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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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レーヴェ、日本へ行く

おはようございます。明日からまた仕事の笠三です。

コロナに負けるな応援ということで、今月も3話投稿させていただきます。

今回は少年皇帝レーヴェが日本に赴きますが……さて、どうなることやら

――2027年 4月2日 日本国 首相官邸

 首相官邸ではこの日、緊急閣僚会議が開かれていた。

 首相が疲労の色が濃い表情ながらも声を上げる。

「で、その少年がニュートリーヌ皇国の皇帝陛下なのは間違いないんだな?」

 首相の言葉に答えたのは外務大臣であった。

「はい。シンドヴァン共同体のギルドマスターたちの保証書が送られてきています。これの信憑性に関しては諸国の外交官たちにも既に確認済みです。間違いないと判断できます」

「皇帝陛下にはどのようにして本土まで赴いてもらう?」

「それなのですが、幸いなことにアヌビシャス神王国に現在建設が終了、稼働を開始した空港があります。こちらまでは海路と陸路で赴いていただいて、空港から成田まで飛んでもらいましょう」

 経産大臣が手を挙げる。

「皇国との戦争を終結させる案ですが、既に防衛省のほうでは立案ができているのですか?」

「はい。市ヶ谷では既に首都包囲までの作戦を考えていましたが……まさか向こうの元首が降伏宣言してくるとは思っていなかったので、そこは予想外ですね。向こうに戦争終結の意思があるというのは、はっきり言って嬉しい誤算です」

 これで自衛隊は大手を振って皇国首都のルマエストに乗り込むことができる。

 だが、ここで国交大臣が手を挙げた。

「それなのですが、首都包囲は自衛隊にお任せしてもよろしいと思いますが、元老院などの要人確保には警察官が必要になるのではないのでしょうか? 必要とあればこちらから部隊を派遣しますが……」

 これには防衛大臣も頷いた。

「そうですね。自衛隊では要人の確保は難しいと思いますので、警察のほうから特殊部隊を出していただけると助かります」

「では、そちらの人選はお任せください。警視庁及び警察庁、海上保安庁を含めて検討させます」

 国交大臣が立ち上がって部屋を退出する。すると、文科大臣が手を挙げた。

「戦後の賠償などはもちろんですが、国家運営の指導教育などはどうされるのですか?」

「外交官と監察官を置いて重要案件に介入させるのがよろしいかと。また、皇帝陛下に関しては近代政治についても学んでいただく必要がありますので、しばらく日本に滞在してもらおうと思うのですが」

 だが、これには外務大臣が反対する。

「いや、皇国にとって自国最大の存在が国を空けたままというのはまずいでしょう。安全が確保されたと判断できれば、戦後処理を終える前に速やかに帰国していただく必要があるかと思います」

 法務大臣も頷いた。

「そうですね。相手国の国民感情も考えると、なるべく早めに戻ってもらった方がいい」

 これには概ね賛成の意見が出た。

 最後に首相が発言する。

「いずれにせよ、日柔戦争に終結の兆しが見えた。なんとしても早期に終了させるぞ。戦争なんて、国が疲弊するだけだからな。勝っても負けても」

 日本国もまた、戦争終結に向けて大きく準備を始めるのだった。



――西暦1742年 4月20日 アヌビシャス神王国 神都カイジェ

 謙虚な心持ちを忘れないように常に念頭において人々が生活しているアヌビシャス神王国の神都カイジェでは、今未曽有の建設ラッシュが続いていた。

 日本の主導で港湾開発及び空港の開発が進んだことにより、様々な新製品が入ってくるようになったからである。

 今のところではあるが、海路を除けばシンドヴァン共同体へ運ばれる前に、どうしてもこのアヌビシャス神王国を介する必要があるためか一大倉庫街ができあがっているのも特徴である。

