猫耳族との初対談
毎度おなじみ、笠三でございます。
本当は17日に投稿しようと思ったんですが、仕事が入ってしまった代わりに今日が休みになったので、本日に投稿します。
ここからしばらくドンパチパートはまたもお休みです。
いずれ訪れるカタストロフィをお待ちください……
――2026年 11月25日 日本国 東京都 国会議事堂
「総理! いったいどういうことですか‼ニュートリーヌ皇国なる国の海兵が、あまりにも理不尽な理由でわが国民を殺害した! これについて、総理はどう対応されるのかを伺いたい!」
日本国の中枢、国会議事堂では既に喧喧囂囂の様相を呈していた。
開発途中のシンドヴァン共同体の港湾都市レバダッドに納入予定だった資材や食料を輸送していた大型貨物船『きい』が拿捕され、荷物の全て強奪された挙句乗組員のほとんどが殺された。
戦後日本、そして転移後始まって以来初のシージャックにしてテロ事件と言って差し支えない案件(フランシェスカ共和国南部の村で発生したスペルニーノ・イタリシア連合によって発生した虐殺は日本が認知していなかった戦争の余波であったこともあり別)である。
国会議長が『総理大臣』と呼びかける。
「この度の事件に対して、我が国は一歩も引きません。主犯者には必ずしかるべき法的措置をとります。現在、シンドヴァン共同体を通じてニュートリーヌ皇国と外務省での会談を設けてもらえるように交渉しているところです。それまではこちらも備えることしかできません」
野党からは更にヤジが飛ぶ。
「それでいいのですか‼」
「国民を無差別に殺傷した相手に弱腰だぞ!」
だが、総理大臣は強い視線で議場を睨みつける。
「ずいぶんな物言いですね。日頃は『軍拡反対』、『武装縮小』を声高に掲げるあなた方が、今度はこの国を戦争に巻き込もうというのですか? 恥を知りなさい! 我が国は最後まで平和的解決の可能性を捨てません。本来戦争は、あってはならないことなのです! 我が国は平和的交渉とその成立に向けて、不退転の決意で誠心誠意努めます‼」
日頃は穏やかで叫ぶようなことのない総理大臣の猛烈な言葉に、流石の野党議員たちも黙り込んでしまった。
日本国は自国民を戦争でもなく非道な理由で殺害したニュートリーヌ皇国に対し、怒りの炎を燃やすことになる。
老若男女問わず皇国への報復に燃えるその様子は、日本と国交を持つ国々から『とてつもなく恐ろしい』、『あの温厚な日本人があれほど怒るなんて』と言わしめるほどであった。
彼らはニュートリーヌ皇国が、日本で上映された怪獣映画のように滅茶苦茶にされるに違いないと確信するのだった。
――西暦1740年 12月15日 シンドヴァン共同体 首都バタール
旧世界でいう所のサウジアラビア首都・バーレーンに位置するシンドヴァン共同体の首都バタールでは、日本からの要請を受けてギルドマスターのラケルタがニュートリーヌ皇国の大使館を訪問していた。
「今更だけど、何故皇国はいきなりあんな野蛮なことをしたのかしらね。日本との戦力差がわかっていればあんな真似はできないはずだし……」
「マスター、その件についていくつか情報が。ニュートリーヌ皇国では、日本国はイエティスク帝国の関係国、属国とみなしているものが多いようです」
ニュートリーヌ皇国は元々、イエティスク帝国に迫害された猫耳族によって作られた国であった。
猫耳族は非常に整った顔立ちと、しなやかで美しい体つきをしていることから、かつて帝国では愛玩動物、そして一部の嗜好家による奴隷のように扱われていたことがあった。
それを快く思わなかった一部の猫耳族が国を抜け出し、当時イエティスクの勢力の及ばなかった今のニュートリーヌ皇国首都・ルマエストに独立国を打ち立てたのが始まりである。
もちろん『当時の』イエティスク帝国は何度も侵攻を試みたが、ゲリラ戦とそれに伴う兵器の開発によって、ニュートリーヌ皇国は陸戦では『ある程度』だが帝国に打撃を与えられるようになった。
それに伴い南のほうに国土を拡大し、今の皇国がある。
「つまり、憎きイエティスク帝国の関係者が、自分たちの鼻先を通ろうとしたと思ったから襲撃した、というところかしら?」
「あの国はとにかく攻撃意識が強いですからね。我が国の商人以外には常に喧嘩を吹っかけているようなものです」
