ダークエルフの国、アヌビシャス神王国へ
今月2話目の投稿となります。遅れて申し訳ありません……。
ポケモン剣盾、買いました!もう発売から一週間が経過していますが、カジッチュが出てこない……
それはそうとワイルドエリアを堪能しています。
――西暦2024年 11月16日 日本国東方沖合800km 海上保安庁巡視船『いつくしま』
何もない海の上を、白く巨大な船が2隻進む。
日本国の沿岸警備隊である海上保安庁の巡視船『いつくしま』は、船長斯波竜興の指示の下で順調に航海を進めていた。
巡視船『いつくしま』
概要・日本が転移後、『しきしま』、『あきつしま』など同様に2万海里を超える航続距離を持ち、海賊の規模が旧世界に比べて大きくなっていることで、多くの人間を収容できる巡視船が必要であるという結論に達したために建造されることが決まった巡視船。
何が違うのかといえば、20mm多銃身機関砲がこれまでのJM61 Mk.2に加えて、護衛艦に搭載されている規格の20mm多銃身機関砲(CIWS)を搭載するようになったことである。
ディーゼルエンジンも研究を重ねた結果、更に高出力かつ低燃費のエンジンを開発することに成功したため、速力も28ノットにまで上がっている。
また、ヘリコプターを2機搭載から1機搭載に減らしたことで収容人数が大幅に向上している。
対空レーダーもOPS―14を更にグレードアップさせたものを搭載しているため、警察組織であるために誘導弾こそ搭載していないものの、その対空、対艦能力は海上保安庁の保有する艦船としては最高クラスの能力に至ったことで、『しきしま』や『あきつしま』を超えた、最強の巡視船となった。
名前の元となったのは、言わずと知れた大日本帝国海軍時代の軍艦『厳島』である。
同型艦として『まつしま』、『はしだて』を予定している。
兵装 ボフォース40mm単装機関砲 2門
20mm多銃身機関砲(CIWS) 2門
20mm多銃身機関砲(JM61 Mk.2) 2門
全長175m
最大幅17m
ヘリコプター1機搭載可能
自分達の航海の様子を眺めながら、船長の斯波は愚痴る。
「全く、新造船の遠洋航海練習も兼ねるために若手の職員を中心に派遣するとは、国交省のお偉方も悪者ばかりだな」
「そう言わないほうがいいでしょう。相手国の水準や付近の能力を考えればこれでもオーバーキルと言っていいほどの戦力です」
副船長の風間は勤続20年を超えるベテランであり、若手にきちんと指示を通達できる者が必要だという『お目付け役』というべき存在であった。
実際、船長の斯波竜興からしてまだ29歳という、有り得ないほどのスピード出世なのだ。
「まぁその通りですね。航海長、海の様子は?」
「いやぁ、相変わらず大人しいモンですよぉ」
航海長の切原は少々軽めの口調で返す。
「そうか。だが油断するなよ。何が起きても不思議じゃない。それが『異世界』なんだからな」
「了解」
ケルウスから聞いた話によれば、現在アヌビシャス神王国付近の海では蜥蜴人の海賊が横行しているらしい。有翼人もいるという噂がある。
そのため、上空から乗り込まれる可能性もあるのだ。
だからこそ『しきしま』と同じく対空レーダーを搭載し、更に対人能力の高い警察組織である警備隊を乗せた新鋭巡視船が練習を兼ねて航海に就くことになったのだ。
ちなみに、さすがに1隻では心もとないため、支援ということで『しきしま』も同行している。
「まぁ、『しきしま』もいることを考えればそれほど難しい航海にはならないとは思いますけどね」
斯波は嘆息すると再び海の彼方を見据えるのだった。
彼らの航海はまだ続く。
一方で、ケルウスは美月に本国の話をしていた。
「まぁ、じゃあ南方はほとんど開発されていないのですか?」
「あぁ。環境が安定しないこともあって住みづらいんだが、それ以上に獣人たちが反抗的でな。あまり王国に従おうとしない。もちろん、無理やり従わせるようなことはしたくないからなんとか穏便に済まそうとするんだが……結果としてほとんど野放し状態なのだ」
ケルウスたちの住むアフリカ大陸(彼らはラー大陸と呼んでいた)の南部は完全に旧世界のサバンナのようになっており、動物や、それと心を通わせている獣人たちの楽園となっているのだ。
彼らはアメリカ大陸に住んでいた獣人たちと違い、ほぼ動物同然の本能のみで生きていた。そのため、宗教だとか政治だとかはまるで理解できないのである。
