広島で見た物は……
遂に日本案内が始まります
ティラノサウルスの親2頭と、子供7頭を倒した自衛隊は、それを証明するべく、集落の長であるガルソンと外交官の園村を呼んだ。
「これは……もしかしたらとは思っていたが、本当に暴れ竜を倒したと……?」
ガルソンの顔には驚愕と、畏怖が宿っていた。
「はい。もう1頭が出てきた時はさすがに少々驚きましたが、兵装にそれなりの余裕があったため、損害なく倒すことができました」
ガルソンはこれで確信した。彼らは、自分たちよりも遥かに……いや、想像もつかないほどに高度な存在であると。
「うむ。我らの依頼を達成したくれたこと、心より感謝する」
「では、我々と交流を持ってくださいますか?」
しかし、ガルソンは首を横に振った。
「いや。そうはいかぬ」
園村はギョッとしてしまった。
「そ、そんな……」
だがそんなガルソンの口から飛び出した言葉は、園村たちからすれば予想外の言葉であった。
「我らは貴殿らの『クニ』の傘下に入りたい」
「えっ!?」
「貴殿らの所属している『クニ』は、とても高度で、発展していることが窺えた。そして思った。これほどの力を持ちながら、なんの縁も所縁もない我らを助けるために力を行使してくれたその心。貴殿らは我らの頼みを、全く躊躇することなく受け入れてくれた。その心に、付いていきたいと思ったのだ」
それには、害獣駆除という立派な建前があったからなのだが、ここで転がり込んできた思わぬ話を潰すわけにもいかないので、黙っておく園村であった。
「どうじゃろうか? もしお主らがそうしてほしいというのであれば、このことを近くにある他の集落にも伝え、お主らの下に付く者を増やしたいと思う」
「なっ……なぜ、それを?」
ガルソンはそこで少し柔らかな笑みを見せた。
「お主たちの話を聞いて考えたのじゃが、どうやらお主たちはわしらと結ぶことでこの大地を欲しがっておるようじゃったからな。わしらにはよく分からんが……それだけの場所を求めるということは、食料や資源などが欲しいと見た」
園村は、表情にこそなんとか出さなかったが、内心では驚きを隠せなかった。
この人物は鋭い。低文明人だからと侮ると、痛い目を見ると園村はこの時確信した。
「どうじゃろう? と言っても、わしの知っている集落は2つだけじゃが……彼らから以前、他にも各地に集落があるということは聞いたことがある。集落同士のつながりを利用すれば、すぐに大陸の各地に広がるであろう」
どうやらガルソンは、大陸中の集落にこの話を広め、大陸に生きる人々を保護してもらおうという考えのようだ。
確かに、それで話を通してもらえるのならば、むしろありがたい。交渉の手間暇の多くが、減ることになる。
だが、それでもいきなり頷くわけにはいかなかった。
「……そうですね。私の一存でお答えすることはできません。ただ、本国に問い合わせれば、恐らく承諾してもらえると思います。ですが、この集落の意志は大丈夫なのですか?」
確かに、この集落の人々が全員いきなり納得するとは考えにくい。
だが、ガルソンは柔和な笑みを崩さない。どうやら、彼には何か考えがあるようだ。
「そこで、じゃ。この集落に住まう者たちを、お主たちの住んでいる『クニ』へ連れていってくれんか?戦う力のみではない。お主らの持つ様々な物を、集落の者たちに見せてやってほしいのじゃ。そうすれば、彼らも納得するであろうて」
つまり、自分はともかく集落に住む他の者たちを納得させる材料が欲しいということらしい。
「……分かりました。それも含めて本国に問い合わせてみます。しばらくお待ちいただいて構いませんか?」
「わしはいつまでも待つよ。お主らの言いたい時に返事してくれればえぇ」
この時園村はもう一つ確信した。この集落の長は、自分たちにあまり余裕がないことを見抜いていると。
「(食えない爺さんだ……)」
園村は急いで車に戻り、再び短波無線で外務省へ問い合わせることにした。
――15分後 日本国 首相官邸
首相官邸では緊急閣僚会議が行われていた。
「どうする?」
首相の声に、閣僚たちが悩んだ表情を見せる。
「よい機会ではありませんか? 彼らは日本に合流したいと思っている。更に、現地住民に日本を見てもらい、彼らの紹介で更に日本に合流したいという意見を出すことができれば、大陸の各地に存在する集落と瞬く間に接触できます」
