 エルメリス王国郊外 エルメリス空港
ここでは現在、長距離を航行できる航空機も離発着できるように滑走路の延伸工事が行われていた。
幸いなことに元々しっかりした作りになっていたため、日本側も延伸工事は最低限で、それ以外の管制塔や備蓄タンクの設置にかかっていた。
普通科隊員などもできる限り手伝っていたが、とにかくやってもやっても仕事が終わらないという状態に陥っていた。
だが、この場所はいつバルバラッサ帝国が攻め込んでくるか全くわからないので、皆必死なのだ。
とりあえず恐竜軍団の攻撃を防ぐため、今まで木造の防壁しか存在しなかった街を改造し、なんとか石造りの壁を作る必要があった。
厄介な重量級草食恐竜の攻撃にある程度耐えられるようにしないといけないので、教導する自衛隊側も熱が入る。
幸いなことに町から少し離れた所に多数の石材が見つかったため、それをトラックで運びこんでから施設科が一気に加工し、日本から持ち込んだ接着用の素材を用いて固めていく。
本当はコンクリートなどを使いたいところなのだが、『持ってくるのが大変』ということで、石と木材を組み合わせた複合防壁にすることにした。
更に、今の彼らにもできる対抗戦術についても教導していた。
「つまり、石造りの防壁さえ作れば、大型の投石機を搭載して高い所から石を投げつけることも可能になる。しかも、中くらいの石を大量に投石機で投じることができれば、歩兵及び竜騎隊にも大きな被害を与えることが可能になります」
今までは木造の防壁ばかりで投石機を設置するほどに積載できないため、投石機を城壁上に設置するという感覚がなかったのだ。
投石器自体はドワーフ族の設計によって存在したものの、壁の向こう側から固定式のモノを使用していたこともあり命中率が非常に悪かった。
しかも、防壁自体が木造で非常に脆弱だったこともあって、重量級恐竜の前にあっさり突破されてしまうことがほとんどであった。
当然、投石器のみならず大型弩弓を使用するべく設計してはいたものの、大型化する弦の加工技術が未熟だったこともあり、実用できないと判断されていた。
だが、日本が加工した天然素材由来のしなりのある強固な弦を用いることで、これは解決することになった。
さらに、日本が簡易的ではあるが街を覆うように石材と木材の複合壁を作ることが決定したため、投石器を設置することも考えられていた。
また、日本が黒色火薬の製造方法を教授したことによって、陶器の壺に火薬を詰めて投げつける『焙烙』をドワーフが設計した。
日本はあえて火縄銃の作り方は教えようとしなかったが、王国側は日本が使用した武器が銃だったことは古代の知識から分かっていた。
そのため……
『原始的でいいから銃、或いは大砲の作り方を教えてほしい』
と見事にDOGEZAされて『バレているのなら仕方ないか……』と政府が判断した。
これにより、とりあえず輸送もそれなりに楽であろう『三八式野砲(改造前)』、さらに銃も下手な旧式で負けても困るので、太平洋戦争時まで用いられたどころか、戦後も命中率の高さから海外では猟銃として使われている『三八式歩兵銃』及び『ガトリングガン』の製造方法と運用方法をグランドラゴ王国に依頼して教導することにした。
また、歩兵の拳銃も必要になるだろうと考えられたため、海上保安庁で採用されていた旧式の『ニューナンブM60Ⅱ』をグランドラゴ王国向けで生産していたラインの一部を回して供与することも決定している。
製鉄技術も明治時代相当に発展させようと考えているため、せめてクルップ鋼やニッケイ・ハーヴェル鋼を作れるようになり、『戦艦三笠』レベルのモノが作れるようになってもらわないと困るというのが日本の考えであった。
艦船の建造方法に関しては、グランドラゴ王国に依頼して旧式となった技術を輸出してもらうつもりである。
つまり、鎌倉時代レベルの人間たちに、産業革命後の知識を与えようというのである。
もっとも、教えても実践できるようになるには年単位の勉強が必要になるため、今回の戦いは全面的に自衛隊が戦うことも決定していた。
既に補給艦と輸送艦を動員して援軍は要請済みである。
「遠距離武器による飽和攻撃を見舞う……つまり、敵の射程外から攻撃を加えることで、できる限り敵の数を減らすことが重要なのです」
「な、なるほど……」
これまでの王国はもちろん、元々『この世界』にはあまり『スタンドオフ』という概念が広がっていない。
