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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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吹き荒れる対艦ミサイルの嵐

どうも、今月3話と言っておいて4話目を投稿する笠三和大です。

皆さん外出自粛で鬱屈とした気分を抱えていらっしゃるのではないかということと、今月はたまたま筆が乗ったので、かなりストックを作ることができました。

なので、もう1話投稿します。

遂にドンパチ回です。

ついでに今回はちょっと多めになってます。

――2027年 3月1日 日本国東部1500km 海上自衛隊第1護衛隊群

 灰色を基調とした、洗練されたデザインの艦隊が進んでいる。その中には、巨大な平たい甲板を持つ船があった。

 日本国初の本格空母である航空護衛艦『あかぎ』である。

 形状は『ニミッツ級航空母艦』に酷似しているが、『ニミッツ級』で採用されていた蒸気カタパルトではなく、日本でリニアモーターカーの原理を応用して研究が進められていた『電磁カタパルト』を使用していることが特徴であった。

 ちなみにこの電磁カタパルトを用いた訓練は在日米軍でも行なったことがなかったため、『T―4』を艦載機用に改修した『T―8』艦上練習機を用いて日本が独学で会得している。

 『制御された墜落』とも言われる着艦を1発で成功させた海上自衛隊員を見た在日米軍の兵士は思わず『ホワーイ!? ジャパニーズピープル!? 1発OKナンテアリエナイyo!』と某お笑い芸人のように叫んだとかそうでないとか……。

 その甲板には日本の最新鋭ステルス艦載戦闘機『F―3C』が並んでいる。

 甲板に並んでいる物も含めれば戦闘可能な機体が70機、早期警戒機として『E―2D』ノースロップ・グラマンをモデルに改良、改造を加えた川崎重工業『E―1』が1機、対潜哨戒用の『SH―60K』が2機、捜索救難用に『UH―60J』空母艦載改造型が1機、そして米軍が空母で使用していた『C―2』輸送機をモデルにして川崎重工業が国産した『C―4』輸送機など、多種多様な航空機が搭載されている。

 今回の海外派遣に際して、日本は横須賀に本拠を置く第1護衛隊群に『あかぎ』を付ける形で派遣することを決定していた。

 なぜこのような形態になったのかと言われれば、海外演習を含めて諸実験が終了したばかりだったため、配備するための打撃群が海上自衛隊側で編成できていなかったことが原因である。

 護衛隊群司令は前回の須伊派遣の際と同じ葛城海将補が務めている。彼は前回の派遣では『あづち』型揚陸艦に搭乗していたが、今回は『あかぎ』に乗り込んで指揮を執っている。

 葛城は傍らに立つ伊吹副司令に話しかけていた。

「……気が重いな。またも人命を奪う役割を与えられるとは」

「致し方ありません。何よりも、先に仕掛けてきたのは彼らのほうです。我々が躊躇すれば、その刃は間違いなく友好国であるフランシェスカ共和国、そして日本本土へと向かうでしょう」

 それはもちろん分かっている。だが、一日本人として、命を奪うような指示を出さなければならないことが、辛くて仕方がないのだ。

「それはそうと、第4護衛隊群の護衛する陸上部隊は今どこだ?」

 今回ニュートリーヌ皇国の『南側』へは横須賀を母港とする第1護衛隊群が、『北側』には陸上部隊の一部をフランシェスカ共和国に送り届けるついでに呉の第4護衛隊群が向かう作戦になっていた。

「我々より少し遅れてフランシェスカ駐屯部隊と合流する陸さんを共和国の港湾都市に送り届ける手筈です。陸さんはそこから南東の城塞都市ガラード方面へ向かいます」

「そうか……『P―1』哨戒機はどれだけ参加するんだったか?」

「それなのですが、転移後から『P―1』哨戒機の量産が進んでいたこともあって本作戦には合計18機が投入される予定です」

 『P―1』哨戒機は91式空対艦誘導弾(ASM―1C)を8発搭載することが可能となっているため、南部の港に存在する鋼鉄軍艦が120隻であることを踏まえて、万が一撃ち漏らすことも想定して18機が投入されることになった。

