エルメリス王国
今月1話目となります。
仕事の都合で忙しい部署についてしまったものですから、投稿できる日が変わるかもしれません。
それもあり、急に投稿されることも増えることになるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
――世界暦380年 5月13日 世界(オーストラリア大陸)の東南部 エルメリス王国戦士団団長 デリティー
日本がオーストラリア大陸と呼んでいる場所は、現地人には『世界』と呼ばれている。
この『世界』は2つの国家に分かれている。
巨竜を操れる『蜥蜴人』の国、バルバラッサ帝国と、『それ以外の種族』が集まってできたエルメリス王国であった。
元々は1つの国であったが、蜥蜴人が恐るべき竜・『恐竜』を操る術を手に入れて以来国は2つに分裂し、それ以来争い続けている。
だが、種族の特徴を活かして戦う王国軍も、恐竜を用いる圧倒的な帝国軍の前には無力となっていた。
守りに徹していればドワーフ族の工兵隊が作った防壁やエルフ・ダークエルフ族の放つ弓で追い返すこともできなくはないのだが、たまたま僻地の視察に向かった王国戦士団の団長であるダークエルフ族のデリティーは、国境を超えて偵察に来ていた帝国軍と鉢合わせてしまった。
部下と共に応戦したが、ちょこまか動く『ホブゴブリン・ドラゴン(デイノニクスのこと)』には中々弓矢が当たらない。
ケンタウロスは後ろ脚のケリなどで抵抗できるが、それ以外の人類(このオーストラリア大陸に住む人類)は接近されると圧倒的な身体能力であっさり喰い殺されてしまう。
かといって中型の『オーガ・ドラゴン(アロサウルスのこと)』にはそもそも弓がまるで効かない。
防衛拠点で投石機を使って石を投げつければ当たらないことはないが、意外に機動力があるため、『まぐれ』を期待するのみである。
それ以外にも蜥蜴人は多数の恐竜を従えている。
もはや隊長である彼女を含めて、彼女を乗せてくれているケンタウロスの女性が5名と、その上に乗るデリティーを含めた5名、計10名だけがなんとか逃げている状態であった。
「頑張れ、メア‼ なんとか逃げるんだ‼」
メアと呼ばれたケンタウロスは、ゼイゼイと息を吐きながら答える。彼女は武器も捨て、少しでも身を軽くするために革鎧すら脱ぎ捨てていた。
「し、しかし団長……も、もう全力疾走に近い速度で四半刻(30分)近くも走って、います! も、もう……限界ですっ‼」
実際、ケンタウロスは下半身が馬のようになっているという亜人類だが、全力疾走した場合、本来10分も持たない。
馬の下半身に人の上半身という『余計な風抵抗』がついているために、体力を無駄に浪費するのだ。
加えて、人1人を乗せているのだから全力で走ってもそれほど速くは走れない。
だが、相手のホブゴブリン・ドラゴンは持久力に優れたハンターでもある。
蜥蜴人の兵士を乗せて半刻以上も走り続けることができる。しかも、全力疾走ではなく巡航速度でケンタウロスに近い速度を出せるのだ。
オーガ・ドラゴンも大きいだけに一歩一歩が大きく、巡航速度で十分ケンタウロスに追いつける。
ちなみにこの世界のケンタウロスは、人を乗せた場合巡航速度が時速15km、全速力で30kmまで加速できるが、全速力は本来それほど長く走るものではない。
故に、ケンタウロスは5名とも既に息が上がっていた。ただ『食われたくない』、『殺されたくない』という生への執念から走り続けているだけである。
相棒であるメアのそんな姿を見たデリティーは『もはやこれまでか……』と半ば諦めていた。
その時、ダークエルフ特有の聴覚が何か聞きなれない音を捉えた。
――ブオオォォォォォォォォンッ‼
「な、なんだ!?」
見れば、やけに横幅の広い、緑色の巨大な『何か』がこちらへ迫ってきている。しかも、その速度は、自分たちはもちろん、ドラゴンたちよりも速い。
緑色の『何か』は、彼らを追い越した瞬間、背中(四足歩行の生物に近いと思ったのでこう表現)の上の角のようなモノから、連続した『光』の筋を発射したように見えた。
――ドドドドドドドドドッ‼
それは弓矢よりも遥かに高速で、ホブゴブリン・ドラゴンを次々と撃ち抜いていった。
