異なる人達、その依頼
今月2度目です。
遂に、自衛隊の初陣です(ただし人相手じゃない)
攻撃の表現が結構難しいですね。
日本国使節の園村と国元は、勧められるままに床に置かれていた座布団らしき物に正座で座り込んだ。
どうやら原始的な生活形態ながら綿のような生活用植物を育成して利用しているらしい。
彼らの目の前には、彼らを先導したガロンとは違う、立派な角を生やした仙人のような老人が座っていた。その角は、言うなれば鹿の角であった。
「熊の耳の次は、鹿の角?」
ネイティブ・アメリカンとは異なる、白人系の老人の顔立ちをした男が話し出した。
「ふむ。お主らは我々の体の特徴に驚いておるようじゃな。ならばまずは自己紹介をさせてもらおう。このハガン族は、熊耳族と鹿角族の2種族で構成されておる。私はこの集落の長で、ガルソンという」
わずかに頭を下げながら、ガルソンと名乗った老爺は挨拶した。
「丁寧なご紹介を、ありがとうございます。私は日本国外務省所属の職員で、園村誠と申します。こちらは、後輩の国元健司といいます」
「よろしくお願いいたします」
国元も園村に続いて頭を下げる。
すると、ガルソンはニコリと微笑んだ。
「初対面ながら礼儀正しく接してくれること、嬉しく思う。して、日本の方よ。我々と出会い、何をしたい?」
園村は一拍置くと、切り出した。
「ここは、誰が支配している国なのですか? 私たちが認識している世界とは、随分異なっていた物で」
「クニ? ここに、そんな物はないですぞ」
ガルソンはどこか困ったような表情で答えた。
その言葉を聞いた外務省職員の2人は、『やはり』という表情をした。政府が言っていたように、自分たちはどうやら平行世界の地球に飛ばされたのではないかという意見が正しかったのだろうと判断する材料となったからである。
「では、あなた方を支配し、統治する存在はいないと?」
「お主らの言う、『我々』の中に、どれほどの存在が含まれているのかは分からない。何故なら、我々にとって『統治』するべき場所とは、この集落だけだ。他に付き合いのある集落も2,3あるが、それ以上の存在は知らない」
ガルソンの言う言葉が正しければ、彼らはとても狭い世界でのみ生きていたことになる。
「では、ご挨拶と、友好を結びたい証として、こちらをお納めください」
園村は国元に合図すると、持ってきていたトランクケースを開けた。その中には、このわずかな日数でかき集めた、日本の様々な名産品が入っていた。
「ほほぅ……これは面白い。これは……飲み物を飲むための器か?」
ガルソンが掲げたのは、切子細工のグラスだった。
「なんとも美しいな。これを作るのには、さぞや高度な技術がいるだろう」
ガルソンは更に細長い物を取り上げた。
「これは……剣か? なんとも美しい……この模様を、どうやって出しているのだ?」
刀身の表面に浮かぶ波紋を、惚れ惚れするような顔で見つめていた。
これを見たガルソンは、目の前にいる者たちが自分たちよりはるかに進んだ力を保持していることに薄々だが気付いた。
「このような素晴らしい物を頂けるとは、思っていなかった。これを見ればわかる。あなたたちは、私たちの持っている技術よりはるかに優れたものを持っている。だが、だからこそ問いたい。何故、我々と友好を結ぼうとする? これほどの技術力を持つ者たちが、我々よりも多く集まっているのならば、襲って我々の全てを手に入れることも可能なのではないのか?」
どうやら、彼らに『襲われる』という概念はあるらしい。争う感覚を知っていることに一抹の不安を覚えつつも、園村は続ける。
「我が国は、平和主義……つまり、平和を愛する国です。相手から何かを奪ったり、侵略したりするような行為を、国として禁じております。ですから、どのような相手であろうとも、まずは礼を尽くすのが我が国の流儀なのです」
ガルソンはそれを聞き、遠回しにだが自分たちの文明が低い水準にあることを理解した。だが、それを表に出そうとしない、園村の気遣いにも同時に気付いた。