外務大臣の積極的な意見に、法体系を議論するためにいた法務大臣が慎重論で反論する。
「いや、それで万が一技術や情報が流出すれば、まだ未成熟な大陸に争いをもたらす可能性があります」
「しかし、彼らの文明水準はまだ『争う』ということすら知らないほどに原始的です。今のうちに日本の法体系の内に組み込むことができれば、彼らの若い世代……子供たちを一気に日本人として教育することも可能です。ただでさえ今の日本は転移のせいで海外からの労働者が減少し、どこも人手不足になることは間違いないと言われている状態です」
これは厚生労働大臣であった。その言葉に、他の幹部達も受け入れ賛成論が広がり始める。
「これでほんのわずかでも、労働力不足を解消できるなら、そして日本の人口の多様性を深めることができるというのなら、人道的な観点から言っても受け入れるべきだと思います」
「しかし、いきなり受け入れと言われても……どこを見せればいい?」
これには農水大臣が答えた。
「まずは、建築や歴史を感じる場所でどうだろう? 京都なんかいいと思うが」
「いや、自然と共に生きてきた人たちだ。美しい自然を見せた方が印象良いかもしれんな。北海道の知床にある原生林などどうだろうか?」
受け入れることが決まったら決まったで、今度はその受け入れ場所に難儀しそうであった。
すると、おもむろに首相が手を挙げた。
「ならば、広島から新幹線で東京まで来てもらおう。そして、族長という重要人物には私が直接応対する」
総理大臣の言葉に閣僚たちはざわめいた。
「そ、総理自ら!?」
「お言葉ですが、彼らの文明力を考えると、総理自らが応対するというのは行き過ぎだと思うのですが……」
だが、総理大臣はキッパリと断言する。
「事は国の存続に関わる話だ。私が顔を見せる程度でどうにかなるというのなら、いくらでも顔を見せようじゃないか。それに、彼らは我が国が最初に接触した存在だ。ならば、尽くせる礼を尽くしたい」
首相の顔には、この突然訪れた国難をどうにか乗り切らなければいけないという、責任感が刻まれていた。
「分かりました。そのように現場に伝えましょう。準備期間なども含めて1週間……いえ、4日でなんとかしてみせます」
その言葉に閣僚たちも頷いて各方面に連絡するべく動き始めた。
すぐに外務大臣が短波での電話を使用し、連絡を引き継いで大陸の園村に知らせる。
この即断こそが、後の日本の運命を大きく変えることとなったのであった。
――15分後、園村たちのいる集落
『――以上から、4日ほど待ってもらい、その後『おおすみ』で広島まで集落の人たちを輸送。そして広島市内で少し休憩した後に新幹線で東京まで来てもらいます』
連絡を受けた園村は驚いた。特に、急いで彼らの受け入れ準備を進めるので、彼らに1週間……いや、4日待ってほしいと伝えてほしいと言われたのは驚きだった。
「まさか、ここまで本国が性急に動くとはな……それだけ、追い詰められているってことか」
園村は自分たちが背負っている国の命運をひしひしと感じ、胃が痛くなるような錯覚を覚えた。
それでも、この局面を乗り越えることができなければ国の危機を救うことはできないと自分に言い聞かせ、決意を胸に集落へ戻るのだった。
中心部へ戻ると、若い国元が集落の若い女の子たちと楽しそうに喋っていた。
「えぇ!? 火打石を使わずに火を起こす道具なの!?」
「あぁ。この道具の中に火打石の役目を果たす物と、燃える水のような物が入っているんだ」
今は、タバコに火をつけるライターを見せていたらしい。
「ねぇねぇクニモト! この平たい板は何?」
「これはスマートフォンと言って、遠くの人とお話ししたり、情報を調べたりすることができる道具さ。ただ、今は使えない環境にあるから、俺たちの国に戻らないと情報を見れないけどね」
「いいなぁ!」
「私たちも欲しいわ!」
国元はその端正な顔で爽やかに微笑みながら、きゃいきゃいとはしゃぐ女の子たちに話しかけていた。
「日本に来てくれたら、それも考えると思うよ。でもゴメンね。今はまだ渡せないんだ」
「じゃあ、クニモトの故郷に戻ったら見せて!」
「私も見たい!」
「あぁ、いいよ」
元々外務省に所属している人物は非常に社交的だが、国元は若手の中でも新進気鋭の人物で、幹部たちからの期待も高い男だった。
