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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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空母と戦艦

今月2話目の投稿です。

ポケモン頑張っていますが、まだネット環境との接続が上手くいっていないのでマックスレイドバトルにキョダイマックスポケモンが出てこない……

急いで更新しないと、早期購入特典のヨーギラスも受け取れないので頑張ります。

――西暦2025年 1月4日 日本国 東京都 外務省

 年始め最初の勤務となるこの日、外務省へアヌビシャス神王国の駐日大使、カペルが訪れていた。

 応対するのは外務省キャリアの加也である。

「明けましておめでとうございます、加也さん。今年もどうか、よろしくお願い致します」

「いえいえ、それで、本日のご相談なのですが……」

「はい、なんでしょうか?」

 スラリとした高身長のダークエルフ男性であるカペルは咳ばらいをすると、加也の目を見て話し始めた。

「実は、日本と国交を結びたいから仲介を頼みたいと言う国がありまして、その交渉に参りました」

「えっ、我が国と国交を結びたいという国が!?」

「はい」

「どういった国でしょうか?」

 加也は素早く地図を広げる。アヌビシャス神王国が北アフリカ一帯を支配している国家であることから、神王国を基準にどこにあるかということを指さしてもらうつもりであった。

「えぇと……縮尺と、距離から……あ、ここですね」

 カペルが指さしたのは、いわゆる中東地域であった。

「ここは?」

「シンドヴァン共同体という、国と言いますか……単なる集合体というべきか……表現が難しいのですが、一応行政を行う機関が存在するので国と表現させてもらいます」

 彼がシンドヴァン共同体という名前を挙げた場所をペンで記してもらうと、旧世界でいう所の中東全域(西はトルコ、東はパキスタン、南はイエメンまで)を領有していることが分かった。

「(何故この世界はこれほど国が少ないのだろうか? もっと小さな国が乱立していてもおかしくはなさそうなんだが……)」

この国は名前通り共同体で、国内の有力者たちによる協議で国の全てを決めているという。

「すごいですね。広さだけなら貴国にも負けませんよ」

 加也はそう言って相手を持ち上げるが、カペルは苦笑する。

「とんでもない。確かに我が国も広さはそれなりにあります。ですが、シンドヴァン共同体は世界的な商業の国、商人たちの中継地点として栄えているのです。その経済規模は、我が国とは比べ物になりませんよ」

 説明を受けると、旧世界の国と同じ境界線で仕切られた『地区』があり、それらを治める商人たちが大きな実力を有しているとのことであった。

 彼らの行動原理は単純である。『世界が通じ、繋がることで世界は発展する。結果、我々も潤う。我らは嘘をついてはいけない。信用は商売における最大の財産である』という、商人らしい考え方なのだ。

 もちろん、商売のために相手のやり方を探り、いい所があれば真似をする、或いは独自発展させるなどの競争はあるようだが、不正をこの上なく嫌うらしい。

「中々面白い存在ですね」

「はい。世界でも中心に近い所に国を構えているからか、自然と商業が発達したことが原因のようです。そしてこの国は非武装国を謳っておりまして、『この国において戦争することは最大の恥である』と世界最強のイエティスク帝国が述べているほどです」

 度々耳にする、第二次世界大戦から冷戦に近い技術力を有しているとされているイエティスク帝国が、不可侵を決めるほどというのはよほどらしい。

「まぁ、イエティスク帝国はそれよりも南の蟻皇国や西のニュートリーヌ皇国のほうへ手を伸ばしたくてうずうずしているようですので、『軍のない場所、資源的に乏しい場所をとっても仕方がない』というのが主流の考え方のようですが」

 聞けば、多くの土地が荒れ地と砂漠、そして山岳地帯と厳しい環境のせいで可住可能な場所がかなり限られていることも原因のようだ。

 もっとも、中東には旧世界同様ならば多数の油田が眠っているはずなのだが、イエティスク帝国はそのことを知らないらしい。

「日本転移小説に出てくる竜人族の治める列強国みたいなものか」

 加也は転移後すぐにベストセラーとなった日本転移小説のことを思い出していた。その小説に登場する国家の中にも、可住域が狭くて他国から攻められないという環境があったのだ。

