成敗、フランシェスカ侵攻軍‼竜のブレスを受けよ‼
前々からの宣言通りの3話目です。
さて、今回はとある伝統をぶち壊すネタをぶっこみました。
これをどのように思われるか、非常に気になると言いますか恐ろしいところですが、私は『これでやってみたい』と思ってみたことです。
――西暦1742年 5月6日 フランシェスカ共和国 城塞都市ガラード
こちらでは、日本の援軍が来るまではとフランシェスカ共和国の兵たちが日夜奮戦していた。
特に最近は皇国側で戦車が故障気味なのか、それとも毒ガスを浴びた時に回収しづらいことを嫌ったのか、前線に現れる頻度がかなり減ったため、共和国側も大分防衛がやりやすくなっている。
将軍エグルはその日もほとんど傷を負うことなく敵を追い返せたことにホッとしていた。
「ほぅ……皆、大丈夫か?」
「はい。東小隊死者2名、軽傷者3名のみです」
「同じく南小隊、死者0名、軽傷者1名」
この城塞都市は皇国に対して東と南に向いているため、敵の攻撃がその方面に集中しやすい。
それだけに、その方面には合計で8千人もの兵が配備されていた。
非常時ということで徴用した民間人も含めれば1万人を遥かに凌ぐため、航空戦力がないことを考えるとこれが意外と手間取るのである。
「なんとかもう少しは持ちこたえたいところだが……」
エグルが都市内部を見渡すと、多くの者が傷ついて倒れている姿が目に映った。兵士だけではない、兵の作業を手伝ってくれている民間人にも少なくない負傷者が出ているのだ。
「くっ……いつまでも持たないぞ……」
物資に関しては首都及び穀倉地帯から問題なく運ばれてくるのだが、如何せんそれを扱う兵士たちが日に日にすり減っている。
少し前に首都から増援として500人と物資が送られてきたが、敵の圧倒的な技術と能力の前では心もとないにもほどがある。
すると、連絡の将校がかけてきた。
「伝令――ッ!」
兵は素早く片膝をつくと、エグルに報告する。
「報告します‼ ただいま首都より連絡あり! 『日本国自衛隊が援軍のために出発した。あと数日持ちこたえてほしい』とのことです!」
「‼」
遂に、遂に日本国が援軍を派遣してくれる。その情報が得られた瞬間、城塞都市の人々の顔に希望の光が宿った。
「日本が……来てくれる」
「助かる……俺たちは助かるぞ‼」
「そうだ、生きることを諦めるなッ‼」
あちこちから間もなく訪れるであろう希望を讃える声が上がり、人々の士気は最高潮に達する。
エグルもこの戦いが始まってから、最高のニュースに思わず笑顔を見せていた。
「よし! あと数日だ! あと数日持ちこたえて、日本軍……じゃなかった、自衛隊を、諸手を挙げて歓迎しようではないかっ‼」
「オォォォ――――――ッ‼」
これにより、ガラードはさらに強固な防衛体制で粘りを見せるのだった。
自衛隊到着まで、実にあと3日。
――西暦1742年 5月9日 早朝 フランシェスカ共和国 城塞都市ガラード 北方10km
新型汎用ヘリコプター『UH―2』の中で、若本陸将補が部下からの報告を受ける。
「間もなく城塞都市ガラードです」
これまで補給と休憩を重ねつつ進軍していたが、ようやく到着できそうであった。特にヘリコプター部隊は燃費の都合があるため、後から出発してつい先ほど陸上部隊と合流して補給を済ませたばかりなのだ。
「色々手間がかかったが……これでようやく到着だな」
若本の隣に座る芹沢1等陸佐が更に続ける。
「航空自衛隊の攻撃のあと、我々が突入します。既に攻撃に入っているはずですが……どうなっていますかね?」
「決まっているだろう。『蹂躙』。その一言だろうな」
若本は少し苦々しげな笑い顔をしていた。
「どんな恐ろしいことになるのやら」
――同時刻 城塞都市ガラード南東5km ニュートリーヌ皇国陣営