とはいえ、まさかここまであっさりと集落の人、しかも10代半ばくらいの若い子たちの心を鷲掴みにしているのは園村も驚きだったが。
「(これが若さ、ってやつかなぁ?)」
苦笑しつつ、国元に近づく。
「おい、国元」
「あ、園村先輩」
「早速集落の人たちと仲良くなったようだな」
「えへへ。初めての人とお話しする場合は、その人たちが明らかに興味を持つようなことをネタにするのがコツですから」
嬉しそうにはにかむ国元の表情は、先輩に褒められたというだけでなく、可愛い女の子たちに囲まれているという状況が嬉しいのかもしれない。
ちなみに先述の通りだが、この集落に住んでいる人達の肌の色は黒ではなく、白人系、ヨーロッパ人に似ている。
「(明らかに俺たちのいた地球とは違う進化を遂げた人類がいる……生物学者は狂喜乱舞するだろうな)」
これについても後に、本国の生物学研究者たちに報告をする必要があると園村は判断していた。
「で、本国からはなんて?」
「あぁ、それを報告しに今、族長のもとに行く」
園村はそう言って再び歩き出す。向かうのは、一番奥にある族長・ガルソンの家である。
家の前に立つと、ノックができないので声をかける。
「ガルソンさん、失礼します」
「あぁ。入ってくれ」
園村は藁の扉を抜け、ガルソンの前へ座る。
「それで、貴殿らの長からは?」
「はい。準備があるので4日……太陽が4回昇るまでお待ちください」
日にちの概念がないだろうと判断し、原始的ながらこれならわかるだろうと判断して説明をする。
「ふむ、太陽が4回昇るまで、か。わかった。待たせてもらおう」
ガルソンが頷くと、園村が切り出した。
「そこで、今晩の食事ですが、友好ということで我々の方で料理を作らせていただけませんか?」
「ほほぅ。貴殿らの土地の料理か。是非味わってみたいものだな」
族長の許可を得たことで、沖合に停泊している『おおすみ』から野外炊具1号と食材を下ろし、集落へ入れた。
「なんじゃ、こりゃ?」
里の人たちが目を丸くする中、自衛隊員が素早く調理を始める。
元々この野外炊具1号は焼物以外の主食、副食、汁の同時調理で200人分の食事を45分以内に作れるようになっている。
「まさか……動ける竈なのか!?」
ガロンが驚いている間にも自衛隊員は黙々と作業を進め、次々と料理を作り上げていった。
この集落の人間の総数は100人ほどだったので、それほど時間をかけることなく大量に調理できた。
ちなみにメニューは炊いた白米に肉じゃが、野菜炒め、そして味噌汁であった。
出来上がると集落の人たちを集め、作った食事を次々と振舞った。
「お、美味しい!」
「なんなんだ、この味は!?」
「匙が止まらない‼」
多くの者が料理に舌鼓を打つ中で、ガロンは別のことを考えていた。
「(この匙……全て金属で作られている。我々の集落で鉄と言えば貴重品で、作れる集落からなんとか分けてもらうのがやっとだというのに……彼らの集落では、鉄は普通に使われているのか……?)」
もちろんガルソンも料理をもらい、大喜びしていたという。
ちなみに、鹿のような角を持つ人も普通に肉を食べられた。ベジタリアンというわけではないらしい。
――2019年 1月7日 午前9時 集落近くの海岸
ガルソンたちの集落の人々、合計98人を集めた外交団は、砂浜に乗り上げるエアクッション艇1号に人々を誘導した。
「な、なんなんだこの船は!? これは……舟なのか?」
「陸の上に上がってきているぞ!?」
驚く集落の人々をなんとか誘導していくが、何せ訳の分からない物に乗せられるとあって、皆恐怖感があるらしい。
だが、族長であるガルソンや、集落随一の戦士であるガロンが真っ先に乗ったことで他の人々も恐る恐るだが乗っていった。
彼らの常識を超える速度で走るホバークラフトに、そしてそのホバークラフトが乗り込んだ『おおすみ』の大きさに、彼らは圧倒される。
「この船……なんて大きさだ。それに、鉄でできているだと? 船は木製のはずだ……こんな大きな鉄の塊が、何故浮いている?」
人々は改めて恐怖した。自分たちは、とんでもない存在と接触してしまったのではないのかと。
園村の案内で、広い空間の中に彼らは場所を用意された。
「ソノムラ殿。この船はかなり大きいが……どれだけの人を乗せることができるのじゃ?」
園村は、あいにく軍事知識はなかったので、隣の国元に聞いてみる。