「それで、その国が我が国に国交開設を申し出てきたのですか?」

「はい。スペルニーノ・イタリシア連合を破ったこと、更に非軍用船で軍艦を持つ海賊を打ち破りながら、平和主義を掲げて自分からは絶対に戦争を仕掛けないと公言していることに興味を持ったのです」

 この世界は弱肉強食。そんな中で非武装ながら独立を保っていられるシンドヴァン共同体は非常に稀有な存在であった。

 それ故に、強大な軍備を備えているにもかかわらず侵略行為を行おうとしない日本という国は非常に珍しい存在のようだ。

 向こうから興味を持ってくれたというならばこれほどありがたいことはない。

 しかも、商業の栄えている所とくれば日本としても大歓迎である。

「この件はすぐに上に報告いたします。数日ほどお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。上層部に報告して、じっくりとご相談なさってください。私もシンドヴァン共同体も、急ぎはしません」

 カペルは終始にこやかであった。彼としても、日本と共同体が結べばその中継地点となる自国が更に豊かになるだろうと想定していたからである。

 その日の昼、首相官邸では首相以下閣僚たちがシンドヴァン共同体に進出するべきかどうかを協議していた。

「各省庁からの意見は?」

 外務大臣が手を挙げる。

「外務省としてはすぐにでも使節団を派遣して国交開設の交渉に臨みたいです。商業の豊かな国であれば、我が国の製品を世界に広めるチャンスですよ」

 だが、防衛大臣は待ったをかけた。

「まだスペルニーノ・イタリシア連合との戦後処理も全て終わったわけではありません。両国に残存するテロリスト的勢力を公安などと協力して一掃しないことには、国内の安定にもつながりません」

 それに同調するように厚労大臣も手を挙げる。

「私も防衛大臣の意見に賛成です。現在、国内の産業は活性化しすぎています。今この状況で新たに国交を拡大しようとすれば、労働者がパンクしかねません。実際現場では、過労死しないようになんとかやりくりしているとのことですが、そのせいで管理側に倒れる人間が続出しています。はっきり申し上げて、今でも手一杯なのに広げきれない手を更に広げようとするのはやめていただきたい」

 しかし、反論するように農水大臣が手を挙げる。

「確かに問題は多いでしょう。しかし、食糧の増産がそれなりに成功を収めつつあるからと言っても、まだまだ油断はできません。商業が盛んな国だというのならば、その国を仲介に他国と交渉、更に食料や木材などの資源導入を検討していただけると助かるのですが……」

 だが、それを遮るように法務大臣も反発した。

「ダメだ! 我が国内はただでさえ亜人種が多すぎる。それや新大陸の開拓に伴った法律作りがまるで追いついていない! できることならばあと最低でも1年、できれば2年は待ってほしい!」

 他にも頷く閣僚が何人もいる。皆、グランドラゴ王国とフランシェスカ共和国、そしてアヌビシャス神王国と国交を樹立したことで各省庁が多忙すぎる現状から、国民の労働状況も察していたのだ。

 と、ここでようやく首相が手を挙げた。

「では、我々実務者レベルでは話し合いを進めるとしよう。だが、国内に余裕がないのも事実であることを考えれば、国交を結んで進出するのは時期尚早と言える。しかも、今年は大阪万博の開催予定だ。『万博』ではなく『日本博』という形になりそうだが……今は幸い内需が相当拡大していることも含めてかなり好景気だ。そんな中で無理をすることもあるまい」

 この2025年には大阪で建設された会場で万博を開催する予定であった。転移した直後はそれどころではなかったが、1年前にグランドラゴ王国を皮切りに3つの国と国交締結、2つの国と戦争の後講和、国交締結をしたことによって、両国からの観光客が見込まれていた。

 日本が辿ってきたこと、そしてこれからの日本の指針を交流国に知ってもらうためにも、規模は小さくなるが博覧会を開催することが昨年決定していた。

 その準備に追われていることもあって、国内は地獄の釜の底を覗き込まんばかりの忙しさになっている。

 厚生労働大臣が『余裕がない』、というのはこういう点もあるのだ。

 食料に関しても、大陸開拓と人口増加の比率によってかつて言われていた飽食の時代とまでは回復していない。だが、それでも1年や2年はまるで問題ないまでに食料自給率が急上昇していた。

