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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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ニュートリーヌ皇国の姿

どうも、笠三です。

何やら、とある方から厳しいご意見をいただきましたが……まぁ、それも含めての『創作』ですからね。

自分なりの主張もしつつ、めげずに頑張ります。

今回はニュートリーヌ皇国という国の様子です。

――西暦1741年 1月4日 ニュートリーヌ皇国 首都ルマエスト

 旧世界でいう所の東欧、それもルーマニアとハンガリーの間に位置する都市、ルマエスト。ここはニュートリーヌ皇国の首都であり、皇国のありとあらゆるものが集められる場所であった。

 現代日本人が見れば、産業革命が成功したイギリスのロンドン風の街並みにも見えるだろう都市は、大量の排煙に覆われており日本の技術を導入する前のグランドラゴ王国同様に大気の状態が良くない。

 だが、人々は気にせず日夜労働に勤しむ。全ては憎きイエティスク帝国を超え、自分たちの平和と繁栄を手に入れるためという思いが強いのだ。

 だが国民は向上心と同時に、外的存在に対して過剰なまでの敵愾心を持っている。そのため、この国の製品を手に入れるには唯一関係を持っているシンドヴァン共同体を介するしかない。

 多くの技術でグランドラゴ王国に一歩及ばない所のあるニュートリーヌ皇国だが、周囲のほとんどが陸地であること(最北端と最南端に港湾都市は存在するが)から、車両の開発には力を入れており、2年前に完成した『戦車』が陸軍の主力になりつつあった。

 グランドラゴ王国は当然のことながら、その戦法を取り入れ、穴を掘ってその中や木の上から弓で狙い撃ってくるフランシェスカ共和国が採用している塹壕戦法に対処するべく開発されたものである。

 現代日本人の中でも戦車に詳しい人が見れば『イギリスの菱型戦車、マークⅣに似ている』と言わしめるであろうどこか角ばった外観は、この世界の基準から言っても頼もしさを感じさせる。

 とはいえ、まだまだ開発されたばかりの兵器であるために色々と改良を施す必要はあるのだが、この兵器が誕生したことにより、フランシェスカ共和国との国境沿いにおける戦闘がかなりやりやすくなるであろうと軍は計算している。

 間もなく実戦に複数の投入ができる領域に達するだろうということから、西部方面に配備が始められている。

 そんな首都ルマエストの中心部には、近世ヨーロッパの大聖堂を思わせる建造物が存在する。

 ここが大聖皇堂グランディアートル。この国の頂点に立っている『とされている』人物、レーヴェ・ニュートリーヌが住まう場所である。

 そんな場所に、猫のような耳と尻尾を持った女性が、一番奥の荘厳な部屋へと入る。

「陛下、失礼致します」

 中へ入ると、まだ10代前半ほどに見える端正な顔立ちの少年が本を読んでいた。彼こそがニュートリーヌ皇国皇帝、レーヴェ・ニュートリーヌである。

 少年皇帝はお付きのメイドの姿を見ると顔をほころばせる。

「イーリスか。お茶が入ったのか?」

「はい。本日は大変珍しい茶葉が入りましたので、元老院から是非、陛下にと」

 イーリスと呼ばれた女性メイドは笑顔で答えたが、レーヴェは元老院の名前を聞いて少し顔をしかめた。レーヴェにとって元老院とは、自分が本来預かるべき権力と国民の生殺与奪の全てを奪い去った存在であった。

 だが、一方でまだ年若い自分の生活を保障しているので強く出られない部分もある。

「それならもらうとしよう。珍しい茶葉、とは?」

「なんでも、海軍が少し前に拿捕した船から没収した物だそうです」

「ほぅ?」

 イーリスは同じく接収したらしい道具の使い方を既にマスターしていた。

「変わったポットだな?」

「シンドヴァン語で、『きゅうす』というらしいです。元々は東の果てにある新興国家、日本国から輸入するお茶だったとか」

「日本……?あぁ、噂では聞いたことがある。あのスペルニーノ・イタリシア連合をほとんど苦戦することもなく倒して見せたとか……かなり高い技術力を持っていると余は思っているのだが、軍と元老院はなぜそんな国の船を拿捕できたのだ?」