「まぁ、あまりに危なすぎて列強最強と言われるイエティスク帝国ですらこの地に来たがらないのが救いといえば救いだな」
「あらあら」
美月はクスクスと笑う。
「ところで美月殿……その、本当に……」
「今更ですよケルウスさん。私は静岡の農家出身で、就職してからは辺鄙な島暮らしでした。多少のことでは動じない自信があるんです」
彼女が『ふんす』という擬音がしそうなポーズをとると、その豊かな胸部装甲は彼女の台詞に反して『たゆん』と音を立てそうなほど揺れた。
「(や、やはり大きい……)」
ダークエルフ族はフランシェスカ共和国のエルフ族に比べて豊満な肉付きになりやすいのだが、美月のそれは『巨』を通り越しているように思えた。
「どうしました?」
「い、いや。この数日後には我が国の王都に近づくのだろうが、海賊が心配でな」
「あぁ。そういえば服部さんも仰ってましたね。スペルニーノ・イタリシア連合の敗残兵が中心になっているんでしたっけ」
時間で言えばたった3ヶ月ほど前のことなのだが、宣戦布告と言っていい挑発を受けた日本人からすればずいぶん昔のことのように感じた。
「確か、非装甲戦列艦っていう船が1,2隻で王国を荒らしているとか……」
「そうなのだ。接舷し乗り込めればある程度はどうにかなるのだが……如何せん射程ギリギリで大砲をバンバン撃ってくるんだ。どこからか材料まで入手しているらしく、砲弾や火薬が尽きない」
海賊という存在であることを考えれば、どこからか奪ってきているのだろう。
「大丈夫ですよ。海上保安庁はその『海賊』を逮捕するための組織ですから」
実際、戦列艦の大砲と同程度の火力を持つ相手(ある意味それより危なかったが)を相手取ったこともある海上保安庁からすれば、たかが木造の戦列艦如きは恐れるに足らない。
「そ、そうなのか……」
「はい。皆さんが頑張ってくれます」
美月とて海上保安官として研修を受けた際に2001年の工作船事件のことは学んでいる。
その時はロケット砲まで持ち込んできた某国の船があった。
それに比べれば、大きく遅い戦列艦は的のようなモノである。特に、今回派遣されている『いつくしま』と『しきしま』からすれば、敵の能力は恐れるほどのものではない。
実戦経験というだけならば、海上保安庁は海上自衛隊よりも上と言っても過言ではない組織である。相手が肉体的に優れている種族とはいっても、いざ捕縛しようとなればこちらのほうがはるかに有利なことも分かっている。
「それならば安心、か……?」
予定では、あと3日もあれば王国西部海岸付近の海域に到着する予定である。
アヌビシャス神王国の首都は旧世界でいう所のアルジェリア首都・アルジェと同様の場所にあるとのことで、接触を図るためにもそちらへ向かう手筈になっていた。
全ては転移当日から6年間をかけて、政府主導で多くの衛星を打ち上げていたおかげである。
どうやら海底の地形図も旧世界の地球とほぼ同じようであり、そういう意味では航路に大きく変更を強いる必要がないというだけでも、日本の船乗りたちはホッとしていた。
「それにしても速い。グランドラゴ王国の最新鋭戦艦が確か18ノットくらいのはずだから、これはそれを大きく上回っている」
「確か、この『いつくしま』は最大速度28ノットで、巡航ということなら22ノットまで出せるって聞いています」
美月が顎に指をあてながら思い出す。日本の『しきしま』型やそれに準ずる大きさの巡視船は基本的に25ノット前後が最高速度と言われているが、この『いつくしま』は前述の通り、より低燃費かつ高出力のディーゼル機関の開発に成功しているため、このサイズの巡視船としてはかなり高速の28ノットまで出せるのだ。
『護衛艦と同じガスタービンを使えば楽なのでは?』という意見もあるようだが、一応海上保安庁は『警察組織』であって『準軍事組織』ではないという日本独自の考え方もあるというので、その辺りの諸事情が関連していると思われる。
そう言っている間にも、船はこの世界の艦船としてはかなりの高速で海の上を矢の如く進んでいくのであった。
――西暦1738年 11月20日 アヌビシャス神王国 神都カイジェ
その日、神都カイジェは大騒ぎとなっていた。
