シンドヴァン総合火力演習
どうも、今月2話目となります。
この所専門的な話から色々『これ違うんじゃ?』等のご意見を頂戴しますが、こちらも軍事知識以外は付け焼刃のモノが多く、インターネットで調べるなどして補完していますが、至らない所も多いです。
そういう『至らない』作品であるという前提でお読みいただければ幸いです。
――西暦1740年 7月25日 シンドヴァン共同体 西部港湾都市レバダッド
シンドヴァン共同体派遣部隊は、シンドヴァン共同体の西部、旧世界でいう所のレバノン付近にある港湾都市レバダッドの沖合5kmまで来ていた。
まずは外交官として搭乗した外務省の溝口を短艇で降ろし、向こうの外務局との交渉に当たらせる。
ただし、実は大まかな交渉は日本にいる間にアヌビシャス神王国を介して行なっていた。なので、この場で行うのはいわゆる『確認』である。
それが終わると、シンドヴァン共同体を統括する21評議会の長たちとの面会となる。
シンドヴァン共同体は商売人が集まって国に近い体を成している存在である。
砂漠地帯や荒れ地という厳しい環境の土地が多数を占める中、様々な種族の男たちと蛇の下半身を持つラミア族の女性たちが生活している。
アフリカ大陸とヨーロッパ、及びアジアを繋げる要所に当たるためか、商売が非常に発達している。
日本では幕末まで入ってきていなかった『株式会社』の考え方に早くも辿り着いており、国の人々の多くが国内商社の株式を保有することで様々な利益を得ている、自由経済主義が非常に発達した国である。
不毛地帯の多い土地柄から、日本からするとエネルギー関連以外の生産性はほとんどないものの、商業の要所ということで各国と不可侵の約定を交わしており、この国の中ではいかなる戦闘行為も禁じられている。
そのため、この世界のヨーロッパ、アフリカの支配者が集まって会談する世界会議の会場に、この国の首都が使われるほど。
各地方を統括するギルドマスター(全員ラミア族の女性)が最大の権力を握り、品物の流通や値段のことなどを議論する。
一見すると前時代的な株仲間のような組織かと思われるが、その裏では『適度に』自由を保つための流通管理などを行なっているのである。
この世界で最大の発展度を誇るイエティスク帝国が基本的に輸出入による経済活動にほとんど参加していないこともあって、グランドラゴ王国及び蟻皇国、ニュートリーヌ皇国の品々を中心に各国に引き渡している。
特に広く知れ渡っているものこそ、グランドラゴ王国が最初に開発した『モールス信号』の打電装置や、『電話』である。
イエティスク帝国がこれらの先進技術を開示していないため、必然とそれに続くグランドラゴ王国が最新鋭と言える。
これと発電装置のお陰で、文明の発達度はバラバラな世界であるにもかかわらず、それなりに迅速な通信が可能となっていた。
しかし、そんな共同体の今までの苦労を水泡に帰させかねないほどの力を持つ国が突如現れた。
それが日本国であった。
日本国は今まで誰も手出しができなかった南北にわたる巨大大陸を領有下に置き、これまでの人々の基準からすると信じられないほど質の良い商品を作り出す国である。
当然、共同体では日本のことを知った当初『交流を持たず流通を制限させたほうがいい』という提案が出ていた。
しかし、イエティスク帝国の技術にも通じた商人が日本の『ある品』に触れた時、衝撃が走った。
『これをこのまま一国の中に埋もれさせていては、〈自由と流通によって発展を望む共同体の理念〉に反する』と、その商人に言わせた品を見せられた他のギルドマスターたちも、『それ』を見せられてあっという間にそれまでの言を180度翻したほどであった。
そんな時、大消費国の一角であるアヌビシャス神王国が日本と接触、国際結婚を含めた友好関係に入ったことを知り、接触できないかと図り始めたのであった。
日本の商品を仕入れ、多くの国に流通させれば日本の国力を世界に知らしめることにも繋がり、日本にとっても共同体にとってもよい関係になるとギルドマスターは考えるようになったのだ。
こうして、日本の意思を受けて遂に日本国と国交を結ぶに至ったのである。