 何せ、現在はニュートリーヌ皇国との戦争が勃発して海路のみでの輸送は厳しくなっているのだ。

 そのため、グランドラゴ王国の港湾都市エルカラ、フランシェスカ共和国の港町シャローネと同様、大きな発展を遂げつつあった。

 そんなカイジェにおいて、舗装された道路を多くの車が走っていた。

 その中には、シンドヴァン共同体から移動してきたレーヴェ・ニュートリーヌ一行が乗っている。

「すごいな……今までの神王国では考えられない規模の都市だ」

「これも日本の為せる技、なのでしょうな」

 レーヴェもメーロも、共に唖然とするほかない。

 首都カイジェ北西部の海岸沿いに建設されたカイジェ空港では、大勢の人々が毎日乗り降りしている。

 仕事、観光など様々だが、レーヴェたちの目にはとても先進的なデザインの服を着こなしている者が多いように思えた。

「あの日本大使館の倉敷という人物が着ていたものと同じ……軍服ではないようだが、どういった服なのだろうか?」

「多くの者がカバンとトランクケースを持っておりますので、恐らく労働者の類ではないかと思われます」

 空港内部の駐車場に車を停めると、労働者たちと同じデザインだが、より上等な仕立ての服を着こんでいる人物が立っていた。

「御足労頂き、誠にありがとうございます、レーヴェ陛下。私は日本国外務省の間島と申します」

 間島と名乗った男は曲がりなりにも敵対している国の人間とは思えないほどの礼儀正しさを見せる。

「皆様に乗っていただく飛行機は既に準備済みでございます。さぁ、こちらへどうぞ……」

 間島に案内された一行は機能美に満ちた空港設備に、またも唖然とする。

「ここまでくるともはやなんでも来いという感じだな……」

 そして、通路を通って飛行機に乗り込むと、小さいながら窓の外が見えた。

 そこには、多数の巨大航空機・『ノア』が駐機している。

 また、滑走路の端では翼が2枚ある、小型の飛行機がずらりと並んでいた。

「間島殿、あれも飛行機か?」

「はい。飛行機の形態としては原始的な複葉機と言いまして、我が国がグランドラゴ王国の練習用、そしてアヌビシャス神王国の軍事用に輸出した『ヒルンドー』型戦闘機です。初めて輸出したのがアヌビシャス神王国なので命名法則は神王国風になっています」



『ヒルンドー』型戦闘機

 日本が民間企業に作らせた『零式水上観測機』を対外輸出向けかつ陸上機運用可能な機体としたもの。

 あの悪名高い(褒め言葉)『三菱の不条理』をそれ以上のものとして体現するため、日本の企業が(元は研究目的のお遊びに近かったにもかかわらず)丹精込めて作り上げた結果、時速は大幅アップ、旋回性能も『多少』上昇し、複合素材を用いたことで頑丈性は零戦とは比較にならないほど強固で、それでいて零戦以上の軽量化を成しているという反則機体である。

 しかも、『T―4』練習機を参考に電子機器も搭載しているため、見た目に合わずハイテクな装備を持っている。

 最高速度は陸上機になっているため550kmまで出せる。

 

 武装

○12.7mm重機関銃2丁(機首)

○ 50kg爆弾主翼下計4発(自衛隊が開発した新型。翼下に装備可能。

○あるいは爆弾の代わりにAAM―3 4発

○あるいは70mmハイドラロケット弾ポッド 4基

○25式短魚雷(現在護衛艦で使用されている短魚雷を無誘導にする代わりに航空機から投射できるようにした物) 胴体下に1発



 結果、日本の変態技術の粋を結集した『ぼくのかんがえたさいきょうのふくようき』となってしまった。

 しかも、誘導弾を導入しているせいで、ある程度ならば第一世代レベルのジェット戦闘機とも殴り合える。

 そのため国内の兵器・軍事マニアからは『どうしてこうなった(笑)』、『三菱の不条理再び』と言われる羽目になっている。

 しかしその扱いやすさと能力の高さから、輸出先のアヌビシャス神王国からはかなり高評価を受けている。

 しかもだが、この飛行機は複葉機のクセに誘導弾の運用能力を得ていることで、暫定的ながら既にグランドラゴ王国に導入されている『ファルコン』戦闘機を上回る能力を有している。

 だが、そこにはグランドラゴ王国が『後に自分たちで開発したい』、『研究したい』という強い要望があったからであった。



 レーヴェも軍部が飛行機を作ろうとしていることは知っていたが、実際に目の当たりにするのは旅客機も含めて初めてであった。

「あれが……戦うための飛行機」

 とはいえ、レーヴェもあれが輸出用に大幅にグレードダウンされた存在であろうことは承知している。

 日本本土に存在する飛行機はもっと強力なはずであった。

「……我が国はあの複葉機の攻撃を受けただけでもボロボロにされるであろうな」

 レーヴェの言葉に、メーロも他の者たちも黙り込むしかない。実際、日本の航空攻撃によって港湾部が大打撃を受けたことは事実なのだから。

「……元老院を排除した後は、皇国をより開かれた先進国家にしなければならないな。そのためにも、日本にもっと学ぶ必要があるぞ。爺」

「そうでございますな」

 すると、『ポーン』という音と共に機内アナウンスが始まる。

『本日は当機をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。間もなく当機は離陸いたします。シートベルトの着用をお願い致します』

