最終調整はとても大事
明けましておめでとうございます。
遂に1日の感染者が2千人を超えるという事態になってしまいました。
私は幸いにして今まで感染しておりませんが、今後も収束まで感染しないように水分摂取と人とのかかわりを極力避けるつもりです。
そんな状態ですが、本年も本作品を、どうかよろしくお願いいたします。
――西暦1744年10月1日 ガネーシェード神国 神都カンジャイ
ガネーシェード神国の神官長ヘンブは、部下たちが沸かした風呂で入浴していた。
「何?南部の村を視察に行った者が戻らない?」
ちなみに入浴と言っても、彼女たちの下半身を構成する蜘蛛の体に備わっている呼吸器官・書肺は、水に浸かると呼吸ができなくなってしまうので、溜めたお湯を汲んで自分に掛け、灰と植物から作った石鹸と自分たちが吐いた糸を編んで作るタオルを部下たちに使わせて擦り垢を落とすのだ。
湯船に浸かることこそないが、このお陰でアラクネのトップたちはそれなりに清潔を保っている。
少なくとも、『文明水準から考えると』というレベルではあるが。
「はい。2か月前に出発した者が、未だに戻らないのです」
ヘンブは1年以上前にグランドラゴ王国と、特に憎い1国であるアヌビシャス神王国が攻めてきたことを思い出す。
「まさか、また他国が攻めてきたというのか?しかし、そんな情報も入っていないが?」
実際、沿岸部の村々と、そこにいた大人は日本によって滅ぼされてしまったため、全く情報が伝わっていなかったのだ。
これは、敗北を全く想定していなかったアラクネたちが後詰や連絡要員を残すといった基本的な戦術的考察すらできていなかったためである。
「は、はぁ……こちらもなんとも申し上げようがなく……」
「ふむ……神の加護を信じぬ不敬者の分際で生意気な……しかし、念のためじゃ。神都の守りをもっと固めておけ。敵がなにか、我らには理解できぬ卑劣な手を使ったのやもしれん」
「はっ。かしこまりました」
部下が立ち去ると、ヘンブは顎に手を当てて考える。
「いったい何が起こっている……諸国がどれほど束になろうとも、神のご加護を破るのは難しいはず……この間は炎と爆発の衝撃で同胞が神の御許へ召されたようだが、そのような偶然が何度も起きるとは考えにくいしのぉ……まぁ、考えても詮無いことじゃ。この神都だけでも5万人のアラクネが住んでおる」
アラクネは、大人になればそのほとんどが武器を持って戦い、男を略奪するために生きている種族である。故に、神都の人口である5万人という人数はほぼそのまま兵力と言っても過言ではない。
訓練や連携などを学んでいるわけではないが、近代兵器が通じないという事実は、それだけで十分な脅威である。
「ここを攻められるような化け物など、そうそうおるまい」
ヘンブは気を取り直し、自室へ戻って食事を楽しむのだった。
しかし、彼女は知らない。今自分たちに迫る、狂人による破滅の足音を……
――2028年 10月24日 日本国 東京都 有楽町 東京国際フォーラム
ここには現在、各国の大使及び外交官が集まり、ガネーシェード神国の神官長であるヘンブを確保した後にどういった話をするべきかを議論していた。
「第1空挺団が強襲をかけ、敵首長を確保した後に敵兵士を蹴散らしながら郊外に隠蔽してある『CH―47』に乗り込めば、目的の大半は完遂されます。その後は我が国に移送し、我が国の力を見せつけることによって交渉の場に応じてもらうという流れにしようかと。そのうえで、彼らの宗教についても詳しく話を聞き、どういった教義なのか、なぜ奪い取ることを是としているのかも聴取したいと考えております」
外務省職員の発言を受けて、フランシェスカ共和国の外交官が手を挙げる。
「戦後賠償はどうされるのですか? あの国は基本的に通貨の類を制定していなかったはずですが……」
「それに関しては神国の国内に存在する資源採掘の独占と、漁業資源の独占、さらに現地人を雇用することによる、農業での食料輸出を主に据えようかと考えております」
ガネーシェード神国は『自分たちが食えればいい』程度の考えしか持ち合わせていないうえ、各国に流通するような特産品なども作っていないため、通貨の類を制定していないのだ。
故に、経済の重要性もほとんど理解していない。
「首長の身柄はどうされますか?」