 転移前までは15機前後しか存在しなかった『P―1』哨戒機だが、転移後に瞬く間に予算が増大したこともあって、パーツの一部を共用している『C―2』輸送機と同時に生産ラインが拡大されていた。

 これにより、2027年時点で『P―1』哨戒機は既に50機、『C―2』輸送機も既に40機以上が配備されている。

 今回の攻撃に際して、使用する対艦誘導弾については『ASM―1C』の後継ミサイルである最新の『23式空対艦誘導弾(ASM―2C)』を用いる予定だったのだが、『それほどのモノを使う相手ではない』ことと、『在庫処分』も兼ねて今回『P―1』哨戒機には旧式ながら使えるようしっかり整備された『ASM―1C』が搭載されている。

 射程も旧式とはいえ、空中発射できることから艦上のハープーン対艦誘導弾とほぼ同等の150kmはあるので、本作戦には十分と判断されたのである。

 後方では航空自衛隊の『C―2』輸送機も使用して多くの兵器や兵員をフランシェスカ共和国に輸送していた。

 もちろん、海上自衛隊の『あづち』型揚陸艦も用いての大輸送である。

 ちなみに今回航空自衛隊は輸送を中心として『ほぼ』後方支援活動に徹することになっている。海上支援は戦闘機の航続距離が足りないことから空母打撃群に任せ、陸上は敵に航空戦力が存在しないことが判明しているので『ほとんどが』陸上自衛隊のみとなっていることが原因である。

「アヌビシャス神王国の空港から飛び立った『P―1』哨戒機が敵艦隊を撃滅し、我々第1護衛隊群が南部艦隊を殲滅、港湾設備を破壊した後に『P―1』はフランシェスカ共和国の北西部にある空港へ赴き、再度武装して第4護衛隊群と歩調を合わせて北部艦隊を攻撃する手筈になっています。こちらも航空基地がないため、エアカバーは第4護衛隊群の『かが』から『F―3B』が行う予定です」

 既に転移から9年が経過していることもあり、突貫ながら『いずも』型護衛艦の軽空母改修は終了し、国産した『F―3B』戦闘機が運用できるようになっていた。正規空母である『あかぎ』に比べてしまうとその様々な能力は一段も二段も落ちるが、日本が持つ貴重な洋上航空戦力という意味では、これから多忙になるだろうと推測されている。

 大変余談ながら、『いずも』型護衛艦2番艦の『かが』が『F―3B』使用可能な改修を終えた直後、某提督業の皆さんが大量に『かが』のイラストをインターネット上に投稿するという現象が発生していた……声帯の妖精さんもわざわざそれに関わる呟きを公式サイトに投稿したという。

 これにより現在、日本の洋上制空権を確保できる航空母艦は『あかぎ』が1隻、改修された『いずも』型護衛艦が2隻の計3隻である。

 急ピッチで進めていることから、間もなく『あかぎ』型2番艦の『あまぎ』が完成する予定である。

「さて……なんとしても、こちらに損害なく作戦を成功させないとな」

 海上自衛隊は『P―1』哨戒機も併せての一番槍として皇国に打撃を与えるべく進み続ける。



――西暦1741年 3月10日 ニュートリーヌ皇国 港湾都市アテニア

 ここは旧世界でいうところのギリシャ南端に位置する、ニュートリーヌ皇国の所有する広大な港湾都市である。

 いずれはイタリシア王国、さらにフランシェスカ共和国に侵攻することを考えているためか、この港湾には120隻の鋼鉄軍艦と、海防艦隊として旧式ながら30隻の機甲戦列艦が停泊している。

