非情なる襲撃、ニュートリーヌ皇国の登場
どうも、今月1話目の投稿です。
遂に……遂に……ブックマークが1000件を超えました!
他の類似小説を書いておられる方に比べると遅いという声もあるかと思いますが、何せペースを考えてストックを小出しにしているもので……どうかご容赦ください。
――2026年 10月23日 日本国 東京都 首相官邸
日本の行政を司る政治家たちが集う首相官邸では、今日も様々な会議が開かれてれていた。
「それで、シンドヴァン共同体にはやはりエネルギー資源が豊富だったんだな?」
首相の言葉に、資料を見ながら経済産業大臣が答える。
「はい。シンドヴァン共同体の旧世界と同じ地域に、旧世界以上の埋蔵量を誇る油田が確認されています」
「アメリカ大陸でも油田が確認されているが、この星はいったいどういう構造をしているんだ……?」
「それに関してですが、恐らくこの世界の国々はほとんど石油関連の資源を使用していないのが主な理由かと推測できます。ロシアと同じ国土を有するイエティスク帝国は第二次世界大戦と同等、あるいはそれ以上の能力を有していると考えられますが、もしこの土地が旧世界のロシアと同じ能力を有しているならば、石油などのエネルギー関連については自活できるレベルで噴出していると考えられます」
旧世界でもロシアは、ヨーロッパにガスなど燃料の輸出を行なって外貨を稼いでいた。それと同等くらいならば、シンドヴァン共同体から採掘する必要がなかったのかもしれない。
「イエティスク帝国か……情報は少ないようだが、どういう能力を持っていると考えられる?」
今度は防衛大臣が立ち上がる。
「イエティスク帝国は話によると『角のある種族』が支配している、覇権主義かつ徹底した秘密主義のようでして、衛星写真以上の情報は中々入ってきません。ですが、最近では軍の施設と思われる地点で面白い写真も撮影できました」
防衛大臣が取り出したのは、大量の装甲車両が並ぶ基地と、航空基地から飛び立とうとする戦闘機らしい飛行機の写真であった。
「おぉ、兵器の写真が撮影できたのか」
「はい、なんとか」
それを見た、軍事にもそれなりに明るい総理大臣が目を丸くする。
「これは……回転砲塔の戦車だな」
「はい。それも、推定するに口径75mm以上、最大の物になると120mmほどの物と考えられますが……驚くべきはそこではありません」
防衛大臣はどこか興奮しているように見えた。
「この戦車、どこかで見覚えありませんか?」
拡大された戦車を見るが、ほとんどの者は分からない。
「この真上に近い角度からの写真だけじゃなぁ……ん、回転砲塔以外にもあるんだな。固定砲塔の……え? なんか、イメージしていたソ連系の戦車とは違うような……」
そこに写っていた戦車は、皆角ばったデザインとなっていたのだ。
「そうなんです。皆さんもある程度はご存じでしょうが、大戦時のソ連を代表する戦車『T―34』は被弾経始を考えられて丸い砲塔や装甲を採用していました。しかし、この戦車は角ばった装甲が多いのです。形状と、国内のデータを総合して、近似と判断された車両がこちらです」
そこに映し出された戦車を見て、一部の閣僚は驚いた。
「こ、これは! タイガー戦車……じゃなかった、ティーガーⅠじゃないか!?」
「こっちはパンターⅤ号だ!」
「あぁ。息子がアニメで見た奴と同じだ! Ⅳ号もいるぞ!」
日本では『とあるアニメ』の影響で戦車という存在が割と身近になりつつあった。その中でも、主人公が乗るⅣ号戦車やその姉の所属する学校のドイツ戦車は非常に有名だった。
総理大臣が反論する。
「ちょ、ちょっと待て。以前調査した時の衛星写真では『建造物は大戦時のソ連に酷似』と言っていたよな? なのになぜ戦車はナチス・ドイツ風なんだ?」
