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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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迫る手と阻む手

どうも、笠三です。

なんだか今月はやたらと筆が進むのと、私事でめでたいことがあったため、合計3話投稿することに決めました。

後は20日前後に投稿しようと思いますので、よろしくお願いします。

――西暦1741年 1月16日 シンドヴァン共同体 港湾都市レバダッド

 港湾都市レバダッドは、日本の開発もあって大きな発展を遂げようとしていた。具体的には、横浜の山下公園みたいなお洒落な状態になりつつある。

 その一角で、夜中に日本に向かう大型客船を見る影があった。

 ニュートリーヌ皇国の送り込んだ諜報員、プセーッサであった。

 既に老齢ながら優れた判断力を持っており、これまでにも様々な重要情報を持って帰ってきた、凄腕の諜報員である。

「ふむ……確かに日本の船は大きいな。メーロ様の仰る通り、あのような技術をイエティスク帝国が輸出するとは考えにくいもの……」

 プセーッサは冷静に持っているメモ帳に分かる限りの情報を書き込んでいく。

「……もう少し乗降口に近づいてみるか」

 周囲に人があまりいないこともあってか、プセーッサは少し大胆な行動に出た。

 近づくと、他にも様々な船が見えた。

「……白い軍艦?」

 そしてその中には、日本国が海賊対策に派遣した海上保安庁の大型巡視船『あきつしま』の姿があった。

「ふむ。我が国の軍艦よりも明らかに先進的な設計をしているな。しかし随分と小口径な砲だ……あんなモノで戦えるのか? いや、見た目にもよくわからない装備がいくつかある。それだけで判断しては危険だ」