「日本の方よ。我らと交流を結ぶということ、それは誠にありがたい話だ。もしこの技術が本物ならば、我が集落……いや、我らのみならず集落同士の繋がりを駆使することでこの地に住まう者たち全てに、その恩恵を与えることができるやもしれん」
「で、では……」
園村が嬉しそうに身を乗り出したが、ガルソンは手を前に出してそれを一度制した。
「だが、それならばこちらからも頼みがある。聞いてはもらえぬか?」
「それは……できることとできないことがありますので、本国に問い合わせてみないことには分かりませんが、聞くことだけならば自由です。おっしゃってみてください」
ガルソンは頷く。
「では、日本の方よ。それほどに優れた技術を持っているならば、武力も優れているのだろう?」
「……それに関しては、秘匿事項もございますので、お答えできない部分もございます」
「まぁよい。実はな、この集落は今、猛獣の群れによく襲われるようになっておるのだ」
「猛獣?」
「うむ。鋭い爪と牙を持った二足歩行のトカゲに、よく襲われるのじゃ」
「二足歩行の……トカゲ?」
園村は首を傾げるが、ガルソンは続ける。
「そ奴らは人間では中々目にとめられぬほどの足で動き回り、素早く集団からはぐれた者を腕の爪で引き摺り倒し、あっという間に喉を掻っ捌いてしまうという、恐ろしい連中なのじゃ」
「そんな生き物が……」
「我が集落だけでも、既に4人が奴らの餌食となってしまった。しかも、奴らには親玉がおる」
「親玉?」
ガルソンは手を大きく広げ、その恐ろしさを物語った。
「こんな大きさの頭を持つ、沼地に住むワニなんぞとは比べ物にならんほどの大顎を持ったトカゲでのぅ。ありゃ神様の怒りが我らに降りかかったんじゃないかとすら思える恐ろしさじゃわい」
ガルソンは一度見たことがあるらしく、ブルブルと震えだしてしまった。
「……その生き物を駆除できれば、我々と交流してもらえますか?」
「じゃが、小さい奴らは素早く、中々とらえられん。大きいのはそれほど速くはないが、噛み付く時だけは速い。大きい奴には今までも戦士が2人、立ち向かったものの食い殺されてしもうた」
現地住民からの有害鳥獣駆除依頼ということならば、自衛隊の戦力を動員することも可能かもしれない。園村はそう考え、本国に急いで連絡を取ることを決意した。
「わかりました、ガルソンさん。少々お待ちください。本国に連絡を取り、武力行使を許可できるかどうか聞いてみます」
「連絡? お主らの住んでいる所はそんなに近いのか?」
「あ、いえ。通信用の道具がありますので、すぐに本国に連絡が取れます」
「ほぅ……そんな物まであるとは……お主らの本国がどれほど離れているかはわからんが、そんなに離れた所と瞬時に話せる道具があるのか……やはり、技術がとても発達しているのだな」
ガルソンが感心する中、園村は会釈して一度外へ出る。
ガロンが石の斧を持って立っていた。どうやらずっと警備していてくれたらしい。
「あ、ガロンさん。ありがとうございます」
だが、ガロンはあまり好意的な表情ではなかった。
「……族長が何と言ったか知らないが、お前たちのような軟弱そうな連中に、槍も斧も通さない、あの荒れ狂うオオトカゲに勝てるとは到底思えぬ」
だが、園村は動じない。
「当然ですよ。私は戦う人間ではありません」
「……戦うのはあの、斑服の者たちか」
「自衛隊員のことですか?」
「ジエイタイ、というのか。確かに鍛えているようだが、俺たちを見てずっと緊張していた。覚悟のある戦士の顔とは思えぬな」
園村は苦笑せざるを得ない。
「それは……残念ながら、我が国の戦士たちは、実戦経験がゼロなんですよ」
ガロンは驚愕の表情を見せた。
「……少なくとも、戦ったことのない者たちに、あのオオトカゲと戦えるとは思えん」
「ですが、生き物である以上は倒すことができます。では、本国に連絡をしますので、失礼いたします」
園村は会釈すると車両の方へと走っていった。ガロンはそんな背中を見送りながら呟いた。
「……ニホン国……あ奴ら、どこからそんな自信が湧いてくるのだ?」
園村は乗ってきた軽装甲機動車へ向かう。
「お疲れ様です。どうされました?」
「本国に至急連絡する必要ができました。通信機をお願いします」