軍が哨戒を行なっていたところ、真っ白な超巨大船が現れたのだという。その船の大きさはスペルニーノ・イタリシア連合の戦列艦はもちろん、長さだけで言えばグランドラゴ王国の戦艦よりも上であったことから、民衆の間では『すわ戦争か』、『イエティスク帝国の奇襲か?』と憶測が飛び交っていた。
臨検しようとした軍人は、中に自国の要人であるケルウスが乗船していたことを知ると目を丸くする。
ケルウスは『神城エジパストへ赴く。飛行許可を出してほしい』と伝えさせた。『飛行許可』がなんのことであるか末端の兵士はもちろん、軍船の船長も分からなかった。だが、必要なことなのだろうと判断して基地から打電させた。
それから1時間後には返答が来て、『神城までの飛行を許可する』という回答があった。
普通に上陸してもよかったのだが、神都カイジェがあまりに広く、城までの距離がなんと20km以上あったということ、海上保安庁の船舶なので当然車両の類は持ってきていなかったこともあってヘリコプターによる飛行の許可を願い出たのだ。
余談だが、アヌビシャス神王国は軍事力がそれほど発達しているわけでもないが生活関連の技術はそれなりに発達している。
例えば、かつてミイラを作っていた際に作れることが判明したアスファルトを活かし、それを家屋や道路の舗装に使う、更に原始的ながら電池を作ることができるため、それを運用することで『モールス信号』の電力を賄う、更に金属線を利用した電灯を作り出すなど、総合的にはフランシェスカ共和国より遥かに発展している。
「へぇ、なんだか不思議な光景ですね」
「これこそが我が神都カイジェだ。美月殿がどういう街並みを想像していたのだかは分からないが……驚いてもらえたならば私も嬉しい」
街並みもかなり独特であり、一見すると古代エジプトに近い建築様式である石製の建造物に、有線ながら街外れの大きな施設に接続された電灯らしき物体、そして道を覆うアスファルトなど、古代エジプトに近い様式を想像していた日本人からすると、微妙に発展しつつもそうでもないところと混ざりあっているせいか、ちぐはぐ感が拭えないという印象であった。
許可をもらったという海軍の軍人の報告を受けて、ヘリコプターにケルウスと側付きの者5名、外交官である服部と、『挨拶』のために付いてきた美月、そして護衛として海上保安官が1名付いていくことになった。
ケルウスもすっかり日本の乗り物には慣れていたが、ヘリコプターは初めてである。
今までの飛行機械とはどのような違いがあるのか、今からワクワクしているのであった。
ヘリコプターがエンジンを始動させ、轟音と轟風をまき散らしながら上空へと飛びあがる。
海軍の軍人はポカンとしながらその様子を眺めていた。
ケルウス曰く、神城のすぐ側に演習場として使用している広大な広場があるということなので、そちらへ着陸することになっていた。
ヘリコプターの『くまたか1号』を操るパイロットの三条将也は地上の広場と、そこに引かれた簡易的な模様を見る。
あらかじめ連絡して、着陸場所に『H』の文字を描いてもらっていたのだ。
『こちらくまたか1号より〈いつくしま〉へ。間もなく予定地点へ到着する』
『こちら〈いつくしま〉通信長、了解。注意されたし』
『了解』
隣に座る井之頭副操縦士もその城の外観を見て唸る。
「中東系の城に見えますね」
「そっち方面の影響を受けているのかもな」
着陸したヘリコプターの中からケルウスと従者5名が降りる。
その視線の先には、髭を生やした中年のダークエルフが立っていた。
「ケルウス!」
「父上!」
中年のダークエルフは駆け寄ると、息子をがっしりと抱きしめた。
「まさか無事だとは……よかった、本当に良かった……」
「父上、私も、生きてお目見えが叶うとは思いませんでした……」
しばらくの間抱き合っていた親子であったが、やがてすぐに居住まいを正す。
「外交の使者殿の前で情けない姿を見せたな。私はアヌビシャス神王国国王、パンテーラという。この度は愚息が大変世話になったようですな」
「滅相もございません。漂流されたご子息には悪い言い方かもしれませんが、おかげで我が国は友好を結ぶ新たな『友』を得られると喜んでおります」
「うむ。このような所で立ち話もなんだ。さぁ、我が王宮へ来てくだされ」
パンテーラは日本の使節団と護衛の海上保安官を案内する。
服部は案内を受けて城の中へ入っていく。