「はい。軍曰く、なぜか沖合で停泊していたとのことです。まるで、接近していることを知っていたかのようであった、と」

「……元老院はどのように考えている?」

 イーリスはお茶をカップに注ぎながら答えた。

「元老院としては日本国をイエティスク帝国の属国であると考えているようです。恐らくですが、電探技術でこちらの存在に気付いていたのではないのか、と。船を調べたところ、やはり電探らしき仕組みが見つかったそうです」

 電波を照射することで物体の位置を捕捉する電波探査装置。イエティスク帝国では船、地上の基地など多くの場所に配備されており、近づくだけでも位置がバレてしまう。

 皇国では現在このレーダー技術についても研究を進めていた。なんとか25km先の物を捕捉できる原始的レーダーの開発に成功していたのだが、そんな時に日本国の船が現れたのである。

「軍部は『まだ完全には理解できそうにないが、今存在する打電信号を応用して更に高性能なレーダーを作れないか』と研究を始めたそうです。また、あの『タンカー』という船が異常に大きいこともありまして、我が国の大砲ならば大量に搭載できるとのことです。もしかしたら、あの船は戦列艦の再来になるかもしれませんね」

 ニュートリーヌ皇国南部の主力艦は艦首と艦尾に1門ずつ主砲を搭載した鋼鉄軍艦だが、グランドラゴ王国や蟻皇国の回転砲塔搭載型軍艦に比べると能力は少々落ちる。

 日本国の歴史で言えば、初代『扶桑』(明治時代の鋼鉄軍艦)がこれに近い。

 日本国のタンカーは大きさも搭載量もその軍艦の比ではないため、大量に大砲を搭載できるのだ。

「それかは、もう少し研究が進めばの話ですけど、日本国の船舶に回転砲塔を搭載して大口径砲を使えるかもしれない、とのことでした」

 実際にはタンカーは大口径砲の反動に耐え得るほどの強度はないのだが、それを皇国側は知る由もない。

「……そうか。元老院も軍も、いつまでこのようなことを続けるつもりなのだろうな」

「あまりにイエティスクからの迫害が強すぎましたから。皆それに対して少々過敏になっているのかもしれませんね」

 ニュートリーヌ皇国は建国以前、数万人程の猫耳族しか存在しなかった。その多くは愛玩存在、労働奴隷としてイエティスク帝国で酷使され続けていた。

 それに疑問を抱き、不満を爆発させて帝国を数千人と共に抜け出してこの地に国を築き上げたのが、初代皇帝であった。

 レーヴェ・ニュートリーヌはその13代目の子孫に当たる。

 建国からわずか数十年で国としてはある程度安定したことで、皇国は帝国から逃れてきた猫耳族の国になったことはよかった。

 だが、レーヴェの父、先代皇帝の代には元老院の力が強くなり、軍と癒着して政治も含めて牛耳るようになった。

「どれ、飲んでみるか……少し苦いような……だが、落ち着く味だな」

「こちらのお菓子も、と申しておりました。どら焼き、というそうですよ」

「ほぅ、どら焼きか」

 その中で元老院と軍は『国威発揚・軍備増強』を掲げ始める。全てはイエティスク帝国に対抗するのみならず、いずれはニュートリーヌ皇国が世界の全てを手に入れるという野望を持ち始めたのである。

 だが、レーヴェたち皇帝一族はそうでなかった。

 レーヴェは今でも、父の残した言葉を覚えている。

『我らは帝国から迫害され、逃れてきた一族。故に、虐げられる者の気持ちを分かってやらなければならぬのだ。それが分からぬようであれば……皇国は瞬く間に滅亡するであろう』

 レーヴェの父は猫耳族としては珍しく、広い視野を持ったとても穏やかな人格者であった。レーヴェもまた、そんな父の薫陶を受けて育ったこともあり、争い続ける今の状態に常々疑問を持っていた。