ここでは、戦車隊と歩兵部隊が侵攻の準備を整えて集合していた。
本国からの増援もあり、戦車は20輌も揃っている。
「どうだ、様子は?」
「はい。連中、なぜかここ数日ほどお祭り騒ぎだったようです。きっと、我らに敵わぬからと空元気で疲れているでしょう」
「よし……もう少し嫌がらせした後、本隊の到着で一気に落とす!」
既に数か月以上の『嫌がらせ』は続いていたが、彼らも本腰を上げる気になったらしい。
だが……破滅の風は、静かに近づいていた。
「目標、敵装甲車両発見。これより攻撃を開始する」
『こちらフクロウ、了解。十分に注意されたし』
「了解」
『A―1』・『飛竜』(以下飛竜と呼称)は既に、敵装甲車両を誘導弾の射程に捉えていた。目標の振り分けも済んでいる。
「FOX2!」
翼下パイロンから6発の対地誘導弾が飛翔していく。
「……6,5,4,3,2,今!!」
直後、画面に映っていた輝点が6つ、消失した。
敵車両撃破成功である。
敵部隊との距離は更に接近していく。今度は誘導爆弾の射程に入った。
「続いて誘導爆弾の投下を行う。『F―2』とタイミングを合わせる」
『飛竜』及び『F―2』が横に並び立ち、速度を合わせる。
「クリア―ド・フォー。アタック。レディ……ナウ」
――ガチャッ、ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……
「レーザー・フォー」
『飛竜』から投下された『LJDAM』は、集合していた皇国軍に着弾、その威力を解放する。
しかも、『F―2』1個飛行隊と同時に投下したのだから、その威力たるや、推して知るべしである。
地上では猛烈な爆炎が吹きあがり、敵をあっという間に吹き飛ばしていく。
更に機首を下に向けると、パイロットはトリガーに手をかけた。
「FOX3」
――ガガガガガガガガガガガガガガガガ‼
――ブオォォォォォォォォォォォォンッ‼
『F―2』1個飛行隊と『飛竜』から放たれた機関砲弾は地上の兵士たちを粉々に打ち砕いて、更に地面を文字通り『耕して』いく。
そこで遂に、パイロットはぶっ壊れた。
「ブッ飛ばすぜベイベー! 信長公の威力を思い知れ‼」
ノリまでもアメリカ風(米国面)になっているようで、ヒャッハー! と叫ばんばかりにバリバリとガトリング砲をぶっ放す。
そして、何度かそれを繰り返して機関砲弾も残弾が尽きる。すると、それまでの興奮が嘘のように冷静になった。
「フクロウへ、こちら飛行隊、これより帰投する」
『こちらフクロウ了解。注意して帰投せよ』
上空のAWACSから帰投していいとの指示が降りたので、そのまま引き返していく『飛竜』と飛行隊であった。
一方、皇国軍は大混乱であった。
いきなり空の彼方から光の矢が降ってきたかと思うと、走りだそうとしていた戦車が6台も破壊されてしまったのだ。
更に状況を整理しようとしていたら今度は陣営で次々と猛烈な爆発が発生した。明らかに自然現象ではない。敵の攻撃だ。
指揮官はただただ混乱することしかできなかった。
「なぜだ、なぜこのようなことになっているっ!! いったい何がどうなっているのだっ!?」
だが、その場にいる者たちには彼の疑問に答えることもできなかった。
「まさか……航空機による攻撃だというのか!? そんなことは、イエティスク帝国以外には不可能なはず……だが、フランシェスカに帝国が味方しているなどという話は聞いたことがない!」
その時、ふと海軍が独断で処刑したという新興国のことを思い出した。
「日本国……そういえば、海軍曰くかなり高い技術持っているかもしれないとのことだったが……ま、まさか!?」
「あ、あの、司令官……」
「あぁ、なんだ!?」
ぶつぶつと呟きながら考え事をしていたせいで、少々語気が荒くなった司令官だった。
