海上保安庁の激闘、異世界初の海賊退治
夜分遅くに失礼いたします。珍しい深夜の投稿です。
前回のアヌビシャス神王国に関することで多くのご指摘をいただきました。
私もまだまだ未熟だったようで、理解できないことがあったこと、深くお詫び申し上げます。
もし機会があれば、前話は何らかの形で書き直すかもしれません。
その時は一度目を通してみてくださいね。
――西暦2024年 11月25日 アヌビシャス神王国 神都カイジェ北方500km 巡視船『いつくしま』
巡視船『いつくしま』は、アヌビシャス神王国及び、友好国のフランシェスカ共和国の要請を受け、『国際貢献』という名目で共和国の北方に存在する群島に根城を構える海賊団を制圧するために航行していた。
ちなみにその島は旧世界でいう所の地中海バレアレス諸島にあたる。
「前方、異常なし」
「対水上レーダー及び対空レーダー、反応なし」
船員たちは滞りなく任務を遂行している。今のところ、敵の姿は見えないようだ。
風間は『ふむ』と言いながら斯波に報告する。
「船長、どうやら敵さんはこちらの接近を予測できていないようですな」
「スペルニーノ王国からの脱走兵が中心だそうだが、イタリシア王国の有翼人や巨鳥は存在しないのか?」
「なにぶん情報が判然としないもので……襲われた商船なども船員や傭兵が皆殺しのうえで略奪に遭っているため、情報がまるで不足しているのです」
斯波は風間の言葉を受けて考える。
「楽観できる存在でないことは確かだ。ただ、敵には航空戦力及び空挺部隊に近い存在がいると考えておけば虚を突かれることはあるまいと思います。常に最悪を想定しつつ、楽観的でいればよいかと」
若手ながら慎重な意見に風間は『そうですな』と相槌を打った。
「まぁ、対艦戦闘が発生するようなことになっても負けはしないと思いますけどね」
実際、相手は装甲すら施していない木製の戦列艦2隻前後だという。アヌビシャス神王国の船では対処も難しいだろうが、日本の技術ならば『しきしま』とほぼ同じ能力を持つこの『いつくしま』1隻でもオーバーキルと言える。
「いずれにしても、船を相手にすることはともかく、600人近い海賊団を相手にするのは中々骨が折れそうですね」
制圧のための警備隊も『しきしま』及び『いつくしま』に乗船しているが、600人全員が陸にいる間は非常に相手し辛いと判断できる。
ただ、相手が船で迎え撃とうと出てくれば少なくとも船を沈めることによって相手の戦意も削げるうえに、不謹慎な話ではあるが戦死することである程度人数も減るだろうと斯波は冷静に推測していた。
このように、斯波はかなりリアリズムに則った考え方をすることが多い。
そのせいか彼は訓練学校時代から『冷血』だの『コンピューター人間』などというあだ名をつけられていたが、実はこう見えて身内にはかなり甘い一面もある。
美月など、一部付き合いのあった人物は知っていることだが、彼には雪那という3つ年下の恋人がいるのだ。
幼い頃からずっと近所で育っていたことから兄妹同然だったらしく、斯波のことを『兄さん』と呼んでずっと親しんでいた。
斯波が海上保安官になった後はわざわざ彼を追いかけてきたほどの熱愛ぶりで、彼もまたそんな恋人を無下にしなかった。
そんな事情を知る一部からは『超シスコン野郎』、『爆発してもいいリア充』などと親しみを込めて呼ばれるようになっている。
あくまで斯波は感情表現がそれほど上手でないだけ、というのが彼をよく知る者の評価である。
閑話休題。
更に10分後、小さな島を抜けた直後に水上レーダーに反応があった。現代のレーダーは非金属船も映るようにできていることは有名である。
「対水上レーダーに反応あり! 船舶2隻! 停泊していた島から出てきた模様!」
「どうやらお出ましのようだな。警戒を厳となし、正当防衛射撃を行えるよう準備しておけ。吉田は連中に警告を発しろ」
「はっ!」
警告を命じられた吉田は船に搭載されている拡声器のスイッチを入れる。
『こちらは日本国海上保安庁です! 貴船には海賊行為の疑いがあります! これより臨検を行うため、発砲しないでください!』
あくまで日本人らしく、丁寧な言葉遣いであった。
だが、それも時と場合によりけりである。
相手船は横腹を見せると、いきなり煙に包まれた。
「敵船発砲!」
まだ距離にして3km以上の開きがある。