そして彼らは、グランドラゴ王国やフランシェスカ共和国などの日本友好派からは『イエティスク帝国をも上回る諸技術』があると聞かされていたため、技術の特色が最も出ると言っても過言ではない軍事技術を見たがった。
故に日本に対して『自衛隊の大規模演習を行なってほしい』と依頼し、わざわざ陸上部隊・航空部隊が演習を行えるようにと数十kmにわたる広大な敷地を確保してくれていた。
共同体ギルドマスターの1人にしてサウォージラビーニャ地区(旧世界のサウジアラビア)を有する最大の土地を持つ妖艶な妙齢の女性、ラケルタは『あづち』型輸送艦から次々と降りてくる日本の車両を見て目を丸くする。
「すごいわねぇ。日本の車両や戦車は明らかにイエティスク帝国と同等か、それ以上に強そうよ」
「マスター、戦車だけではありません。あの歩兵の持つ装備……明らかに帝国の物よりも質が良いと判断できます。恐らくあの歩兵の持つ小銃は帝国が開発している『プラスチック』も使用していますよ。一説によれば熱に弱いとも言われているようですが……銃に使えるということは、それだけ加工技術に優れているということでしょうね」
いわゆる強化プラスチックや炭素繊維のことである。
更に、沖合に停泊している空母には艦載機の『F―3C』が発艦を待っている。
ちなみに、『あづち』型輸送艦には個艦防衛用に垂直離着陸機である『F―3B』が搭載される予定なのだが、残念なことに開発が難航していること、日本がVTOL機を扱った経験がないことが災いして、まだ試験機とそれに伴う量産機数機が試験飛行を繰り返しているところと『発表』しており、量産化はまだ少し先のことになるだろうと『言われて』いる。
そもそも、現存する『F―35』と国産の『X―2先進技術実証機』を参考にしていたとはいえ、『F―3』をたった数年で既に形にして量産にこぎつけているという時点でありえない話である。
いかに日本が次世代機の開発に心血と労働力を注いだかが窺える。
余談だが、日本では当初、旧世界各地で運用されていた『AV―8』ハリアーを参考にした亜音速VTOL戦闘機を製造しようという動きもあった。
しかし、旧世界基準では今でも採用・使用している国があるとは言っても旧式化していた上に日本に資料がほとんどなかったこと、配備が始まっていた『F―35』が参考になると考えられたため、超音速機である『F―3B』としてシリーズに加えられることが決まったという経緯がある。
当然ながらこれらの運用方法についても、在日米軍から教導を受けていた。
ただ、これら新兵器の開発に心血を注いだ影響から、歩兵装備である『89式自動小銃』の後継銃の開発が当面見送られている。
閑話休題。
更に、沖には彼らからすると非常に先進的な形状をしている軍艦が目に映る。
「日本の艦には大砲が1門しかないけど、あれで大丈夫なのかしら?」
「なんでも、連射力と命中率が異常に高いらしくて、あれでこと足りるのだそうです。しかも、あの主砲は主に対空迎撃や対地支援を目的にしているせいか、対艦戦闘には別の兵器を用いると言われています」
「ふぅん……日本国、とんでもない国と国交を結べそうね。これで私たちは更に発展するわ」
「はい。我らが商売の神、『メルカートル』の加護があったとしか思えません」
そして、ラケルタの前にまだら模様の服を着た男性が立つ。
「日本国陸上自衛隊、シンドヴァン演習派遣部隊を預かりました、統合幕僚部の竹内であります」
今回は陸・海・空の部隊を統括するべく、防衛省統合幕僚部から指揮のための人員が派遣されていた。
「シンドヴァン16代表の1人、ラケルタです。この度は我々の無理を聞いていただき、感謝いたします」
「いえ、これも我々の仕事ですので」
竹内の毅然としながらも柔和な態度は、多くの男を見てきたラケルタからしても『面白い』と思わせた。
「(真面目で物腰は低いけれど、決して卑屈ではない……なるほど、紛れもない軍人ね。でも、この世界の軍人の基準からすると少し優しそう)」
ラケルタは一目で竹内に好印象を持った。
「それでは、もう間もなく演習が開始されますので、ゆっくりとご覧になってください」
「えぇ。楽しみにしていますわ」