執事の言葉通り、ニュートリーヌ皇国は軍拡と農業生産拡充を推し進め、常にフランシェスカ共和国への侵攻も目論んでいた。
だが、ほぼ同じ実力を持つグランドラゴ王国(海軍力については向こうが上)がおり、更にイエティスク帝国もここ十数年で一気に軍拡を進めたため、簡単には周囲に手が出せない状況となっている。
「恐らくそれもあって国民全体に鬱屈感が蓄積していたものかと思われます。また、今国を『実質的に』支配している皇国元老院もかなり好戦的な人物が多いようで……軍の粗暴さに拍車をかけていると言われております」
「……やはり、皇帝陛下はお飾りになっているようね」
「儀礼的な行事などでは顔を見せるそうですが、それ以外ではほとんどないそうです」
ニュートリーヌ皇国の最高権力者、皇帝レーヴェ・ニュートリーヌはまだ14歳の少年だという。
穏健派であった先代皇帝が『急死』した後、皇帝の座に就いた人物だ。
当然そんな若年の皇帝に権力があるはずもなく、今や皇国は元老院が全てを握っていると言われている。
「今回の件、外交官も含めてなんと言うかしらねぇ……」
「あの国は我が国以上に特殊性の高い国です。まぁ、そもそも穏やかな国民性を持つのがグランドラゴ王国、フランシェスカ共和国、アヌビシャス神王国、そして東の果てにあるワスパニート王国だけなのですから私たちも彼らのことを悪し様にいうことはできないでしょう」
ワスパニート王国とは、旧世界でいう所の東南アジア一帯(インドネシアなどの島国を含めて)を支配している平和主義絶対君主制国家である。
北方の蟻皇国が常にイエティスク帝国と常に睨み合っているために、平和を謳歌できている国であった。
だが、そんな国は特殊である。
多くの国が睨みあう。旧世界でもよく見られた構図は、この世界でも健在であった。
そんな中、ニュートリーヌ皇国はその辿ってきた歴史もあって周囲の全てに喧嘩を吹っかけ続けていると言っても過言ではない。
皇国にとって唯一の例外が、商売の必要性があるシンドヴァン共同体であった。
「だからあの国には外交交渉をするという概念が薄いんだけど……それが日本の人に通じるかねぇ……」
「皇国は皇国で、日本国をイエティスク帝国と関係のある存在と認識していますから、舐められないようにと居丈高の喧嘩腰になるでしょうね」
ラケルタと執事は顔を見合わせる。
「間違いなく、戦争になるでしょうね」
商人である彼らは戦争になれば様々な儲けを出せる。だが、彼らの顔は暗かった。
「日本の技術と皇国の技術じゃ、赤ん坊と大人くらいの差がある……いえ、それ以上ね。それくらいの差があるっていうのに、皇国は相手を理解しようとしないでしょうね」
「転移国家という点もいかがなものかと。恐らくですが、そんな創作物にも出てこないような話を、あの国が信じるとは思えません」
シンドヴァン共同体とて、日本の様々な文物を見るまではまるで信じられない情報ばかりだったことを思い出す。
日本と未だに交流のない皇国が、信じられないだろうということは容易に想像がつく。
「まぁ、だとしてもあの国は一回懲らしめてもらう必要があったと思えば、ね」
「少なくとも、我が国発展のためにと送っていただいた荷物を奪われたとあっては、こちらも黙っているわけにはいきませんからな」
そう、他の国のことならばいざ知らず、今回襲われたのはよりにもよって彼らシンドヴァン共同体への荷物であった。
正確にはそれを日本が利用して共同体の発展に繋げる物だったのだが、どちらにしても共同体のためになる物になるはずだったのだ。
それを強奪されたとあっては、武力を持たない平和主義の共同体としても黙っているわけにはいかない。
「マスター、そろそろ到着致します」
「さて、と。鬼が出るか蛇が出るか」
「ラミアのマスターが出ている時点で蛇は出ているかと」
「茶化さない」
彼女の乗る大型自動車(日本の某社製)は、ニュートリーヌ皇国の大使館の前に停車する。
蛇の下半身を降ろし、シュルシュルと音を立てながら中へと入っていくラケルタ。だが、入った瞬間に凄まじい殺気を感じる。
これが、ニュートリーヌ人の日常なのだ。
「(曲がりなりにも交流のある我々にすらこの敵意……ニュートリーヌはどこまでも喧嘩腰ねぇ)」