「分かりました」
日本はこれまで存在した衛星との連絡がほぼ途絶えてしまったため、短波無線電話を用いて連絡する。
『こちら日本国外務省』
「園村です。現地住民との接触に成功しました」
『ほ、本当ですか!? やりましたね!』
思わず興奮してしまったらしい。園村は苦笑しつつ続ける。
「ですが、友好を結ぶにあたって、有害鳥獣駆除を依頼されました。大きな爬虫類に集落が襲われているらしく、既に何名もの犠牲者が出ているとのことです」
『有害鳥獣駆除ですか? では、直ちに官邸に報告します』
わずか15分後、すぐに連絡がきた。
『こちら外務省。官邸からの指令です。有害鳥獣駆除のために、自衛隊が武力を行使することが認められました。「適切な火力を行使して、現地住民の望む成果を上げろ」とのことです』
「ありがとうございます。それにしても、随分と決断が早かったですね?」
『この状況で、迷っていても仕方ないと首相が判断されました。できることはなんでもやって、現地住民と友好を持ちたいということです』
どうやら官邸も必死らしい。食料や様々な資源などが枯渇する可能性がある状況を打破できるならば、全力を尽くしてほしいということであろう。
少なくとも、未開の地に生息している生物に対抗するには十分な戦力を揃える必要がある。
『集落の人たちからの情報を生物学の権威に問い合わせたところ、大型のトカゲは体長15mほどとのことですので、現在上陸している戦力でも対応できると判断し、増援は送らない方針です』
確かに、戦闘能力という点では戦車にも対抗できる89式装甲戦闘車がある。防衛省の幹部曰く、『怪獣王でも出てこなければ大丈夫だろう』とのこと。
そんな楽観的な、と園村は思ったが、確かに戦車を倒せる戦力があるならば、生物に簡単に負けるとは思えない。
「分かりました。古山さんたちにも伝えてきます」
園村は通信機を使い、自衛隊員たちを集めた。
「今本国に問い合わせたところ、現地住民の依頼してきた有害鳥獣駆除のために、無制限の武器使用が許可された。全力を用いて、彼らの依頼を達成してほしい」
古山の言葉に、若い隊員が手を挙げた。
「相手はどのような生物ですか?」
「現地住民の情報によると、大きい方の害獣は体長約12~15m、小さい方の害獣は体長約3m~4mと推測されている。また、その形状はトカゲに酷似しているとのこと。よって、小型害獣は各隊員で、大型害獣は89式装甲戦闘車と87式自走高射機関砲を用いて対処する」
確かに、それならば余程のことが無い限りは負けそうにない気がする。
「だが。相手には戦っている最中に動きの悪そうな者を判断し、集団から引き離して狩るという知性も持っているようだ。よって、小型害獣と相対している時には円陣を組み、絶対にその輪から離れないようにしてほしい」
どうやら、現代のハイエナやライオンのような狩りをするらしい。彼らは緊張しながらも、しっかりと話を聞いていた。
相手は現地住民の味を覚えたらしく、かなり頻繁に襲撃してくるらしい。最近は石を投げ付けるなどしてなんとか追い払っていたらしいが、それでも追い払うのがやっとだったとのことである。
なので、自衛隊は車両も含めて集落の中に入れてもらい、相手がよく襲撃してくるというポイントで待ち構えることにした。
「……古山二尉、本当に来ますかね?」
「さぁな。だが、我々は訓練通りにやるだけだ」
若い隊員が緊張する中、まだ30代になったばかりとはいえ一部隊を率いる立場にある古山はそれを表に出していなかった。
――待ち構える態勢に入ってから約3時間後 集落 夕暮れ
――ガサガサガサッ
不意に前方の草むらが揺れる。隊員は各々の持ち場について、89式自動小銃や分隊支援火器MINIMIを構える。
まず出てきたのは、ほっそりした二足歩行の爬虫類であった。口には鋭い牙が並んでおり、腕の爪もギラリと光っているように見える。
だが、後から出てきた大型の爬虫類を見て、隊員たちは固まってしまった。
「な、何……?」
「あ、あれって……?」
「まさか……!?」