アヌビシャス神王国はいわゆるエジプトやリビアなどのアフリカ大陸北方全てを支配域に持つ(南部はあまりに文明を理解できない獣人や野獣が跋扈していて文明を築くことができていない)広範囲支配の、この世界でも有数の大国家である。
旧世界でいう所のエジプトやモロッコなど、砂漠地帯も多いが、普通に生活できるような場所もある。
この神都カイジェもまた、その1つであった。
自然豊かというほどではないが、荒れ地というほどでもない。
恐らく北方のフランシェスカ共和国やスペルニーノ・イタリシア連合王国などと交易することが多かったためにこの地に首都を置いたのだろうと思われる。
城の中へ入ると、増々中東のようである。
てっきりピラミッドのような建造物が城の役目を果たしていたりするのだろうかと思っていたが、そんなことはなかったようだ。
改めてパンテーラは玉座に座る。この王の椅子も、日本人が思う『王様』の椅子とは違い、同じ視線に立つようにされていた。
「では改めて。私はアヌビシャス神王国第14代国王、パンテーラという。この度は、息子を含めた我が同胞たちが大変世話になったようだ。改めて礼を言わせてもらいたい」
「いえいえ。漂流者であれば救助するのが道理というものです」
服部の控えめな意見に、パンテーラは満足そうに笑った。
とはいえ、これには一部異論のある国民もいるだろう。
例によって北方から木造船で漂流してくる『北』の民衆による様々な苦い話は記憶に新しい方もいると思われる。
「なるほど、グランドラゴ王国やフランシェスカ共和国からは礼節を弁えた物腰の低い民族と聞いていたが……どうやら本当らしいな。圧倒的に優位であるにもかかわらず驕らないその姿勢は、とても好感が持てる」
パンテーラは外交ルートの付き合いから、グランドラゴ王国及びフランシェスカ共和国から日本国のことを聞いていたため、近いうちにグランドラゴ王国に依頼して外交の仲介を頼むつもりであった。
王国曰く、『我が国が100年近くかかっても追いつけないであろう軍事能力を有する』、共和国曰く、『だがイエティスク帝国のように自然を蔑ろにしない』など、両国に駐在している大使からも同じような情報が得られていたからだ。
そんな中、自分の息子が漂流していたところを日本に助けられたという話をグランドラゴ王国のドラゴニュート19世を通じて聞いた。
最初は飛び上がらんばかりに驚いた。嵐に巻き込まれ、船団の位置すらわからなくなった時点で、彼はケルウスのことを諦めていた。
ケルウスは第二王子としてとても優秀であった。混乱を防ぐためにと自ら王位継承権を放棄していたが、内政や軍事、様々な面で直すべき部分、これまでの慣習ばかりではダメな部分を指摘してみせたのだ。
そんな彼が、自分たちの概念を遥かに超える国家によって助けられ、保護された。
なんという天運だろうか。
これにより、アヌビシャス神王国は日本国とコンタクトをとる『大義名分』ができたのだから。
そして今、ケルウスと再び相まみえた。
後ろでは従者たちが泣いている。
「そういえば、生き残ったのはこれだけなのか?」
服部が慌てて答える。保護したのに殺されたとでも勘違いされたら面倒になることは目に見えているからだ。
「いえ、残りの方はまだ処置が必要な状態を脱していないため、日本国で治療を続けています。もちろん、回復し次第こちらへ送らせていただきます」
「そうだったのか。いや、何から何まで世話になってしまったな」
「父上、日本の技術はすさまじいです。死にそうになっていた我ら30人ほどを、全て救ってくれたのです!」
ここから日本国までの距離は知らないが、少なくとも西にあると言われている大陸並みに離れているに違いないという直感があった。だとすれば、彼らは生きていたことが奇跡である。
そんな状態で漂流していた彼らを助けられたという時点で、日本の医療技術がとても発達していることが窺える。
「(両国はこうも言っていた。『日本には絶対に敵対行動はとってはならない』とも)」
このアヌビシャス神王国のある南方大陸は非常に過酷な環境であることもあって、覇権主義を掲げ、いずれは世界全土を手中に収めようとしているイエティスク帝国すら手を出そうとしないことからも攻められる要素の少ない国であった。
だが、だからと言って彼らは自分たちが強いなどと己惚れるつもりはなかった。全ては神の与えたもうたこの土地のお陰なのであると。
そして神は、与えた後は何もせずに見守るだけの存在であることも彼らはよく知っていた。