「できれば聴取の後にもさらに日本を見てもらい、日本の国力と技術力、そして『諦めない魂』を知ってもらった後で、最終的には本国に帰っていただこうと考えております」
すると、イタリシア王国の大使、アーラという女性が手を挙げた
「しかし、なんの保険もかけないのではあまりに危険なのでは?」
「元々ガネーシェード神国は自分たちから外へ攻め込む能力を有している存在ではありません。ですので、こちらに被害が及ばないように様々な条約で縛り上げ、さらに宗教改革さえ行えれば問題はないかと思います」
そもそも彼らの技術力では外洋へ乗り出すような大型の船舶が作れるとは到底思えず、かといって陸続きのシンドヴァン共同体に攻め込もうにも、彼らの装備では補給もままならずおまけに大人数が長期に渡って居座ることが難しい環境であるため、ガネーシェード神国が自分から他国へ遠征する可能性は限りなく低いと日本は考えている。
強いて言うならば蟻皇国はよくわからないが、それでも近代兵器を持っているという時点で攻め込むにも多大な労力を要するうえに、先述の通り補給が難しい。
蟻皇国に限定するならば、旧世界の中国と環境が酷似していれば、という条件付きではあるが武器の場合は石や竹など、現地調達も可能だろう。食料も奪えばいい。だが、それだけでは済まない場合もある。
「しかし、かの国の宗教は非常に過激で面倒だ。蜂起する者も現れるのでは?」
「もちろんその可能性も十分にありますので、蜂起した場合は我が国の護衛艦『やまと』の砲撃で彼らに『逆らったらこうなる』という事実を刻み込む必要があります。具体的には、艦砲射撃で沿岸部の山を焼け野原にする、或いは空挺団を含めた陸上自衛隊の部隊を送り込んで、非磁力反応武器でその者たちを制圧してもらうことになりますね」
意外と過激なやり方に、各国の代表者たちも真っ青になる。
だが要するに、『危機感を覚えるまで血の雨を流さなければどうにもならない』宗教を一度ぶっ壊すには、『危機感を覚えるくらいにまで血を流す必要がある』ということだ。
とはいえ、簡単に言っているように聞こえるが、それで苦労するのは常に現場である。だが、外務省も政府も、果てには防衛省もそれを承知で物事を進めなければならない。
今度はアヌビシャス神王国のカペルが手を挙げる。
「戦後、彼らの生活についてはどうされるおつもりでしょう?」
「彼らの保有している『磁力操作能力』は、我々が想定するような現代生活に適していません。なので、科学者や物理学者を招集して『彼らの能力で』発展できる限りの発展をしてもらおうと思っています。もちろん、その中で宗教に関する過激さを捨ててもらうための教育は欠かせませんが」
何せ、磁力を操られると、電子機器の使用にも大きな支障が出る。機器類がいかれてしまうからである。
だから、木工技術など『存在する物』を用いて少しでも技術向上ができればよいというのが日本の考えであった。
「では、あくまで平和裏に彼らを説き伏せたい、と?」
「そうですね。叶うならば、指導者もそのまま変えない方向でいきたいです」
指導者を下手に自分たちに見合った存在に変えると、その時点で聡い国民は反体制派に回る可能性がある。なので、現指導者、あるいはそれに近い存在で何とか手を打つのが妥当だと日本は考えていた。
加えて、アラクネの能力は野放しにしていたら間違いなく周辺国を含めて恒久的に被害をもたらすことになる。
そのような事態を今後長きにわたって撲滅するためにも、宗教改革が必要となるのだ。
もっとも、日本国内も新興宗教や過激な宗教が存在するので、そもそもそれらに対する対処も考えなければならないというのが政治家の、特に与党の頭の痛い所であった。
与党が連立している政党は宗教団体を母体としているため一言で言えば宗教問題は『面倒』なのだ。
だが、もう目を背けてばかりもいられなくなっていた。実際、過激な宗教に染まった民族による野蛮な行いという話が日本国民に広がるや否や、連立与党が宗教団体を母体にしていることに対して、一部から冷ややかな目が向けられ始めたのである。
与党内では『これはマズい』と一部の者が連立解消を言い出し始めたが、首相は『ここでいきなりあの党を見捨てては、今まで助けてくれた恩義に反する』と言って見捨てていないのだ。
首相としては母体の宗教団体はある程度抑え込みつつ、政党としては力と形を残したままにしておきたいという意図があるらしい。