「逸るな、脅しだ」
斯波の冷静な言葉通り、巡視船2隻より遥か手前で砲弾は着水した。着弾と同時に爆発した砲弾により派手な水飛沫が上がる。
発砲の際に猛烈な爆炎が上がるのは無駄が多いからなのだが、その視覚的効果は大きい。巡視船に乗る海上保安官たちは緊張の面持ちになる。
「敵船の発砲を確認した。これより正当防衛射撃を開始する。『しきしま』には対空監視を厳としてもらいたい」
斯波は同じ文言を『しきしま』のほうへ通達させた。
『しきしま』でもそれを受け、対空レーダーの監視を厳とさせる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
風間がちょび髭をなでながら様子を窺っていると、こちらが発砲する前に敵船から飛び立つ影が見えた。
「敵空挺団飛翔!」
「島からも巨大な影3つが飛び立ちました。巨鳥と考えられます!」
やはり、有翼人や巨鳥がいたらしい。だが、それを想定していた斯波や、乗員たちに混乱は見られない。
「やはりでてきたか……『しきしま』に空の敵は任せる。こちらの方は万が一空挺部隊に乗り込まれてもいいように警備隊に準備をさせておけ」
「了解しました」
船内では人が慌ただしく動き回る。皆銃や大盾、警棒などをチェックしている。
「射撃準備完了!」
「正当防衛射撃を実施せよ‼」
斯波の鋭い声と共に、『いつくしま』の船首に搭載されたボフォース40mm単装機関砲が火を噴いた。
――ダダダダダダダッ‼
射撃指揮装置の計算の下で発射された機関砲弾は1発も外れることなく敵船に着弾した。
喫水線下に多数の砲弾を受けた戦列艦はあっさりと破壊音を立てて壊れてしまう。更に熱を持った砲弾に火薬が触れたのか、誘爆までしていた。
「1隻大破、もう1隻にも攻撃します」
淡々と告げる言葉のまま、冷却を終えた機関砲から再び砲弾が射出された。やはり砲弾は外れることはなく戦列艦に命中する。
普段から船の取り締まりについている彼らからすれば、もっと高速で動き回る某国の工作船のほうがはるかに面倒である。あの速度と攻撃方法では『的』としか言いようがない。
一方、『しきしま』の方でも攻撃を開始していた。
『しきしま』の船首及び後方に搭載されているエリコン社製35mm連装機関砲が敵巨鳥をロックオンすると、軽快な破裂音を響かせて砲弾が射出された。
――ドドドドドドッ‼
ハヤブサのような見た目をした制空型の巨鳥は時速210kmで飛行することが可能で、胴体下に取り付けてある大型弩弓と同じ発射方式の竹槍を放つことができる。しかし、なんの前触れもなく飛来した機関砲弾の前に為す術なく墜落した。
だが、有翼人の小さな体躯には掠る以上の命中がなければ撃墜できなかったこともあり、次々と船上に降りてきた。
「日本人だっ‼」
「殺せっ、軍の……同胞たちの仇だっ‼」
次々と有翼人がナイフを片手に突っ込んでくるが、警備隊のほうも相手が子供くらいの背丈しかないことを踏まえた訓練を行なっているため、慌てはしない。
警察組織及び海上保安庁では、アメリカ大陸に在住していた有翼人たちの協力を得て亜人類を捕縛する際の訓練も行なっていた。
この警備隊は新鋭の若手で構成されているため、こういった訓練もしっかりと受けている。
とはいえ、相手は小柄な体躯である都合からどうしてもナイフのような短剣が主な武器となる。
そのため、海賊として彼らと相対することを想定した海上保安庁では懐に飛び込まれた場合には大盾を使用していると小回りが利かなくなる恐れがあると判断し、重装備なまでの防刃装備に身を包んで彼らと相対していた。
警備隊配属2年目の西条は身長190cmの高身長にもかかわらず無駄なく素早い動きで有翼人の女海賊を取り押さえた。
「ちくしょう! 日本人め‼ 放せよッ‼」
「そうはいかない。こっちも仕事なんでな」
西条の木の枝かと思うほどの太い腕に押さえ込まれては、基本的に小柄で非力な有翼人にはどうすることもできない。
70人ほどが乗り込んできたが、どれもすぐに隊員たちによって制圧されていた。
ドスン、バタン、という音が響く度に、地に伏すのは有翼人ばかりである。暴れられると困るので、彼らの手足両方に手錠をはめて素早く拘束する。
確かに、数百人や数千人単位で襲い掛かってくるというのならば厄介な存在ではある。だが、単体ではそれほど手ごわい相手ではないというのも有翼人の特徴なのである。