 映像でシートベルトの締め方が映し出されるので、ニュートリーヌ人はそれを参考にベルトを締める。

「(なんて親切なんだ……)」

 そして数分もしないうちに、ターボファンエンジンが轟音を上げ始める。

「す、すごい音だ‼」

――ゴォォォォォォォォォ‼

 そして飛行機がゆっくりと滑走路へ進入し、そのまま速度を上げ始める。

「う、浮かんだっ‼」

 そして遂に、川崎重工業製旅客機『ノア』は空へ浮かび上がったのだった。

 それから30分ほどは飛び続けていた飛行機だったが、不意に『ポーン』とチャイムが鳴る。

『シートベルトを外しても大丈夫です』

 アナウンスを受けて一同がシートベルトを外すと、機内の奥から犬の耳を持つ女性がカートを押しながら現れた。

「お食事をお持ち致しました」

 自分たち猫耳族以外の人類をあまり見たことのないニュートリーヌ人は思わず犬耳の女性を見つめていたが、女性は気にせずに素早くトレーを配っていく。

「おぉ……これは美味しそうだ」

「なんと……飛行機の中で食事ができるとは」

 しかも、移動する機内とは思えないほどの上質な食事である。

「この鶏肉……なんとも柔らかいな。しかも甘いタレで味付けされている……」

 それは、鶏むね肉のぽん酢煮であった。

 他にもみそ汁や白いコメなど、彼らからするとよくわからない、しかし美しく美味しそうなものが多数並んでいる。

「うむ……これは美味いな。皆も食べるがよい」

 レーヴェの言葉を受け、メーロやカメリアたちもフォークを手に取って食事を始めた。

 こうして、飛行機は日本本土へと向かう。



――2027年 4月21日 日本国 成田空港

 転移直後は利用者数が激減し、一時は閉鎖とまで言われていた成田空港であったが、ヨーロッパの各国と国交を結んで空港が建設されて以来、その活気を取り戻していた。

 本土日本人を始めとして、大陸系日本人やグランドラゴ人、フランシェスカ人など多種多様な人々が動いている。

「なんという規模だ……」

 すると、大柄で豚の耳を持つオーク族の男性が近づいてきた。

「間島さん、間もなく皆さんの荷物が出てきますよ」

「ありがとうございます、太島さん」

 荷物がベルトコンベアーに乗って出てくると、太島と呼ばれた男はひょいひょいと素早く、しかし丁寧に降ろしていく。

「間島殿、この者も日本人なのか?」

「はい。開拓した大陸に住んでいたオーク族という方です」

「先ほどの犬耳族といい、日本はかなり多人種国家のようだな」

「はい。大陸を開拓した結果、30を超える人種を我が国は傘下に収めています。彼らの協力なくして、大陸の開拓は進められなかったでしょう」

 この世界の基準からすれば、多民族国家というのはシンドヴァン共同体以外には存在しない。

 その背景には、同じ種族や考え方の近い種族でないと共存し辛いから、という理由がある。

 だが、日本はそんなものは関係ないと言わんばかりに様々な種族を国家に組み入れているらしい。

「(それだけ先進的かつ開明的な考え方をしている、ということか……)」

 種族間のあり方についてもこの世界の多くの国家より進歩しているらしい様子に、レーヴェは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「それでは、これより外務省へと向かいます」

 一行は外務省が用意した車に乗り込み、共同体で経験した時と同じく滑らかに走り出す。

「日本の外務省か……どのような機関なのだろうか」

 