なぜなら『見捨てられるかもしれないと思った者ほど助けてやれば、その後さらに懸命に働くだろう』という、一種の打算込みであった。
もっとも、首相はこのことを党内に向けて発表した時、『私はそういう狡い人間だ。それでも付いてきてほしい!』と宣言したことで党内の評価も人々の評価もガラッと一変し、連立政権の維持を受け入れたのだった。
しかし、この戦後に宗教団体が今までとは異なるベクトルで厳しく取り締まられることになるのは変えられないのだった。
閑話休題。
「では、その方向性で我々も日本国に協力いたします」
「どうか、よろしくお願いいたします」
こうして、会議は終了した。
「では、皆さんこちらへお越しください。本日は『ささやか』ではありますが、皆様のために夕食のご用意がございます」
「おぉ!」
「日本の食事か!」
「楽しみねぇ」
「日本の食事はなにを食べてもおいしいからのぉ」
その後は各国関係者を招待しての夕食会である。
そう、和食とはまた違った勢いですっかり国内外問わずに有名になってしまった『古生物グルメ』であった……。
ある者は『ベレムナイトのいかめし』を頬張り、またある者は『パラサウロロフスのステーキ』をビールと共に味わい、またある者は『ウミユリの酢の物』に顔をすぼめつつも日本酒を味わうのだった。
――西暦1744年 11月10日 ガネーシェード神国 陸上自衛隊カルカタック駐屯基地
陸上自衛隊第1空挺団が訓練していると、航空機のエンジン音が響いてきた。
「おっ、また飛行機か?」
団長の土師が空を見上げると、航空自衛隊の『C―2』輸送機が滑走路に着陸するところだった。土師の持っている通信機には、まだ何機も控えているという情報が入っている。
「『C―2』が来た……ということは、ようやくフランシェスカからの援軍が到着したんじゃないですか?」
「かもな。よし、訓練はここまで! 一度宿舎へ戻り、指示を待つ!」
「「「はいっ!」」」
土師と隊員は素早く宿舎へ走っていった。その姿は、他の隊員と比較しても一段ときびきびした動きとなっている。
それから10分後、何機もの『C―2』輸送機から、次々とフランシェスカ共和国の樹海騎士団所属のエルフ族、狼人族が降り立って来る。
その後、樹海騎士団大隊長20人と、総隊長のエクレールが自衛隊基地内の会議室に赴いた。
「隊長、なんとも殺風景な場所ですね」
狼人族の副隊長が、簡素な建造物と内装に驚きの表情を見せる。
「仕方あるまい。ここは元々突貫工事で完成させた場所だ。まだ稼働していない機能もあるらしい。そもそも、私は交流で日本本土の陸上自衛隊の駐屯地へ行ったことがあるが、こことさほど変わらないぞ? アニメと提携した人員募集のポスターと、定年延長のお知らせがあるかないかくらいだ」
自衛隊は現在に至るまで、圧倒的に足りない人数を補うべく、通常隊員や幹部たちの基本定年を60歳まで延長していた。
さらに、職種次第では65歳までの延長も許されている。
直接戦闘に関わらないような部署などはさらに延びて、事務などは場合によっては70歳までいてもいいなどと言われる場合もある。
ただし、その場合は毎年その人物が職務遂行に値するだけの能力を有しているかのテストが行われるという条件があるが。
だが、年配者が多く残るようになったことで、よい点もあった。
年配者が今まで培ってきた経験や技術を、よりじっくりと若い世代に引き継ぐことができるようになっているのだ。
特に整備関係の技術者や、機雷除去の細やかなテクニックなど、継承が必要な技術は上げれば枚挙にいとまがない。
既に転移初期に接収した大陸性日本人若年層の一部は様々な分野で活躍を始めているが、それでも日本の必要人口はまるで足りていないので、未だに労働環境ではヒーヒーという悲鳴が上がり続けている。
それでも、皆が明日のために、未来のためにと必死になって働いているからこそ、『今』があるのだ。
閑話休題。
案内の自衛官に付いていくこと数分、エクレールたちは真っ白な扉の前に立っていた。
「フランシェスカ共和国樹海騎士団の方をお連れしました」
『通してくれ』
中に入ると、陸空の自衛隊幹部が揃っていた。
「どうも、フランシェスカ共和国樹海騎士団大隊長、エクレールと申します」
「カルカタック駐屯基地総司令の、風見と申します」
「航空自衛隊派遣部隊隊長の結城と申します」
さらに他の幹部たちが次々に挨拶する。その人数は10人近くになる。その半分以上は陸自の幹部だ。