 プセーッサがさらに近づくと、乗組員らしい人々が集まっていた。

 と、その輪から1名が外れていく。どうやらトイレらしい。

「……好都合だ」

 プセーッサはその男にこっそりと付いていった。

 男は彼と同じ猫耳族であった。故に、プセーッサは彼に成り代わるつもりであった。

 男の背後に忍び寄ったプセーッサは、意識を遠のかせる作用のある薬を浸み込ませた布を口元に押し当てた。

 ちなみに、一応終わるのは待っていたようだ。

 男は白目を剥き、そのまま力が抜けるように倒れ込んでしまう。

 プセーッサは男の服を素早くはぎ取り、着こもうとする。だが、着こんでみて驚いた。

「この服、我が国よりもはるかにしっかりした生地だ……」

 明らかに自国より発達した技術の一端を垣間見たような気がした。

「……おっと、いかんいかん」

 プセーッサは所持品を確認する。だが、致命的なことに気が付いた。

「……文字が読めない」

 ほとんどの所持品が日本語で書かれていたため、所持品の文字がまるで読めないのであった。

 手帳などを見ても、何が書いてあるのか全く分からないのである。

「ん、これは読めるぞ……? あぁ、シンドヴァンの言葉か」

 ラテン語で書かれた入港証(現地人に読めるように企業が配慮した)のお陰で、この人物の詳細が分かった。

「猫沢直人、か。これが日本風の呼び方なのか?」

 日本に吸収された亜人類たちは、日本語を学んだあとで名前や名字を考えた。もちろん、血縁関係を明らかにして、近親婚をなるべく防ぐ目的があった。

 この青年『ナオ』は元々あったナオという名前を日本風に変え、『直人』と呼称するようになり、海が好きだったことから船員となっている。

 シンドヴァン共同体への航海が、初めての海外出張であった。

「よし、悪いが借りるぞ」

 プセーッサは素早く服を着こむと、船のほうへと向かった。

 大きな貨物船からは長い階段が伸びており、そこから乗り込むようである。

 見れば、警備の兵らしき服を着こんだ男が階段の入り口に2名立っている。

「身分証をこちらに」

 警備はしっかりしているらしく、身分証の提示を求められる。

 素早く『猫沢直人』の証明書を取り出し、警備兵に見せる。

 警備兵は何か機械のようなモノにそれを通した。

「では、こちらに指を」

 目の前に妙な物が差し出されたが、言われるままに指をタッチする。

 だが……その時だった。

――ビーッ‼ ビーッ‼ ビーッ‼

 プセーッサがギョッとするほどの大きな音量を機械が発し始めた。音からして、警報のようにも聞こえる。

 すると、立っていた警備兵2人が素早くプセーッサを取り押さえた。

「な、何をするんだ!」

「何者だ‼ 指紋認証で引っかかったぞ!」

「し、指紋認証?」

 指紋認証のことを知らない時点で、この人物が船員でないことは明白であった。

「あなた、ニュートリーヌ人ですね! この証明書の本当の持ち主はどうしましたか!」

 日本の警備兵……海上保安庁の職員としても、貨物船を拿捕した挙句宣戦布告と言える態度を取られたこともあって、皇国に関しては最大限の警戒をしていた。

「こ、殺してはいない‼トイレの中で気を失っているだけだ!」

 職員が仲間を見て『すぐに付近のトイレを捜索してくれ!』と叫んだ。

「ど、どうして私がニュートリーヌ人だと分かった……?」

「……詳しい話は船内で聞こう」

 すぐに『あきつしま』から別の職員が駆け付け、プセーッサを連行していった。



――巡視船『あきつしま』

 連行されたプセーッサは、あまりに洗練された船内に驚いていた。

「この船……我が国の軍艦よりも遥かに美しい。それに、あちこちがピカピカに磨き上げられている。維持能力の高さが窺えるな……」

 艦首に備え付けられている『主砲』を見ることはできなさそうだが、この船内だけでも、高い技術力を垣間見ることができると判断しているプセーッサである。

「……1つ、いや、2つ質問してもいいだろうか?」

 プセーッサが大人しく付いてきていることから、職員も警戒しつつ彼の顔を見る。

「なんでしょう?」

「先ほど言っていた、『指紋認証』とはなんなのだ?」

「指紋認証ですか?人間には、指に固有の模様があるんです。それを登録しておいて、本人であるかどうかを確認するんですよ」

 そのような技術は、皇国はもちろんのこと、イエティスク帝国にも存在しない。そんな細かいものを読み取って本人であるかどうかを照合するなど、どれほどの計算能力と処理速度が必要になるか、想像もつかない。

「では、もう1つ。この軍艦、なぜ白いのだ?」

「これは軍艦ではありません。海上保安庁……海の警察組織に所属する、いわば警備船です」

「!」

 警備船がこれほど大きく、更に回転砲塔の主砲を備えているというのは異常である。

 皇国ではパドル付きの機甲戦列艦が既に時代遅れとなったため、海防艦として使用していた。だが、この船は明らかにそんなモノとは比較にならない技術が使われている。

 グランドラゴ王国では皇国の主力軍艦と同じ物が警備船として使われているというが、この船は明らかにそれより長大かつ優美で、強そうであった。

 少なくとも、まだ『電子技術』や『鉄鋼技術』の一端に触れ始めた程度の皇国では、理解が及ばないであろうことはハッキリわかる。

「……なるほど、これならばイエティスク帝国よりも能力が高いと言われるのも頷ける」

 諜報員である傍ら、敵性国であるイエティスク帝国の研究や分析を行なっているプセーッサは、日本の技術が隔絶していることにすぐ気づけた。

「こちらに入ってください」

 船室の一角に入れられたプセーッサは、すっかり大人しくなっていた。

「船長の下園と申します。いくつか確認事項がありますが、まずあなたは、ニュートリーヌ人ですね?」

「……そうだ。私はニュートリーヌ皇国のプセーッサという」

 完全にバレてしまったこともあり、ある程度は情報を開示するしかないとプセーッサは考えていた。

 以前も記述した通り、この世界では諜報戦の概念が割と薄いこともあって、『バレたらそこまで』という考え方が根強い。

 故に、バレたら『なんとしてでも生き延びること』が重要となっていた。

「職業は……情報部の方ですね」

「……想像に任せる」

 だが、全てを話すわけにもいかないので黙るところは黙る。

 すると、職員が1名、船室に入って下園に耳打ちした。

「あなたが昏倒させたという貨物船の船員、確かに見つかりました。気を失っている以外は外傷の類も見られなかったようですので、一晩病院に収容して様子を見ることになります」