 この機甲戦列艦を日本人が見れば、蒸気スクーナー『迅鯨』に似ていると思うであろう。

 港湾都市防衛司令官のシルーロスは、眼下に広がる艦隊を眺めて満足げに頷いていた。

「副司令、これほどの戦力が揃っている光景は、いつ見ても美しいな」

「はい。まだまだ発展途上とはいえ、この海域においては我が国の優位性は確固たるものですからね」

 ニュートリーヌ皇国南部の海域、すなわち旧世界でいう地中海の海軍はどれも皇国と比較すれば貧弱な装備しか存在しない。

 それもあり、この海域の皇国海軍は他国の邪魔を受けることもなく順調に力を伸ばしていた。

 今まではスペルニーノ・イタリシア連合の物量作戦と人海戦術が厄介であったが、日本に敗戦して以来、その規模は縮小しているのでそれほど恐れることはない。

 故に、ニュートリーヌ皇国の真の主力艦隊は北方に展開している。これは全て、イエティスク帝国に備えるためである。

「しかし、なんとかして早く『空母』と『航空機』を完成させてほしいな。『空母』と『航空機』があれば、グランドラゴ王国に並び、フィンウェデン海王国にも匹敵する力を手に入れられる」

「空母はまだまだ研究の段階ですし、航空機もようやく試験機ができるかどうか、というところらしいですからね。実戦配備には程遠いと思われます」

 彼らは元々イエティスク帝国から逃れてきた種族であることから、帝国内部の情報や技術についてもある程度把握している。そして、自分たちがまだまだ帝国の足元にようやく食らいつけるかどうか程度の実力しかないことも分かっていた。

 だからこそ彼らは技術の発展と領土拡大に強い野心を持っており、敵対する存在にはとことん噛み付くのだ。

「そういえば、元老院から日本とかいう国が攻めてくるかもしれないという話があったようだが……情報は入っているのか?」

 シルーロスは第4艦隊が拿捕した日本の船を見て驚いた。何がと言われればとにかくその大きさであった。

 彼は防衛司令官という職業の傍ら、船の分析が趣味でもあった。自国の船のみならず、グランドラゴ王国や蟻皇国、更にフィンウェデン海王国の艦も独自に分析していた。

 そんな中で、日本から拿捕したという艦船は、船体の厚みそのものはそれほど大したことはなかった。だが、それだけに彼は驚愕した。

 自国の軍艦の装甲が230mm前後と、厚みだけなら各国主力艦の軍艦主砲以外には劣らないという点がある。

 軍艦の装甲に厚みがあればあるほど、貫くために高威力の砲を搭載しなければならない。

 故に他国では回転砲塔の大口径砲を搭載した『戦艦』が存在する。

 しかし、日本の巨大船は330mという異常な長さと、60mはあろうかという幅にもかかわらず、明らかに厚みは自分たちの軍艦以下であると考えられていた。

 恐らくは70mm前後の厚みしかない。こんな厚みでは、本来あれほど巨大で大容量の荷物を搭載するなど、皇国の常識ではありえない。

 重量がかさめばかさむほど、船体に求められる頑丈性はより強固なものとなる。ガワの厚みがそれほどないということは、厚みなくして強度のある金属を加工する技術が発達しているということでもある。

 また、喫水線下を調べてみたところ、船首部分が大きく膨らんでいた。なんの意味があるのかはまるで分らないが、意味のない形状にはしないだろうとも思える。

 もしかしたら、波の抵抗を減ずるような効力があるのかもしれない。

 一部の軍人や技術者は『イエティスク帝国でもこのような船舶は建造できないだろう』とも意見を出している。

「……元老院では、日本国はイエティスク帝国の属国という見方が強まっていますが、司令はやはり違うと思ってらっしゃるのですね」

「あぁ。ついでに言うならば、元老院の阿呆共が画策している日本船の軍艦転用も無理だろうな。装甲に厚みがなさすぎる。速度はそれなりに出せるようだから、どちらかと言えば輸送方面で活躍しそうだな」