「では、これより『ガネーシェード神国首長確保作戦』こと、『カリオストロ作戦』の打ち合わせに入る」
『カリオストロ作戦』とは、アルセーヌ・ルパンの三代目を称する大泥棒が、お宝目当てのロリコン伯爵と結婚させられそうになっているとある公国のお姫様を助けようという超名作アニメ映画にあやかった名前だが、正直全然マッチしてない、とはある幹部の言である。
マッチしているのは『連れ去るのが女性』であることと、『一国のトップである』という点のみである。
相手はむしろ悪の大首領的な存在で、しかも年齢も妙齢で、か弱くもないというのだからマッチしていないと言われるのも仕方がない。
しかし、語呂が無駄によかったことからそのまま採用されてしまった。
原作者と監督は泣いてもいいとは、その作品をよく知っているオタク自衛官たちの言である。
「概要は以前もお話しした通り、我々陸上自衛隊の第1空挺団を敵首都上空へ送り込み、竹製の武器で敵を制圧しながら敵本拠地であるピラミッド状の建造物・『神殿』へ乗り込む。そして首長を確保した後、撤退しつつ首都南東5kmの地点に隠蔽しておいた『CH―47JA』に乗り込み飛行、途中で待つトラック部隊と合流し、ヘリは補給をさせ、首長は車に乗り換えさせてそのまま基地へ連れていきます」
エクレールは自分たちがその間の基地防衛に力を貸すために派遣されていることを既に聞いているため、なんの異論もない。ただ、1つだけ疑問があった。
「本当にガネーシェード神国の首長は考えを改めて謝罪するのでしょうか?」
「分かりません。ただ、その点は外務省のやることに任せるしかありませんね。我々は、任務を遂行するだけですので」
つまり、お役人が考えている接待プランによっては、交渉決裂もありえなくはない、ということだ。
とはいえ、日本はインドとほぼ同等の大きさを持つ国を支配することなどできはしないので、そうなると『完全無視』という形で国境に万里の長城よろしく壁を作って見張りを立て、流入を防がなければならない、ということになる。
アラクネたちには土木技術と呼べるものがほとんど存在しないため、壁の下を掘って進むなどという発想はないだろうというのが防衛省の分析だ。
故に、壁を作って侵入路を限定してしまえば、後は上から矢の雨を降らせれば済むのでそれほど恐ろしくはないのである。
そもそも、アラクネは体の構造上地中に入ることをあまり想定されていないと防衛省のみならず、生物科学研究所なども推測していた。
アラクネはクモの足を持っているため、横に広い身体を持っている。穴を横に広くとらなければいけないということは、人間同様の腕では鉄の道具を持たなければ掘削などの作業に多大な時間を要することは間違いない。
つまり、それらの点から壁さえ建設すればアラクネの脅威はほぼなくなるだろう、というのが日本の分析なのだ。
だが、そんなことをすれば資材と人員の大量消費という無駄が発生することに加えて、その後も恒久的に見張りを立てなければならないという事態になる。
旧世界でも紛争地帯を監視するために各国から軍人が送り込まれ、我が国からも陸上自衛隊の人間が派遣されているが、ちょっとした監視、などというちゃちな規模ではなくなってしまう。
何せ、インドのほぼ全体をカバーするような超がつくほどの長大な城壁など、いくら金と時間と人があっても割に合わない。
それこそ、もし本当にやろうとすれば万里の長城すら超えるようなおバカなレベルの建築物になってしまうだろう。
しかも、海上も一応気を付けなければいけない。
粗末とはいえ船も持っているため、海から壁を越えてシンドヴァン側に侵入しないとも限らないのだ。
日本としてはそんなことになってほしくないので、なんとか首長を改心させられないか、そうでないにしても過激主義をなんとか収めることはできないものかと苦心しているのだ。
そして何より大事なのは、戦後の交易路をどうするか、という点である。ガネーシェード神国の東には旧世界でいう所の中国を支配する蟻皇国、東南アジアの群島部を含めて広大に支配しているワスパニート王国、そして日本列島のある天照神国が存在する。
それらの北にはロシア一帯を支配するイエティスク帝国が存在するが、内政がごたついているという話なので日本は当面接触しない方向性でいる。
