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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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人間は、負け戦でも行かねばならぬ時がある

遅くなりましたぁ‼

今回はグランドラゴ王国とアヌビシャス神王国の連合部隊によるガネーシェード神国攻撃です。

果てさて、一体どうなることやら……

――西暦1743年 1月11日 シンドヴァン共同体東部 オマーラーラ地区 港湾設備 グランドラゴ・アヌビシャス連合軍

 早くも年が明けた。

 ここはシンドヴァン共同体の所有する港の1つで、東の蟻皇国やワスパニート王国と貿易を行うための大型港が存在する。

 日本の技術供与と建築技術により既に発展している一部であり、食料や燃料の補給が行われていた。

 グランドラゴ王国派遣艦隊司令の竜人族、フエイルは次々と積み込まれる物資を見ながら嘆息する。

「やれやれ……上の命令とはいえ、あの『正体不明』のガネーシェード神国と戦わねばならんというのは気味が悪いな……」

「仕方ありませんよ。それに、我が国の外交官も殺害されている上に全く謝罪の意思がないと言いますから、理由としては十分すぎます」

 彼の傍らに立つ副司令官のトムが肩をすくめる。

「我が陸海軍に加えて、近代化したアヌビシャス神王国の軍艦もいます。負けるにしても、相応の情報を得られると思います」

「まぁ、そうかもな」

 彼らの視線の先には、灰色で『クォーツ』よりも細身ながら大きな船が鎮座している。

 これこそ、『しきしま』型巡視船の船体をベースに、アヌビシャス神王国が日本から供出してもらった輸出用軍艦の量産型1番艦『ピストリークス』だ。

 これに加えて陸軍兵士1500名を載せた輸送船(日本の客船の流用だが)も停泊しており、食料や燃料の予備を搭載している。

「さて……人蜘蛛たちはどんな戦いをするのか……」

 今回の内訳としては、まず海軍が以下の通りとなる。



グランドラゴ王国

○『クォーツ』級戦艦 1隻

○『ラズライト』級装甲巡洋艦 3隻

○『ムスコバイト』級補給艦 5隻

○『輸送用客船』 1隻

○『バナディナイト』輸送艇(日本の『輸送艇1号』とほぼ同等の能力を持たせた日本の輸出船) 2隻



 この中で、『ラズライト』級装甲巡洋艦は日本人の感覚では『浅間』型装甲巡洋艦に酷似した性能を有している。速力に関しても日本から輸入したディーゼルエンジンに換装されているため、25ノットまで出せるようになっている。

 この点に関しては『クォーツ』も同様で、重量の問題があるとはいえ、23ノットの最大速力を出せるようになっていた。



アヌビシャス神王国

○『ピストリークス』級巡洋艦 1隻

○補給艦 2隻


 

 となっている。

 さらに陸軍もグランドラゴ王国が日本の技術供与と思想教導によって、短砲身ながら回転砲塔を持つ戦車『リチア軽戦車』を作り、量産を始めていた。

 その能力試験も兼ねて、今回の派遣艦隊に5輌が陸軍とともに同行している。

 日本人が見ればその戦車は『八九式中戦車』に似ている、と言うであろう。本来の八九式は時速25kmしか出せないが、日本の小型ながら出力の高いガソリンエンジンを導入したお陰で巡航ならば35km、最高速度45kmまで出せるようになっている。

 そこ、『こんな八九式があるか』とか言ってはいけない。

 ちなみに車体には英語で『王国振興』と書かれている。

 これは、日本で放送されていた戦車アニメで登場した八九式中戦車に根性論大好きな元バレー部女子が『バレー部復活!』と書いていたのを王国の軍人や技術者が見て『これは士気高揚にいい!』と採用した経緯があるのだ……そこ、繰り返すようですが英国面とか言ってはいけません。

