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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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ケルウスの日本漫遊記2

今月1話目の投稿となります。

首里城の消失、大変残念です。私自身は行ったことがありませんでしたが、再建されたのが1992年と、私の産まれた年と同じなのでニュースを見てびっくりしてしまいました。

――西暦2024年 10月6日 熊本県 熊本市

 呉で一泊した一行は、九州へ渡り熊本に来ていた。今日は、とある歴史的建造物を見てもらうためであった。

「ご覧ください、これが熊本県の誇る名城、熊本城です」

 だが、一行は目を疑った。あちこち補修されているような足場があるのだ。各部分もボロボロになっている。

「服部殿、この熊本城は……?」

「この熊本は今から少し前に、地震に遭いました。そして、この城は瓦や櫓の一部が崩壊するという事態に陥ったのです」

 熊本地震と呼ばれた大地震では、多数の死者や行方不明者を出した。自衛隊も災害派遣で出動し、連日様々な報道がされていた。

「ですが、熊本城のみならず、周囲も含めたこの区域一帯は、今ああして立て直そうとしています。我が国は何度苦境に立たされようとも、絶対に負けないという不屈の闘志でこれまで自然災害と戦ってまいりました」

 平成に入ってからというだけでも、地震、台風、大雨など、様々な場所や天候による自然災害の猛威に日本は晒されてきた。

 しかし、日本は民間や自衛隊を中心にして負けずに何度も立ち上がり、その度に様々な技術を発展させてきた。

 平成28年に大ヒットした怪獣映画において『スクラップ&ビルドで我が国は発展してきた』という発言があるが、実際にその通りである。

 日本は、自然の猛威を受けながらも決して負けない心を持っているのだ。

「なるほど、どのような状況に陥っても絶対に諦めず、前を向いて進む、か……どれほどの苦労を重ねてきたのか、まるで想像もつかないな」

 ケルウスは自然と日本式のお祈りである合掌をして、亡くなった者たちと今を生きる者たちへ祈りを捧げたのだった。

 その後は熊本市内や付近の復興について説明しつつ日本の土木建築技術というものを理解させるツアーとなった。

 余談だが、ケルウスは歓迎のために現れた熊本県のゆるキャラに驚きつつも気に入り、グッズをいくつか購入していったという。

 曰く、『我が国でもこういう物は流行るかもしれない!』とのこと。

 やはり、人間はどこかに変な感覚を持っているのかもしれない。



――10月6日 鹿児島県 鹿児島市

 今日はここで名物の黒豚に舌鼓を打ちつつ、温泉に入る予定となっていた。

 旅館での買い物を終えた後は昼食をとり、港湾部から桜島を眺めた。

「あの山……もしかして活火山なのか?」

「はい。今でも時折噴煙を上げることがあります」

「火山か……私たちの住む大陸の南部にも、火山があるという話は聞いたことがある。そういえば、日本は活火山の多い国だというが、噴火はよく起こるのか?」

 服部がスマートフォンでデータを調べながら答える。

「そうですね……それほど頻発しているわけではありませんが、この桜島や熊本県の阿蘇山はそれなりに噴火して噴石や噴煙をまき散らすことがあります。過去には静岡県の富士山や長野県の浅間山も大噴火を起こして、大きな被害をもたらしたことがあるんですよ」

 その他にも、日本各地はまるで血管のように火山帯が繋がっている。大陸プレートの構造も含めて、日本で地震が頻発する要因の1つとなっているのは有名な話である。

「なるほど……では日本では地震など日常茶飯事ということか」

「はい。この世界のグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国などでは地震はあまり発生しないとも聞いています。地震に出くわした人は恐怖で動けなくなることも多かったですね」

 ケルウスたちが住むアヌビシャス神王国のある旧世界でいう所のアフリカ大陸にも火山はあるが、地震はあまり発生しない。火山付近に生活する獣人系の部族から火山が激しく煙を上げる時は時折地震が起きるとは聞いたことがあったが、日本では火山の活動のみならず、地面の底にあるプレートの関係でよく地震が発生したのだという。

 転移してからは大陸プレートの関係性が変わったらしく、地震の頻度は少し減っていた。それでも国内では時折震度4以上の地震が発生することもあり、国民は未だに地震に対する恐怖を忘れていない。