また、敵海賊船を沈没させた2隻はすぐに救難警備艇や複合艇を出して海を漂う海賊たちを救助、捕縛していく。
他の海賊たちも圧倒的な力の差を感じたのか、抵抗らしい抵抗はすっかりなくなっていた。
「あとは島に残る敵勢力の制圧ですね」
斯波の冷静な一言に風間も頷く。
「いかがでしょう、船長。ここは一度彼らをアヌビシャス神王国へ引き渡し、態勢を整えるというのは?」
斯波は少し考える。元々温暖な気候で生活することを想定している蜥蜴人や有翼人はこの付近の環境に適応している種族である。
日本の保有する南米大陸でも彼らの存在は確認されており、全て温暖な土地に集中していた。
つまり、同様の環境が存在しないならば逃亡の可能性も低いため、後は講和したスペルニーノ・イタリシア連合の両王国に任せてしまってもいいのではないのか、ということである。
だが、斯波は1つ懸念があった。それは……両国の軍に内通者がいる可能性があること、であった。
いくら管理体制が前時代的で杜撰な部分があると考えられている両王国でも、残った貴重な軍艦をみすみす奪われるようなことにはならないだろうと考えられる。
つまり、軍の内部にいる何者かが手引きしたことで海賊団は武器と安定的な弾薬の補給があったのではないかと考えられる。
そんな危ない綱渡りをしてまでやらせたいこととは、日本に対する嫌がらせ、というのが妥当な筋だろう。
実際、旧世界のスペインが無敵艦隊を所有していた頃、イギリスは海賊のフランシス・ドレイクに爵位を与えて国家公認の海賊をさせてスペインの妨害をしていたという話すらあるのだ。
それを考えれば、直接攻め込んだスペルニーノ王国側で過激な思想を持つ者ならば、日本にせめてもの嫌がらせとして海賊を横行させることもやりかねないと斯波は踏む。
「いえ、敵に態勢を立て直させるほうがよろしくないと判断します。そこでですが、この『いつくしま』に収容した海賊を全て『しきしま』のほうへ移送します。『しきしま』には先にアヌビシャス神王国へと戻ってもらい、武装勢力を引き渡してもらいましょう。『いつくしま』1隻でも、残りの海賊は十分確保できると判断しました」
聞けば、島に巣食う海賊の人数は約600人ほどだという。随分と多くの脱走兵がいた物だと思ったが、その裏には何も攻撃を受けずに降伏する羽目になったイタリシア王国駐在の兵士の存在があったらしい。
敗戦の報告は届いていたはずだが、結局イタリシア王国に駐在していた者は日本の正確な実力を知らなかったため、無条件で降ることをよしとしない者も多かったのだという。
そこにスペルニーノ王国の何者かが支援を行なったのだろう。
そう考えれば辻褄が合う。
今有翼人や戦列艦に乗っていた者たちで収容できたのは約350人。一部が正当防衛射撃の際に死んでいたとしても、まだ200人近い人数が島には残っていることになる。
その者たちがスペルニーノ王国の内通者から再び支援を受けるようになれば、いたちごっこだ。いや、いたちごっことまではいかないかもしれないが、全員を捕縛するのに大きく時間を要する。
時間がかかればかかるほど、アヌビシャス神王国と国交を結ぶ際に不利にならざるを得ないのは間違いない。
「できることならば迅速に、全ての敵を片付けたいと考えます。そのためには、今所有している能力でできることをするべきです」
風間は考えるが、あまりにも抵抗してくるようならば射殺もやむを得ないという措置にすれば大丈夫だろうと判断する。
「分かりました。直ちに警備隊の上陸を行いましょう」
とはいえ、所詮海賊が停泊する程度の島なので大型巡視船は横付けできない。
なので、複合艇、救難艇、更にヘリコプターまで動員して警備隊を上陸させることになった。
○警備隊総数 100人
これで200人前後はいるであろう敵を相手しなければならない。しかも、今度はその多くが肉体的に優れた蜥蜴人である。
油断すればひとたまりもないだろう。
なので、斯波は一計を案じた。
「諸君、警備隊長の千葉だ。これより我々はこの島に巣食う海賊を確保する。相手はこちらの2倍、そして肉体的にも優れた種族だ。ゆめゆめ油断しないように」
「「「了解!」」」
千葉は副隊長の稲田を傍に置き、ゆっくりと敵の本拠地へ進み始める。
「確か、あの洞窟の中だったな」