 シルーロスは軍人であり技術方面にも明るい人物なだけに、この船の有用な使用方法について既にある程度考えがまとまっていた。

 技術者たちと共にもう少し研究をし、搭載されていた電探などの軍事方面に活かせそうなものは利用させてもらったあとは輸送任務に就かせるべきと提案するつもりである。

「ちなみに、司令は日本国の技術をどう思われますか?」

「……あの船を見てそれを聞くか? あれは恐らくだが、我が国より上なのはもちろんだが、帝国よりも高度な技術で作られていると私は思っている。日本国は帝国の属国などでないとしたら……我々は苦しい戦いを強いられるかもしれない。いや、もしかしたら足元にも及ばないのかもしれない」

「そ、そんな!」

「ただでさえ帝国との技術格差はかなりあると言われているんだぞ? 帝国よりも上の技術など、考えただけでもゾッとする。仮定の話だが、日本国は高度な船舶はもちろん、航空機も所有しているかもしれないぞ」

 シルーロスは日本の技術を過小評価するべきではないと考える、皇国でも数少ない軍人であった。だが、一港湾都市の防衛司令官が強い意見を出すことができる訳もないので、今は上の命令に従うしかない。

「いずれにせよ、来るというならば敵わぬまでも一矢報いるくらいの気概は持っていろ。さもないと、本当に何もできずに負けてしまうぞ」

「そ、そうですね。申し訳ありませんでした」

「とはいえ、私も不安は拭えないがな……さて、どうしたものか」

 と、考えを巡らせていた時だった。

――キィィィィィィィィィィ……

 何か、風を切るような音が聞こえる。シルーロスは思わず音のする方角へと耳を傾けた。

「ん?何か聞こえないか?」

「え、なんですか?」

 その時、彼らの近くに停泊していた軍艦が一瞬の閃光と共に大爆発を起こした。

――ドガァァァァァァン‼……

 軍艦は大爆発すると同時に弾薬庫に引火したのか、更に爆発してそのまま轟沈する。しかも、悪夢は続く。

――ドガァァァァァァン‼ ドガァァァァァァン‼ ドガァァァァァァン‼

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 爆発は、まるで収まらぬ神の怒りの如く立て続けに発生する。まるで、連続して雷が落ちたかのような連続する轟音に、港湾司令部は上層部から末端までを含めて完全に混乱していた。