ホブゴブリン・ドラゴンとドラゴン・ライダーは、まるで燃えたロウが溶けるように瞬く間に数を減らしていった。
オーガ・ドラゴンとその騎手は何が起こったのかわからず、一時停止した。
そこに、今度は茶色の、長大な角を持った怪物が現れた。
デリティーもメアも、足を止めてそれをポカンと見送ることしかできない。
「こ、今度はなにをする気だ!?」
怪物は、長大な角の先端をオーガ・ドラゴンに向ける。
一方、アロサウルスに接近してきた『16式機動戦闘車』の中では、乗組員が思い思いの会話をしていた。
「すごいな、ティラノほどじゃねぇけどやっぱデッカイぜ」
「あぁ、迫力があるわ」
すると、装填手から声がかかる。
「榴弾の装填完了」
「よし、相手はデカいだけのトカゲだ……撃てぇっ‼」
――ダァンッ‼ ボガァンッ‼
『16式機動戦闘車』の52口径105mmライフル砲から発射された91式105mm多目的対戦車榴弾は300m離れていたアロサウルスの胸元に命中すると、そこを中心に爆発を起こし、乗っていた蜥蜴人ごと吹き飛ばした。
一方のデリティーとメアは、自分たちの目の前で発生した『事象』が信じられなかった。
中型竜である『オーガ・ドラゴン』は、力自慢であるドワーフ戦士団10名以上が死を決して斧を使って襲い掛かり、その援護にホワイト・ダーク両エルフが矢の雨を降らせることでようやく1頭倒せるかどうかという怪物である。
それを、いきなり現れた巨大な怪物が、全く傷を負うこと無く強烈な閃光と音と共に倒してしまったのだ。
すると、デリティーがポカンとしている間に生き残っていたホブゴブリン・ドラゴンが3頭、こちらに向かって走ってきた。
――グギャァッ‼
「し、しまった!」
メアが走ろうと足を動かすが、かなりの疲労がたまっており、まともに動かすこともできない。
すると、先ほどホブゴブリン・ドラゴンを薙ぎ払った光の筋が3頭をあっという間に撃ち抜いてしまった。
先ほどの小さな光を発射した緑色の怪物が、デリティーたちに近づく。
「大丈夫ですか‼」
声をかけてきたのは、どこかエルフに似た、しかしエルフほど細くなく、ドワーフほど背の低くない、『中肉中背』とでも言うべき男だった。
「え、えぇ……」
デリティーはこのような姿をした人種を見たことがなかった。
見た目はどこかパッとせず、まるで蛮族かと思うようなまだら模様の服に身を包んでいる。
自分たち戦士団の、気品ある鎧姿とは大違いであった。
だが、そんな相手が、まるで御伽噺に登場する勇者のように見えてしまった。
「大丈夫ですか‼」
返事が小さいので聞こえなかったようだ。男はもう一度声をかけてきた。デリティーはようやく我に返る。
「あ、あぁ! おかげで助かった!」
すると、後方から『ババババババババババ』と空気を叩くような音が聞こえてきた。
デリティーが振り返ると、鋼鉄の羽虫のような物が1体、猛烈な風を下に巻き起こしながら上空を通過していったのだ。
「て、敵か!?」
「違います! あれも我々の仲間です‼」
『UH―2』が上空で旋回している。恐らく、他に敵兵がいないかを確認しているのだろう。
すると、ヘリから通信が入る。
『周囲に残存敵勢力を確認できず。現地人とのコンタクトは?』
『現在、軽装甲機動車の武藤2等陸曹がコンタクトを取っている模様』
言葉通り、軽装甲機動車から武藤が降りてデリティーとメアに駆け寄っていた。
「お怪我はありませんか?」
「あぁ。貴殿らが来てくれなければ、私は今頃竜たちの腹に収まっていたか、蜥蜴人の慰み者になっていたかのどちらかだ。だが、部下が疲弊している。どこか近くで休みたいのだが……そもそも貴殿らは何者だ?」
武藤は直立不動の姿勢に直ると素早く敬礼する。その所作はとてもキビキビしており、デリティーが一瞬で『まだら服の蛮族』という評価を180度転換したほどであった。
「私は日本国陸上自衛隊、駒門駐屯地所属、武藤和也2等陸曹であります」
「私はエルメリス王国第3戦士団の団長でデリティーという。しかし日本国……? 申し訳ないが、貴殿らは『どこ』から来たのだ?」
「えぇと……難しい話になると思いますので、現在建設中の野営拠点にお越しいただけませんか?」