 だが、元老院はそんな平和主義であった先代皇帝が権力を握ることを良しとせず、結局政権を取り返すことができないまま流行り病で亡くなってしまった。

 レーヴェとしては、なんとか自分の代で少しでも権力を握り返し、皇国をもっと弱き者を助けられる国に変えたいと思っていた。だが、元老院を始めとする軍の力は強大で、レーヴェの意のままに動く存在など、わずかしかない。

「……うまいな。日本国、か。この国のこと、もう少し情報が欲しいな。メーロを呼んでくれ」

 イーリスは恭しく頭を下げると、急いで外へ出た。彼女が向かったのは、執事の執務室であった。

「メーロ執事長、陛下がお呼びです」

 豹の耳を持った白髪の男性が、書類から顔を上げてイーリスのほうを向く。

「陛下が?」

「はい」

「分かった。すぐに向かおう」

 メーロは立ち上がると、その老いた外見からは想像もつかないほどきびきびとした動作で歩き始めた。

 彼は長年皇帝一族に仕え続けていた執事の一族で、皇国の建国以来、皇帝一族を陰ながら補佐してきた。優れた先見性と行動力を持ち、更に独自の情報部隊を用いることで皇国の安寧を保ってきた。

 今でこそ皇帝は元老院に権力を奪われているが、隙あらば皇帝のために命を懸けて政権を奪取する心構えがある。

 そしてメーロは皇帝の居室の前へ立つと、素早く、しかし静かにノックする。

「陛下、お召しと伺い参上仕りました」

『うむ、入ってくれ爺』

 メーロはこれまた静かに扉を開け、入室する。

「いかがなされましたか? また元老院の外道共が、何か無茶でも?」

「いや、元老院からは無茶ではなくお茶をもらったのだが……」

 『誰が上手いことを言えと』と言わんばかりに思わず苦笑したレーヴェだったが、表情を引き締めると持っていたカップを持ち上げながら話し出す。

「そのお茶を没収した国……日本国について、なるべく多く情報を集めてほしい。できれば……軍事情報についても」

「日本国……軍が独断で拿捕、処刑した船の乗組員の所属国でしたな。300mを超える超大型鋼鉄船を保有していることから、非常に高い技術力を有していると思われますが……元老院は恐らく、イエティスク帝国の関係国と断じているのでしょうな」

「流石は爺。既にそこまで把握していたか」

「はい。ですが、私は少々意見が異なります」

「というと?」

「帝国は撮影機や一部の機器は輸出・供与をしているようですが、あの国は基本的に秘密主義で閉鎖的、そして覇権主義です。たとえ属国になったとしても、フィンウェデン海王国以上の技術を与えられるとは到底思えません」

 フィンウェデン海王国とは、ノルウェーからフィンランドまでを支配している海洋国家で、イエティスク帝国の『本当の』属国である。

 グランドラゴ王国とほぼ同等の国力を有しているのみならず、帝国に忠誠を誓っているおかげか、最近では飛行機械とそれを洋上で扱うための母艦まで量産を始めている。

「そのことを考慮致しますと、率直に申し上げて元老院は早合点をしていると私は思います。陛下も何か、感じられたようですな?」

「うむ。予も元老院の撮影した写真を見ただけだが、あまりに大きな船だったので圧倒された。それと同時に、『こんな船を帝国の属国は作れるのか?』と考えてしまった。周囲に情報がないのでな、なんとか集めてほしいのだ」

 メーロは恭しくお辞儀した。

「かしこまりました。我が配下の者に、日本に関する情報をなるべく多角的に集めさせましょう」

「具体的にはどうする?」

「そうですな……まずはやはり、シンドヴァン共同体へ人を送りましょう。できれば、ですが……そこで日本行きの船に乗り込みたいですな。日本本土ならば、多くの情報が手に入るはずです」