「それに関しては不明ですが、『その後』についてならばある程度の予測が付きました」
防衛大臣が取り出したのは、航空機の写真だった。だが、それはある意味予想通りの、ある意味素の斜め上を行く存在だった。
「こっちは『Mig―17』に似ている!? 航空機はソ連系なのか!?」
「そうです。しかも、衛星には無理をさせましたが……超拡大して解析したところ、翼下に増槽にして細いもの……誘導弾らしき物体まで見えます。恐らく、イエティスク帝国には誘導弾の概念がある物かと考えられます」
これには居並ぶ官僚の一同も唖然としていた。
「さっぱりわからん! 防衛相の見解を聞かせてくれ!」
防衛大臣は咳払いすると、プロジェクターの前に出て話し出した。
「まず、兵器の設計思想についてですが、恐らくイエティスク帝国はナチス・ドイツのように『重装甲大口径砲戦車』を用いる考え方であると考えられます。広い国土と、大戦時ドイツとは比較にならない人口を有していると考えられるので、多種類の戦車を運用しても問題ないということかと思われます」
冷戦期の軍拡をしていたソ連のようなものであると閣僚たちは判断した。
「では、航空機や建造物がソ連風なのは?」
「それにつきましては、環境と発展の仕方にあるかと。イエティスク帝国は旧世界のロシアとほぼ同じ環境です。つまり、ドイツのような建造方式では極寒の環境に耐えられない可能性が高くなるのです。『必要性による進化』を遂げたことで、こうなったと判断しました」
生物は環境に合わせた進化を遂げる。これは旧世界でも歴史が示していることなのでそれほど疑問ではなかった。
「また航空機に関してですが、元々ソ連はロケット開発のこともあってドイツから多くの技術者を連れていって弾道弾などの兵器を生み出しました。つまり、『ドイツ風の技術を取り入れた』ことでロケットやジェットエンジンの構造、及び航空機の進化を獲得したと言っても過言ではありません。旧世界ではソ連が技術を盗んで確立させていたようですが、この世界ではそうではないようです」
実際のところ、ソ連が『Mig―17』の前身となる『Mig―15』を開発した際はイギリスからターボファンエンジンの構造を『盗んで』デッドコピーしてから発展している。しかし、このイエティスク帝国は完全に独自開発で成し遂げていた。
「ソ連は米国と異なり、大戦時に超弩級戦艦はイギリスから購入した物など、わずかしか存在しませんでした。しかし、このイエティスク帝国では『ビスマルク級』に酷似した、そしてそれ以上の能力を持つと考えられる戦艦が確認されています。聞けば、バルチック艦隊という名前の大層な艦隊があるそうです」
「バルチック艦隊だと? 規模は我々の知る物とは比較にならないほどこちらが上のようだが……」
写真にはビスマルク級戦艦に少し似た、円形の三連主砲を持つ戦艦が映っている。駆逐艦などの構造は大戦直後のソ連軍艦に酷似していた。
「つまりは戦艦や車両関連がナチス・ドイツ風の発達を遂げていると? なぜそのようなことになったかわかるのか?」
「これも予想ですが、イエティスク帝国では誘導弾の技術は存在するようですが、大陸間弾道弾は確認されていません。つまり、敵の陸上戦力を攻撃しようとした場合、圧倒的な火力と多彩な戦略が必要になるのです」
「それもあって戦車がドイツ風に発展したと?」
「ソ連には『KV―2』という、大戦時では最大級といってよい152mmの主砲(ただし榴弾砲)を持った戦車が存在しましたが、バランスが悪く、使い勝手が良くなかったそうです。しかし、ドイツ戦車は機器やエンジンの故障などによって稼働率が低かったことを除けば砲の威力も装甲も非常に強力でした。流石に重戦車ともなると機動力はM4シャーマンやIS―2(スターリン)などには劣りましたが……広い国土で運用するならば、重量のある戦車でも問題ないのでしょう。それでいて威力及び装甲の厚さを考慮して、ドイツ風になったのではないでしょうか? 戦艦も同じ理由で、ドイツ風に発展した物かと」