あくまで遠距離兵器は歩兵を減らすための補助という位置づけで、最終的には歩兵の突撃及び制圧で戦場を制することが重要であった。
これは先進国であったグランドラゴ王国やニュートリーヌ皇国でさえもそれほど変わっていない。
「確かに、敵の総数を減らしておけば後が楽になる……もっと精密に狙えるようになれば、貴殿ら自衛隊のように遠距離武器のみで敵の殲滅も可能になるのだろうな……」
「我々ももっと進歩しなければなるまい」
「幸い、日本が基礎的なことは教えてくれるから覚えられさえすればあとは自分たちで発展させることも難しくないだろう」
「日本からも基礎技術の本をたくさん買い込まねば」
王国の軍人たちが次々とメモ(日本からもらったメモ帳と鉛筆)を取っていく。
当然日本の自衛隊の兵器の性能も記録していく。
クラスター弾や榴弾砲のような面制圧兵器も研究を開始するとのことで、たまたま一部の陸曹が持ち込んでいた『水滸伝』を参考に、作中に登場した『母子砲』を作れるようにと考え始めた。
史実で言うと拡散型砲弾を詰め込んだカノン砲と言ったところである……早い話が、散弾銃の超巨大版だ。
「既存の兵器ですぐ供与してほしいというのであれば、我が国に今残っている『27式迫撃竹槍』と『27式ロケット竹槍』をお譲りしますよ」
複合素材などはほとんど使用していない、ガネーシェード神国に対抗するために作った竹製の武器が大量に残っているため、それを押し付け……供与してあげようと考えたのだ。
使い方も割と単純で、どういった効果が出るからこのように使えばいいということを説明できれば、文明水準を考えると十分に強力な兵器である。
だが、座学でなく実際に教導する時間も惜しいので、今はとにかく自衛隊を緊急配備して帝国軍を追い返せるようにしておかなければならなかった。
ちなみに、一番問題だった国内の意識に関してだが……
『この世界の秘密が明らかになるならちゃんと最後までかかわるべき』
という意見が多数寄せられたため、満場一致で可決となった。
既に基地には半日以上をかけて飛行してきた『C―2改』が2回以上資材の補給を行い、基地は半ば完成していた。
また、もうしばらくすれば艦隊も到着して搭載されている車両や物資が大量に届くようになる。
幸い道は元々しっかりしていたこともあって、まだアスファルト舗装こそしていないものの、かなり安定した走りができる状態である。
現在自衛隊が活動している座標は既に本国に伝えられているため、それを支援部隊はタブレット端末で受け取って向かえば済む話となっている。
港湾都市アルフロイでも港の整備が進められているが、水深自体は元々問題なく、港の状態もそれなりに良好なので、どこにどの船を停泊させるかということさえ決めればなんとかなりそうなのが救いであった。
王国側は全面戦争に備えて、できる準備を開始した。
――2029年 6月24日 日本国 中央アメリカ ベイナリタ地区 日本製鋼所工場
「何ですって!? 100年以上前の野砲の作り方を復習してほしい!?」
工場内で怒鳴っているのは、砲兵器設計主任の烏丸という人物であった。
彼に頭を下げているのは、本社から来た営業課長である。
「そこをなんとかできないかな? 『この会社じゃなきゃできないだろう』って……政府の威信もかかってるんだよ……」
烏丸は頭をボリボリとかいて『そんなことを急に言われましてもねぇ……』とこぼした。
「前提から話さなければいけませんが……いいですか? 現代日本と明治時代の大砲とではエネルギーの燃焼効率やライフリングの精度まで、あらゆる技術が違うんです。『三八式野砲』って……日露戦争直後くらいの大砲でしょう? そんな時代の大砲、作ったことあるわけないでしょうが!」
だが、営業課長は『そんなことはないぞ』と昔の資料を引っ張り出した。
「……なんですか、それ?」
「記念艦三笠を修復した際、わが社が手掛けた副砲の修理記録だ」
「え!? そんなの初耳ですよ!」
営業課長は『その反応を待っていた』と言わんばかりにうんうんと頷いた。
「実はな、荒廃していた三笠を修理した後、艤装するのに我が社が7.6cm副砲の修理を行なったことがあるんだ。これを参考に製造できないかな?」
資料を見るとかなり古いが、確かに日本製鋼所でレプリカとはいえ副砲が作られたことが書かれている。
その時の資料は現在も厳重に保管されていたようで、現代の人にも読めるように電子化、翻訳されている。