 本国では対戦車戦闘をこなすための『クロムウェル』や『チャーチル』と同等の性能を持つ車両を作るべく現在鋭意研究中である。

 全ては、いずれまみえることになるであろうイエティスク帝国よりも強くなるためである。

 余談だが、何故同じレベルの砲を搭載した九七式中戦車ではないかと言うと、『まずは試し』という感覚が強かったためである。

 それこそ、王国での設計段階では日本の古本屋で設計図を大量購入しているため、フランスの『ルノーFT17』などをモデルにしようかという意見もあったのだが、『恩人である日本に倣うべきだろう』という声が上がり、日本が本格的に国産した『八九式中戦車』をモデルにしたという理由があった。

 ちなみに戦車は後にアヌビシャス神王国でも独自に製造されることになる。

 だがグランドラゴ王国はそこから旧世界の英国流にしていこうとするあたり、やはり大きなこだわりがあるようである。

 まぁ、発展の仕方を学ぶという意味では経常的にも運用思想的にも間違っていないのだが……

 閑話休題。

 今日のうちに積み込み終えて、かつて外交官たちが上陸したガンジス川の近く、カルカタックと呼ばれる地域へ向かう。



西暦1743年 1月28日 ガネーシェード神国 カルカタック沖2km

 シンドヴァン共同体での最後の補給から、既に1か月近くが経過している。

ガネーシェード神国のカルカタック沖合に到着した両軍は、まず歩兵の上陸作戦を決行することにした。

 アヌビシャス神王国は車両が存在しないので、『89式自動小銃』や『分隊支援火器MINIMI』を持った歩兵と、『81mm迫撃砲』の部隊が輸送船から数隻のボートに乗って往復を繰り返して上陸する。