アメリカがM1エイブラムスのような重戦車を運用できるのも、その広い国土があるからといってよい。
写真では他にも空母や、2連主砲の巡洋艦らしき船も見受けられる。
「これは……非常に脅威度が高いですね」
「今のところ付近の国に対して侵略していないのは、東の端、我々でいう所の樺太辺りをようやく制圧したところらしく、西のほうへは手を出していないことが原因のようです。また、国境を接する蟻皇国……旧世界の中国とも小競り合いがあるらしく、そちらに目を向けていることも要因と思われます」
少なくとも、当面日本と争うようなことは起きなさそう、というだけでも安心できる。
「もし対峙するならば、現代戦でしっかり当たることを想定しないと危ういな。戦艦が存在するという点もかなり気になる。対艦誘導弾と、潜水艦の拡充も求められそうだな」
日本転移小説などでは、よく戦艦が登場した際の自衛隊の火力不足が挙げられる。それは、水上艦としては非常に堅固かつ分厚い装甲を持っていることで、現代の装甲が薄い船舶を想定した対艦誘導弾では戦艦の重要区画装甲を抜けない可能性が高くなるのだ。
実際、日本で少し前に進水した『やまと』は複合装甲と日本の合金技術を用いていることもあって大和型戦艦とほぼ同等か、それ以上の防御力を有しているとも言われている。
しかし、その場合は安全策を講ずるならば潜水艦で魚雷を多数喫水線下に撃ち込むのが妥当だろうとも考えられる。
何も対艦誘導弾で船を攻撃しなければならない理由はないのだ。
「それでも現在の我が国と比較すると50年から70年前後の文明差がありますね。ただ、軍拡が進めば更に強力な兵器を開発する可能性もあるので要注意かと」
既に打ち上げられた多数の人工衛星のお陰で、この異なる進化を遂げた地球のことは大雑把にだが把握している日本国であった。
今回はその中でも新たに国交を締結したシンドヴァン共同体についての議論と、最大の国家とされるイエティスク帝国についての議論を交わしていたのだ。
総理大臣が明らかになっている諸国の資料を見ながらつぶやく。
「それにしても、この世界の地球はなぜこれほどまでに国の多様性が少ないのだろうな?」
「それについてですが……この世界ではシンドヴァン共同体を除けば、ほとんどの国が2種族程度で構成されているケースが多いようです」
「学会では、『女性しか存在しない種族がいることも原因ではないか』という予想があります」
経産相が思い出したように呟く。
「そういえば、海上自衛隊のP―1哨戒機機長と結婚したスキュラ族も、女性しかその種族は産まれない、と言っていたな」
「シンドヴァン共同体のラミア族も同様らしいので、何か因果関係があるかもしれません。それと……」
取り出した資料に閣僚たちの目が集まる。
「この世界の人たちの遺伝子には、どこか不可思議な部分が見受けられます」
「不可思議?」
「はい。あのように動物に近い体の一部を持っているという時点でそうなのですが……生物学的に自然にはほぼ有り得ないと申しますか……遺伝子に、明らかに手を加えられた痕跡があるのです。ヒトの遺伝子、及び染色体に適合するように『無理やり』結合させられた動物の因子が確認できるので……今のところ、我々人類と交配しても問題ないということは立証されているので、この件はあまり公にしないほうがよろしいかもしれません」
問題がない以上、下手に引っ掻き回すと厄介なことになる。
「そうだな。今後も調査は続けてほしい。国民にきちんと説明できるよう、態勢を整えることも忘れるなよ?」
「はい」
話は終了した。
しかし、彼らの『やること』は終わらない。
「ところで、今晩の食事はどうする?」