 今では農業が盛んなフランシェスカ共和国からの一部輸入も始まっている。

 つまり、やっとそれなりに整い始めたこの状況で、功を焦ってつまずいたら目も当てられないということなのだ。

「グランドラゴ王国に国交を結ぼうと申し出るまでも話を始めてからしばらく待ったじゃないか。せっかく今はいい調子なのだ。勝って兜の緒を締めよとも言う。ここは少し待とう。その代わりと言ってはなんだが、相手が非武装国であるというなら幸いだ。相手に私自ら待ってほしいと頼みに行く」

 これには官僚たちのほうが慌ててしまった。まだ国交も樹立していない相手に、わざわざ総理大臣が赴いて『待ってほしい』と頼むなど尋常ではない。

 あまりにも常識外れであった。

「た、確かに非武装との話ですが、まだ見ぬ土地であるというのに……危険すぎます!」

「だが、これで神王国を仲介に謝ってもらったのでは国の対応としていかがなものかと思う。ましてこの世界はグランドラゴ王国が大量輸出してくれているお陰でモールス信号が発達しているようだがまだ『電話』の類はあまり広まっていない。ならば相手のほうへ赴き、直に顔を合わせることこそ筋が通る。違うか?」

「そ、それはその通りですが……」

「安心しろ。日本転移小説のようにならないよう、海賊対策の護衛ということで護衛艦随伴、更に陸上自衛隊からも一部隊を抽出して同行させる。それでどうだ?」

「それならば……まぁ、安心はできますが」

「よし、そうと決まれば善は急げだ。カペル殿にすぐつないでほしい」

「は、はい!」

 こうして日本政府はシンドヴァン共同体への公的な接触を2年、先延ばしにすることを決定した。

 この時、総理大臣が自ら相手国に赴いて対応の延長を願い出たことは、日本と国交のある国から感嘆されることになった。

 それ以上に驚かれたのは、日本が引き連れた様々な護衛艦と自衛隊員だったが。



――西暦2025年 2月18日 アヌビシャス神王国 神都カイジェ

 この日、アヌビシャス神王国では日本から輸入した一部の歩兵用兵器の試験が行われることになっていた。

 フランシェスカ共和国のエルフ族は火薬を扱うことができないが、ダークエルフにはその抵抗がないため、普通に兵器を輸出ができるようになったのである。

 アヌビシャス神王国陸軍最高司令官、ウルススは『110mm個人携帯対戦車弾』を構えていた。

「すごいな。これならば鋼鉄でできた物すらも貫くことが可能なのか」

 この『パンツァーファウスト』はノイマン効果によって500mm以上の鉄板を貫通することが可能となっており、理論上は戦艦大和の重要区画装甲すらも抜けるという想定である。

 大戦終了間際にソ連の機甲部隊に追い詰められた経験を継承している日本の陸上自衛隊は、携行型対戦車兵器と対舟艇・対戦車誘導弾を重視する部分がある。

 許可が出れば、旧式の対舟艇・対戦車誘導弾が輸出される可能性がある。

 プローブを伸ばし、神王国側に用意してもらった、人よりも遥かに巨大な岩石に照準を合わせる。

「えぇと……後方の安全確認」

 ウルススは自衛隊から教えてもらった通り、背後に誰もいないことを確認する。

「発射!」

――バシュッ‼

 弾頭は火を噴きながら飛翔し、直線状にあった岩石に命中、粉々に打ち砕いた。

「おぉ! なんという威力だ!」

 協同していた田上1等陸尉が更に説明する。

「有効射程はそれほど長くありませんが、歩兵が運用することを考えれば機関銃などの有効射程外からも攻撃することができるという点で非常に優れた兵器です」

 ダークエルフたちの間から『おぉ~!』とどよめきの声が上がった。

「先ほども説明した通り、この兵器や84mm無反動砲は後方にカウンターマスと呼ばれる金属粉を発射することで反動を相殺することができます。人体がそれを浴びると非常に有害ですので、絶対に後方の安全確認を怠らないでくださいね」