何故ならそれは、人類が出現している世界にはいないはずの存在だった。
――ガオオオオオオオオンッ‼
空気を震わせるかのような雄叫びに、自衛隊員たちの銃を握る腕に力がこもる。
「二尉……あれって……」
「……ああ。俺も見間違いだと思いたい。まさか……」
古山も生唾を飲み込んだ。
「恐竜がまだ生き残っている世界だったとはな」
族長の言葉通り、ゾウやキリンなどとは比べ物にならないほどの巨体を誇る二足歩行の爬虫類が、目の前に立っていた。
「あれ……ティラノサウルスですよね?」
「えぇ。図鑑やテレビで見たことのあるティラノサウルスにそっくりですよ」
更に、中型の恐竜が何匹か現れる。先程現れた相手と同じ形状である。
「まるで、ラプトルのようですね……」
「俺、聞いたことあります。ティラノサウルスの子供って、とてもシャープで走ることが得意なんだって。大顎を持っているけど走るのはそれほど得意ではない親のいる場所に獲物を追い込んで、親の大顎で仕留めるって戦法を取っていたんじゃないかっていう仮説が出ていました」
若い自衛隊員の言葉に、古山が笑みを見せる。
「その仮説、恐らく今この場においては正しくないだろうな」
「何故ですか? 二尉」
古山は子供のティラノを指さした。
「この集落が襲われた時の話を総合すると、あのティラノの子供も、普通に人を食い殺している。恐らくだが、里の人たちが奴らの基準からすればそれほど強くなかったことで、奴らも自分で獲物を仕留めているんだ」
「では、子供も我々に襲い掛かってくると?」
「そうだな。作戦通り、中型害獣を我々が、大型害獣をFVと87式自走高射機関砲に担当させる」
『FV』とは、89式装甲戦闘車のことである。
親のティラノサウルスが1頭、子供が合計で7頭現れていた。
「大きさに若干の違いがある。恐らく、生まれた年代に差があるんだろう」
確かに、子供の恐竜でも人より高さがあるものとほぼ同じものとの違いがある。
「よし、まずは我々が子供を引き付けよう」
古山は隙を見せないようにしながら恐竜の子供たちに目を向けつつゆっくりと歩き始めた。
最初からそのつもりだったようで、ティラノサウルスの子供たちは隊員たちにじりじりと近寄っていく。
彼らの後ろにある柵の向こうでは、ガロンなど集落の人々がその様子を見守っていた。
「本気か……? あんな連中だけで、あの荒れ狂う暴竜に立ち向かおうというのか?」
「神様……」
集落の人々が祈りを捧げるように自衛隊を見つめる。園村は緊張しながらも落ち着いた顔で彼らを見つめていた。
硬直状態に我慢できなくなったのはティラノサウルスの方だった。
子供の内先頭に立っていた1頭が飛び上がり、鋭い牙をきらめかせながら自衛隊員に躍りかかった。
「目標、正面中型害獣‼」
隊員たちが掲げていた筒のような物を子供ティラノに向ける。
「撃てぇ‼」
――ダダダッ‼ダダダッ‼ダダダッ‼
猛烈な破裂音が響いた直後、彼らに飛び掛かろうとしていた子供ティラノが3頭、地面に倒れ込んでいた。
――ギャギャッ!?
「なっ!?」
「何が起きた!?」
ティラノサウルスの子供たちも、集落の人たちも、今何が起きたのか、全く理解できなかった。だが、ガロンだけは見ていた。
「(今、あの者たちが指を引き絞った瞬間、あの杖の先から閃光が迸った!離れた場所にいたあの暴竜の子供が倒れたということは……あの武器は、弓よりも高い威力で、遠距離の相手を攻撃できるというのか!?)」
ガロンは、自分たちの常識とはまるで異なる戦術を運用する存在を前にして、戦慄した。
――ギャオオオオオオオオン‼
ティラノサウルスの強烈な雄叫びが響き渡るが、隊員たちはまるで動じた様子がない。
「怒ってる、怒ってる」
「子供を殺されたんだ。親なら怒って当然さ」
「さすがにちょっと耳が痛いですね」
「こんなの、子供の頃に映画で聞いた怪獣の雄叫びに比べれば大したことはないさ」
直後、再び子供ティラノが自衛隊員に飛び掛かろうと近くにあった石の上から跳躍した。だが、彼らは慌てることなく銃を連射し、子供ティラノを次々と片付けていった。
――ダダダッ!! ダダダッ!! ダダダッ!!