 メモ帳らしきものに記録を続けながら更に問いかける。

「では、何故貨物船に変装して乗り込もうとしたのですか?」

「……日本国の情報を得るべく、日本本土に潜入しようと思ったのだ」

 下園が部下に耳打ちすると、すぐに部下が外へ出ていった。恐らく、本国へ報告させるのだろう。

「あなたは明後日の出航と同時に本国へ移送します。皇国について様々な聴取があると思いますので、心の準備をお願いします」

 ニュートリーヌ皇国の諜報員プセーッサは、日本国海上保安庁によって緊急逮捕され、日本へ移送されることになる。

 この後、海上保安庁の警戒は更に増す。

その結果、シンドヴァン共同体内部で活動をし、『日本本土へ赴こうとした』諜報員は全て逮捕されることになるのだった。



――2027年 1月25日 日本国 東京都 首相官邸

 首相官邸では、首相を始めとする閣僚たちがここ数日ほど国土交通省から上がってくる報告に頭を悩ませていた。

「で、今回捕まったのは?」

「10代後半の女性でした。海上保安庁の職員をハニートラップにかけようとしたみたいでして、不審に思った職員が応援を呼んでことなきを得ました」

「……写真を見るとかなりの美人じゃないか。よく職員が耐えられたな?」

「なんでも、その職員が『Cカップ以上の駄肉に興味はない』という『筋金入り』だったようで。有翼人の彼女がいるんですよ」

 有翼人はハッキリ言えば子供体型である。つまりその職員の趣味は……ゲフンゲフン。

 事情を薄々察した総理大臣も苦笑しつつ資料を見る。

「で、この女性の目的も日本への潜入だったと?」

「はい。職員を誘惑して本土に入り込むつもりだったようです」

 更に国交相が資料を渡す。

「共同体内部で日本について探っている存在についてはあえて泳がせてあります。あまりに日本について知らなさすぎるのも誤解を招く一因かと思いまして。何より、共同体側からも『度を過ぎればこちらで対処する』という通達が来ています」

 シンドヴァン共同体にとっては各国の諜報員たち(と言っても主にニュートリーヌ人)による経済効果も馬鹿にできない一面があるため、度を過ぎない限りは放置している。だが、今回は相手が日本であること、自分たち宛の積み荷に手を出されたということもあってか、警戒を厳しくしているらしい。

「もちろんこれ以上皇国による攻撃を警戒するために貨物船は最低でも海上保安庁の巡視船を付けて、それ以外ではなるべくアヌビシャス神王国を通じて陸路を中心に通商させています」

 本当ならば全てスエズ運河と陸路で輸送したいところなのだが、残念なことにアヌビシャス神王国とシンドヴァン共同体を繋ぐ交通網はまだそれ程整備されていないこともあって、どうしてもある程度は海路でないと難しいのである。

 大変余談だが、こんな大型船が多数行き交う日本の状況で思わぬ発達を見せている港町がある。

 それは、茨城県の大洗町であった。

 元々大型船が停泊できる港が存在していたことにより、東向けの輸出品は今や多くが大洗から運び出されているのである。

 ここ最近は某戦車アニメの影響もあってかなり町興しされていたところであったが、ここにきてそれがさらに加速している。

 多くの造船関連企業及び建築会社が巨額を投じ、港湾設備の拡大と更なる開発に勤しんだ結果、今や海上自衛隊の新たな基地『海上自衛隊大洗基地』として成立してしまった。

 空母や輸送艦こそ『まだ』存在しないが、『ふぶき』型護衛艦や掃海艇兼護衛艦(将来護衛艦・現時点で正式呼称は不明)を中心にした艦隊が編成されている。

 将来的には開発される『スサノオシステム搭載護衛艦』も配備される予定。

 だが、そんな注目を浴びる場所が賑やかにならない訳がなく、瞬く間に勝田駐屯地の改良・拡大案までできてしまった。

 航空自衛隊に関しては百里基地に『F―2』などの戦闘機が配備されていることもあって増設はされていない。

 某戦車アニメの聖地と名高い場所であったが、港湾都市としての重要性及び需要が大幅に増したこともあって、着任した自衛官やその家族など、移住する人も大幅に増えた。

 元々あったショッピングモールや宿泊施設も更に規模が拡大されており、海外からの行商人(主にシンドヴァンの商社)やグランドラゴ王国の技官などがよく利用するようになっていた。

 閑話休題。

 問題は、必要とはいえ一々貨物船の護衛に巡視船や護衛艦を付けるわけにもいかない、という点であった。

 この点を踏まえて、各企業は政府に対して『先制攻撃によるニュートリーヌ皇国の早期鎮圧』を求めていた。

 民意でも、貨物船の乗員がほぼ皆殺しにされた挙句積み荷のほとんどを奪われたというテロ行為もあって対柔(ニュートリーヌ皇国のこと)感情はすこぶる悪い状態であった。

 政府は秘密裏に国民(接収した大陸原住民も含めて)にアンケートを取っており、『ニュートリーヌ皇国へ先制攻撃をするべきか否か』を問うた。

 結果は、回答者の92%という高数値で『先制攻撃に賛成』であった。

 憲法の改正により、日本はこれまでとは比較にならないほどに自衛隊を自由に動かせるようになったが、今回はそれに加えて民意の後押しという点もあり、政府は間もなく皇国に対して第一次攻撃を加えたい、という考えを持っていた。