 これ以外にも89式自動小銃や06式小銃てき弾など、グランドラゴ王国に認めた兵器の多くは輸出されることになった。

 当然ながら戦車や護衛艦は認められなかったが、日本が神王国に輸出しやすい軍艦として、巡視船を改良した新型軍艦の製造を検討し始めていた。

 また、グランドラゴ王国に輸出せずアヌビシャス神王国に輸出する兵器の1つとして、『機雷』と『地雷』がある。

 この国に機雷の概念があったことから旧式の物が許可されたという事情があり、日本の技術支援を受けて後に神王国でも生産が可能にする予定となっている。

「機雷は我が国にも存在しましたが、まさか爆弾を地中に埋めておいて敵を吹き飛ばすとは……これも日本が発祥なのですか?」

「正確にはそうでないと思いますが、我が国の基準で400年と少し前の戦国時代には、忍者と呼ばれる諜報担当者たちが『埋め(うずめび)』と呼ばれる原始的な地雷を開発していたという話があります。日本独自の物と言えばそれでしょうね」

 神王国も日本の戦闘技術を学ぶために既に陸海各軍部から教育のための人員を選抜し、近々日本に留学させる予定となっている。

 友好国と日本の連携は、段々と密になりつつあるのであった。



――西暦2025年 5月25日 日本国 広島県 呉市

 この日、日本政府及び多くのミリタリーマニアが待ち望んでいた船が就役することになっていた。

 船の名前は『あかぎ』。

 かつて巡洋戦艦となる予定として建造されかけ、海軍軍縮条約によって空母に転身させられた、日本人にとって『加賀』と共に印象深い空母の名前を受け継いだ船であった。

「遂に、日本が正規空母を持つようになったか……感慨深いな」

 呟いたのは海上自衛隊呉総監部の長である最上海将であった。

「本当ですよね。でも、なんで『ジェラルド・R・フォード』級を参考にしなかったんでしょうか?」

「それなんだが、最新鋭技術ということで日本に寄港したことがなかったから資料が少なかったことが一番の原因だと上では言われている。それを言えば、『ロナルド・レーガン』を始めとしたニミッツ級のほうがわかりやすいしな」

 ちなみに、最初カタパルトはニミッツ級と同じ物にしようかという意見があったのだが、幸い開発途中のリニアモーターカーの技術を応用できそうということが判明したため、防衛装備庁のほうでこの6年の間に研究開発を行なった結果、電磁力を利用するリニアカタパルトが完成したのだ。

 更に艦の後方部分には広い着艦スペースが設けられており、既に試験機から発展機も開発され始めている『F―3』の艦載型が運用できるようになっている。

 この『F―3』に関しては『F―35』同様に地上配備のA型、VTOL機能を持った強襲揚陸艦向けの『B型』、そして空母艦載機として使用する想定である『C型』の3種に分かれる予定となっている。

 先述の通り、この空母では『C型』を運用することが可能となっている。

 『F―3』戦闘機は各種類量産が始まったところであり、本年度中には50機以上が製造できる予定となっている。

 空母の配備数は今のところ『あかぎ』、『あまぎ』、『かつらぎ』、『かさぎ』の4隻だが、将来的にはマイナーアップデートを加えることで旧世界のアメリカに近い8隻を最低でも保有したいというのが日本の考えである。

 これに『あづち』型輸送艦や改修が完了した『いずも』型護衛艦を含めれば、軽空母と言える船は計5隻、これらを戦力として換算した場合、13隻となる。

 余談だが、転移直後の発表では『ひゅうが』型も改修するとの意向だったが、様々な検証の結果それが不可能であることが再確認できたため、『ひゅうが』型はそのままヘリコプター搭載型護衛艦として運用を続ける予定である。

 またその頃、それに伴い日本は在日米軍に交渉し、在日米軍からアーレイ・バーク級のイージス艦を1隻『購入』した。

 このアーレイ・バーク級の解析と在日米軍の許可により、イージス・システムの根幹が全て日本によって明らかにされた。

 日本はこの基本原理を参考に、日本独自のイージス・システムとして、『あきづき』型の近接対空能力も併合した超防空護衛艦建造計画として『スサノオシステム計画』を進めることを決定した。