「そうですね。人だけと考えるならば、1,000人くらい……皆さんの集落10個分は乗せられますよ」
ガルソンはこれで確信した。目の前にいるこの人たちは、自分たちの判断基準からかなりかけ離れた所にいる存在だと。
「(技術とは、様々な研鑽と試行錯誤によって生まれるもの……これほどの物を作り出すということは、それほどの長い、長い積み重ねがあったということに違いない)」
ガルソンは差し出されたクッションに腰かけ、ホッと一息ついた。
ガロンは許可をもらって、外を眺めている。
「は、速い。速すぎる……どうやってこんな速度を出しているんだ? 櫂なんてないのに……訳が分からない」
彼らの感覚でいえば、船とはちょっと沖合へ出て魚を取っておいておくためのもの、というイメージであった。
だが、この船ならば世界の果てとも言える遥か彼方まですぐに到達してしまいそうな、そんな気すらしてしまうのだった。
「ニホン、か。どんな場所なのか……楽しみだが、同時に恐ろしくもあるな」
ガロンは恐怖を抱きつつも、明日の日本上陸を待ち遠しく思う自分がいることに気付いていた。
船は矢の如く、水を裂いて20ノットを超える速度で突き進む。
――2019年 1月8日 輸送艦『おおすみ』
海上自衛隊の輸送艦『おおすみ』は、護衛艦隊を伴いながら海上を突き進んでいた。
集落の人たちに、園村がこの後のことを説明する。
「皆さん、間もなく我が国の港湾都市の1つ、広島の港が見えてまいります」
日が昇って中天に到達する頃には到着すると言われていたので、ガロンもガルソンも早起きして外へ景色を見に行った。
いや、2人だけではない。集落の人々全員が、どんな集落なのかと起きて海を眺めていたのだ。
そして、それは見え始めた。
「な、なんだ!?」
里の中でも目のいい者の叫びを皮切りに、皆が陸地を見る。
「な、なんだ!? あれが集落なのか!? いや、そんな規模じゃないぞ!!」
「別の集落は『要塞』という形態になっている姿を見たことがあるが……これはあの集落よりもはるかに大きいぞ!!」
集落の人々が口々に広島県呉市という、人口20万人を超える都市の広さと大きさに、驚きの表情を見せる。
港に各船が着岸すると、まずは陸上自衛隊の車両が全て降ろされる。
その後、園村たち外交官が下りてから集落の人たちを招いて降ろした。
「皆さん、これからこのバス、という乗り物に乗って、広島市内に移動します。広島市民会館で昼食の用意をしておりますので、そこまで少々お待ちください」
園村の目の前には、箱型の乗り物らしきものがあった。よく見ると、一部の集落が開発した『荷車』のような輪っかが付いている。あれを回して動くのだろうということまでは推測がついた。
だが、彼らの集落にある荷車は人が引いて動かすものだ。この箱型の荷車には、それらしき人足が見えない。
ガロンはただただ唸るしかなかった。だが、同時に気付いた。
「(そうか。あの緑色に近い色をした鋼鉄の獣と同じように、我々の理解の及ばない力を使っているのかもしれない。ソノムラ殿の話では、確か……『内燃機関』と言ったか?)」
ガロンは促されるままに並ぶバスの1台に乗り込んだ。そして、フカフカの椅子に驚かされる。
「閉まるドアにご注意ください」
運転手が合図すると、自動でドアが閉まる。
「板が閉じたぞ!?」
「今のは……魔法か!?」
人々が驚く中、バスはスムーズに走り出す。
「この道……石でできているのか? いや、こんな繋ぎ目のない石があるわけがない。つまり、これも彼らが作り出した物、なのか……?」
ガロンが驚愕を超える言葉を探している中、バスはこれまた彼らの常識を超える速度で、それでいてほとんど揺れることなく走っていく。
バスが走り続ける中で、ガロンは様々な形状の建築物に心を奪われていた。だが、ある建物が見えた時、その建物が他とはまるで違うことに気付いた。
「ソノムラ殿。あの崩れた大きな建物はなんなんだ?」
園村はガロンの指差した先を見て、『あぁ』と納得した。
「あれは、『原爆ドーム』という建造物です」
「げんばくどーむ?」
園村は少し逡巡したが、意を決したように話し始めた。
「……70年と少し前、我が国は世界最大の国に対して、大きな『ケンカ』を仕掛けたことがありました。その争いは、全世界を巻き込んだものになったため、『世界大戦』と呼ばれていました。その終わり間際に、我々が戦争を仕掛けた相手国が、我々を追い詰めるために、早く降伏させるためにと、町1つを簡単に吹き飛ばせてしまう『爆弾』、という武器を使いました」