「装甲艦『エラテー』、『ポイニクス』、『イーテアー』轟沈……だ、ダメだ! 轟沈が早すぎて報告しきれません‼」

 監視員が監視塔から報告を送るが、その間にも軍艦が次々と大破、そのまま轟沈していく。

 その時、監視員は軍艦に向かって飛来する筒のような物を見つけた。

「装甲艦『カリュオン』に細長い筒のような物体が飛行中! 間もなく命中します‼」

――ガギッ……ドガァァァァァァン‼

 その報告を受け、シルーロスは1つの可能性に思い当たった。

 このような攻撃を、ニュートリーヌ皇国は1つしか知らなかった。それは、最大の帝国が所有しているという、『必殺兵器』であった。

「ま、まさかこれは……帝国が所有しているという『誘導弾』ではないのか!?」

「誘導弾……狙った目標に飛来し、移動する物にすら命中すると言われる、帝国のみが持つ最強兵器ではありませんか‼」

 イエティスク帝国には航空機などを目標として撃ち出される『必中の爆弾』こと『誘導弾』が存在することはニュートリーヌ皇国の中でも知られていた。

 近年帝国がこの兵器を開発したという情報を受け、皇国上層部はかなり動揺していた。

 撃てば絶対に当たるように誘導できるなど、現場からすれば悪夢でしかない。

 それもあり、皇国軍部はここ数年程以前にも増して攻撃的になっていたという一面がある。

 だが、これが帝国の攻撃だとすると疑問もあった。

 シルーロスは桟橋付近から逃げながら疑問を副司令にぶつけた。

「確か……帝国が開発した誘導弾は『見える位置から』誘導しないといけないのではなかったのか?」

 そう、イエティスク帝国が誘導弾を開発したのはここ最近の話で、赤外線という熱を感知する誘導を用いた射程は20kmもあるかどうかであった。

 しかも、聞いていた話は『対空用』である。

 欺瞞情報という可能性もなくはないが、それでも、帝国も少し前までは戦闘機による空戦と言えば、機関砲を用いた格闘戦やドッグファイトを中心にしていたはずなのである。

 今の所、『対艦・対地』攻撃用の誘導弾という物は存在しないのである。

「もしも、もしもそんな長射程の、しかも鋼鉄製の軍艦を一撃で大破撃沈できるような威力の兵器を日本が持っているのだとしたら……」

「報告! 港湾部の艦隊120隻、全艦撃沈‼ 残るは海防艦の機甲戦列艦が30隻のみです‼」

 シルーロスは目を剥く。

「くっ……港湾施設がほぼ丸裸ではないかっ‼ 海防艦隊はどうした‼」

「現在残存艦で艦隊を編成し出港、敵の襲来に備える予定となっております‼」

 敵の高性能誘導弾も戦列艦は狙っていなかったらしい。舐められているのか、敵の調査不足なのかはわからないが何もないよりはいい。

「ないよりマシか……直ちに出港し、索敵を開始せよ‼ 沿岸防衛砲台は全台稼働、敵の襲来に備えろ‼」

「ハハッ‼」

 シルーロスの指示を受けて、沿岸部の防衛用の砲台も稼働を始める。

「日本国……どれほどの能力を持っているというのだっ‼」



 日本国海上自衛隊所属対潜哨戒機『P―1』から発射された120発の91式空対艦誘導弾は、射程150kmというこの世界からすれば有り得ないアウトレンジで探知されぬまま飛来し、皇国南部主力艦隊を殲滅したのだった。


 

 シルーロスは艦隊が出航したと聞いてからイライラしていた。いつ敵が来るか全く予想がつかないこともあって、司令部内でも気が休まらないのである。

 そんな彼が『紅茶でも飲もうか』と思って立ち上がった時、だった。

――ゴォォォォォォォォォ……

「な、なんの音だ?」

 窓の外を眺めると、空の色に溶け込みそうな青白い『何か』が見えた。

「あ、あれは……?」

 彼は初めて、高速で空を飛ぶ飛行物体を目にした。それは、第二次攻撃の必要性を確認しに来た『P―1』哨戒機であった。

「な、なんという速さだ‼」

 その航空機は、彼の知る飛行可能な物体から考えると尋常ではない速度を出していた。この速度は、イタリシア王国の巨鳥や、グランドラゴ王国の飛竜の比ではない。

「しかも、あの高さであれほど大きく見えるということは……かなり大きい。それでいてあの速度……どれほどの出力を出しているというのだ!」

 航空戦力など保有していないニュートリーヌ皇国では、迎撃も出来ない。上層部から末端まで、ただぽかんと口を開けてみていることしかできない。

 やがて『P―1』哨戒機は西の方角へと去っていった。

「くっ……これから敵が押し寄せてくる……なんとか守ってくれ」

 シルーロスは残存艦隊の奮闘を願うことしかできなかった。



 それから3時間後、海防艦隊司令官でヤマネコの耳を持つエキーノスは旗艦の『プリムラ』艦上で厳しい表情を見せていた。

 彼らは既に出港し、アテニア港沖合南西部50kmの地点を過ぎている。

「艦隊を、姿を見せることもなく殲滅した……しかし、我々は残っている。コリュドス艦長、どう考える?」

 傍らに立つスコティッシュフォールドのような耳を持つ若い女性艦長のコリュドスは、父と子と言っていいほど離れた年齢の司令官の言葉に『そうですね……』と思案する。

「先ほどの超長射程の誘導弾がもう残弾がないのか、あるいは我が軍の規模を知ったうえで、もはや誘導弾を使用せずとも倒せると踏んだのか……それとも、我が軍を精神的に追い詰める作戦が他にあるのかもしれません」