 『スサノオ』とは日本神話に名高い須佐之男命であり、8つの首を持つ大蛇の怪物、ヤマタノオロチを『ヤシオリの酒』を用いて無力化、退治したことから複数存在への対処能力が高いのではないかという想像と、神が下界の人間を助けた神話にまつわる存在であるということから日本独自の防衛システムの名前に組み込まれることとなった。

 具体的な能力としては、



○最大で400の目標を捕捉できる。

○同時に20の目標に対して攻撃ができるようにする

○『あさひ』型を超える対潜能力を備える

○これまでは『対空』、『対水上』、『対潜』の3種類の戦闘を同時にこなすことが難しかったが、僚艦とのデータリンクによってそれを可能とする

○これまでのライセンス生産の経験から、日本独自の127mm単装砲を製造する。この単装砲はステルス性、連射力、対空戦闘力、そして射程の全ての面において、これまでを上回るGPS誘導砲弾を用いた物とする。

○速力及び航続距離は既存の護衛艦と同等レベルを要求し、30ノットとする。

○ヘリコプターは『SH―60K』を1機搭載する。

○艦内の省力化・自動化をなるべく進めることで人員を削減する。

○それによって兵器の内部搭載力を上昇させる。

 


など、かなり贅沢な話が求められている。

 日本としても既存の護衛艦の形態を脱却し、戦闘艦艇の新たなステージへと進もうという思いが込められている。

 そのためには、アメリカの作り上げたイージス・システムを超える存在を自分たちが独自に作り出さなければならないという思いがあったのだ。

 人間はヒントさえあればその技術へ到達してしまう速度が大幅に上昇する。

 つまり、日本以外の国もいずれはイージス・システムやそれに類するものを作り出す可能性は十分に考えられたのだ。

 日本がこの世界における技術的優位を保つためにも、新技術の開発は継続するべきであるという意見が根強いのである。

 国内の防衛関連産業が転移前とは比べ物にならない規模で活性化していることも大きい。

 防衛産業で開発された一部の品は、民間で更に研究がなされて新たな民生技術となる。

 これまでの日本や旧世界の各国が辿ってきた技術の発展を考えれば、まずは防衛に力を注ぐというのは間違いではないと専門家も述べている。

 日本は更に発展を続ける。



――西暦2025年 7月9日 日本国 広島県 呉市 巨大ドック

 ここでは1ヵ月半近く前の『あかぎ』に続いて、海上自衛隊に所属することになる、とある船が進水しようとしていた。

「いよいよ、だな」

「はい。例の『試験艦』は間もなくグランドラゴ王国へ輸出されるようですが、あれがなければこの船は完成までこぎつけなかったでしょうね」

 まだ装備のない船の甲板上をゆっくりと歩きながら男は呟く。

「転移直後には対地攻撃を主目的とした超弩級戦艦の建造が決定して、秘密裏に巨大砲や船の装甲化の製造方法を取り戻し、発展させるために試験艦を建造、それを友好国であり防衛ラインとなるグランドラゴ王国へ輸出して戦力増加を図り一石二鳥、と……今までの政府からは考えられない積極性だな」

「仕方ないですよ。砲艦外交が必要な場面が来るであろうというのは日本転移系小説などで散々言われていましたからね。転移を発表した2日後にはもう『砲艦外交と対地攻撃用の戦艦を建造しろ』だの、『空母を建造して艦上機を運用するのだ』との声がネットに広く上がり始めたほどでしたし」

 日本が転移した7年前、一部のオタクたちの間に広まっていた『日本転移』というネタの小説が存在することが一般人や政府関係者に知れ渡るや否や、その小説が瞬く間に売り切れてしまって本屋(と、その作者)は嬉しい悲鳴が上がったという話があったほどであった。