「そうですなぁ……恐竜ステーキでも食べたいところです」
「私はアンモナイトの唐揚げですよ。あれが酒のつまみには中々……」
「いやいや、私は魚竜の炙りが好きですよ」
閣僚たちも今や、名物となった新世界生物グルメにはまっているのであった。
――西暦1740年 11月12日 アゲタ島沖20km 日本国某企業所属貨物船『きい』
ここは、旧世界でいう所のクレタ島に比較的近い海域である。
ここを、日の丸を付けた、この世界を基準にするとかなり巨大な船が航行していた。
日本の製品を広大なシンドヴァン共同体へ荷物を運ぶべく初めて単独で派遣された、とある商社所属の大型貨物船『きい』である。
「船長、今日も波は穏やかなもんですね」
「あぁ。これならあと3日くらいでレバダッドに到着できそうだ」
既にレバダッドは日本の貨物船やタンカーも停泊できるようにと改造が施され、近代的な港湾都市として生まれ変わろうとしていた。
そんな新たな可能性のある都市には、多くの人が集まる。
当然そうなれば更に多くの資材や日用品が必要になるため、それらを輸出・輸送するべくシンドヴァン共同体へ向かっているのだ。
「港に着いたら1週間休息ですよね。楽しみです」
「あまりはしゃぐなよ。ラミアの皆さんがキレイなのは分かるが」
「分かってますよぉ」
若い航海士が膨れる姿を見て、船長も思わず苦笑する。
「! レーダーに感有り!」
レーダーを見ていた観測員の報告を受け、船長の顔が引き締まる。
「どこの船だ?」
「船籍不明……アンノウンです! こちらへ近づいてきます‼ このままだと……避けられません‼」
「何故今まで気づかなかった!?」
「恐らく、島の陰に隠れていたのではないかと!」
今日本は様々な国と国交を結んだ(と言っても戦った国を含めて5か国だが)国との間に交易をする際、『識別信号』がないと不便ということでグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国、そしてアヌビシャス神王国に識別信号の装置とバッテリーを輸出して判別できるようにしていた。
シンドヴァン共同体にはまだ一部にしか存在しないが、今回の船はアゲタ島と呼ばれるそれなりに大きい島の陰から出てきた。
「おい、アゲタ島って確か、ニュートリーヌ皇国とかいう国が支配して基地を置いているって言ってたよな?」
「えぇ。基本的には手は出してこないっていう話でしたけど……まさか?」
「……臨検だな。考えてみれば、俺たちは初めて日本からシンドヴァン共同体へ赴く商船だ。軍艦の護衛があるならまだしも、商船単体、しかも見慣れないものということで臨検に来たのだろう」
船長は通信機をとった。
『総員に通達する。レーダーに映った船は他国の軍艦であり、地理的に、ニュートリーヌ皇国という国の所属艦であると考えられる。恐らく臨検であると判断されるため、逃亡すれば後で本国に不利益を生じる可能性がある。停泊して臨検を受けなければならない。不用意な言動、行動は慎め。相手に失礼のないように接すること』
『了解』
貨物船は停止し、錨を降ろす。
1時間ほどして、現代日本人の目からすると歴史の教科書に出てきそうな船が現れた。
「あの船か……黒船よりは強そうだな」
「はい。外輪船ではないですね」
その船はかつてペリーが来航する際に使用した外輪船ではなく、スクリューで航行しているように思えた。技術としては20年から30年も離れていないと考えられるが、航行のための効率はより上がっていると考えるべきだろう。
「単艦での強さならば、スペルニーノ王国よりも強そうだな……」
「スペルニーノは木造の戦列艦でしたからね」
「それにしても、あのくらいの文明水準なら見張り台があると言っても20kmも離れた存在を捕捉するなんて難しくないか?」