ラケルタは嘆息しながら職員の案内を受けて奥へと進む。
「それでは、こちらでお待ちください」
10分後、猫耳の恰幅のいい男が応接室へ入ってきた。
ラケルタは素早く立ち上がり、お辞儀して挨拶する。
「おはようございます、モララ大使。本日は朝早くから対応していただき、ありがとうございます」
モララと呼ばれた男は頭を下げるラケルタの豊満な胸元に視線を寄せながらも挨拶を返す。
「いやいや、大したことではない……ところで、本日はどのような用件で来られたのだ?」
ラケルタはラテン語で書かれた書類を差し出した。
「本日は、貴国の海軍が拿捕した日本国の商船について、日本国側から会談を申し入れたいという件の仲介で伺いました」
「あぁ、海軍が拿捕したというイエティスク帝国の関係国の船か。会談とは? 何に応じろと?」
「日本国はタンカー及び積み荷の返還、そして乗員の家族に対する賠償などを求めています。そのために、日本国は我が国に対して貴国との会談の仲介を依頼してきたのです」
「ふん。イエティスク帝国の関係国などとの会談に、我が国が応じると思うか?」
「お言葉ですが、日本国はイエティスク帝国とはなんら関係のない国です。それは我が国が保証致します」
モララは少し考える。国際的に信用の高いシンドヴァン共同体の商人ギルドマスターの1人が、ここまで言い切るということはそれ相応の存在なのだろうと。
「ふぅむ……では、こちらも会談に応じるからには相応の対価を頂かねばならないが?」
「そうですね。考えてありますので、ご検討を。日本国も皇国も、我が国にとっては大事なお客様ですから」
「それならばよかろう。ところでラケルタ殿、私はこの後予定がないのだが、一緒に食事でも……」
「いえ、早急に戻って日本国への報告書を作成しなければなりませんので、これで失礼させていただきますわ。ギルドマスターとして、仕事が立て込んでおりますので」
ラケルタとしても中年オヤジのセクハラに付き合っている暇はない。
挨拶もそこそこに大使館を後にすると、自分の館へ戻って急いで日本への報告書を作成する。
文面には『会談の仲介は成功』ほか、必要最低限の事項しか記入されていない。
「さて、と。これで日本国と皇国がどうなるか……高みの見物と洒落込ませていただくわ」
「マスター、やはり悪い顔をされていますよ」
執事が注意するが、そんな彼も苦笑している。
彼らは今後日本と皇国との間に起こるであろう出来事を想像し、見守ることしかできないのだ。
――西暦1740年 12月20日 シンドヴァン共同体 ニュートリーヌ大使館
今日は遂に、日本国とニュートリーヌ皇国の外交官同士による実務者会議が開催される。
日本側からは外務省の副島外交官と商船を保有していた某企業の顧問弁護士、ニュートリーヌ皇国側からは大使のモララが出席している。
副島は外務省の中でも有数のやり手で、既に50に近い年齢だが穏やかな話術と常に相手を立てる精神で今までの難局を乗り切ってきた実績があった。
まずは日本側の副島が切り出す。
「本日は会談の場を設けていただいたことに対して、御礼申し上げます。早速ですが、単刀直入に言わせていただきます。シンドヴァン共同体のラケルタ様から伺っているかと思われますが、日本国は貴国に対して遺憾の意を表明すると共に、貴国の海軍によって拿捕された我が国の企業に所属する貨物船の返還、及び乗員の家族に対する賠償を求めたく存じます」
副島は更に書類を取り出してモララに手渡す。
「当然、今回の事件を引き起こした首謀者である海軍関係者も引き渡しリストに入っています」
一方のモララはと言うと、書面を一瞥して『フン』と鼻を鳴らした。
「で、だからどうしたというのだ?」
「‼」
モララは薄ら笑いを浮かべている。副島はこの時点で、相手がまともに話し合いをする気がないことに気付いた。
「……本国に、お取次ぎ願えないでしょうか?」
副島はあくまで日本人として、当然のごとく下手に出る。相手を立てることを忘れない。
だが、モララはニヤニヤしたままだ。
「まさか、イエティスク帝国の手の者とまともに交渉するとでも思ったのか?」
「その件に関しましては、シンドヴァン共同体の方から『関係がない』と伝えていただいたと思いますが?」
直後、急にモララの顔が憤怒に染まる。