「もしも航空攻撃なのであれば、この後さらに追撃が来るのではないのでしょうか?」
そう、戦場は空爆だけでは決しない。イエティスク帝国に隷属を強いられていた時代に、彼らはそれを学んでいた。
「そ、そうか! 残存兵力を急いで立て直せ! 敵が近づいてくるぞ!!」
司令官の指示を受け、兵たちは残存兵力で隊列を組み直そうとする。
その頃、若本以下ヘリコプター部隊はガラードの上空へ差し掛かっていた。
「陸将補、間もなく敵陣です」
「そうだな……音楽を鳴らせ!!」
一方、地上でも杉田たちがその無線を聞いている。
「音楽? ワーグナーのワルシャワ・フィルでも流す気か?」
「あぁ、ヘリコプターの方って、キルゴア中佐に毒されてるって言いますよね」
阪口が明らかに『そういう世代だから仕方ない』という顔で杉田に答えた。
ちなみに、杉田たち陸上部隊はヘリ部隊が掃討作戦を行なったあとの後詰である。
ハッキリ言って格下の相手に戦車や戦闘車までが多数出張っているのは、後の包囲戦に必要だからである。
だが……ヘリに搭載していた音響機械から流れてきた音楽は、彼らの予想の斜め上を行くモノだった。
――デデデ――ン、デーンデーンデーンデーン……
「ん?」
「これって……?」
――デーン、デーン、デデデデーン、デデデデデーン!
それは日本においてあまりにも有名な、江戸幕府8代目将軍をモデルにした時代劇の、殺陣のシーンに流れるそのBGMであった。
それを聞いた杉田と阪口は、思わず表情を『くわっ』とでも言いそうな形相に変えて叫んでいた。
「「将軍かいィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!……」」
彼らの叫びは、青い空へ吸い込まれるように消えたのだった……。
各ヘリコプターに搭載された7.62mm機関銃に弾が込められ、全員が地上へその銃口を向ける。
「各機、攻撃開始‼」
『攻撃開始!!』
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
多数のヘリコプターから一斉に機関銃弾が降り注ぎ、皇国兵をハチの巣にしていく。
皇国兵は、まさか低速で真下に近い角度に向けて攻撃する手段があるなどと想定したこともなかったため、為す術もなく崩れ落ちていく。
優れた反射神経を持つ兵の中には、ヘリコプターに狙いを定めて銃の引き金を引く者もいたが、空を飛ぶ相手を狙ったことのない兵士が当てられるはずもなく、何も成果を上げられぬままに崩れ落ちる。
そもそも戦闘用ヘリコプターでなくとも、旧式の小銃くらいは受け付けない強度は十分持ち合わせているので、よほどピンポイントに危険な場所に当たらなければ不調は起きないであろう。
一方上空を舞うヘリコプター部隊は、『処刑用BGM』とも言われるその音楽を高らかに鳴らしながら淡々と攻撃を続行する。
更に『やんま』型対戦車ヘリコプターも攻撃を開始していた。
「ロケット弾発射!」
「発射!」
各機が70mmハイドラロケット弾を次々と発射し、密集状態にあった歩兵を粉々に打ち砕いていく。更に機首の30mmチェーンガンが同じように密集している兵を狙う。
――ブオォォォォォォン‼
展開していた野砲や山砲ごと皇国兵は吹き飛ばされていく。即死した者はまだ幸いで、なまじ生き残った者はその直後に襲い来る激痛とおぞましい周囲の光景にただ呻くことしかできない。
「ぐぁぁ……」
「ななな、何が起こったんだぁっ!?」
怯えている間にも上空からは機関銃弾がさらに雨の如く降り注ぐ。
一方歩兵から少し城塞都市に近い所では、残存していた戦車隊がどうするべきか判断を仰げずに立ち往生状態にある。
「ど、どうすればいいんだ!?」
「歩兵が攻撃を受けているが……空からの攻撃は我々ではどうしようもない!」