 先述のアヌビシャス神王国駐日大使のカペルとの対談でも出てきた小説である。

 また、その小説が掲載されていた小説投稿サイトは、転移直後からアクセスの加重によりしばらくストップしてしまった。

 政府は急いでその小説を入手、熟読し、将来的に日本に必要になるであろう物に関するヒントの一部を手に入れたのだった。

 転移からわずか1か月余りで本格空母の建造や戦艦の建造、更に自衛隊の大規模拡充が決断されたのもその点が大きい。

 また、日本が行なっている外交方法はこの世界では通じない可能性もあるということもこの本によって明らかとされた。

 グランドラゴ王国との接触の際に軍事技術も含めて一部を公開したのは『相手から舐められないように』という政府の意図もあったのだ。

 何より、未開拓の大陸という広大な土地を手に入れ、原住民を将来迫るであろうヨーロッパの魔の手(この場合はスペルニーノ・イタリシア連合のことであったというのが既に判明している)から保護しなければならないという人道的見地からも軍事力を拡大して大陸防衛を考える必要があったのだ。

 もしもその日本転移小説がなければ、たとえ大陸を手に入れていたとしても軍事力の拡大にまで国民の大多数が決心できていたかどうか定かではない。

 この船の建造も試験艦の建造、試験がある程度終わった3年前より以前から研究だけは続けられていた。

 しかも政府の方針で、非運用時は国民に観光スポットとして甲板上を公開することまで決定しているのだ。

 何故ならば、この船に付けられようとしている名前は、日本人の魂にまで刻み込まれた、著名すぎる戦艦の名前であるから、見たがる人が大勢来るであろうということ、甲板を見るだけならば機密などはほぼ守ることが可能であるという点から、いっそ観光名所にしてしまい、資金源としようという話である。

 日本人にとっては『金剛』、『長門』などの著名な戦艦よりも真っ先に、反射的にと言っていいほどに出てくるであろうその船の名前。

 船が水の上に着水した瞬間、見物に来ていた多くの人々から拍手喝采が起きた。

 防衛大臣らの挨拶が終わる。

『それでは、船の名前を発表いたします』

 人々はあの名前になるのだろうかと、固唾を飲んで見守る。

 その瞬間、下がった垂れ幕に人々は更に熱気を帯びた声を上げる。

 船の名前は『やまと』。

 アニメでは地球の危機を救う宇宙戦艦として国民のお茶の間を賑わす大活躍をし、そのアニメの主題歌は未だに海上自衛隊において海外派遣される際には演奏、歌唱されるほどの名曲ともなっている。

 この幕が下がった瞬間、海上自衛隊の音楽隊が『その曲』につながるメロディーを奏でだした。

 物語では地球を救うべく、16万8千光年の旅をしたアニメの宇宙戦艦同様に、日本や世界の守護神となってくれることを願い、その場に居合わせた多くの人々が大合唱したのだった。

 この光景は全国放送され、全放送局は転移前とは比べ物にならない瞬間最高視聴率を記録したのだった。

遂に、日本が本格的空母と戦艦を配備(戦艦はまだ進水ですが)しました。

お約束かもしれませんが、名前はこの通りです。

ただ、『あかぎ』を据える上で姉妹艦の名前をどうしようか悩み、本来姉になるはずの『あまぎ』を2番艦、そして存在していなかった3番艦と4番艦に『かつらぎ』と『かさぎ』を据えました。

特に、かさぎの元となった笠置山は、後醍醐天皇が鎌倉幕府に反乱を起こし立てこもった山という場所なので、海の要塞、航空母艦にはふさわしいかと思いました。

次回は年明け一桁の日数内に投稿します。

皆様、よいお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地雷ってなんかの条約で全部破棄してませんでしたっけ?ナパーム弾と並ぶよく知られた兵器ですし。 未だに大戦でばら撒かれた地雷が毎年死者を出し、民間人を無差別に殺傷する非人道的兵器として悪…
[気になる点] 45口径だとエネルギー変換効率がとても悪いです。ほら、戦艦砲ってものすごい轟音がするでしょ? 口径を大きくすると方針の寿命が短くなるんですが、今の日本には資源があるのだから55口径くら…
2022/01/27 17:08 退会済み
管理
[気になる点] 「この世界は弱肉強食」などと言っている割にはまともな国が多くて、スペルニーノとイタリシアに次ぐ侵略国家が出て来ませんね。  ラスボスはイエティスク帝国なのだとして、その前にもう一国有っ…
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