「では、この後皇国への攻撃プランについて説明いたします」

 防衛相が締めくくるように発言し、その場は解散となった。この後昼食の休憩を挟んで防衛省統合幕僚部へ移動し、作戦会議に移る。



――2時間後 防衛省 統合幕僚部

 ここには総理大臣と防衛相を始めとして、今回の作戦に関わる多くの人物が集結していた。

 その中には、今回協力を仰ぐことになるフランシェスカ共和国やグランドラゴ王国の駐在武官もいる。

「では、ニュートリーヌ皇国攻撃第1次草案、『アテニア湾攻撃作戦』、コードネーム・『真珠湾攻撃作戦』について解説いたします」

 防衛省幹部の発言と共にプロジェクターのスイッチが入り、前世界のギリシャの半島南部分が映し出される。

「皇国への第一次打撃として、皇国南部の港湾都市アテニアに本拠を置いている鋼鉄軍艦の艦隊を攻撃することが決定しました」

 偵察衛星による映像が切り替わり、軍艦がずらりと並ぶ光景へ変わった。

「おぉ……」

「中々の数だな」

 閣僚たちから声が漏れる。

「推定でも120隻の鋼鉄軍艦、更に機甲戦列艦というべき旧式艦が30隻ほど存在するようです。さすがに文明水準の関係か、航空基地や空母の類は確認できませんでした。しかし、厄介な点も浮上しました。資料をご覧ください」

 閣僚たちが資料をめくる。そこには『扶桑(初代)』という名前が記されていた。

 違法建築物ばりの増築された艦橋で有名な超弩級戦艦の『扶桑』ではなく、明治時代に使われていた鋼鉄装甲艦である。

「敵の鋼鉄軍艦は我が国で130年以上前に使用されていた鋼鉄軍艦『扶桑(初代)』に酷似しております。はっきり申し上げて、砲撃能力及び航行能力等は全く脅威にならないレベルしかありません」

 幹部は『ですが』と区切って続ける。

「装甲の厚みに関しては、初代『扶桑』のデータから推測するに230mm前後と、それなりに高いと想定されております。少なくとも、護衛艦の装備している艦砲程度では、全てを沈めるのに多大な時間と砲弾を浪費するであろうという分析です。そこで、艦隊攻撃に際しては航続距離の長い『P―1』哨戒機をアヌビシャス神王国の空港から回して大量投入し、在庫処分もかねて91式空対艦誘導弾(ASM―1C)による波状攻撃で120隻の鋼鉄軍艦を殲滅、機甲戦列艦隊は護衛隊群の艦砲射撃で無力化、最後に港湾部に艦砲射撃とヘリコプターによる対地攻撃を行いたいと考えております。なお、『P―1』哨戒機には護衛として途中まで『F―15J改』が、そして港湾上空では『あかぎ』型航空護衛艦から『F―3C』戦闘機が爆撃しつつ護衛に当たります」

 航空機の大量投入で軍艦を殲滅し、艦砲射撃とヘリコプターによって港湾施設を攻撃する。これがまるで、太平洋戦争の『真珠湾攻撃』のような先制攻撃になるだろうということからコードネームとして呼ばれるようになった。

 空港に関しては既にアヌビシャス神王国の首都近くに輸送機が離発着できるレベルの航空基地を建設している。通常の戦闘機では航続距離がまるで足りないが、元々長距離の航行を想定されている『P―1』哨戒機ならば兵装満載の上でも十分往復できるのである。

 『P―1』哨戒機には対水上・対空監視を可能とするアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーが搭載されているため、衛星情報とのデータリンクを含めれば、重複しない目標への攻撃を可能とするアップデートが加えられている。

 この改装によって、各機で目標の振り分けができるようになった、『対艦攻撃機』に変貌したのである。

 加えて、空母の艦載機も、航続距離の長い『E―767』早期警戒管制機も存在するため、万全に近い防空網を敷けるであろうと防衛省では予測している。

 また、皇国軍に航空戦力は存在しないことが事前の偵察で明らかになっているため、航続距離の問題もあることから、『港湾攻撃に関して』は艦載機以外の戦闘機は随伴しない。

 そもそも、航続距離の観点からシンドヴァン共同体北西部に航空基地を作らない限りは航空支援も難しい。

 だが、時間もないうえにシンドヴァンは非武装中立を『一応』謳っていることもあり、軍事支援は土地の貸与であっても今のところは不可能となっている。

 その代わり、皇国側も共同体に軍事的な手出しはできないことがせめてもの救いだが。

「皇国南部海軍及び海軍施設を殲滅したあとはフランシェスカ共和国北部の基地へ『P―1』哨戒機を向かわせて補給、こちらも1護衛隊群と共に同程度の能力を持つ北部海軍を叩いてもらいます」