「ん? 敵の飛行機械がこちらを向いたぞ!!」
『やんま』型対戦車ヘリコプターは、データリンクによってどの機体がどの戦車を狙うのかをすぐに振り分ける。
「誘導弾、各機発射準備完了」
「距離700、発射用意……発射!」
各機が対戦車誘導弾を発射し、戦車を次々と破壊していく。
1機に付き対戦車誘導弾を8発搭載しているので、展開している敵軍の規模から、3機が全弾発射するだけで片付けられるという状況だった。
そして、最後の1発が着弾する瞬間、ヘリコプターの攻撃を担当するガンナーの1人が思わず叫んでいた。
「成敗‼」
直後、車内に突入した高温のメタルジェットによって車内の砲弾とエンジンに引火、戦車は派手な炎を噴き上げて爆発を起こすのだった。
「目標装甲車両、全車撃破確認。残存兵力の掃討に移る」
『フクロウ了解。反撃及び地対空兵器に注意せよ』
「了解」
とはいえ、ニュートリーヌ皇国の技術水準では小銃を上に向けて撃ちまくるのが関の山であることは分かっているため、戦闘用ヘリコプターである『やんま』はもちろんのこと、『UH―2』ですらそれほど恐れることはない。
強いて言うならば、ドアガンナーが流れ弾で負傷しないかどうか、というところか。
『間もなく後方より支援が到着する。彼らの分も多少残しておくように』
「了解」
ヘリコプターのガンナーが後方を振り返れば、確かに戦車を先頭に突き進んでくる仲間の姿が見えた。
「よし、撤退のためにも撃ち尽くすぞ」
「任せとけ」
『やんま』は更に射撃を続行し、このヘリコプター部隊だけで3万人を超える軍勢の、3%近くを削ることに成功するのだった。
また、上空からの『UH―2』の射撃もすさまじく、合計すれば既に4千人近くが戦闘不能状態に陥っていた。
そして、ヘリコプター部隊が撤退したことで皇国兵は『助かった……』とへたり込む。だが、その後聞こえてくる唸り声のような音に視線を向けると、自分たちの戦車よりも重厚で強力そうな車両を先頭に、多くの車両が押し迫ってくるのだった。
「俺たちじゃ敵わないっ!! 逃げろぉっ!!」
皇国兵は雪崩を打って逃げだすが、歩兵と車両とでは移動にあまりにも速度差がありすぎる。
たちまち射程に追いつかれると、各車両から機関銃弾が飛来する。
本来ならば皇国側も塹壕を掘ってしかるべきだったのだが、元々フランシェスカ共和国を相手にすることを想定していた軍勢だっただけに、塹壕戦の準備を全くしていなかった。
なので、皇国側は日本の攻撃に対してとにかく逃げ回ることしかできない。
結果、各車両に搭載された機関銃は比較的密集している所に向ければあっという間に敵兵が倒れるという有様で、もはや戦闘にすらなっていない。
杉田1等陸尉も、『軽装甲機動車』で自分の小隊の指揮を執りながらぼやく。
「こんなんただの虐殺だよなぁ……ったく、なんにも準備していませんでしたって感じじゃんか」
それには小野2等陸尉が答える。
「仕方ありませんよ。彼らはそもそも、自衛隊が援軍に来て、自分たちよりも強いということを認識していなかったわけですし」
実際、皇国と日本の技術差は100年を遥かに超えている。旧地球を基準にして比較するならば、明治時代から第一次世界大戦の狭間くらいにある大英帝国軍を相手にしているようなものである。
北方の港湾都市を攻撃した際には、時速100km程度の鈍足の複葉機ながら飛行機が登場していたこともあり警戒されていたのだが、今回は登場していない。
恐らく、試験機か何かだったのだろうと防衛省ではのちに考えている。
そして、こうなると皇国軍にはもはや『撤退』以外の選択肢は残されていないも同然であった。
中には逃げ遅れて自衛隊の真っただ中に置かれたことで、武器も何もかも放り出して土下座して許しを請う兵もいた。