 自分たちの想定している戦術よりも高度な戦い方をされては、想定してもしきれないというのも無理はない。エキーノスは優しい顔をしながら素早く考えを述べて見せたコリュドスの頭をなでる。

「だが、相手がイエティスク帝国だとしても、一矢報いる間もなく倒れることだけはあってはならない。そうだろう?」

「は……ハイ。ですが、そのように頭を撫でないでください。その……子供扱いと言いますか……」

 『部下の目もあるのですし……』とコリュドスは頬を膨らませて呟く。

「はっはっは。私からすればこの海防艦隊は皆私の子供さ。だから……絶対に死なせたくない」

 エキーノスの瞳には、強い光が宿っていた。同胞を、自分の愛する祖国を守ろうという気持ちが、彼の中で炎となって燃えているのである。

 その直後、マストの上に立つ監視員が声を上げた。

「敵艦発見! 距離25km!」

 エキーノスもコリュドスも素早く表情を引き締める。

「総員、第1種戦闘配置! 我らは海防艦隊。されど、皇国に残る戦闘部隊である! 皇国の興廃この一戦にあり! 各員一層奮励努力せよ‼」

 皇国装甲艦に搭載された主砲は射程が10kmもない。

 まして、この機甲戦列艦の主砲の最大射程は3kmほどしかない。

 対して、グランドラゴ王国や蟻皇国、フィンウェデン海王国の軍艦の主砲は10km近い射程を誇る。

 皇国海軍でも回転砲塔を持つ『大口径砲』軍艦は開発中だが、長砲身化と大口径化はまだまだ研究途中でうまくいっていない。

 北部にはそれなりの口径で回転砲塔を備えた『装甲巡洋艦』が存在する。

 むしろ、車両技術のほうが早く発達し、そこに砲を載せる戦車の開発が先になってしまったほどであった。

「なんとしてでも接近し、一撃を見舞ってやろう……敵わぬまでも、直線で突っ込めば、場合によっては衝角で傷くらいはつけられるやもしれん」

 回転砲塔の軍艦が登場してからも僅かな間ではあるが、船の先端には衝角と呼ばれる船に突撃して破壊するための武装が存在した。

 相手は全体が金属製の軍艦、こちらが木造船に装甲を張り付けた軍艦といえども、それなりの質量と速度を乗せて激突すれば相応の打撃を与えられるとエキーノスは考えていた。



 一方、日本国海上自衛隊第1護衛隊群でも敵艦隊を目視で視認していた。

「対水上戦闘用意!」

――カンカンカンカン!