「本土の防衛は残り3護衛隊群及びシーレーン警備隊か。それで大丈夫か?」

「少なくとも、皇国の能力及び周辺国との関係から考慮しますに我が国本土への攻撃は非常に困難であると判断しております、よって、更に1護衛隊群をグランドラゴ王国側に控えさせ、万が一の奇襲に備えます」

「敵の陸上部隊を攻撃する案については?」

「それに関しましても、国境を接する旧世界のオーストリア部分に装甲車両を中心とする大部隊が集結しつつあります。恐らくフランシェスカ共和国を制圧し、我が国に対する前線とする気なのでしょう。こちらにも陸上自衛隊及び航空自衛隊を送り込んで対処させます。皇国の本土及び首都を攻撃する作戦につきましてはその後の展開もありますので、第1次攻撃が成功してから改めて方針を煮詰めるつもりです」

 最後に統合幕僚長が立ち上がって総理大臣に顔を向ける。

「今回の作戦につきましては、皇国側に我が国に対する降伏方法が伝わっていないということも加味しまして、皇国兵への殺傷制限は解除いたします。よろしいですね? 総理」

「許可する。殺された者たちの無念と、侵される者たちの恐怖を、彼らに突き付けてやれ」

「了解です」

 こうして、日本側の作戦は動き始めた。

 皇国は知らない。自分たちが、地獄の釜の蓋を開け放ち、世にも恐ろしい存在を呼び覚ましてしまったことを。

 


――同日 赤坂 某料亭

 総理大臣はこの日の執務を終え、赤坂にある行きつけの料亭で一献傾けていた。

 一応店の外に護衛のSPはいるが、他の客の邪魔にならないようにと配慮させている。

 この店に総理がよく来ることは公然の秘密であるため、ここの常連などは逆に騒がない。

「……我が国は、再び軍事国家になろうとしているのだろうか……いや、そうなってはならない。あくまで、平和を追求し、最後まで対話を望む姿勢だけは崩してはいけない」

 実際、未だに一部残っている強硬な左翼派などは『軍事国家への道反対』、『今すぐに軍備縮小を』を叫び続けている。

 もっとも、国民のみならず政治家は与野党問わずに半ば右翼的になりつつある。

 日本転移小説が爆発的に広まったこと、実際に覇権国家の脅威が示されたことは、日本人の価値観を大きく変えるには十分すぎた。

 総理はよく脂ののったアジの刺身を一切れ口に運び、更に日本酒を一口含む。

 このアジは最近日本近海でよく取れるようになったアジで、旧世界と全く遜色ない味わいを誇る。

「だが、人類の歴史を辿れば、戦争は避けられない場面もある。そこにおいて逃げ出さず、不退転の覚悟を持って立ち向かうことができるか否か……連合戦争の時と言い、自衛隊には多大な負担をかけることになる」

 だが、国民の安心できる国家運営を守ることこそが自衛隊の役目である。そのために、彼らには一層頑張ってもらわなければならない。

 総理の目の前に、イカの天ぷらのような物が差し出された。

 最近人気になりつつある『アンモナイトの天ぷら』である。

「……古代生物グルメが、老舗料亭にも広まるとはな」

 アンモナイトの親戚筋に当たる子孫のオウムガイは深海に生息していたが、アンモナイトは比較的浅い海に生息していたこともあり、現代のタコやイカに近い感覚で食べることができる。

 既にツウの間では『天ぷらが美味い』と言われつつあった。

「……私もまだまだ負けていられないな」

 総理は天ぷらを口に含み、その芳醇な味と香りを味わうのだった。

 人々の決意を胸に、作戦は動き始める。


老齢なのに若者を入れ替わろうとした、という点に関しては色々未成熟な部分がある、という解釈でお願い致します……。

それと……人の好みは、文字通り千差万別です。

まぁ、温かい目で見てやって下さい。

次回は、皇国の元老院とそれに伴う動きをお届けします……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 途中で読まなくなってしまったけど続きが気になり再開しました。 地形が地球に似ているので読みやすいところと 多種族が出てくるので次はなんの種族でどういう感じなのかなーとかいろいろ予想しながら…
[気になる点] 南北米大陸を領有&友好国に軍事供与、世界一の軍備をもつこの世界で「軍事国家になってしまうんだろうか…」は総理、諦めろ。開き直れとしか。むしろ日本の軍の傘がなくなったときの世界はもっと悲…
[一言] ニュートリーヌ皇国は、まるで被害妄想患者の集団です。 ここまで来ると狂気じみていて、迷惑も甚だしい。同情はできませんね。
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