「よくあんなところで過ごせますね」
「人間、覚悟さえ決めてしまえばどうとでもなる、とは誰の言葉だったか忘れたけど……彼らはもう失う物はない。だからこそ死に物狂いで襲い掛かってくるだろうな」
千葉の言う通り、彼らは軍人の頃から一度失敗すれば後がない人生に身を落としている。しかも、軍人は自分の国民を守る責任があるが、海賊に身を落とした彼らにはそれがない。それだけに、捨て身で襲い掛かってくることが予想されたのだ。
「さて、と。鬼が出るか蛇が出るか」
「それ、連中の船と相対した時に風間副船長も言ったらしいですよ」
「マジ? やだなぁ、セリフ被りなんて……」
先程までのキリッとした態度はどこへやら、一気に砕けた態度で話し出す2人に隊員一同も呆れを隠さない。
だが、千葉が一瞬にして表情を引き締めたのを見て隊員たちも気を引き締める。
奥から、がっしりした肉体を持つ蜥蜴人が顔を出していた。手にはカトラスやバトルアックス、更にはマスケット銃らしき物を持った輩までいる。
「うわぁ、完全に武器の横流しがされてる」
「斧や剣はともかく、銃があるなら間違いないでしょうね」
千葉は隊員たちの歩みを止めさせると、大きな声を張り上げる。
「我々は日本国海上保安庁である! この洞窟は完全に包囲した! 速やかに投降せよ‼」
セリフだけならば十分なのだが、その表情はどこか締まらない。『一度こういうセリフを言ってみたかった』という千葉の思いが溢れていたからだ。
だが、敵も諦めない。
「馬鹿め。日本の兵が優れているとは聞いているが、高々100人程度で乗り込んできたこと、後悔させてやるぞ!」
首領らしき大柄な蜥蜴人が高らかに警備隊を罵る。
首領の言葉に応じてマスケット銃を持った者が発砲しようとしたが、控えていた隊員の89式自動小銃により素早く撃ち殺されてしまった。
「総員、入り口まで後退!」
千葉の指示を受けた隊員たちは素早く入口へ走る。苔むした洞窟ではあるが、海に関する訓練を一通り積んでいる海上保安庁の警備隊員にとっては平地とそれほど大差はない。
当然、逃がすかと言わんばかりに海賊は追撃してきた。
中には斧を投げつけてくる者もいて、中々に危なかったが、暗闇ということと狭かったことも幸いして当たりはしなかった。
そして、すぐに洞窟の外へと警備隊は飛び出した。そして警備隊は一気に左右へ散開する。
その直後だった。
――ガガガガン! ガガガン!
蜥蜴人の足元を何かが弾けるように命中、大きな火花が散った。
「な、なんだ!?」
首領の蜥蜴人が驚きながら急停止する。彼の視線の先には、自分たちの軍艦よりもはるかに大きな船の姿があった。
そう、彼らが根城としている洞窟は海岸線沿いにあったのだが、その場所は砂浜ではなく岩場で、沖合100mもいかずに水深30mを遥かに超える海だったこともあって、巡視船『いつくしま』は沖合わずか700mの場所に停泊することができたのだ。
今のは、その『いつくしま』の機関砲による銃撃であった。
艦砲射撃というほどではないが、それでも『いつくしま』の装備しているボフォース40mm単装機関砲は各国のフリゲート艦なども採用している高性能にして高威力の機関砲だ。
装甲車はもちろん、戦車でも上部装甲なら貫通してしまうほどの威力を目の当たりにして、海賊団はすっかり縮み上がった。
そう、斯波の立てた作戦とは、警備隊に海賊団を洞窟の入り口付近まで誘導してもらい、そこへ機関砲弾を撃ち込んで戦意喪失させようという『釣り野伏』のような戦法だったのだ。
海に浮かぶ『いつくしま』から、拡声器による声が響く。
『こちらは日本国海上保安庁である。武器を捨てて投降せよ。さもなくば実力を行使する。これは最後の警告である。繰り返す、武器を捨てて投降せよ』
更に、機関砲の射線から外れるように配置した警備隊員たちも銃や盾を構えて取り囲む。
いくら後がないから死ぬつもりでいても、あまりに圧倒的な力を見せつけられてはその気持ちすら萎えてしまう。
海賊団はあっさりと武器を捨てたのだった。
「クリア、武装勢力を確保する」
千葉は90人の隊員に確保を命じ、残りの10人を連れて洞窟の奥へ向かった。
海賊と言うからには、アジトに略奪した物をため込んでいると考えた千葉は奥へゆっくりと進む。
「さて、と。どんな金銀財宝が出てくるやら」
「あんまり俗物的なことを言うと後で叩かれますよ」