――3時間後 霞が関 外務省内部応接室

 レーヴェ、メーロ、そして貴族代表ということでカメリアの3名が外務省の応接室に入室、着席していた。

「これより、日本国およびニュートリーヌ皇国の会談を始めさせていただきます」

 レーヴェがチラリと横を見ると、薄い板のような物に向かっている男性がいる。

「あれは何をしているのだ?」

「恐らくですが、この会議の議事録を製作するための道具なのでしょう」

「筆記用具がないようだが……?」

「もしかするとですが、電子機器に文字を打ち込めるのかもしれません」

「……電算機に紙とペンが駆逐されつつあるのか」

 自分たちの基準からかけ離れた光景だが、もう驚くことも疲れたのか、ただ嘆息するレーヴェであった。

 彼らが落ち着いたのを見計らったのか、外務省の間島が話し始める。

「この度は我が国へ赴いて交渉の用意があるというお言葉を頂き、感謝の極みでございます」

「なんのことはない。我が国が全く勝ち目のない戦いに突入してしまったというのならば、飾りとはいえ為政者が責任を取らねばならないと思ったまでのことだ」

 レーヴェのほうもまた、謙虚な(彼の基準で)姿勢を崩さなかった。間島はその姿勢に好感を覚えつつ、更に進める。

「今回陛下からご提示頂いた『元老院議員及び軍幹部の拘束』についてですが、政府のほうより『平和を望む為政者たる陛下の実権を奪っている反抗勢力を拘束する』ために、自衛隊及び警察機構を動かして首都を包囲し、市民に被害が及ばないようにしながら反抗勢力の拘束、駆逐に当たることを決意しました」

 この吉報にレーヴェは思わず破顔した。これまで破滅の道を突き進んでいた皇国が、ようやくまっとうな方向へ進む第一歩となると思えたからであった。

「しかし、当然ながらそれで余に全ての実権が戻るわけではないだろう?」

「はい。陛下には心苦しい思いをさせてしまうことになりますが、戦後に我が国と正式に国交を結んでいただいた暁には、外務省の官僚とともに監察官を配置、陛下のご政道についての指導を行いたいと思っております」

 つまり、レーヴェの政治に口を出して日本の都合のいい方向へと進ませよう、半ば属国になるようなものである。

 だが、それはレーヴェも承知の上であった。彼としても、先進的な日本の政治方式を取り入れることで皇国がさらに発展するならば望むところである。

「無論それは理解している。それで、本当に市民に被害を出すことはないのだな?」

「はい。陛下からご提供いただいた地図を基に防衛省及び国土交通省が共同で作戦立案を行なった結果、ほぼ確実に市民への被害を与えることはないと言えます」

 やはり、日本と皇国の間にはそれだけの格差があるということである。そして、日本にはそれを分析できるだけの能力もあるのだと分かった。

「分かった。委細は全て日本国にお任せしたい」

 レーヴェはメーロに合図して、ある物を取り出させた。

「これは、我が皇帝一族に伝わる印綬だ。これを押すということは、余の意思を示した、承諾したということになる」

 古代中国や日本に伝わる金印のようなものらしい。ラケルタにも既に確認は取っているので、この印鑑の信頼性も担保されている。

 間島も頷き、日本語とニュートリーヌ語(この場合はギリシア語)で書かれた文書を見せる。

 既に紙には日本国総理大臣以下、閣僚の署名と捺印がされている。

 そこにレーヴェ、そして貴族代表のカメリアも印を押した。

 そして傍らに立っている男がカメラのシャッターを切った。

「では陛下、このあと我が国の国営放送に出演していただきたいのですが……」

「国営……放送?あぁ、音声放送のことか」

 皇国では現在ラジオ放送が始まっており、集会場などで聞くことができる。

「あ、いえ。我が国の国営放送……映像に出演していただきます」

「!?」

 映像放送を実現しているのは世界でもイエティスク帝国だけである。日本には帝国に近い技術があることは既に理解していたが、映像技術、つまり電子技術の類も発展していることは初めて知った。

「と、いうことは……余の姿が日本全国に映るのか?」

「はい。そこで、陛下の国と、民を思う御心を語っていただきたいのです。それが我が国の後押しにもなります」

 つまりはプロパガンダである。レーヴェもここまで言われれば理解できる。

「(余が国民を思う姿勢が、日本にとっても受け入れやすくなる、ということか……)」

 だが、それで国民や兵士の犠牲が少なくできるというのであればなんでもしようと思えてくるから不思議であった。

「分かった。映像放送に出演しよう」

「ありがとうございます」

 外務省を中心に国営放送へ交渉し、3日後にレーヴェの出演が決定した。

 その翌日、国営放送に流された緊急放送の字幕に人々は驚愕する。

緊急・ニュートリーヌ皇国君主、レーヴェ・ニュートリーヌ皇帝陛下が我が国へ亡命、皇国の現状を伝えたいと述べ国営放送への緊急出演が決定する。

 当然ながらネットはざわついた。



○どうなってんだ!? なんで敵対国の君主が亡命してんだよ!?

○わからん。とりあえず様子見するしかなくね?

○皇国も一枚岩じゃないってことなのかな……?