ただし、それはあくまでレプリカだ。
「確かに、これを見ると当時そういう設備があったようですけど……あくまでレプリカの話でしょう?」
「確かにレプリカだ。だが、そこに『本物の』設計図があったらどうだ?」
「そんな物残ってるんですか?」
営業課長はまたも『ニヤリ』と笑った。烏丸はこれだけで『イヤな予感が……』と冷や汗を流す。
「あるんだなぁ、これが」
営業課長が得意げな顔で取り出したのは、英語で書かれた設計図だった。しかも、結構新しい。
「これって……ん? 『クォーツ』級戦艦の副砲? もしかして……グランドラゴ王国の設計図ですか?」
「当たりだ。王国に交渉して、譲ってもらったものだ」
「よく譲ってくれましたね?っていうか……主砲に関することも? なんでこんなに色々と?」
「実はな。本当はまだ極秘だったんだが……我が国で蒸気機関車よろしく、『戦艦三笠』を稼働状態で作ろうという声が上がっていてな」
「は? またなんでそんなことに?」
「旧世界のアメリカのように、『動態保存された古い軍艦』が見たいという声がマニアの間から上がっているんだと。それで政府がグランドラゴ王国に協力を要請して、この設計図をもらったってことらしい」
正確に言えば『クォーツ』は日本で言う『富士型戦艦』に近いので三笠にしようと思うと色々と手直しするところは多々存在するが、そこはそれ。国内の資料や設計図を参考になんとかするつもりであった。
見れば、主機関以外はほぼ忠実に再現するつもりらしい。主機関を再現しないのは、環境に配慮してのことである。
「そんなバカな……本気ですか?」
「あぁ、本気だよ」
どうやら、日本人のイカレっぷりもかなり高まっているらしい。ただでさえ余裕のない状態だというのに、そんな物を作ろうというのか。
「それもあって、当時の設計図を購入したんだ。王国からすればもう旧式技術になったということもあって『はいどうぞ』ということだったらしい」
「なんとも面倒な……でも、それで作るものをその……えーと……エルメリス王国?に供与しようっていうんですか?」
「あぁ、できる限りでいい。弾薬の規格などは現代基準に調整してくれていいそうだ。それなら射程もそれなりに確保できるが、現代日本にとっては脅威でなくなるだろう」
「それはそうですが……分かりました。なんとかやってみますよ」
一応だが、『三八式野砲』の口径が75mm、三笠の副砲の口径が76mmなので、口径1mmは誤差の範疇といえばなんとかなりそうな部分もある。
また、完成品は後にフランシェスカ共和国やアヌビシャス神王国などの技術的後進国で技術獲得のためのライセンス生産が許可される方針だ。
ついでに言うと、艦砲ではあるがOTOメララの76mm砲の砲身もこれまで日本製鋼所が製造していた物である。
そのため、『できない』とは言えない仕事でもあった。
「頼むよ。特別ボーナスはたっぷり弾むと政府からのお達しだ」
「金より人手が欲しいですよ……いつになったら、この人手不足って解消されるんですかねぇ……」
「それはなんとも言えんな」
最後だけはバッサリ切った営業課長であった。
とにもかくにも、頼まれて受けるからには仕事をしなければいけない。
こうして、日本製鋼所はただでさえ忙しい状態の中、新たな野砲作りを計画するのだった。
ところが、先述のようにグランドラゴ王国から『我が国で旧式化した野砲でよければ輸出しようか?』という話が来て、なにも日本が全てやる必要はないかと政府が気付いて計画ができあがった瞬間に『待った』がかかって技術者たちががっくり来たのは別の話。
――世界暦380年 7月25日 エルメリス王国 首都メリエルダ
世界(新世界)基準で見てもおそらく最も小さく、国力のない国であろうと思われていたエルメリス王国だが、たった1ヶ月ほどの間に大きな進歩を遂げていた。
東京都より少し大きいほどの広さしかない街の周囲は、陸上自衛隊の施設科部隊によってあっという間に大きな空堀が掘られ、さらに堀の内側には石を積んで作られた防壁ができあがっていた。
さらに、その城壁に隠れるように多数の投石器や大型弩弓が設置され、日本から供与された『27式迫撃竹槍』と『27式ロケット竹槍』が城壁上の各所に兵士たちと共に配置されている。
武器も粗末な弓矢から日本から導入したコンパウンドボウになっており、これまでとは明らかに違う能力を発揮できるようになっていた。