あとは日本の保有しているアメリカ大陸から西のほうへ進み、小さな島嶼部やオーストラリアのほうへなんとか接触できないかと政府は考えているのだが、以前も既述したようにガネーシェード神国との戦争が始まったためにそれも頓挫している。
つまり、日本が新たに外交の手を広げようと思うとどうしてもガネーシェード神国との戦いをなんらかの形で終わらせるしかないのだ。
そのためにも、ガネーシェード神国にはなんとしてでも今の過激状態から脱してもらう必要がある。
自衛隊はそれを成功させるため、まずは『恐怖』という形で相手に思い知らせてやらなければならない。
「エクレール大隊長、この基地のことをどうかよろしくお願いいたします。弓と竹槍の扱いは大丈夫ですか?」
「はい。お任せください。竹の矢も、竹槍もかなり扱いは慣れました。あの迫撃竹槍というのは驚きましたけどね」
エクレールの苦笑に、土師も苦笑で返すしかない。実際、共和国も最初量産されたこの兵器を見た時には驚きのあまりエルフの政治家も狼人族の軍人も開いた口が塞がらない状態だったという。
「ですが、いざ作られた理由を聞いて練習を始めてみると、意外と合理的なうえに今までのバリスタに近い射程でありながらその面制圧力は比較にならないというのには驚かされました。将来大砲の類を扱うことになると思いますが、それに向けてのいい予行演習になりそうです」
流石にバリスタの発射機のような物と大砲を一緒にされると自衛隊側も苦笑してしまうが、それでも『やる気がある』というのは大事なことなので黙っておくことにしたのだった。
おまけに日本では割と生育が早く大陸でも育成を始めたので補充も比較的楽なうえ、お値段もかなり安い。
何せ元は竹と珪藻土、ニトログリセリンである。一番お値段が張るうえに危険なものはニトロだが、それとて危険性はあるものの珪藻土に浸み込ませてしまえば問題ない。扱いもさほど気を使わなくて済む。
この武器の力を知った時、そしてアラクネ族になぜ金属兵器が通じなかったのかを知った時、樹海騎士団は大きな力を得たと確信した。
「たとえ地を埋め尽くすほどの敵が現れても、自衛隊の皆様と共に守り抜いてみせましょう」
「どうか、よろしくお願いします。この作戦の成否で、日本のみならず、世界の国々にも大きな影響を及ぼすでしょうからね。しかし、どうしても防ぎようがないと判断したら、真っ先に撤退してくださいね。あくまでこちらが援軍をお願いした立場ですので」
この後、樹海騎士団はそれぞれ配置について守備任務に当たることになる。ちなみに、それぞれの編成は
○エルフ族弓兵隊・1千人
○狼人族竹槍隊・1千人
と半々に分かれている。また、竹槍以上の間合いに接近された時に備えて、強化プラスチックを刀状に加工した『プラスチック刀』と、竹を削って作られた『竹ナイフ』も全員持っている。
アラクネ族はクモの下半身を持っているが、意外なことに壁や崖をよじ登ることはできないそうなので、高さ5mの壁を基地周辺に作って対処している。しかも、その壁の外側10m地点にも同じような壁を作って二重の対策を施している。
見張るのは周囲数km以上に達する基地内の各地に設置された、高さ15mを誇る『見張り台』である。
これらに加えて警備犬、さらに警備用に自衛隊が調教したヴェロキラプトルに近い恐竜を用いて、見張りの密度を細やかにしていた。
恐竜の調教に関してはつい最近ようやく実用化の目処が立ったところで、一部の小型恐竜などを警備犬・警察犬代わりにしているのだ。
ただ、未だに家庭で恐竜を飼うのは許可が下りていない。食用に家畜化される恐竜は別で、国から許可をもらった畜産農家が生物学者の指導を受けながら飼育している。
もし密輸・及び密売しようものならば懲役10年、あるいは罰金500万円以上という重い刑に処されることになっている。
とはいえ、ようやく恐竜もビジネスの一環に組み込まれつつあるということもあり、日本の経済は大きく動いている。
閑話休題。
いずれにせよ、空挺団の出撃は近い。
今回の話に登場した『危機感を覚えるまで血の雨を流さなければどうにもならない』宗教を一度ぶっ壊すには、『危機感を覚えるくらいにまで血を流す必要がある』というのは、私が愛読しているとあるマンガの中で主人公が片ッていたセリフです。
本当に宗教って面倒くさいけど、人間が人間である以上切り離せないんですよね。
次回は23、24日のどちらかに投稿しようと思います。