故に、彼らの教義にはこうある。
『たとえ追い詰められ、八方塞がりとなったとしても、最後の最後まで諦めてはならない。神は見守るのみで、何もしてはくれない。我らは自分の足で立って歩かねばならないのだ』
これこそが神王国に代々伝わる『戒めの教え』であった。
歴代国王はこれを忠実に守り、技術の発達や国力の増強などもきちんと視野に入れて開発を行なってきた。
その結果、南半分はともかく北の半分はしっかりと支配の基盤を築くことが叶い、その地点で食糧の増産と技術の開発を進めようとしていたのだ。
つい最近は、原始的ながら火薬の調合と扱い方をグランドラゴ王国からある程度教えてもらったため、『機雷』と呼ばれる海の爆弾を開発したばかりである。
これには覇権主義を掲げるスペルニーノ・イタリシア連合王国も音を上げた。
何故なら、有翼人でも機雷を見つけることは難しく、船で無理に通ろうとすれば船底に大穴が開く。蜥蜴人は水中での動きを得意とするが、それでも船からあまり離れると海流の関係から流されてしまうので、蜥蜴人による解除も難しかった。
もっとも、製鉄技術は教えてもらっていないのでそれを大砲や火縄銃などに応用することができないのが残念なところであったが。
そんな自国のこれまでに思いを馳せていると、服部がスーツケースを前へ差し出した。
「ご子息は我が国で多くの買い物をされましたが、それとはまた別で、我が国から陛下へささやかながら贈り物をさせていただきます」
服部がスーツケースを開くと、中にはパンテーラの想像を超える様々な物が存在した。
まずは食器類。一見質素に思えるが、なんとも上品な花の絵が描かれている。そして刀剣。こちらは薄刃でとても美しかった。
南方大陸は基本的にかなり暑い。そのため、プレートアーマーの類は発達しなかったこともあって、ダークエルフたちは薄刃の曲刀をよく使っていた。これは、同じエルフ族のくくりにある白い肌のエルフ族もなぜか同様である。
環境が違うのに、なぜか同じ武器を使うようになったのは妙なところであった。
よって、どうしても薄刃のサーベルを用いていたのだが、この日本刀はそのサーベルを遥かに上回る鋭さであった。
そしてその後は日本側による日本国についての説明が始まった。時折ケルウスが見たことがないであろう父親たちにも理解ができるように噛み砕いて説明する。
重臣たちが唖然とする中、服部はプロジェクターなども含めた紹介を終えた。
当初軍事技術は公開する予定がなかったのだが、『ケルウスに見せたしいいだろう』と言われ、今年の8月に行われた富士総合火力演習の様子が映像として流された。
彼らは更に唖然とする。
地をかける戦車。空から猛烈な攻撃を叩きこむ攻撃ヘリコプター、歩兵たちの持つ圧倒的な能力を持つ銃器類。
見れば見るほど、その性能の高さに圧倒されるばかりであった。
「(なるほど、これならばスペルニーノ・イタリシア連合王国軍が敗れるのも道理というものだ)」
彼は既に内心で日本と国交を樹立、その技術をなんとしてでも吸収すると固く決めていた。
いや、彼だけではない。
この場に座る多くのダークエルフたちが、この映像を見て息をのんでいた。
もし、この力が自国に降りかかってきたら……そう考えるだけでもゾッとする。
「服部殿、大変分かりやすい説明だった。感謝する。ただ、こちらも即日返答というわけにはいかない。そこでだ、一つ頼みたいことがあるのだが……」
「我が国にもできることとできないことがございます。それでよろしければお伺いしますが?」
「うむ。我が国の北方にある島に、スペルニーノ・イタリシア連合の敗残兵からなる海賊が居座っている。奴らは北への交易船をよく襲撃してくるので、なんとか退治したいと思っていた。どうであろうか? 『国際貢献』という形で、海賊をなんとか退治してはもらえないだろうか?」
服部もケルウスから海賊が暴れて困っていると聞いていたので、理解はしていた。だが、それに日本が介入できるかどうかはまた別問題である。
「わかりました。直ちに本国へ連絡を取り、政府の回答を仰ぎます」
「うむ。その間はぜひゆっくりされよ。息子からも日本国の話をじっくりと聞きたいからな」
こうして、服部たちと海上保安庁はアヌビシャス神王国に滞在することとなった。
次回は海賊退治です。
12月の上旬には投稿しようと思います。