ラケルタは妖艶に笑う。普通ならばこれは悪人の笑みに見えるものだが、彼女の場合は素でこのようにやっている。
それから1時間も経過しないうちに、輸送艦から車両が全て降ろされた。
『それではこれより、陸上自衛隊の車両による演習を開始致します。大きな音が響きますので、十分ご注意ください。まずは、〈10式戦車〉のスラローム射撃をご覧ください』
アナウンスと共に、楔形の前部装甲を装備した砲塔を持つ戦車が走り出す。
「戦車、ねぇ。最近有名なのはニュートリーヌ皇国の装甲戦闘車両だけど……あれとはずいぶん違う気がするねぇ」
「あの走行車両は、両側に大砲が装備されていましたけど……噂では、イエティスク帝国が回転する大砲を備えた戦車を持っていると言いますね」
「それと同じような物かしら?」
彼らが呟く間も、10式戦車は走り続けている。
『10、各車、射撃用意』
「え、スラローム射撃をするって……走りながら射撃する気なの!?」
ラケルタは驚愕する。
そもそも、大砲とは中々当たる物ではない。
大砲の命中率が向上したのは第二次世界大戦以後、射撃指揮装置が開発され、高性能なレーダーと連動させることができるように電子機器の類が発達を遂げたからである。
実際、大戦中に米軍ではレーダーを利用した砲撃を行うことで夜戦を得意としていた日本艦隊に大きな打撃を与えたことがある。
某提督業の方々は大概がご存じだろうが、大日本帝国海軍の戦艦『霧島』は第三次ソロモン海戦において米戦艦の『サウスダコタ』及び『ワシントン』と砲撃戦を行なっており、電源の落ちていたという『サウスダコタ』を戦線離脱に追い込むが、その後『サウスダコタ』の後方にいた戦艦『ワシントン』のレーダー照準射撃を受けて轟沈している。
これは、日本軍と米海軍の装備の差が如実に出た例の1つと言える。
だが、当時のそんなレーダー照準射撃とてそう簡単に当たるものではない。
ラケルタたちのイメージでは、大砲とは動かない装甲目標(要塞や城門)及び敵軍のど真ん中に集中射することで破壊、或いは面制圧で敵を撃破するものであった。
しかし、日本の技術は彼らの予想の斜め上を超える。
『各車、射撃開始!』
目標が射程可能位置に入ると、射撃指揮装置(FCS)で発射できるタイミングになった瞬間に発射される。
――ダォンッ!
各車両が一糸乱れること無く同じ方向へと向かっていたため、ほぼ同時と言っていいタイミングで主砲の発射音が響いた。
「な、なんて轟音なの!」
その直後、1km以上先にあった人間よりも小さな四角いコンクリートでできた的が粉々に吹き飛んだ。
「凄まじい一撃でした……」
「威力ももちろんすごいけど、たった1発、たった1発で全弾命中させているわ!これが2,3輌なら分からなくもないけど、全車両ほぼ同時命中なんて有り得ない!どんな魔法を使っているのよ!」
彼らの基準からすると有り得ない命中率を誇る日本の『10式戦車』は、更に数発の射撃を行なった後に控え場所へと引き下がる。
「装填速度も異常に速い……何度かニュートリーヌ皇国の装甲戦闘車の攻撃を見たことがあるけど、その比じゃないわ」
「それに、速度も尋常じゃありません。ニュートリーヌ皇国の戦車は歩兵の進軍速度とほぼ同等か少し遅いくらいですが、あの10式戦車は間違いなく時速50km以上出ていました」
ラケルタも商会の主として、グランドラゴ王国やニュートリーヌ皇国で開発されていた『自動車』のことを思い出す。
性能的にはニュートリーヌ皇国のほうが若干上であったが、日本の戦車はそれより遥かに重量がありそうな車体であるにもかかわらず、軽快な動きを見せる。
「グランドラゴ王国ほどの技術立国が、なりふり構わず技術を導入しようというだけのことはありそうね……」
今度は戦車によく似ているが、砲身がより長い四角い砲塔の車両が登場した。
「ずいぶん長い大砲ね……戦車の一種かしら?」
「どちらかと言うと、イエティスク帝国が使用する自走砲に似ているような……」
『99式155mm自走榴弾砲』は、これまた一糸乱れぬ整列を見せ、砲身を斜め上へと向ける。
目標は、都市郊外15km先にある荒れた山だ。
『各車、射撃用意。射撃開始!』
――ダンッ!