 一方グランドラゴ王国は『リチア軽戦車』と護衛の兵員を載せた『バナディナイト』輸送艇2隻が砂浜に直接乗り付けて上陸を行う。

 それぞれ上陸を済ませると素早く歩兵が展開して小銃を構え、円形の防御陣形を構築する。

 素早く、数で圧倒する歩兵が現れても、時間を稼げる程度に即応できる布陣を整えるのだ。

 アヌビシャス神王国派遣部隊の隊長であるアシヌスは、ダークエルフ特有の端正な顔をきりりと引き締めながら周囲を警戒する部下たちを見る。

「これでもイエティスク帝国にはまだまだ及ばないだろうが、いずれはかの国をも超え、日本に並ぶほどになってみせねばな。そして、さらにいずれは日本をも超えてみせる」

 しかし、そんな彼らが降り立った港町(と言えるほどの規模と設備でもないが)はゴーストタウンのようにがらんとしており、全く人の気配がない。

「何故誰もいない……? 我々が来たことを知って逃げ出したのか?」

 2時間ほどもすると、グランドラゴ王国の部隊も上陸を完了していた。

 アシヌスの副官であるレプスが近寄って、報告を上げる。

「既に沖合では『ピストリークス』を始めとする艦隊が射撃準備を終えています。連絡さえあれば、すぐに艦砲射撃で支援できるとのことです」

「艦砲射撃とは言うが、元をたどれば日本国の陸上自衛隊の歩兵支援用の榴弾砲の改良型だからな……案外対艦攻撃よりも、こっちが本領と言ってもいいかもしれない」

 アシヌスの苦笑いにレプスも『確かにそうですね』と苦笑いで応える。

 『ピストリークス』に使用されているのは、日本の陸上自衛隊で採用されていた52口径155mm榴弾砲の砲身と、その装填装置である。

 一応海上戦闘用に諸々が改良はされているが、どちらかと言えば地上に対する砲撃の方が有効的に使えるのは、元の設計思想を考えれば間違いないだろう。

 そしてこの海域には、『ピストリークス』の155mm三連装砲に加えて、グランドラゴ王国の『クォーツ』や20.5cm連装砲を持つ装甲巡洋艦も3隻いる。

 普通に考えれば、フランシェスカ共和国以下の文明しか持たない国にはこれで圧倒的に勝てる……はずなのである。

「相手はあのイエティスクですら寄り付かないような存在……油断してはいけないな」

 すると、グランドラゴ陸軍派遣部隊司令官のヘッジが手を挙げて全軍に通達する。

「これより進軍を開始する。総員、十分注意の上で進め‼」

 暫定的に指揮はグランドラゴ王国側が執っている。先進的な戦術を最も理解できたのが王国側だった、という点が重要なのである。

 戦車もエンジンを始動し、ゆっくりと進み始める。

 時速はほんの6kmと、歩兵が歩くより少し早い程度である。

 そして、15分ほどで町中に入った直後、『それ』は現れた。

「!……敵兵発見!」

 数名のアラクネが町の外周部から森の中へ入っていく。

「待て、深追いするな! 森の中に誘い込まれていきなり矢の雨を降らされたら敵わん‼」

 慌てて追撃しようとした兵士たちをヘッジが通信で制した。

 兵士の中には既に射撃準備を、そして追撃のために走り出そうとしている者もいた。

「繰り返す。深追いはするな。そうだな……物は試しだ。森の中に戦車砲を何発か撃ち込んでみろ!」

「ははっ!」

 戦車5輌が整然と並び、砲身を森の中、アラクネが逃げ込んだと思しき場所に向ける。

「砲撃用意!弾種、榴弾!」

 57mm戦車砲が森の中に向き、砲身の角度を調整する。砲弾は、元々対戦車戦闘を考慮されていないタイプなので榴弾しか用意がないが、日本での教導と訓練のお陰でいずれ徹甲弾を用いることになっても問題ないようになっている。

「撃てっ‼」

――ドンッ!ドンドンッ!

 弾速は現代戦車などと比較するとはるかに遅い。しかしそれでも発射した直後、強烈な爆発音が森の中から響き渡った。

「やったか?」

 それは物語ではたいてい『やってない』フラグである。

「……10名確認に行かせろ」

 ヘッジの指示を受けた歩兵が10名、素早く森の中へ入っていく。ところが、歩兵は驚いた。

 弾着予測地点は角度の調整で砲撃痕がほぼ並んでいるはずだった。しかし、なぜか弾痕は『バラバラ』だったのだ。まるで、見えない何かに弾き飛ばされた後で爆発したかのように……

「こちら確認班、敵の死体を確認できず! あるのは『バラバラの弾痕』だけだ‼」

 ヘッジはその連絡を受けて、『やはり』と考えていた。

「予想通りになったか……よし、直ちに戻れ。アラクネがまだ近くにいるかもしれん……」

『うわ、なんだ!? ギャッ!』

「どうした‼」

『や、奴ら、木の上だけじゃなく草むらから……あぁっ‼』

 その後も通信機からは悲鳴のような声ががなり立てるばかりで、数分でそれも聞こえなくなった。

「……やられた、のか……」

 やはり敵には何らかの『力』があるらしい。それも、原始文明でありながら第一次世界大戦前後の能力を持つ両国軍に対抗できるような……そんな力が。

「くっ……海岸線付近まで戻れ。やはり敵の得意な場所では不利だ!」

 兵たちはヘッジの指示に従い、ゆっくりと後ずさりながら海岸線の揚陸地点にまで後退した。

 そして、待機していた部隊とともに塹壕や柵を拵える。これで敵の突撃を防ごうというわけだ。

 その夜、ヘッジは部下とともに見張りにあたっていた。

「敵の夜襲も十分に考えられる。夜陰に紛れてこないか要注意だな」

「その点は、日本の装備に感謝ですね」

 彼らは今、日本製の暗視装置を装着していた。これにより、暗闇であろうとも昼間のように見ることができる。

 例えアラクネが夜陰に紛れて奇襲をかけようとしても、これですぐに反撃に転ずることができる。

 特に、アラクネはこの世界に存在する亜人類の中でも特に体が大きいので、出てきてしまえば判別は容易である。

そのはずだった。

「! 敵確認! 100……200……いえ、続々と集結しています‼これは……1千人を遥かに超える模様!」

 見れば、町や森の中からワラワラとアラクネたちが現れていた。その手にはやはり簡易的な竹の弓と石の刃を持つ槍や竹槍が握られている。

 瞬く間にその数は数千人を……いや、1万人を超えた。中には十代前半から半ばくらいの若い女性もいるが、皆手に武器を持っているので『兵士』あるいはそれに類する存在なのであろうとアタリを付ける。