そういった兵は素早く隊員が駆け寄って捕縛し、後方の城塞都市へと送らせる。
だが、そうできた兵は幸運だった。
それすらできずに逃げ惑う者たちはほとんど追撃されて殺されたからである。
日本側も皇国兵がやけになって決死特攻をかけてこないとも限らないと考えていたため、武器を捨てた者以外は倒せと命じられているのだ。
本来自衛隊のあり方から言えば、この様な虐殺にも等しい戦闘行為は憲法その他の法律に違反する部分が多い。
だが、『それでも自分たちがやらなければ国と人々を守れない』という使命感と責任感だけが、今の彼らを動かしていた。
杉田は、流れる音楽のテンポの良さに比べると隊員たちが緊張している姿を見て、逆に安心して溜息を吐いていた。
「どうしました、隊長?」
隣で阪口が問いかけてくると、杉田は苦笑しながら『いやな』と答えた。
「相手を威圧するための音楽であって、こっちが妙にやる気になっちゃやべぇよな、と思ったんだ」
もちろん全員がそうではないだろう、中には音楽に乗るように相手に向かっていく者もいる。だが、それでもその頭の中のどこかで、冷静な判断を下せるようでなければならないと杉田は思っていた。
「皆、興奮はしているが油断していない。『任務を果たす』。それで頭がいっぱいみたいだ。まぁ、上にいるヘリの連中は違うかもしれねぇが」
杉田の苦笑に阪口も『そうかもしれませんね』と返す。
こうして、わずか3時間足らずでニュートリーヌ皇国軍は敗走する。残兵の内、350人ほどは自衛隊に降伏したが、少なくとも1万人以上が亡くなり、負傷者は2万を超える。
残りは逃亡できたようだが、それとてどこまで持つかわからないという状況である。
何せ、取る物もとりあえずと言わんばかりのほうほうのていで逃げ出したのだ。そんな状態では、本国まで逃走できるかどうかも怪しい。
とはいえ、皇国側も補給のための前線基地は設けていることは日本側も把握していた。
そのため、自衛隊は今後一気に進撃して、その前線基地を完膚なきまでに叩き、それから補給を済ませたのちに首都へと向かう方針である。
「よぅし。俺たちはこっからが本番だ。阪口、気ぃ抜くなよ?」
「隊長こそ、油断してヘマしないでくださいね」
銃弾が飛び交う戦場であろうとも、彼らは己の為すべきことをする。
――西暦1742年 5月10日 ニュートリーヌ皇国 対フランシェスカ前線基地
城塞都市ガラードから東へ25kmの地点に、大きな要塞がある。
ここは本来、ニュートリーヌ皇国がフランシェスカ共和国に攻め込むための前線基地で、部隊が出撃した後も3千人の兵が残っている堅固な要塞だった。
能力としてはフランシェスカ共和国の城塞都市にも匹敵するため、旅順要塞並みかそれ以上の能力があることになる。
だが、そんな要塞は今、混乱に満ちていた。
「こっち、早く薬を持ってこい!」
「駄目だ、包帯が足りない!!」
「衛生兵、衛生兵!」
「おい、死ぬな! 死ぬんじゃない……あ、あぁぁぁぁぁぁっっ!!」
要塞に逃げ込んできた兵の多くは傷つき、中には戻ってきた時点で既にこと切れた者もいる。
そして、虎の子の戦車や最新鋭の車両が、1台も戻ってこないのだ。
「何があったというのだ……」
基地防衛を任せられていた隊長は、あまりの被害に絶句する。
「多くの者が精神的にも疲弊しているようで、断片的な情報しか得られませんが、どうやら飛行機械の大軍によって蹂躙されたとのことです」
参謀からの報告に、隊長は絶句状態から抜け出せない。
この世界において、飛行機械を運用できるのは最強の国であるイエティスク帝国と、その属国であるフィンウェデン海王国だけである。
グランドラゴ王国はワイバーンを、スペルニーノ・イタリシア連合は巨鳥を使役できる。さらに、最近では東の果ての蟻皇国が開発したとも言われていたが、それならばすぐにわかるし、これほどの被害になるとは思えない。