○皇帝か……どんなおっさんなんだろうか。

 などなど、意外と落ち着いた様子であった。


 

――2日後 渋谷 国営放送スタジオ

 レーヴェは、国営放送スタジオの、自分の想像とは比べ物にならないほどに立派な設備の数々に唖然としていた。

「なんという整った設備だ……これは凄い」

 レーヴェは今回の撮影に際して日本で放送されているテレビを見せてもらったが、そのあまりの流麗な映像に思わず半日も魅入ってしまったほどであった。

 まだ彼が年若いということで日本側も配慮し、若者・子供向けのアニメなども見せると、年頃の少年らしく楽しんでいた。

 特に、車両が人型のロボットに変形するアニメは気に入ったらしい。

「あんなものを考え出すなんて……日本人の想像力は凄いな」

 彼はロボットの司令官がパワーアップのチップをイグニッションしてフルバーストする映像を思い出していい表情を見せる。

 側に立つメーロとカメリアはまだまだ年相応な心を残していたレーヴェを微笑ましく見つめていた。

「間もなく本番になります」

 本番、とは言うが、レーヴェの台詞はレーヴェ本人がこの場で初めて述べる。そのほうが、より強い感情をこめて言えるだろうという日本政府の配慮であった。

「それでは、本番始めまーす。5,4,3,2,1」

 国営放送が始まり、キャスターがよどみなく挨拶、そこから本日のニュースを述べていく。

「さて、本日の特別なニュースですが、現在我が国と戦争状態にあるニュートリーヌ皇国の最高責任者、レーヴェ・ニュートリーヌ皇帝陛下が我が国へ亡命されまして、この国営放送の場を借りて国民の皆さんにご挨拶と謝罪を述べたいと申しております」

 レーヴェは『遂に来た!』と緊張を高める。

「ですがその前に、この度のニュートリーヌ皇国港湾設備攻撃の案件に関しまして、各国駐在武官の方々よりお言葉が……」

 出るか、と思ったところで待ったをかけられたせいか、ガクリと崩れてしまった。

「へ、陛下」

「真打ちは遅れるものです!」

 レーヴェに倣って日本の影響を受けた2人の側近が慰めるが、お陰で無用な緊張は抜けた。

「いや、よい。ゆっくり待たせてもらおう。それに、このニュースという報道体系、我が国でも将来活用できるかもしれないな」

 冷静さを取り戻したレーヴェは、報道というモノをうまく使えば国民をもっと理知的に育てることができるかもしれないと考えていた。

 だが、間島からするとそうでもない。

「しかし、報道の自由という名目でマスコミの無駄な情報に踊らされて、我が国は滅茶苦茶ですけどね」

 間島の皮肉るような言葉に、その危うさも僅かながら感じ取った。

「(なるほど、下手に統制しようとすれば情報を隠蔽したことになり、かといってあまり大っぴらにしすぎると面倒も多い……確かに厄介な存在だな)」

 日本のみならず、旧世界の様々な国が報道機関に救われることもあれば、逆に追い詰められることもよくある話である。

「では続きまして、レーヴェ陛下からのお言葉です」

 ついに、レーヴェの番が来た。

「レーヴェ陛下、こちらへお願い致します」

 レーヴェはメーロとカメリアの両名を伴って、放送中の会場内へ歩み始めた。そして……服の裾に盛大に躓いてこけた。



○こけた

○転んだな……

○え、放送事故?

○www


実は、『こんな作品書いてみようかな』というネタを大雑把にですが、活動報告に書きこんでみました。

もし暇があったら見てみてください。そして、もし『これが面白そう』と思ったらぜひ感想欄なりコメント欄なりに投稿をお願いします。

それ次第で2作目が決まるかもしれませんので。

次回は一応、15日辺りで投稿しようと思います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 戦闘の早期終結(どっちみっち日本の火力なら…)見込んだ日本からは渡りに船な皇帝さんの亡命ですが、元老院の壟断とはいえ他国軍を自国に呼び寄せながら戻る皇帝果たして…軍事国家との干渉地帯な…
[気になる点]  日本には、現実の2021年現在において国営放送が『必要だ』とか、ましてや『できる』といった話すらも私は聞かないのですが、この物語の中では、転移後に開局したのでしょうか?  そうなる…
[一言] 更新お疲れ様です。 複葉戦闘機を配備してるとはグランドラゴ王国軍飛竜と飛行機の任務の棲み分けをきっちりできたと言えるのかな。空母とか建造せんのかな。安全保障の面での同盟構築とか連絡官を置い…
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