「CIC指示の目標―!」

「主砲、照準良し」

「撃ちぃ方始めぇ!」

「撃ちぃ方始めぇ!」

――ダンッ‼

 日本の護衛艦隊から、砲弾が撃ち出される。



「ん、あれか?」

 エキーノスは持っていた望遠鏡に艦影が見えたことを確認する。

「……なんともスッキリした外見だな。グランドラゴ王国や、蟻皇国の船とは全く違う。それに、幅は狭いが大きさは上回っているようにも見える」

 そして何より、艦隊の速度が尋常ではなかった。機甲戦列艦では5ノットから8ノット前後しか出せないのに対して、向こうは20ノット以上の速度で近づいてきている。

「! 敵艦発砲‼」

「ば、馬鹿な! まだ13kmは離れているぞ‼ 届くものか‼」

 だが、エキーノスの言葉は外れた。

 最前列を航行していた機甲戦列艦『アスプリ』が少し揺れたと思った瞬間、『アスプリ』の甲板が吹き飛び、火薬庫に引火したのか大爆発を起こした。

「な、なんだと!? まさか……敵の砲撃が届いたのか!?」

 エキーノスが呆然としている間にも、敵艦は皇国艦と比較して異常なまでの装填の速さで次々と砲弾を発射してくる。

「機甲戦列艦『クルスタロ』、『キューペー』、『クテイス』、轟沈……だ、ダメです! 報告が追い付きません‼」

 そう言っている間にも、最前列を進む艦から順番に撃沈されている。だが、エキーノスは1つだけ気付いたことがあった。

「日本の艦の主砲は思ったほど口径は大きくないな……だがその分、装填速度があまりに早い! そして、命中率が異常に高いぞ‼」

 護衛艦が標準装備している127mm単装砲は、OTOメララが1分間に45発、Mk.45 mod4も20発は発射できる。

 76mm砲は口径こそ小さいが約1秒間に1発発射することができる高性能速射砲であった。

 皇国の最新鋭艦はもちろん、他国の軍艦やイエティスク帝国の『駆逐艦』ですらそのような真似ができるかどうか疑わしい。

「これでは……近づくことすらできないではないか」

 エキーノスは絶望する。艦隊の指揮を執ることもままならず、ただただ失われていくだけであった。

 30隻はいた艦隊は瞬く間にその数を減らし、5隻、4隻と減る。

「提督、このままでは全滅します‼ ここは……撤退を‼」

「撤退はできない。港湾都市を目前にされているというのに、敵を残したまま逃げることはできないのだ‼総員、覚悟を決めてくれ‼」

 エキーノスの言葉に、全員が皇国式の敬礼を取る。

「突撃!」

 旗艦『プリメラ』は最大戦速で日本の護衛艦に向かっていった。



「敵艦残り1隻、向かってきます‼」

 最後の1隻になっても黒い煙を吐いて向かってきた敵艦に敬意を覚えつつ、護衛艦『こんごう』艦長の遠山は瞑目しながら指示を出す。

「撃沈せよ」

「了解」



 残る艦は自分たちだけである。

 だが、自分たちが退いてしまえばその後には無防備な港湾都市があるだけだ。

 自分たちが皇国の守護者の一角である以上、退くことはできなかった。

「敵艦発砲‼」

 見張り員が叫ぶ。

「取舵一杯! なんとしてでも回避せよ‼ 総員衝撃に備えろ‼」

 もどかしいほどゆっくりと、船体が横を向く。だが、その努力も虚しく、護衛艦『こんごう』の発射した127mm砲弾は『プリメラ』の右舷に突き刺さった。

――ズンッ‼

 強い衝撃を受け、しがみついていた者も多くが倒れてしまう。

「状況報告!」

「右舷被弾‼肋材損傷、浸水あり!」

「総員退艦せよ‼繰り返す、総員退艦……」

 エキーノスが退艦させようと叫んだ瞬間、弾薬庫の火薬が熱を持った127mm砲弾に触れ、大爆発を起こした。

 ほとんどの乗組員はその炎に巻き込まれたが、艦長のコリュドスは吹き飛ばされたマストにしがみついてそのまま海へ放り出される。

 こうして、皇国海軍南部艦隊は海防艦隊を含めて瞬く間に部隊消失し、わずかな生存者を出すのみとなった。

 航空護衛艦『あかぎ』と多用途護衛艦『いずも』が小型船とヘリコプターを出し、海に浮かぶ漂流者を助けたのち、残存艦は皇国沿岸へ更に近づくのだった。


新型コロナウイルスがまだまだ猛威を振るっています。

情報を正しく収集し、適切な行動を取れるように心がけたいものです。

次回は4月10日までには投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あなたの作品に登場する葛城海将補というキャラクターは、軍人としての資質に欠けるように感じます。一方的に攻撃してきた敵に対して、ためらいや葛藤を抱くような上官の姿勢は、部下の士気に悪影響…
[一言] 中盤の―キィィィィィィィィィィ…… ですが、 23式空対艦誘導弾は音速より速いマッハ3以上の速度が出るので 音は聞こえません。 聞こえた時には既に命中してます。 7割目の その直後、マス…
[一言] こんごう型って本来なら2020年代には代艦が造られていても可笑しくない艦型では?日本の護衛艦はだいたい30年ごとに更新ですが、こんごう型は1990年代に就役していますから。
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