「スペルニーノのように巨鳥でも運用して、鳥瞰偵察したんでしょうか?」
だとすれば分からなくもないが、情報の伝達が早すぎる気がするのだ。
「まさか……レーダーを実用化している、とか?」
「そんな! 前に防衛省の友人から聞きましたけど、この世界でもっとも発達しているイエティスク帝国……実質ロシアでさえ第二次世界大戦直後くらいの能力しかないって言います! 私、個人的にレーダーの歴史も勉強しましたけど、そのくらいの水準だと距離にして50km~200kmを見られるかどうかです! ましてや、それより数十年以上文明が遅れている雰囲気の船なのに……」
「分からないぞ。ニュートリーヌ皇国が裏でイエティスクと繋がっていたら……とかな」
そう言っている間にも、軍艦は近づいてきた。
『こちらはニュートリーヌ皇国海軍第4艦隊旗艦〈トゥルボー〉である。そこの船、停船して待機せよ。これより臨検を行う』
拡声器を使っているのか、大きな声が響いてきた。
「やはりニュートリーヌ皇国の臨検だったか。とにかく失礼のないよう徹底させろ」
「はい」
やがて軍艦が近づいてくる。タンカーは甲板までの位置が高いので、縄梯子を降ろして上がってもらうことにした。
やがて、猫の耳を持ったいかつい男が甲板に登ってきた。
「私はニュートリーヌ皇国第4艦隊旗艦『トゥルボー』の艦長、タルバだ。貴様らは何者だ? どこへ行く」
高圧的な態度に思わず船長ものけぞるが、なんとか口を開く。
「私たちは日本国の者で、こちらの荷物をシンドヴァン共同体へ輸送しているところです」
「ほぅ、日本国? 噂は聞いているぞ。なんでもスペルニーノとイタリシアの雑魚共を蹴散らしたとか……」
「それが、何か?」
タルバは気に入らないとばかりに鼻を鳴らし、船長に詰め寄る。
「とりあえず中を調べさせてもらう。いいな?」
「わ、分かりました」
船長についてきたタルバは色々と質問をしてくる。船長もなんとか真面目に答えるが、あまりに細かい質問にすっかり参っていた。
「よし、操舵室を見せろ」
「操舵室を? それも臨検ですか?」
「そうだ。それとも何か、逆らう気か?」
とにかく威圧的な雰囲気を漂わせるタルバに、船長も恐ろしくなっていた。
「わ、分かりました。お入りください」
艦橋の中へ入ると、タルバは急に腰の剣を抜いた。
「な、なんですか?」
「この船は異様だ!よって、我がニュートリーヌ皇国が拿捕する! 大人しく我々の指示に従うのだ! さもないと撃沈するぞ!」
船長たちはここでようやく気が付いた。彼らは最初からこの船を拿捕するつもりだったことに。
逃げたいとも思ったが、技術差があるとはいえ相手は軍艦である。しかも、拿捕するつもりならば既に臨戦態勢は整えているだろう。
ここから抜錨して、エンジンを始動してなどとやっていたら間違いなく砲撃を受けて大きな被害が出る。
「……分かりました。貴国の港へ向かいましょう」
「蛮族の割には物分かりが良いようで結構だ」
どうやらタルバは日本人のことを野蛮人のように思っているらしい。少なくとも認識としては『スペルニーノ・イタリシア連合に勝った程度の国』というところだろう。
だが、相手は軍人と軍艦。こちらは巨大貨物船とはいえ民間船である。その差は歴然であった。
船長達は何も言えないまま抜錨、軍艦数隻に挟まれたままニュートリーヌ皇国の港町、アテニアへと向かうのだった。
それから半日が経過し、港町アテニアの近くまで来たタンカーであったが、水深が足りないことは事前に分かっていたため、沖合7kmの地点に停泊した。
船長はタルバに対して、日本に連絡を取りたい旨を伝える。
「……本国と連絡を取りたいのですが?」
「何ぃ? そのようなことを許すわけがないだろう」