「信じられると思うか‼あの船、色々と調べさせてもらったが、今の我々はもちろん、グランドラゴ王国や蟻皇国でも建造不可能だ! この世界にそれほどの艦船建造能力を持っている国は、イエティスク帝国しか存在しない。故に、貴様らは帝国の関係者なのだ!」
「それについても、我が国は転移国家であると既に説明を……」
「ハン! 他の阿呆共ならばともかく、このニュートリーヌ皇国がそのような作り話に騙されると思うたか‼ 大方、シンドヴァン共同体となんらかの密約を交わして『そういうこと』にしているのだろうが、我々を騙そうとしてもそうはいかん‼」
モララは完全に日本のことをイエティスク帝国の脅威をちらつかせる存在であると断じてしまっていた。
ラケルタも傍で見ながら確信する。
「(恐らく、元老院がそう決めつけたのでしょうね。なまじ知恵があるだけに厄介だわ、あいつら……)」
元老院はここ数年の間に大きく皇国の勢力拡大に貢献してきた。しかし、それ故に色々と疑い深い物の見方をすることが多い。
怪しくもないモノを怪しみ、あっという間に捕えて処罰してしまうのだ。
小知恵の回る馬鹿ほど、厄介な存在はないとはよく言ったものである。
そして、そんな考え方は国民全体に広がっている。
「で、ですから……」
「くどい! あの船は返さぬ! 我が国の技術発展のため、大いに活用させてもらう! 貴様も早く本国へ帰り、帝国へ報告させろ!そして我が国に服従せよ‼帝国からもたらされた技術をこちらに少しでも寄こせ! どうせあの国のことだ、軍事技術は渡しておらずとも、有用なものはあるはずだ!」
完全に取りつく島もなかった。モララは……いや、ニュートリーヌ皇国の人々は、日本のことを『イエティスク帝国の属国、しかし属国ならば軍事力は大したことがない』と決めつけているようだ。
日本が大陸の開拓に精を出していたこともそれに拍車をかけている。
日本に強大な軍事力があったならば、世界の国と友好など結ばずに侵略をしているだろうと『自分たちの価値観』で決めつけていたのだ。
ここにきて副島も、交渉は絶望的だと判断していた。そして、胸元のポケットに一瞬手をやる。
「……分かりました。ではこちらも改めて断言致します。我が国はイエティスク帝国などという覇権国家とは断じて関係ありません。そして、わが国民を惨殺した挙句、船も返さない、賠償もしないというのであれば……こちらも相応の態度をとらざるを得ません。次にお会いする時まで、どうかご無事で」
副島は最後の言葉の瞬間だけだが、今までとは比べ物にならない鋭い眼光を見せた。しかし、モララにとってはハッタリにしか見えなかったらしい。
「はっ! その言葉、そっくりそのまま返してやるわ! とっとと帰れ‼」
モララはハエでも追い払うかのように『しっしっ』と手を払う。流石に仲介役のラケルタもこれには我慢がならなかったようで立ち上がろうとしたが、副島が目で制した。
「それでは、私はこれで失礼致します」
副島は終始穏やかな態度を崩さなかったが、それでも、最後の鋭い眼光はラケルタに何かを思わせたようだった。
彼女は少し、青ざめている。
副島はすぐに日本大使館に戻り、帰国手続きを行なった。彼の顔は、最後の鋭い眼光のままであった。
ちなみにほぼお飾り状態であった企業の顧問弁護士など、何も言える雰囲気ではないという状態だったようで、置き物のようになっていたことが後に広まると、その企業の株が若干売りに出されるようになったのは別の話。
3日後、副島は帰国するために茨城県の大洗行きのカーフェリーに乗り込んだ。
副島は1週間で帰国した後、国会での証人喚問において大使モララとの会談内容を録音しておいたICレコーダーの内容を公開した。これにより、当然ながら与野党問わずに皇国への凄まじいまでの怒りが日本中に広まった。
そして、ついに日本国は決議する。
国会議事堂の中央で、総理大臣が怒りの形相も露に宣言した。
「我が国は平和を愛する国家であり、本来戦争を望みません。しかし、彼らはその平和を繋げようという架け橋を踏みにじった! その『武装勢力』をかくまう者たちを、日本は断じて許すわけにはいかない‼ また、彼らからは既に宣戦布告されたも同然であると解釈し、日本国は無残に殺害された国民の無念を果たすためにも、そして日本国の『意思』を示すためにも、退いてはならなくなってしまいました!」