「来たな、総員、戦闘配置!」

 指示を受け、障害物で既に構築されているバリケードの入り口に合わせるように機関銃の銃口を向け、戦車もエンジンを始動させる。

 更に沖合の軍艦も連絡を受けて機関の始動を始める。

「まだ撃つなよ……」

 敵部隊は集まったまま進んでいる。隊形もへったくれもあったものではなく、とにかく密集して進んでいるのだ。恐らくだが、戦術というモノも存在しないのだろう。

「馬鹿め……これなら完全な的だ……撃てっ‼」

『半装填、よし! 撃てっ‼』

 陣地から機関銃と小銃、そして戦車砲と迫撃砲が一斉に発射された。だが、銃弾も砲弾も、等しくアラクネたちより遥か手前でストップし、そのまま陣地に近いほうへ『ポーン』と擬音がしそうな勢いで跳ね返り、陣地近くの砂浜に次々と落ちていった。

「ば、馬鹿な! 拳銃の弾が効かないとは聞いていたが、機関銃弾や戦車砲まで!?」

 戦車からも機銃を掃射しているが、まるで効いている様子がない。アヌビシャス神王国側も迫撃砲を撃ち込んでいるが、この砲弾も弾き返されてしまう。

「だ、ダメです‼ 全く効果が見られません‼」

「泣き言を言うな! 撃ち続けろ‼」

「パンツァーファウスト、対人榴弾で発射します‼」

「後方の安全確認!」

「確認良し!」

「撃てぇっ‼」

 だが、ロケット噴射するパンツァーファウストも見えない壁に止められたかのように空中で止まると失速し、砲弾同様に弾かれてしまい、一向に効果があるようには見えなかった。