武藤は既に通信で坂口2佐から『外務省のお役人の所へお客様をお連れしろ』と命令を受けていたのだ。
「実は、我が国の外交担当者が来ておりまして、もしも『国』が存在するならば会ってみたいと……」
「よくわからないが……助けてもらったのだ。まずは立場ある者に礼を言うのが筋であろうな」
デリティーはダークエルフ族の騎士・戦士として、助けてくれた相手と、その責任者に礼を言わないという考えはなかったらしい。
想像以上に礼節と『義』に篤い人のようだ、と武藤は考えていた。
ケンタウロスの女性たちが疲労でフラフラになっていたため、ゆっくりと徒歩及び超低速の車両速度で建設中の野営拠点へ向かう面々であった。
流石に5km以上離れていたため、ゆっくり歩いてしまったこともあって1時間近くかかってしまった(なお、車両は先に帰して普通科の隊員を何名か寄こしてもらった。中には大型恐竜対策なのか、対戦車兵器である『84mm無反動砲カールグスタフ』を持っている者もいる)。
武藤及び周囲の隊員が野営拠点に戻ると、工事が進められているテントの中から坂口2佐と、外務省から派遣されていた外交官の楯山という女性が待っていた。
「武藤2曹、ご苦労だった」
「はい!」
「別命あるまで待機せよ」
「はいっ!……では、デリティーさん、自分はこれで失礼いたします」
「あ、うむ」
武藤が立ち去る姿を、どこか名残惜しそうに見るデリティーであった。
だが気を取り直して楯山のほうへ向き直り、挨拶をすることにした。
「この度は貴殿らの勇敢なる兵に危ういところを助けてもらった。大変感謝している。私はエルメリス王国第3戦士団団長のデリティーという」
「日本国外務省所属外交官の楯山万莉と申します。こちらは、陸上自衛隊先史文明調査派遣部隊隊長の……」
「坂口2等陸佐と申します」
先史文明調査派遣部隊という意味はデリティーにはよく分からなかったが、少なくとも、目の前にいる中年の男性こそがこの兵隊たちのまとめ役なのだということは分かった。
「よろしく頼む」
楯山がタブレット端末を取り出しながら質問をする。
「早速ですが、この大陸にはやはり文明があるようですね。エルメリス王国という国についてお教えいただけませんか?もちろん、我が国についてもお答えできる範囲でお答えいたします」
「こちらも混乱しているのだ。その……バルバラッサ帝国と我が国以外に国が存在するというのが、信じられなくてな」
実のところ、日本も『想定外』であった。なぜならば、これまでオーストラリア大陸には『集落』や『街』のような物はあっても、『城』などの権威を表すモノ、つまり国家を象徴するような構造物が見当たらなかったためである。
「そうおっしゃるだろうと思いまして、我が国を説明する手段をお持ちしました」
先ほどのタブレット端末を机の上に置くと、それを起動する。
「これは?」
「少しお待ちくださいね」
すると、美しい『なにか』が浮かび上がり、美しい音と共に流れ出す。
まるで、景色そのものを切り取ったかのようななにか……初めて見る『映像』に、デリティーは目を白黒させた。
「こ、これは……」
それから2時間弱、日本の成り立ちから大和朝廷、奈良時代、鎌倉時代と来たところで元寇という外夷の襲来、それに伴う政権への不信と室町幕府の成立、その幕府も乱れて応仁の乱が起こり、戦国時代へと突入する。
技術流出の観点があるとはいえ、真似できないだろうと思われたのか映ったのは火縄銃による射撃のドラマから、徳川家康による江戸幕府の成立へ。
だがその幕府も200年以上の平和の中でアメリカという理不尽の前に開国し、それに不満を持つ各藩の志士たちが立ち上がった。
吉田松陰を始めとし、橋本佐内、武市半平太、久坂玄瑞、西郷隆盛、大久保利通、桂小五郎(木戸孝允)、坂本龍馬、そして幕臣からも勝海舟や松平春嶽、榎本武揚など、幕府にも通じる人物で活躍した者もいる。
多くの人々の犠牲と戦いの末、明治天皇の即位と同時に明治政府が成立、薩長を中心とした文明開化の新たな時代となった。
だがそれは、日本を狙う列強国たちとの戦いの幕開けでもあった。