「敵は……いったいどこのどいつだ?」
「それなのですが、元老院と海軍が拿捕した船の祖国、『日本国』ではないかと考えられます」
「日本国? 確か、エルフとドワーフを足して2で割ったような貧相な人種が多いと聞くが……そんな連中に負けたのか? そんな連中が飛行機械などという高性能な物を持っているのか?」
「未確認の情報ですが……日本国の船には電探が搭載されていたそうです。もしかしたら……帝国に近いか、並ぶほどの技術を持っているのやもしれません」
とにかく、兵たちが無気力になっているせいで飛行機械と車両に乗った歩兵に倒されたという情報しか聞き出せていないのだ。
「なんとかしなければ……まぁ、この要塞は堅固だ。要所にさえ隠れていれば、飛行機械の機銃掃射くらいならば耐えられるだろう。散発的な『空爆』も、隠れていれば乗り越えられる」
イエティスク帝国が飛行機械を実用化していたこともあり、彼らはその戦い方をある程度だが把握していた。
「重傷者は重要区画へ運んでおけ。本国から車両が到着し次第、軽傷者を移送する」
軽傷者のほうは精神的に崩壊している者も多いので、ここに居られてもどうしようもない。重傷者はそもそも動かせないので、これもまたどうしようもない。
「さて、日本軍が攻めてくる前にできることをしておきたいが……対空機関銃の用意は?」
「はい。各方面に配備しています。一斉射すればワイバーンや巨鳥程度ならば十分に墜とせます」
要塞の塀の上には、多数の機関銃が並んでいる。こうなると、要塞はもはや短い棘を大量に生やしたウニのように見える。
「これならばなんとか凌げるだろう。その間に、なんとか撤退して、本国で緊急会議を……」
その時、何か音が聞こえた。
「なんの音だ?」
小隊長は参謀と共に城壁の上に登った。すると、西の空から灰色と形容するべき色をしている巨大な飛行物体と、それよりは小さいがより洗練された形状をしている青い飛行物体が見えた。
「!? ま、まさか、あれが飛行機械だと!? なんという速さだ!!」
直後、飛行物体から何かが撃ち出された。まだ皇国の対空機関銃の射程にはまるで届いていない。
「対空戦闘用意! 各員射撃開始せよ!!」
指示を受けた兵たちはすぐに配置についた。だがその直後、猛烈な爆炎と共に塀も機関銃も吹き飛ばされてしまった。
「な……!!」
呆けている間にも、次々と爆発が発生して兵も、要塞の各所も吹き飛んでいく。
「馬鹿な……この要塞は、グランドラゴ王国はもちろんのこと、イエティスク帝国の『戦車砲』にもある程度耐えられるはずなのに!!」
イエティスク帝国では大口径の戦車砲が採用されていることは皇国内でも知られていた。なので、自国の艦砲を参考に、それにある程度は耐えられるようにして、中から野砲で装甲の薄い上部を破壊するという戦法を取る……はずだった。
「何故だ……何故こうも容易く壊れる!! 爆発するのだ!!」
「隊長! 上から何かが落ちてきます!!」
隊長が上を見上げた時、黒く細長い物が落ちてきた。
それが、彼の最後の記憶となった。
フランシェスカ共和国駐屯基地所属の『F―2』戦闘機と試験機の『飛竜』による対地誘導弾と誘導爆弾による猛攻は、遠隔地へ赴いていた皇国兵の最後の心の拠り所を破壊し、その後の陸上部隊の侵攻を手助けしたのだった。
自衛隊は更に進軍し、一路、首都ルマエストへと迫る。
……さて、どうだったでしょうか?
アリだと思った方も、こりゃないわと思った方も、どうか感想を……
ついでに、杉田1等陸尉、坂口2等陸曹、ついでに繋げられる人は小野2等陸尉の元ネタが分かったのではないかと思います。
次回は6月の10日までには投稿します。