千葉の軽口に稲田が返す。これもいつものことである。
だが、だんだんとすえたような臭いがするにつれて彼らの表情が引き締まっていく。
「……ある意味もっとえげつねぇな」
頑丈そうな木製の格子の奥には、狼人族、エルフ族、ダークエルフ族の女性や子供が多く収容されていた。
「奴隷目的、ですかね?」
「恐らくそうだろう。ケルウス殿下から聞いた話じゃ、東欧付近にあるニュートリーヌ皇国や中国あたりにある蟻皇国では他国からの奴隷が売買されているっていうしな」
しかも女性や子供ばかりという点を考えると、労働よりは愛玩、性的な意味での奴隷がメインなのであろう。
「ったく、俺たち日本人の感覚からするとイカれてるとしか思えないぜ」
「仕方ないでしょう。彼らと私たちの文明水準は200年ほど離れているって言いますし」
「数百年なんて宇宙から見りゃ誤差の範疇だぞ?」
こんな軽口を叩きながらも、隊員の1人が警棒の柄部分で錠を打ち壊す。
「もう大丈夫ですよ。皆さんを助けに来ました」
隊員の言葉に掴まっていた人はワッと泣き出す者、抱き合って喜ぶ者など、かなり表情豊かになっていた。
こうしてアジトに潜んでいた海賊200名を確保、『いつくしま』に収容すると共に捕まっていた人たちも含めてアヌビシャス神王国へ連れてゆくことになった。
翌日、王国側は自分たちが手も足も出なかった海賊をあっさり片付け、更に死んだと思われていた奴隷たちまでも救出した海上保安庁の手際の良さに唖然とするのであった。
この光景を見たアヌビシャス神王国の重臣たちは日本の実力を把握し、日本との国交開設に前向きになるのであった。
また居並ぶ重臣たちに対して、ケルウスが持ち帰った日本の様々な文物を手に日本という国を説明したこともあり、日本が平和主義かつ友好的な国であること、しかし超技術を持った存在であることもアヌビシャス神王国の政治・軍事関係者に刻み込まれたのであった。
しかも、ケルウスが航空祭の時に買い込んだプラモデルや模型なども幸いし、非常にわかりやすい説明になったことも大きく作用した。
また、まだ国交を結んでいないにもかかわらず海上保安庁を退職してアヌビシャス神王国へ移住することを決意した黒川美月のことも大きく取り上げられ、両国の国民から『勇気ある決断』、『愛は国境も、世界も超える』として有名になったのであった。
彼女の温和な性格と、それでていて医療従事者として培われた強い精神力もあって、彼女は王国で精力的に活動を始めた。
内容は、現代的な基本的医療知識の普及である。
日本では一般的と思われるような基本的医療知識すら持ち合わせていない文明であったため、これらは現地住民からすれば目から鱗ものの感覚であった。
日本政府も正式に彼女を『アヌビシャス神王国友好特使兼基本的医療知識従事者』として認定し、美月の神王国滞在を支援した。
それから1か月後、アヌビシャス神王国第二王子ケルウスが美月との婚約を発表した。
日本では最初『王族が一般市民と婚姻を結んで問題はないのか』と問い合わせが多かったが、在アヌビシャス大使となった服部を通じて王国側からは『全く問題ない』という回答がすぐに返ってきたため、日本はこれを『転移後初の国際結婚』として大々的に報道、美月は一躍時の人となったのであった。
ケルウスは結婚を機に宰相への就任が決定する。その代わり、王族としての権利は完全に放棄する形となった。
日本を見て先進的な思想や技術に触れ、交流の重要性を確認した王国は、次期国王となる第一王子の補佐を務めてもらうという意味でケルウスを宰相に据えることにしたのだという。
ちなみに結婚式はあえて日本で執り行われたのだが、アヌビシャス神王国側が『ぜひ日本の流儀で婚姻を執り行いたい』と申し出たこともあって神前式となった。
ダークエルフのイケメン青年が和服に身を包み、神前で愛を誓い合う姿はこれまた話題となった。
これにより、日本ではしばらく神前結婚がブームとなるのである。
なんとかポケモンでアップリューが捕まりました……今はキョダイマックスする特別なポケモンを探してワイルドエリアを歩く日々です。
美月のことを説明する場面が欲しいと言われていましたが、すぐには書き直せませんでした……もしかしたら、いずれ閑話という形で出すかもしれません。
ちなみに、次回は20日前後に投稿できればと思います。