ものの数十秒ほど破裂音が響いた後、倒れ伏す子供ティラノたちの姿があった。
「ふぅ。中型害獣、駆除完了」
だが、気を緩めるわけにはいかなかった。
――ガオオオオオオオオン‼
親のティラノサウルスが、猛烈な怒気を込めて雄叫びを放ったのだ。
「よし、総員後退せよ!! 87式自走高射機関砲、前へ!」
古山の指示を受け、87式自走高射機関砲が前へ出る。
今まで動かなかった大きな物がいきなり唸り声を上げながら前へ出てきたことに、ティラノサウルスは驚いていた。だが、大きさが自分よりも小さかったことで、大したことはできないだろうと考え、その大顎を突き出した。
一説によれば、ティラノサウルスの大顎の咬合力は3t強とも言われている。その大顎の力が行使されれば、装甲をある程度施してあるとはいえ、高射砲程度では為す術もなく噛み潰されてしまうだろう。
だが……
「87式、目標正面大型害獣。機関砲、撃てぇ!!」
元々装甲化された現代の戦闘ヘリコプターを攻撃することを想定されている87式自走高射機関砲に搭載されているエリコン社製35mm連装機関砲の機関砲弾の威力は、人体に当たれば蒸発するほどと言われている。
――ドドドドドドドドッ!!
その威力を惜しげもなく解放した機関砲は、次々とティラノサウルスの体に大きな穴を開けていく。
――ギャアアアアアアアアアッ!!
とても苦しげな断末魔の叫びを上げながら、数十発の機関砲を食らったティラノサウルスだったが、さすがにその巨体故か、中々倒れない。
結局、連続射撃を繰り返した中で偶然頭部に命中した弾丸が出たことにより、ティラノサウルスは絶命した。
「や、やったか?」
隊員の1人が近づいて小突くが、全く反応がない。文字通り、ただの屍のようだ。
「害獣の絶命を確認!」
自衛隊員の間からも安堵の息が漏れる。
だが、古山だけは何か拭えない違和感を覚えていた。
「何だ? 何かがおかしい。害獣は確かに倒せた。倒せたはず、なのに……?」
「どうしました、二尉?」
部下が尋ねてくるが、古山はなんとも言えない表情をしていた。すると……
――ズシン、ズシン、ズシン……
「な、何だ!?」
古山は先程ティラノサウルスが出てきた森を見た。その中から、もう1頭のティラノサウルスが出てきたのだ。
――ギャオオオオオオン‼
しかも、先程の親よりもわずかにだが大きい。
「そうか!先程のティラノサウルスの『つがい』だ!! この世界のティラノサウルスは、オスとメスが力を合わせて子育てするんだ!!」
古山は咄嗟に前進していた87式自走高射機関砲を見たが、連続発射後の砲身冷却中である。
「マズい……FV! 正面大型害獣、重MAT、撃てぇっ!!」
古山の叫びの直後、89式装甲戦闘車に搭載されている有線誘導方式の対戦車誘導弾が発射され、秒速200mの速度でティラノサウルスの正面へ飛翔し、頭部に直撃した。
炸薬の炸裂により、ティラノサウルスの頭部がザクロのように破裂して血しぶきを上げる。
現代では『AH―1S』コブラの対戦車誘導弾『TOW』を含めた有線誘導方式の対戦車誘導弾は時代遅れとなっているが、市街地戦などの不意の遭遇を想定した場合、日本国内限定で使い道もあるとされていた兵器であった。
その兵器が、断末魔の叫びをあげることもできずに、一瞬で暴君竜と言われた最大級の肉食恐竜を倒してしまった。本当ならば89式装甲戦闘車の主砲である35mm機関砲で倒したかったのだが、いきなりの出現だったこともあって、素早く対処できる誘導弾を用いることにしたのだ。
集落の人たちは、ただただ驚くことしかできない。
「な、何が起こったんだ!?」
「一瞬で暴れ竜が倒れたぞ!?」
「筒のような物が飛んでいったら……猛烈な炎が吹き上がった!」
ガロンも驚くことしかできない。
この戦闘を見る限り、彼らは自分たちよりはるかに高度な戦いを想定した戦士たちであると、感じたのであった。
ハガン族、日本へ行く