日本のすぐそばにある『眠れる獅子』とうたわれた清国との日清戦争、その日清戦争の戦後処理である『三国干渉』の恨みから、国民総出で臥薪嘗胆の思いを込めて総力体制を敷き、遂には当時世界最強とまで言われたバルチック艦隊を東郷ターンという奇策で撃破した日露戦争の日本海海戦。
日露戦争の勝利により、日本は名実ともに列強の一員となったが、そんな日本は第一次世界大戦を経て次第にアメリカに目を付けられるようになり、大陸植民地での関東軍の暴走やその後の様々なことも含めて米国からABCDラインなどの制裁を食らい、最後通牒として『ハル・ノート』を突き付けられた。
その結果日本はアメリカとの戦争・『太平洋戦争』に踏み切った。
結果として、日本は国民総力を挙げて戦ったものの、国力の圧倒的な差と様々な戦術的要因から日本は敗北する。
敗戦後はアメリカの要求もあって、『平和主義国家』の名のもとに軍隊の保持を禁じる。
しかし、世界の流れはそんな状態を許しはせず、アメリカとソ連が対立したことにより朝鮮戦争が勃発する。
結果、米軍兵器の修理などによる特需による景気回復が起きる中、アメリカによって日本は再軍備を求められ、警察予備隊、保安隊などと経て自衛隊となって再軍備を果たした。
その後70年以上にわたって世界の戦争に直接関与することなく、平和を保ち続け、国内の発展及び周辺諸国の発展に尽くしてきた。
そして、転移からのこれまで……
デリティーは、いきなりもたらされたあまりにも圧倒的な情報量に、文字通りの開いた口が塞がらない状態となっていた。
「……(なんとも言えない。日本という国は、この『映像』という技術が確かなのであれば、という前提だが……間違いなくとんでもない力を持っている)」
「他になにか質問はありますか?」
「先ほどのまだら服の兵隊たち……自衛隊、と言ったか? 彼らは剣や槍、弓を持っていなかったようだが……映像に映っていた、『銃』という武器を使うのか?」
それでも、映像から自分が受け取った情報を整理・処理するだけの能力があったらしい。外務省側としては『情報量が多過ぎて処理しきれなくなる』ことで理解を妨げることを狙っていたのだが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。
考えてみれば、クロスボウのような道具があれば銃の使い方も、大型弩弓があれば大砲の用途も『ある程度』ならば想像がつくのだろう。
「その点に関してはご想像にお任せします」
楯山の答えはぼかしているが、半ば肯定したも同然である。
「まぁいい。しかし、貴殿らの兵器の威力はすさまじいな。あのホブゴブリン・ドラゴンとドラゴン・ライダーの蜥蜴人を薙ぎ払ったあの攻撃はもちろんだが、オーガ・ドラゴンを一撃で屠ったあの力もすさまじい。先ほどの映像から考えると、『大砲』という武器なのだろう?」
「それもご想像にお任せします。ただ、我が国の技術がそれなりの物であるということは覚えておいていただけると幸いです」
「だが、これほどの国家が、いきなり異世界から現れたというのは信じ難いな……いや、これほどの技術を見せられれば頷かざるを得ないのだが、それでも信じ難いと言いたい」
それはその通りだろう。国交を結んでいる国でさえ『国ごと転移』の話は半信半疑になることが多い。
だが、ガネーシェード神国が国際社会に加わったことで、その考えは変わりつつあった。
首長のヘンブ曰く……『もしかしたら……創造主に対抗するべく、真の神が呼び出したのやもしれんな』とのことであった。
そう考えると納得がいく。もっとも、この世界にはいきなり日本の要求を満たせそうなほどの穀倉地帯と資源地帯がなかったことから大陸を日本に与えたのではないか、とヘンブは推測していた。
そして、先史人類の技術の進歩と歪んだ嗜好(もっとも、現代日本人にもなくはないが……)を見てしまうと、案外ヘンブの推測通りなのかもしれないと考え始めていた。
「そう考えていただけると幸いです。それでは、エルメリス王国という国の情報もお聞かせ願えますか?」
「いいだろう。エルメリス王国は人口500万人の多人種国家だ。ホワイトエルフやダークエルフ、猫耳族や犬耳族、有翼人や魚人族など多数の人種で構成されている」