これらは全て日本から供与され、さらにそれらを扱う人々の指導によって現在も厳しい訓練がなされている。
コンパウンドボウに関しては、第1空挺団が実戦を経たこともあって一番馴染んでいたため、彼らが指導を担当していた。
武器の製造に関しても陸上自衛隊とその道の職人たちが集まり、加工のための機械を多数製造し、工業地帯を作り上げていた。
元々『街は』東京都に毛が生えた程度しかないが、それ以外の土地ならば腐るほど余っているエルメリス王国である。
街の背後に日本の指導の下で巨大な工場を建設し、さらに兵糧戦にも耐えられるよう工場の側に広大な農地も拵えさせることにした。
なお、土地に関しては耕すだけでなく有機肥料で生育に適した土地にしてやる必要があったが。
工場は後に工業製品を作れるように工作機械を多数置けるようにと、日本の工業地帯並みの広大さに仕上げさせている。
わずか1か月と少しで稼働を始めた工場の燃料は多くが石炭であった。日本の調査で、このオーストラリア大陸は旧世界同様に良質な鉱山があることが判明し、石炭も多数存在することが分かった。
鉄鉱石なども産出したため、自国で資源をある程度賄えるという理想的な状況にこぎつけることができそうとあって、日本もひとまずほっと息をつくのだった。
特に日本が優先して作らせたのは、『大砲になる鉄の筒の作り方』と、『ネジ及びリベット及びビスの作り方』であった。
近代工業を行う上で中空の鉄の筒……鉄パイプが作れれば頑丈な足場を組むことも可能となり、リベット止めやビス止めの技術が浸透すれば旧泰然としているとはいえ、戦車の車体も作れる。
あとは車両やそれにまつわる内燃機関の技術なども提供しなければならないので、当面はグランドラゴ王国が作った『リチア軽戦車』を輸出してもらうことで原始的ながら機甲戦力を確保してもらおうと日本は考えていた。
だが、それらを成すためにも、まずは現状の防衛を確固たるものにしなければならない。
陸上自衛隊の派遣調査護衛隊として付いてきていた武藤は、徐々に規模が増していく部隊に唖然とする日々であった。
この日も彼は自身の乗る軽装甲機動車のMINIMIを握りながら早坂と通信していた。
「すごいよなぁ……ウチ(陸自)って、なんていうかもっと行動の遅い組織だと思ってましたよ」
『〈用意周到・動脈硬化〉だな。一度決まってしまえば、ウチは旧世界基準でも迅速な動きをしたんだよ。アメリカ軍とかと違うのは、〈決めるのが早いけど穴がある動きをして後悔することが多い〉アメリカに対して、〈動くまでに多大な時間と根回しを要するが、動き始めたら遠慮と容赦はないことができる〉のがウチってところかな』
先輩の早坂の言葉にも武藤は『ほぇ~』と言いながら街を眺めている。
『恐らくだが、本国はここを完全に橋頭保にするつもりだろう。先史文明の遺産を調査する上で、協力的な人たちを大事にするのは当然だからな』
「空港の整備もですか?」
『そうだな。お、また飛行機だ』
武藤もそちらの方を見ると、4つのプロペラが付いた巨大な飛行機が着陸しようとしていた。
「あれって『C―3』……ですかね?」
『どうかな?本国が〈AC―3〉も送り込むって言ってたらしいから、それかも』
ガンシップと呼ばれる『AC―130』を参考に『C―3』輸送機をガンシップとして改造した『AC―3』は、誘導兵器こそ搭載していないが、40mm機関砲や105mmライフル砲による地上への高い投射力を持つ航空機である。
現在では改良型が考案されており、『A―1』飛竜の機首に装備されている30mm多銃身機関砲『信長』を装備しようかという案が出ている。
要するに、相手が歩兵や恐竜ということであれば、対地攻撃機のようなものがあった方が便利なのだ。
「『A―1』は来ますかね?」
『可能性は十分にある……けど、航続距離の観点から、今回は『AC―3』だけじゃないかって俺は思うけどね』
『A―1』も燃費のいい高バイパス比のターボファンエンジンを用いているとはいえ、航続距離は1500kmほどと、元が輸送機の『AC―3』に比べてしまうとはるかに劣る。
途中に中継点がほとんど存在しないため、どうしても『AC―3』に軍配が上がったらしい。
「中継地点って言えば、旧世界で言うニュージーランドとポリネシア近辺の島くらいですからね……」