船長もここまで来たら、異物扱いが解禁されるまでは解放されないだろうということは理解していた。事実、旧世界でもロシアとの領海付近で操業していた漁船が多数ロシア連邦保安庁によって拿捕されたケースがある。
その時も、解放されるまでは長い時間を要したという。
船長はタルバに脅され、持ってきていた積み荷の多くを降ろさざるを得なかった。
と言っても、ほとんどがガントリークレーンなどの重機がないと降ろせないコンテナばかりなので、コンテナを開けて中身を降ろす形になったが。
「ふぅむ。このような輸送手段があるとはな。蛮族の分際で中々面白いではないか。どこでこのような物を手に入れた?」
「どこでと仰られても……これは我が国で作られた物ですので……」
「馬鹿なことを言うな! こんな巨大船や輸送用貨物が、貴様らの如き貧弱な蛮族に作れるわけがない!」
「そ、それは我が国を見ていただければ判断していただけることで……お願いですからシンドヴァン共同体を通じて我が国へ連絡をさせてください!」
「嘘をつくな! 貴様らのいる土地は我が国からすれば未開の蛮地にすぎない! それを開拓したということは……そうか、わかったぞ。貴様らはイエティスク帝国の差し金だな!」
「ち、違いますよ! 我が国は……」
「黙れ‼そう考えれば納得がいく! これほどの巨大船、イエティスク帝国ならば建造可能だ! あの国以外にこのような物は作れない! そうと分かれば話は早い! 総員集合! イエティスクの間者共を皆殺しにしろぉっ‼」
タルバの指示を受けた兵士は次々とサーベルを抜き放ち、船員たちに次々と斬りかかった。
「ぎゃあっ‼」
「た、助けて……助けげはぁっ‼」
「嫌だ……死にたくない、死にたくなふっ……!」
もちろん戦闘訓練など受けていない船員たちは為す術もなく殺されてゆく。
船長は傍に立っていたタルバを突き飛ばして逃げ出し、わずかに乗っていた女性乗組員を避難させることにした。このタンカーにはGPS座標を基に、最も近い港へ数日間は航行できるだけの燃料を積んだ、最新鋭の緊急避難艇がある。
船長は手始めに近くから機関員の点検用に置いてあった長いレンチを取り上げて、それを振り回して皇国兵を殴り倒しながら女性乗組員の待機している部屋へ飛び込んだ。
「皆、早く逃げろ!皆殺しにされる! 緊急避難艇を使うんだっ‼」
わずか4名の女性乗組員を連れ、船長は緊急避難艇のある右舷へ向かった。
「早く乗り込め!」
「せ、船長は!」
若い女性が呼びかけるが、船長は扉を閉め、ロープを降ろさせる。
運が良ければ、GPS誘導でレバダッドの近くまで行けるだろう。
「頼むぞ!」
船長はようやく穏やかな顔になり、後ろを振り返った。
そこには既に、多数の皇国兵が銃や剣を持って睨んでいた。
「貴様、よくもやってくれたな。最後に言い残すことはあるか?」
だが、船長は鬼の如き形相でタルバを睨みつけた。
「……馬鹿め」
タルバは眉を顰める。
「何ぃ?」
「馬鹿め、と言ったんだ! この猫耳野郎!」
船長はそのままレンチを掲げて突っ込んだが、多勢に無勢。あっという間に串刺しにされてしまった。
数日後、レバダッド沖5km地点を漂流する『きい』の脱出艇から発せられていたビーコンを頼りにレバダッド警備にあたっていた海上保安庁の巡視船が彼らを発見、彼らからニュートリーヌ皇国の蛮行が知らされることになる。
日本政府は直ちに、シンドヴァン共同体を通じて遺憾の意を表明することを決議する。
次回は日本国召喚の発売予定日(2月17日)に投稿したいと思います。
このニュートリーヌ皇国にレーダーがあるか否かについては、とある理由から対水上レーダーの知識はあります。ただ、出力が弱いのでまだ目視とほとんど変わりません。
あと、イエティスク帝国の戦車をドイツ風にしたのはいろいろ理由付けてますが要は『ゴツイ戦車と戦わせたかった』からです。
疑問・質問など歓迎です。どんどんお寄せください。