楯山はダークエルフと未確認種族であったケンタウロスが一緒にいることで薄々だが『多人種国家なのではないか』と考えていた。
だが、どうやら予想以上の多人種で構成されているらしい。
「首都はメリエルダという場所なのだが……私が持っていても、そちらの地図がないと説明しにくいな」
デリティーが取り出したのは、日本からすると原始的な、しかし文明水準からするとそれなりに整った地図であった。
楯山が部下に耳打ちすると、すぐにオーストラリア大陸の地図を出させた。
「これでいかがでしょうか?」
「こ、これは……なんとも精巧な地図だな。有翼人が空を飛んで見たモノを描かせた地図とは比較にならん……これも貴国の技術か?」
「そう思っていただければよろしいです」
デリティーは自分の持っている地図と照らし合わせる。旧世界で言う所の、クロンガリー付近に首都があるらしい。
「なるほど。ちなみに、デリティーさんたちは『世界』というと、この大陸のことを指しますか?」
「それは……そうだな。小さな島などは多少存在するようだが、他に広大な陸地というのは見たことも聞いたこともない」
「では……これをご覧ください」
楯山が取り出したのは、メルカトル図法で描かれた『現在の』世界地図であった。無論、日本は大西洋に存在する。
「な、なんだこれは!? これは……地図なのか!?」
「はい。この世界は『惑星』と呼ばれる形態でして、貴国はここの中になります」
楯山がオーストラリア大陸の北東部を指さした。
「な……圧倒的ではないか……」
自分たちの認識していた『世界』がいかに狭かったかを思い知らされた。
「ちなみに、我が国はここです」
楯山が日本列島を指さすと、デリティーは目を白黒させた。
「こ、こんな小さな島国なのか!?」
「はい。ですが、現在は列島から見て西にある大陸を開拓しております。大陸はほとんど、我が国の勢力圏内と言っても過言ではありません」
実際にはアラスカなどの西側はほとんど手つかずと言ってもよいのだが、外交でそれくらいのハッタリは常套手段である。
まして相手は外交官ではないので、言い方は少し悪いが、騙すのもやりやすい。
案の定、デリティーは楯山の言葉を信じているようだ。
「これほどの巨大大陸を制することができているのだとすれば、あのような装備も納得できる……気がする」
「多少なりともご理解いただけたでしょうか?」
「……あぁ。これはすさまじいな。直ちに本国に報告したい……だが、戻るには2週間以上かかるぞ。どうしたものか?」
すると、坂口2佐の隣に立っていた海上自衛隊の連絡員が手を挙げた。
「貴国に港はありますか?」
「港? 北にあるにはあるが……」
「どの辺りですか?」
再び地図を指さした。位置的には、バークタウンの辺りのようだ。
「なるほど……護衛艦や揚陸艦が入るには、文明水準からすると少々水深が足りないかもしれませんね……」
「水深? どれくらい必要なのだ?」
「大体30mくらいあればありがたいですね」
現代日本の保有する超大型船舶……タンカーや豪華客船などはそれなりの深さがないと接岸・停泊することができないのだ。
「確か……港は最も浅い所でも40m近くあるはずだ」
「!?」
今度は日本側が驚いた。なぜこの文明でそれほど深い港があるのだろうか。
「いや、我々にもよくわからないのだが、我々が文明を築き始めた頃にはもう石ともなんとも言えない港があったんだ。掃除や整備だけはしているが、正直言って『よくわからない』」
すると、坂口2佐が楯山に耳打ちする。
「もしかすると、例の先史文明が関係しているのかもしれません」
「では、向かってみましょうか」
「そうですね。本国に確認を取ってからになりますけど、恐らく受諾されるでしょう」
楯山及び坂口がそれぞれ本国に連絡を取った結果、『移動して良し。対象国の重要人物との接触を許可する』との答えが返ってきた。
こうして自衛隊はたった1日で拠点を放棄し、『あづち』、『えど』、『たざわ』の3隻でエルメリス王国の港へ向かうことになったのであった。
今回はオーストラリアに存在する国家のうち1か国に接触しました。
次回は月末の土日辺りに投稿できればと思っております。