「!?」
『着弾まで8,7,6,5,4,3,弾着、今!』
――ドッカアアアアアアアン‼
その衝撃と轟音は、15km以上離れた所にいるはずのラケルタたちにも伝わった。威力は、先程の10式戦車よりも遥かに高そうに見える。
事実、砲撃の威力は口径の3乗に比例すると言われており、口径が上がれば上がるほど威力は格段に増す。
「す、すごい威力ですね、ラケルタ様……」
「……あの大砲、今地面に当たる『直前』で破裂したわ」
「え、そうでしたか?」
ラケルタは確信有りと言わんばかりに頷いた。
「えぇ。私の感覚がそう言っているわ」
ラケルタたちラミア族には、蛇と同じく熱を探知する『ピット器官』と呼ばれるものが備わっている。
それで見た結果、『砲弾の破裂による熱は地面に着弾する前に発生した』ことを見抜いたのだ。
「どういう機構なのかはわからないけど、あの仕組みもかなり精密そうね……恐らくだけど、今の攻撃は先程の戦車のように装甲目標を狙うのではなく、兵隊を一気に吹き飛ばすための能力を有しているのだと思うわ。そうでなければ、地面に接触する前に砲弾が爆発するなんていう機構を備える理由が思い浮かばない」
ラケルタの言う通りであった。
自走砲とは砲弾の雨を降らせることで敵の進軍を食い止める、或いは味方の進軍をサポートするための兵器である。
日本では上陸してくる敵兵士を効率よく叩くために用いられる。
最近では島嶼防衛の重要性から軽視されがちな面もあるが、島を奪還した後に防衛網を構築しようと考えると歩兵が携行できる迫撃砲などだけでは明らかに火力が不足する可能性が高い。
とはいえ、無限軌道の『99式』では扱い辛い部分もあることから、現在本土では装輪式の155mm砲を装備した『19式装輪155ミリ自走榴弾砲』の配備が始まっている。
「あの車両も装填が異常に速い……いったい日本はどんな技術を持っているというのかしら?」
ラケルタの頭の中では既に、日本の諸技術を応用した商売ができないかという打算が始まっている。
兵器の輸出に関しては今のところ友好を結んでいる国に関しては直接行なっているので介入は難しい。
他の国でもガネーシェード神国のように『他国の兵器はいらない』という者もいれば、好戦的で商売がし辛い蟻皇国のような相手もいる。
この世界は国の多様性が非常に少ないため、商売のやり辛さは根強い。それでも、シンドヴァン共同体は商売を基盤にすることで非武装中立国として今まで生きてきた。
兵器は無理でも、それに使用されている諸技術をうまく利用すれば、それを基に利益を出すことはできるはずである。
ラケルタにとって必要なのは、発想の転換であった。
その後も普通科隊員の小銃射撃や迫撃砲の攻撃演習、更に高機動車やそこからの対戦車誘導弾の発射など、富士総合火力演習にも負けない迫力が続く。
そしてラケルタが最も驚かされたのは、ヘリコプターの機動飛行であった。
「回転翼機……噂では、イエティスク帝国がようやく開発に成功したばかりって言っていた……なるほど、帝国よりも技術が成熟した国が今まで存在を確認できなかったことを考えると、日本が言っていた『転移国家』という話も信憑性を帯びてくるわね」
日本が転移国家であるという話はフランシェスカやグランドラゴなどの友好国を通じて聞いてはいたが、そんなおとぎ話のようなことが現実に起こるというのはにわかに信じられなかった。
それでも、この超技術の数々を見せられれば、納得せざるを得ない。
「っと、ヘリコプターの飛行だったわね」
「あのヘリコプター、先端に棒のような物が付いていますけど……なんでしょうか?」
「まさか……機関銃?」
ラケルタたちが見守る中、『やんま』型対戦車ヘリコプターに無線から指示が入る。
『目標、正面装甲車両。射撃開始!』
――ダダダダダダダダダダダダッ‼
目標として用意されていた廃棄予定の『73式装甲車』が、あっという間に穴だらけになり、爆発炎上する。
「う、嘘!鉄板で覆われた車両を機関銃で穴だらけにするなんて‼」
「今の兵器……日本の説明によれば、装甲車より頑丈な戦車でも上部装甲なら貫通可能な威力を持っている『機関砲』だそうです……」
ラケルタはこの時点で、あのヘリコプターがいかに対地支援に有用な存在であるかを理解した。
「なるほど、ね。次は……海軍だったわね」
「はい。海上自衛隊の、空母機動部隊なるものだそうです」
用意されたモニターには、巨大な甲板を持つ航空母艦『あかぎ』が映っている。
「すごい大きさ……なるほど、あのような船が建造できるから、ワイバーンや巨長鳥よりも扱いの難しそうな飛行機械を洋上で運用できるのね」
甲板上には発艦準備の整った『F―3C』が並んでいた。
『こちらCIC、各機、発艦を開始せよ』
『了解』