攻撃が通じないさまを目の当たりにしたヘッジは決断する。

「こうなれば……海軍に通信! 『艦砲射撃の支援を要請する』と伝えるんだ‼ 海軍の力は借りたくなかったが、仕方ない‼」

「りょ、了解!」

 通信士が慌てて通信機に飛びつく。

「こちら上陸……隊。現在敵……侵攻を受……ている。敵……距離既に500m…切った! 艦砲……撃の支援を要請する! 繰り返す……」

 沖合の『ピストリークス』や『クォーツ』でも、支援要請の通信は受け取っていた。だが、何故か通信に対して異常にノイズが走る。

「装置に異常はないはずなのだが……攻撃準備は!?」

「既に完了しております‼」

「よし、主砲斉射用意! 弾種・時限信管付属対歩兵用破片調整榴弾! 撃てっ‼」

 『ピストリークス』の艦首部分にある三連装砲が、次々と火を噴き始めた。隣の『クォーツ』からも30.5cm砲弾が順次発射されている。

「ど、どうだ?」

 だが、砲弾はいずれも着弾する20mほど手前で跳ね飛ばされ、味方の陣地近くの上空で時限信管が作動、爆発してしまった。

 距離の都合上、これ以上侵攻されてはむしろ味方の陣に跳ね返った砲弾による被害が出かねない。

「だ、ダメだ! 通信士、『こちらの攻撃も通じず。これ以上接近されると跳ね返った砲弾が陣地に降り注ぐ恐れあり。支援砲撃の間に撤退されたし』と報告せよ‼」

「は、はい!」

「まさか……グランドラゴの30.5cm砲すら効かないのか!?」

 今回の派遣部隊では最大の火力を誇るグランドラゴ王国の戦艦『クォーツ』の大口径砲すら、弾き返されている。

 舷側の副砲なども用いて攻撃しているようだが、全く戦果は上がっていないようだった。

「なぜだ……なぜ……?」

 すると、隣に立っていた観戦武官の自衛隊員が何かに気付いたように上を見た。

「先生、あれを見てください」

 自衛官の万丈に呼ばれた学者の桐生が空を見上げると、ゆらゆらと揺らめく『光』が見えた。

「あれはまさか……オーロラ? なんでこんな地域で?」

「オーロラ?」

 『ピストリークス』の艦長であるセービアは、聞きなれない単語を耳にして首を傾げていた。

「オーロラ、とはなんですか?」

「本来は地球の果て……北極と南極を含めて寒冷的かつ磁場の乱れが起きるような一部地域でしか見られない現象なんですが……なぜ、こんなところでいきなり発生したんでしょう?」

 桐生が疑問を呈している間にも、両国軍陣地ではアラクネがどんどん迫ってきている。

「い、いかん! 総員撤退させろ‼ このままでは皆殺しか、捕まって死ぬまでしゃぶりつくされるぞ‼」

 通信士が急いで各部隊に通達する。

「総員、牽制しつつ徹底せよ‼繰り返す。総員、牽制しつつ撤退せよ‼」

 陸軍の方でもノイズが発生してはいたが、『撤退』の二文字はきちんと聞こえていた。

「隊長!艦隊司令より牽制しつつ撤退せよとのことです‼」

 旧世界の陸海軍の伝統のように、この世界でも陸海軍は近代的になるほど仲が悪い。しかし、現状はそんな感情すら許してくれないほどに切迫していた。

「くっ……海軍の指示に従うのはあまり好ましくないが、このままでは間違いなく『全滅』する! 総員退却‼繰り返す、総員退却‼」

 指示を受けた兵たちは我先にとボートに乗って逃げ始める。どうやら艦砲射撃をしている間は敵もうまく進むことができないようで、それで時間を稼ぐしかないとヘッジは判断した。

「急げ‼ 急げ‼」

 まずは重装備のないアヌビシャス神王国兵たちがボートに乗り、4隻のボートに200人ほど乗って沖へ逃げていく。

 戦車も砲撃を続けており、相手の進軍速度はまだ歩いているに等しいレベルである。

 不幸中の幸いなのは、この海域はそれ程浅くなっておらず、100mも沖合に出ればあっという間に深さ50mを超える場所になっている点である。

 そのため、沖合の輸送船も湾内に深く入って収容を行うことができるという利点があった。

 沖合2kmと言う、軍事常識から言えば有り得ない地点に停泊していたのもそのためである。

 相手に内燃動力機関の船舶がないことが判明していた点も大きい。

 載せられる限りの兵員を載せた輸送艇とボートは急いで沖へ退避する。

「急げ‼他の連中が待っているぞ‼」

 砲弾の無駄遣いと言われようとも、兵員1人を育成することと比較してしまえばその費用対効果は明らかに兵員を優先するべきという結論になる。

 船に乗り移った者たちはすぐに船内の自室へ逃げ込む。

 一方、現場ではまだ艦砲射撃と戦車砲の砲撃により、絶え間ない攻撃が行われていた。

 陸軍指揮官のヘッジは、戦艦や装甲巡洋艦などの戦闘艦からも小型ボートが出ているのを見て安堵する。

「これならば、なんとかなるかもしれないな……」

 元々勝つつもりがほとんどなかった編成と人数であるため、足も軽い。銃器は技術流出があってはいけないので持ち帰る。

 陣地についても端から長期戦用の陣ではなく、多くの物を素早く持ち帰ることができるようにしていた(実は到着日である今夜は夜襲があるかもしれないということでテントすら設営していない)ため、ほぼ手持ちの物だけを持って逃げだせばよかったという点も大きい。