 現実的な提案であった。この世界で多種族が存在する環境が日本以外ではシンドヴァン共同体くらいしか存在しないのだ。

 というのも、多くの国が単一種族、或いは2種族だけでほとんど成り立っているため、この世界は相手国の『本土』にスパイを送り込むという諜報戦の概念がかなり薄い。

 どうしても諜報戦を行いたい場合は、シンドヴァン共同体のような多種族が活躍している土地に人を送り込むことが暗黙の了解となっていた。

 シンドヴァンはシンドヴァンで、諜報員がもたらしてくれる様々な情報をネタに商売を行えるので、彼らも意図的にそれを見逃している部分がある。

「日本に、か。日本は多種族国家なのか?」

「つい先日戦闘が行われた際に投降したフランシェスカの兵から聞き出しました。日本国は現在、大陸を制するために大陸の原住民を次々と接収、教育を施しているとのことです。聞けば、あの西の大陸は多民族が生息していると聞きました。日本は現在、多民族国家とみて間違いないでしょう」

 大陸に先住していた民族が20を超えていたこともあり、日本は現在多種族の坩堝と化している。

 とはいえ、元々原始的な生活を営んでいた民族であったため、その多くは建築関係の肉体労働やサービス業、及び伝統産業のような職人技を学ぶ者が多い。

 そして偶然ながら、その中に猫耳族が存在する。

「多民族が活躍しているのであれば、我が猫耳族が多少紛れ込んでも気づかれないかと思われます。なんとか日本へも人を送り込みましょう」

「頼むぞ。場合と状況次第によっては元老院には内密にしてほしい」

「心得ました」

 メーロは自室へ戻ると、自分の部下がいる部屋へ打電する。

 そして、老若男女問わない数十人の猫耳族が素早く集まった。

「メーロ様、お呼びでしょうか?」

「うむ。先頃元老院及び軍が敵対行動を取った日本国という国について、シンドヴァン共同体及び日本本国からどんな国なのか情報を収集してほしいのだ」

「日本国、ですか」

「元老院の阿呆共はイエティスク帝国の関係国だと思っているようだが……陛下や私は違う考えを持っている。そこで、お前たちにはシンドヴァン共同体、そしてそこから日本国へ潜入し、なるべく多角的に情報を集めてほしいのだ」

「軍人への接触は行いますか?」

 敵の情報を集めるために、軍人に接触してハニートラップにかけることはよくある話である。猫耳族は容姿端麗なこともあり、今までもスペルニーノ・イタリシア連合や蟻皇国の関係者(シンドヴァン共同体に滞在している)から多くの情報を集めてきた実績がある。

「そうだな。できることならば軍人にも接触してほしい。だが、軍人ともなれば罠に警戒もしているはずだ。あまり深入りはしないように」

「ハハッ」

 彼らはメーロ直属の諜報員であった。様々な一族が集まっており、その辺にいそうな老人から、明らかに水商売風の若い女性、果ては10代半ばくらいの子供まで多種多様な年齢の人物が所属している。

 彼らが各地の情報を効率よく収集したことにより、皇国は今までイエティスク帝国という大きな存在が間近にありながら生き延びてこられたのだ。

 だが、元老院が実権を握るようになってからは彼らも陰に潜んで元老院の弱みを集めることが関の山であった。

 そういう意味では久しぶりの本格的な諜報活動とあってか、皆イキイキとした表情をしていた。

「よし。では早速頼むとしよう」

「ハハッ!」

 彼らは港町アテニアへ向かい、海路及び陸路でシンドヴァン共同体に潜入する。



――西暦1741年 1月15日 シンドヴァン共同体 サヴォージラビーニャ 首都バレタール

 シンドヴァン共同体で最も発展しているのは西部港湾都市のレバダッドだが、それに次ぐ発展を遂げているのがサヴォージラビーニャ地区に置かれている首都のバレタールであった。

 このバレタールは旧世界で言えばバーレーンに当たる。

 まだスエズ運河が存在しないことから、ここのサヴォージラビーニャ地区は陸路で小さな運河を通じてアヌビシャス神王国とも繋がりがある。

 そのため、時間よりも安全性を重視する商人はそちらを行く。そういう事情もあってか、港湾都市レバダッドから入ってきた物資はまずこのサヴォージラビーニャ地区のバレタールへ運ばれ、様々な小売商人の手に渡るのだ。