隊長機が前へ出て、日本で開発された電磁カタパルトに脚部を乗せる。エンジンの熱と轟音を後方に流さないためのディフレクターも展開し、準備は整った。
誘導員が『離陸して良し』のハンドサインを出す。
『ブレード1、テイクオフ』
『F―3C』がカタパルトの力を受けて、時速300km近くまで一気に加速、そのまま船から放り出されるようにして飛行を始めた。
――ゴオオォォォォォォォォォ‼
これまたラケルタの知識からすると、巨鳥もワイバーンも全く及ばない速度で戦闘機は空の彼方へと消えていった。
「……」
もはや開いた口が塞がらない。
商人同士の横の繋がりで、イエティスク帝国には『時折』音速を超えるために、翼を斜め後ろに展開させている航空機があると聞いたことがある。
それはつまり、音の速さを超えるためには翼を斜め後ろに退かせる、『後退翼』が必要ということであった。
彼女も商人として、グランドラゴ王国やニュートリーヌ皇国から秘密裏に入手した物理学の教本を読み、理論だけとはいえある程度は知っていた。
だが、実際自分の常識を超えた物を目の当たりにすると、言葉が出なくなるらしい。
「……とんでもないわね」
その後も新開発された推力偏向ノズルを活かした高機動と、誘導弾こそ用いなかったものの、機関砲の射撃で空中に浮かぶ目標を次々と破壊してみせた。
その連射性・威力・命中精度、どれをとっても規格外であった。
「……日本の企業と様々な形で提携を結びたいものね。我が国の技術発展のための設備投資も考えないと」
その後、今度は随伴していた護衛隊群の砲撃が始まる。
こちらも戦車同様、異常なまでの命中率と高い威力を誇っていた。しかも、恐らくだが戦車より遥かに射程の長い砲を用いている。
大砲の砲弾は人力で装填しなければならない(戦艦などは揚弾装置で途中までは機械化されているが)ということは世界の常識だが、あの船の砲塔を見る限り、恐らく人力で補充されているのではないと判断できる。
「恐らく、高度に機械化された自動装填装置、とでも言ったところかしらね」
「そ、そんな。イエティスク帝国でもそれは作れるかどうか……」
「そう。日本は、間違いなく技術だけで言えば帝国をも上回るわ」
強いて言えば、戦車の『大きさ』だけは帝国のほうが勝っていると彼女は思っていた。
何故ならば、帝国の戦車は50t超え、中には70t以上の物があると聞いたことがあるからである。
「(まぁ、あれだけ射撃制度と威力が高いなら軽くても問題ないのかもしれないけど……)」
その後は航空自衛隊のVADS対空機関砲や軽SAM、更に救難ヘリコプターの機動飛行などで演習はつつがなく終了した。
朝早くから始まった演習だったが、気づけばもう夕方になっていた。
だが、ラケルタの顔はずっと興奮のあまり真っ赤であった。
「私たちは日本と共に更なる未来を創る。そのためにも、日本と共同で我が商会及びその傘下に設備投資を行う必要があるわ。あと、為替レートが決まり次第、日本企業の株式も購入しないとね」
「株式を50%以上保有することができれば、経営にも介入できますし」
「船舶、自動車、航空機、それ以外にも色々と世界に売り込める物は多いわ。問題があるとすれば……この近辺じゃニュートリーヌ皇国かしらね」
ここでラケルタが一気に冷静な表情に様変わりする。
旧世界で言えば東欧を支配している絶対君主制の国、ニュートリーヌ皇国。
彼らは覇権主義の強いイエティスク帝国からの迫害から逃れようとするあまりに、自分の種族以外のほとんどの他者に対して異常なまでの攻撃性を示すようになっていた。
「軍需産業が活発化しているから、兵器以外は売り込めそうにないけど……日本の主義主張を聞く限り、皇国に物を売り込むのはもうしばらく先になりそうね」
「仕方ないでしょう。あの国は元々独立志向が強く、しかもどちらかと言えば物を輸出することで外貨を稼ごうという気風が強いですから……」
「ま、お陰で蟻皇国とあの国のやり取りが活発になってるんだけどね……ガネーシェード神国のせいで海路しか交易ルートがないのもウチにとっては幸いだし」
とはいえ、このままでは場合によっては日本とぶつかるかもしれないと既にラケルタは考え始めていた。
「ま、それならそれで私たちはそれを利用するまでだけどね」
「マスター、大変悪い顔をされていますよ」
「仕方ないでしょう?私は商売人ですもの」
後日、日本とシンドヴァン共同体は正式に国交を締結する。
その後、共同体内部のエネルギー採掘に関して日本企業を主導に、現地人も雇用する形で開発と採掘を始めるのだった。
しかし、そんな風に始まった交易から、思わぬ事件が発生する。
ちなみに私事ですが、本日夜に東京ドームの『ふるさと祭り』に弟と共に行ってきます。
食いしん坊万歳な祭りなので、楽しんでくるつもりです。
次回は2月上旬中に投稿できればと思います。