日本はガネーシェード神国との戦いが終わってから1年ほどの間にこのオーストラリア大陸に手を伸ばすべく、小さな島嶼部に補給基地と自衛隊が中心に利用する簡易空港を設立していた。
それもあって『AC―3』ならばオーストラリア大陸までは飛んでくることができるようになっていた。
『C―2改』は時間が惜しいということと資材・車両を運ぶ輸送機ということもあって空中給油機でどうにかしたわけだが。
「あれ?」
『どうした、武藤?』
「あれ、デリティーさんですよね?」
『え? おぉ、本当だ』
軽装甲機動車の先には、街の見回りをしているらしいケンタウルスに乗るダークエルフの美女の姿があった。
美しく、とても絵になる姿である、と早坂などは思っていたりする。
「デリティーさん!」
武藤が呼びかけると、デリティーも軽装甲機動車の方へ振り向いた。
「おぉ、カズヤじゃないか」
「見回りですか?」
「あぁ。それにしても、ニホンは凄いな。たった1ヶ月ほどの間にここまで街が生まれ変わるとは思っていなかったよ」
デリティーは感慨深げに呟くが、無理もない。いきなり文明レベルを数百年以上引き上げさせられているのだから。
だが、王国には幸いなことに先史文明という参考があったためか、意外に産業革命というモノをあっさりと受け入れ、科学や化学なども次々と取り入れつつあった。
港湾都市では日本とグランドラゴ王国の支援で造船所が建設されつつあり、来年からは明治時代レベルの軍艦の建造が始まることとなっている。
そうすれば戦艦や装甲巡洋艦、防護巡洋艦や駆逐艦などの建造によって近代的戦術をある程度覚えてもらえるだろうと日本は考えていた。
当初グランドラゴ王国は『旧式化しつつあるとはいえ、技術輸出をして大丈夫なのか』と日本に質問したが、『我が国でできる限り厳格に管理するつもりだ』と聞いたことと、グランドラゴ王国に対する更なる技術供与の約束で了承した。
なにせ、グランドラゴ王国は現在進行形で1900年代中盤の技術(MBTや複合装甲など)を得ようとしているのだから、今エルメリス王国が向かおうとしている所はそれから50年以上前の技術になるため、古い技術に固執していても仕方ないと考えた部分がある。
空母に関しても既に『ダイヤモンド』の船体を基にした『信濃』モドキこと、『ブラックダイヤ』が就役していた。
本当は2隻目の戦艦『ピンクダイヤ』を先に就役させたかったらしいが、『戦艦は金食い虫』な上に、『これからは空母の時代』ということも踏まえて空母を優先したらしい。
閑話休題。
「俺も驚きです。ここまで日本が本腰入れて王国を保護しようとするとは思いませんでした」
「先史文明の分析に関しては我が国に一日の長がある。いつでも力になると外交官殿やカズヤの上官殿に伝えてくれ」
「ありがとうございます!」
武藤とデリティーの会話が終わったのを見計らって軽装甲機動車が再び走り出すと、早坂から通信が聞こえた。
『武藤。お前、あのダークエルフのお姉さんに惚れたか?』
「ふぇっ!? きゅ、急に何言うんですか先輩!」
『別に悪いこととは言わないさ。ダークエルフの王子様と結婚した海上保安庁の元職員の女性は未だに有名だからな。お前は若いし、〈自分にもチャンスがあれば……〉と夢を見ることは誰にも咎められないさ』
それが事実なのは武藤自身がよくわかっている。
彼はすっかり、デリティーに惹かれていたのだ。
「……この一件が終わったら、彼女にアプローチしてみていいですかね?」
『そうだな……それは構わないと思うが、戦場で口にするなよ?』
「なんでです?」
『そりゃお前、死亡フラグになるじゃないか』
「えぇ~……そんな理由……?」
だが、ゲン担ぎという意味でもそういうことは言わない方がいいのだろう。
あまり映画や漫画に毒されるのもよろしくはないが、用心するに越したことはない、ともいえる。
『まぁ、あまり色々気にしすぎるなよ。〈これ終わったらちょっと食事に誘ってやるぜ〉くらいの軽い気持ちにとどめとけ。そうじゃないと、本当にそればっかり考えて戦場で油断や隙に繋がるからな』
「それは……はい。先輩の言う通りだと思います」
『よし。そう思うなら残りの巡回を終わらせるぞ』
「分かりました」
自衛隊の厳重な警備の下、エルメリス王国は瞬く間に近代化を進めていく。
だが、迫る影もまた、着々と手を伸ばしているのだった……。
今月は以上となります。
7月は10日か11日に1回目を投稿しようと思います。