 そんなバレタールの一角にある大きな酒場では、様々な人々が酒を飲みながら話し込んでいた。

 カウンターに座っているラクダの耳を持った、樽のような体型の男が黄金色の酒を飲みながら竜人族の男に話し続けている。

「いやぁ、今日も日本のビールはウマいなぁ!……それにしても、日本にニュートリーヌの連中が喧嘩を売ったっていうのには驚かされたよなぁ!」

「あの猫耳たち、日本とはかなり戦力に差があるってことを理解していないのかもな。ゲリラ戦にすらならないぞ。日本と皇国じゃ」

 酒場というのは情報の宝庫である。様々な国の関係者が集い、酒でタガが緩んだ頭から色々な話をするのだから。

 すると、猫耳を持った女性が近づいた。

「オジサンたち、どういうことぉ? アタシ皇国人だけどぉ、そんなに日本と皇国って差があるのぉ?」

 彼女の耳を見れば、大概の人間にはニュートリーヌ人であることはすぐにバレるので、『敢えて』自分の所属する国を明らかにすることで『興味があるだけ』という風を装っているのだ。

 もっとも、大概の酒場では既にそれが『情報が欲しいよ』という暗黙の了解となっている。

 はっきり言って諜報戦もへったくれもあったものではない。

「そうだな……日本の戦力を100とするなら……皇国は10もあるかどうか、かな?」

「そうだな。イエティスク帝国と皇国だともう少し差が縮まるんだけどなぁ」

 話す彼らとて、頭のネジが緩んでいるとはいえ相手が情報を欲しがっていることはハッキリしているので聞きたがりそうな情報を小出しにして、そこからは対価を求める。

「そうなんだぁ~……マスター、メニュー頂戴~!」

 いかにも商売人らしいやり方である。

「あ、アタシはメリッタって言いますぅ。オジサマたち、ご馳走しますからもっとお話聞かせてくださいよぉ~」

 色気を振りまきつつメリッタは素早くメニューを見て、高そうな酒を見つける。

「ニホンシュ……ナニコレ?」

「あぁ、日本で栽培されている『コメ』っていう穀物から作られた酒だ。酒精は強いが、甘くて、そして脳天に突き抜けるようなうま味がある」

「へぇ~……じゃあこれ!」

 間もなく『純米大吟醸 だっさい もっさい』という、銀髪の女の子が指を銃の形にして『ばぁーん☆』とやっている絵がプリントされた1合ビンとお猪口が出てきた。

 日本では『一部で』はよくあることだが、お酒のプリントにはアニメキャラや萌えキャラを登場させるのだ。

 もっとも、その絵の細かさとキャラクターの可愛らしさもあって今や共同体はもちろん、日本と国交のある国で大人気となっていた。

 ……飲み終わった後の瓶を収集するマニアまで現れた、と言えばその情熱の入れ込み方が窺える。

 閑話休題。

 メリッタはお猪口に酒をなみなみと注ぐ。

「わっ。すっごい透明! まるでお水みたい!」

「はっはっは。見た目は水みたいだが、ほんの一口啜ってみな!」

 日本を探る第一歩ということもあって、メリッタは用心しつつ酒をほんの一舐めするかのように口に含んだ。

「!?」

 直後、彼女の脳天に『つーん!』という刺激が走った。

「(ナニコレ!? 今まで飲んだことのない味! でも……確かに甘い!)」

 これは米の甘味である。日本酒は旧世界でも『醸造酒としては』トップレベルのアルコール度数を誇り、蒸留酒に慣れ、酒豪と言われたロシア人も日本酒であえなくダウンしたという逸話がある……らしい。