この国会中継の視聴率は、なんと驚異の70%超えであった。それだけ国民も2度目の虐殺事件を大きく捉えているのだ。
「我が国は今回の事件の首謀者に責任を取らせ、更に貨物船を奪還するべく自衛隊に限定的ながら出動を命じることを決定いたしました!」
これにより、日本国は真珠湾攻撃以来、そして転移後初となる、ほぼ先制攻撃と言える戦争を仕掛ける羽目になるのだった。
それを決意した総理大臣の発言に、インターネットやSNSなどにも様々な投稿が相次ぐ。
多数はこのような内容だった。
○『開戦だ!』
○『相手との戦力差は分析済み』
○『許しちゃいけない。ここで退いたら負け犬だ!』
○『ぶっ飛ばせ‼』
○『バカか、ここで武力に訴えるとか草www』
○『ケモ耳に優しくしろ!』
○『何をぬかす売国奴!』
○『締め出せ‼』
○『いや晒せ‼』
○『吊し上げろ!』
これにより完全にネット及びスマートフォンの類は炎上、ネットはデータ容量過多となって大幅にデータ更新などが遅れる原因となるのだった。
結局、直後に政府が『過激な書き込みをしないでほしい。あくまで彼らともう1度対話のテーブルに着くために最低限の実力行使をするだけだ』という旨の発言をしたことでひとまずは沈静化するのだった。
余談だが、この時反戦を掲げていたのは極端なまでの左翼主義者で、多くはネット上の繋がりから右翼系のハッカーなどに炙り出されて晒されることになる。
だがそこはやはりボケが付くほどの平和主義日本国であった。
友好関係を結んでいるグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国、更にアヌビシャス神王国にも『皇国の港湾部及びフランシェスカ共和国との国境付近の基地を攻撃するのでシンドヴァン共同体へ向かう際は我が国に申し入れてほしい』と通達を徹底させるのだった。
ニュートリーヌ皇国の攻撃性には辟易していた各国も、二つ返事でこれにOKを出す。特に、国境線を接して小競り合いを繰り返しているフランシェスカ共和国からは『存分にやってください』とまで返事が来たのだった。
そして、日本の作戦が発動する。
更に数日後、在日シンドヴァン大使のカトゥルスという女性が外務省に呼び出される。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は、この後我が国がニュートリーヌ皇国を攻撃した後、この雑誌を皇国内で是非販売してほしいのです」
それは、日本国内で出版されている兵器比較の本であった。
タイトルは『日本国と明らかになっている新世界軍事情報 比較するとこうなる!』というタイトルであった。
ラテン語で印刷されたその本を読み進めたカトゥルスは、恐怖に顔が真っ青になる。
「……なるほど、皇国の内部から離反者を出そう、ということですね?」
「はい。少しでも戦争を早期に終結させることができるならば、その可能性を捨てるべきではないと我が国は考えています」
内閣や防衛省は既に戦争に向けて動き始めているが、外務省もまた、政府の許諾を得て皇国を切り崩し、早期解決を目指す姿勢を打ち出していた。
これを皇国が信じるかどうかは分からないが、もしも信じる者が現れてくれれば、それが力になるかもしれないということである。
ついでに外貨も稼げるという一石二鳥のアイデアである。
「……分かりました。直ちにこれを本国に納入し、ニュートリーヌ皇国に流すように手配します」
「では、よろしくお願い致します」
それぞれの思惑の絡んだ戦争は、今始まろうとしていた。
だが、日本は知らない。
この戦争が、日本の想像の遥か斜め上を行く、思わぬ事態へと転げ落ちていくということを。
日本は今、再び岐路に立たされた。
次回の投稿はまだ詳細を考えていませんが、やはり3月上旬には行いたいと思います。
ちなみに参考までに伝えておきますと、日本が転移国家だと『本気で』信じている国はグランドラゴ王国だけだったりします。
他の国は『へぇ、そうなんだ』くらいです。
あと、私事ですが日本国召喚、6巻を買いました!
色々増筆されていて、読みごたえが……おっと、ここから先は、まだ言わない方がよろしいでしょうね。