ガロンは、園村の表情があまりにも真剣なので、すっかり聞き入っていた。
「その爆弾は、当時の我が国の常識を遥かに超える破壊力を撒き散らし、この町を……完全に焼き尽くしてしまったのです。多くの人々が、その爆弾の放つ炎によって、死んでしまいました」
園村は真剣な表情のまま続ける。
「その中で、先程の原爆ドームは形を留めて残ったのです。戦争に負けた我が国は、その爆弾で犠牲になった人達のこと、そして戦争の悲惨さを忘れてはいけないという意味も込めて、この建造物を保存することに決めたのです」
町、自分たちの感覚でいえば集落を一瞬で吹き飛ばしてしまうような力があるなどと、ガロンにはどれ程の技術や頭脳が必要か、想像がつかなかった。
だが、日本という国がその苦難を乗り越えてこれだけの繁栄を築き上げているという事実に、同時に敬意を抱いてもいた。
「(彼らは……我々の想像もつかない苦労をしながら、生きてきたに違いない)」
「そして、我が国は戦後、戦勝国であるアメリカという国から戦争をしてはいけないと言われ、それを国の決まりとして定めました。故に、我が国は大戦が終わってから70年ほど、戦争には絶対に参加しませんでした。国際社会からは非難を浴びることもありましたが、それこそが我が国の誇りでもあるのです」
説明を終えると、そこからは静かに走り出した。
それから10分ほどで、広島市民会館へと到着した。
バスから降りてきた集落の人たちを中へ案内すると、大きな広間に机と、たくさんの飲食物が並べられていた。
「本当ならばもっと色々用意したかったのですが、皆さんに食べやすく、マナーなども気にしないで食べてもらえるようにと、おにぎりとサンドウィッチを中心にさせていただきました。どうぞ、お召し上がりください」
その言葉を受けて、集落の子供たちがまずは走り出した。待っていた外務省の職員が、サンドウィッチとポテトフライが乗った紙のお皿を、子供たちに手渡してあげている。
「これこれ、皆の分を用意してくれておるんじゃ。そうがっつくでない」
ガルソンが苦笑交じりに注意するが、園村が『大丈夫ですよ』と声をかける。
「慌てないでください。食べ物は逃げませんよ」
職員が声をかけ、それを見た集落の大人たちが子供たちに順番に並ぶように教えていた。
ガルソンも椅子をすすめられ、腰掛けながらおにぎりに手を出した。
「おぉ、これはなんとも……噛めば噛むほど美味しさが滲み出てくるようだわぃ」
そこに園村が近づき、今後の予定を説明した。
「食事の後は少し休憩しまして、そこから新幹線という乗り物に乗って、我が国の実質的な首都に移動いたします。集落の皆さんは外務省の職員があちこちを案内しますので、ガルソンさんなど、集落の中でも偉い方は我が国の総理大臣……皆さんでいうところの集落の長の所へご案内いたします」
「うむ。すまんな。それにしても、このオニギリという食べ物、麦とは違うものでできているようだが?」
園村もつまみながら答える。
「これは、我が国で栽培している米という穀物です。我が国の主食でもあります」
「ほほぅ……これは美味いな。昨日食べたあの白い物も、コメ、だったのか?」
「えぇ。そうですよ。先ほども言った通り、我が国の主食ですので、様々な料理と組み合わせて食べるのです」
ちなみに、農林水産省が会議した結果、当面の日本の食卓をカバーする目的で、漁業を活性化させると同時に保存していた古米、古古米を放出して食糧難に備える方針が決まった。
また、それによって減る備蓄を補うためにも日本の農業を活性化させ、日本で唯一100%以上生産が可能な米を、余っても政府が買い取るという方針で大量生産させることにした。
これに伴い他の農産物も、余って安くなるような物も含めて大量生産させることになった(例・作り過ぎることのあるキャベツなど)。余っても政府が買い取り、家畜などの飼料として回すことにする、という結論に至ったのだ。
閑話休題。
「昼食を取った後は、午後2時に広島駅へ向かい、そこから新幹線に乗ります。かなりの速度で動く乗り物ですが、なんの問題もないと集落の皆さんに通達しておいてください」
次回、いざ東京