 猫耳族の優れた感覚で『これは飲み過ぎると危ない』と一瞬にして気付いたメリッタは、『美味しいですぅ~』と褒めながら商人たちにも酒を注いだ。

「でもでもぉ、皇国も最近新兵器を開発したんですよぉ?」

 それとなく自国の力が高いことをアピールし、そこから先を求めてみた。商人達も『これくらいなら問題ないか』と思ったのか、思案顔のまま話し始めた。

「そうだなぁ……分かりやすい所で言うなら、皇国は最近『戦車』を配備し始めた、って言ってたよな?」

「イエティスク帝国の物に比べればまだまだ原始的ですけどぉ」

「どうなんだ? 戦車に搭載している大砲の大きさは? 帝国のは小さくても75mmくらいはあるそうだが……」

「うちの戦車は20口径の50mmくらいありますよぉ」

 本当は57mmなのだが、これは、初期の菱型戦車が6ポンド砲であったため分かりやすく表現すると『大体これぐらい』なのである。

「ほほぅ……まぁ、どっちにしても日本の敵じゃぁねえよ」

「……そんなに差があるんですかぁ?」

「聞いただけの話だが、日本の戦車砲は100mmを超える口径らしい」

「‼」

 それは驚きの一言に尽きた。100mm以上の大口径砲を戦車に搭載しているなど、やはりイエティスク帝国くらいしか存在しない。

「……やっぱり、日本国って帝国の関係国なんでしょうかぁ?」

「いや、それはないな。俺たちの素人目だが……日本のほうが、帝国よりも優れた技術を持っているな」

「あぁ。それは我々グランドラゴ王国でも感じている。そうだ、面白い物を日本国でこの前買ったんだ。見せてやろう」

 竜人族の男が懐の上着から取り出したのは、小さな四角い物体だった。

「これは『携帯電話』と言ってな。なんと、持ち運びできる電話だ」

「え!?」

 思わず演技を忘れて叫んでしまったメリッタだったが、男は苦笑するしかない。自分も初めて見た時は全く同じ反応を示したのだから。

「とは言っても、まだこの国では『電話は』通じないがな。日本側が王国と日本国内でやり取りをしやすくするようにと、フランシェスカ共和国と同じ速度で販売網を整備してくれたんだ。だから、ここにある分にはただの機械なんだが……」

 男は折り畳まれていた携帯電話を開いた。

「す、数字?」

「あぁ。これは時間を教えてくれるんだ。なんでも、こちらの機能は『人工衛星』とかいう物体が空の果て、宇宙から別の電波を照射してくれているらしく、地域によっての時間を表示してくれるようになっているんだ」

「え、ええ!?」

「分かったろ?日本の技術力は、恐らくだがイエティスク帝国を凌ぐ。俺たちは日本に協力、そして協同を持ちかけることでなんとかそれを吸収して、帝国に備える必要があるんだ。あ、火薬関連を扱えないフランシェスカ共和国は別かな?」

 メリッタは男の冗談がもう耳に入らなくなっていた。

 このままでは、間違いなく皇国は破滅してしまう。


書いていて思ったのが、意外とドンパチパートまでさせようと思うと日本国召喚じゃないけど書くことが結構多い……そのため、皆さんにはもうしばらくお付き合いいただくことになります。

この作品、『内政多め』も紹介に付け加えた方がいいですかね?

ちなみに、今回出てきたお酒の名前の元ネタは……ま、ファンの方ならすぐにわかると思いますが。

また、重ねて言いますが、この作品に登場するオリジナルネームのモノは、現実とは一切関係がありませんのであしからず(笑)。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >このバレタールは旧世界で言えばバーレーンに当たる。 >まだスエズ運河が存在しないことから、ここのサヴォージラビーニャ地区は陸路で小さな運河を通じてアヌビシャス神王国とも繋がりがある…
[良い点] 更新ありがとうございますm(_ _)m。 いつも楽しく読ませてもらっていますm(_ _)m。 重箱の隅をつつくようで申し訳ないんですが、二つほど気になる点があります。 タンカーっ…
[一言] 数千人の亡命者からここまでの技術力や軍事力を持つようになったと見れば皇国は歴代ともに優秀な皇帝や官僚に恵まれたのでしょうな。 個人的にはこの作品に出てくる日本の独自兵器とかは毎回楽しみに…
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