 日本側からも『何かあれば急いで撤退できる用意を整えておいたほうがいい』と言われていたので、皆それに備えていたことが功を奏す形となったのだ。

 とはいえ、軍艦の砲弾も無限ではない。

「こうなったら……戦車は捨て置け! どうせ奴らには扱えぬ代物だ‼」

「し、しかし、これは我が国の最新兵器で……」

「日本からすれば、『我が国が作ったこの兵器』は時代遅れの遺物だ。それよりも、日本から『完全輸入した』装備を持ち帰れ‼これはなんとしてでも渡してはならない‼」

「わ、分かりました!」

「急げ急げ‼」

 ヘッジの指示を受け、多くの兵が水際まで後退して射撃を繰り返しつつ牽制する。だが、小銃弾も機関銃弾も、そして戦車砲も全く意に介さないかのようにアラクネはゆっくりと歩む。

 そろそろ艦砲射撃での支援が不可能になる距離にまでアラクネが迫ってきていたが、戦闘艦艇もボートを出してくれていたお陰で、既に9割以上の兵員が収容できている。

 残るは戦車と、その周りを固める兵であった。

 そこに、『バナディナイト』輸送艇が2隻着岸した。扉を開き、戦車を招き入れる。

「急いでください‼」

 それにより、2輌の戦車が戦線を離脱した。だが、それが限界だった。

「仕方ない‼ 残り3輌は打ち捨てろ‼命のほうが大事だ!」

 すると、戦車に乗っていたドワーフ族の隊長、グラップルが顔を出した。

「総司令官! このままじゃ奴らにこの貴重な兵器が渡っちまう。そこでだ‼」

 耳打ちしたその作戦は伝達され、急いで準備された。

「効果があればいいのだが……」

 そして、準備を終えた兵たちは脱出し、接岸していたボートへ飛び乗った。

「よーし! 出してくれ‼」

 ボートは沖へ出て、すぐに輸送船へ接舷した。

 ヘッジが砂浜を見ると、アラクネたちが戦車のハッチを開けた瞬間、大爆発とともに数人のアラクネが吹き飛ばされた。

 王国軍は短時間で戦車内部にブービートラップを仕掛けておいたのである。

――ボワンッ‼ ドガァンッ‼

 彼女らは同時に3輌のハッチを開けていたため、10人近いアラクネが爆風で吹き飛ばされた。

「ハハッ、ざまぁ見ろ‼ 少しだけ意趣返ししてやったぞ‼」

 ヘッジは捨て台詞を吐きながら、船の上で拳を握り締めるのだった。

 こうして、グランドラゴ・アヌビシャス連合軍はわずか1日で撤退という憂き目を見た。

 しかし、彼らの戦いは無駄ではなかったことが、後に明らかになる……


本日初めて艦これアーケードの合同演習をやってみましたが、練習巡洋艦の鹿島がいたおかげか、経験値がモリモリ入ってきましたね。

レベル1だった秋月が、5回ほどで18まで成長しましたよ……そう言ってたら、なんと初めて『伊勢型戦艦』の2隻が当たりました(以前お話しした戦艦はカードショップで『買った』ものですので、今回が実質初めて)。

オマケですが、イタリアの駆逐艦(リベッチオ、だったかな?)も当たりましたね。

何気に初めての海外艦なんですが、できれば戦艦化空母がよかったなぁ~とわがままなことを思いました(笑)

次回は21、22までには投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毒ガスで一網打尽だな。 あとは爆撃なら防げないだろう。
[一言] 銃砲弾が効かない、電子装備に一定距離で齟齬が生じる、NBC兵器も使用が制限されているとなればガス系を除く非致死性兵器の出番しか今の所なさそう。LRADのような音声装備かスタングレネード、スカ…
[気になる点] > ちなみに車体には英語で『王国振興』と書かれている。 この後の文での事例はアニメより実際に戦車に文字を書いていた事例を記録で見たとかの方があり得るのでは? 例えば中国共産党軍で使わ…
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