「確か、日本では気象庁という組織が地震の発生をわずかな時間差だが予知することができるのだったな?」

「はい。我が国は古くより地震に悩まされてきました。それ故に地震に対する備えは様々な形で実現しています……と言っても、全てが完璧に、とは参りませんが」

「最初聞いた時はまるで理解できなかったが、それほどに地震が頻発するのであれば、建築技法もそれに伴って変更する必要がある。当然だな」

 ケルウスは技術や医療関係のみならず、建築や自然に対する向き合い方に関してももっとこの国から学ぶ必要があるのではないかと既に考え始めていた。

 彼の構想が現実となるのは、もう少し先の話となる。

「そういえば、ずっと気になっていたんですが……」

「なんだ?」

「殿下は第二王子なのですよね?国の重責に就かれていらっしゃるのだとばかり思っておりましたが……そうではないのですか?」

「あぁ、そのことか。実を言うとな、私は自ら王位の継承権を放棄したのだ」

「なぜそんなことを?」

「なぁに、王位継承権があったままではできないことが色々とあったということだ。例えば……軍務に関わることなどな」

 服部も従者たちからケルウスが海軍の観艦に訪れていた時に嵐にあって遭難したと聞いていた。

 確かに、軍に関わる者が王位継承権を持っているというのは色々と都合がよくないのかもしれない。

 日本でも歴史を振り返ればそういうことが何度もあったからだ。

 服部は納得し、桜島から立ち上る噴煙に視線を戻すのだった。



――10月7日 東京都 赤坂迎賓館

 鹿児島で一泊した一行は再び東京へと戻ってきていた。

 今日は特別な日であった。なんと、今日本と国交のあるグランドラゴ王国とフランシェスカ共和国の元首2名が訪日し、天皇陛下及び先代の上皇陛下に拝謁するのである。

 実は、今日の準備のためにケルウスたちにはしばらく東京を離れてもらっていたのだ。

 ケルウスはそれを聞いてまた驚いた。日本では象徴として存在する皇帝のような存在。しかも、その家系は判明しているだけでも1500年以上、神話なども含めれば2000年を遥かに超える歴史を誇るのだ。

 この世界でもっとも古くから存在している家系と言われているのは、グランドラゴ王国のドラゴニュート19世のドラゴニュート家が1100年ほどと言われている。

 ケルウスは赤坂の迎賓館で彼らと顔を合わせていた。ちなみに余談だが、この世界のエルフ族とダークエルフ族は別に仲が悪くはない。

「クリスティア首相。ドラゴニュート陛下、お久しぶりです」

 クリスティアは自分の弟と言っていいくらいの年齢であるダークエルフの青年のことをよく知っていた。

 儀礼などで訪れた際には何度か顔を合わせたこともある。

「ケルウス殿下、お久しぶりです」

「おぉ殿下。何やら以前に比べて逞しくなられたような気がいたしますなぁ」

 今年で57歳になるドラゴニュート19世もまた、息子のような年齢であるこの王子のことを好ましく思っていた。

「それにしてもアヌビシャスの海から日本まで流れ着くとは、殿下は相当な強運の持ち主のようですね」

「失礼な言い方をするようだが、王国の船舶でよく耐えられたものですよ」

「はい。私も全ては神の御導きと思い感謝しております。それにしても、日本の皇帝陛下……天皇陛下というお方は、どのような存在なのでしょうか。お会いするのが楽しみです」

 ケルウスの言葉にクリスティアも頷く。

「先代の上皇陛下も共にお会いしてくださると聞いています。2000年以上続く家系で、日本の象徴と言われるお方……いったいどのような方なのでしょう」

 迎えの車に乗った一行は、千代田区にある皇居へと赴く。

 皇居。かつては江戸幕府初代将軍である徳川家康が建造させた、日本でも有数の城郭であった。

「なんでしょうかね……あの場所、とても厳かな雰囲気が漂っています」

 エルフ族のクリスティアは何か感じるところがあったらしく、皇居を見て冷や汗を流していた。

 隣に座るケルウスも、向かい合って座るドラゴニュート19世も同様であった。

「確かに。あの雰囲気……この大都市の中でひときわ異彩を放っているな」

 車はスムーズに皇居の中へと入っていく。

 それからのことはあえて詳細には記さないが、まず結論を言うと両陛下との会談は滞りなく成功した。

 彼らと皇族との対談に関する感想を記すとこのような文言になる。

「穏やかな表情の中に強い意志を感じた。生半可ではない歴史を積み重ねてきた『何か』がある」

 とは、ケルウスの言。

「我がドラゴニュート家も相応に歴史を重ねてきた家であるが、あの存在は何か『格』が違うと感じさせられた。あのようなお方にお会いできたことを、私は誇りに思う」

 これはドラゴニュート19世の言。

「驕らず、威張らず、しかし卑屈でもない。ただただ偏に『温和』の言葉に付きます。日本国民は幸せです。あのような方々に見守っていただけているとは……」

 これはクリスティアの言であった。

 日本の皇室との会談は、その後3国における対日政策のかじ取りを更に親日的な方向へ変えることになるのだった。



――10月8日 東京都郊外 新世界生物研究所

 日本政府は転移に伴い、アメリカ大陸やグランドラゴ王国に生息する固有生物を研究するための施設が建設された。

 現在の研究対象は今のところ恐竜、ワイバーン、そしてイタリシア王国に生息する巨鳥がメインである。

 そして、日本はワイバーンや巨鳥を研究する中でとんでもない事実を発見していた。

 今日はその驚異の能力について、3国のVIP及び講和したスペルニーノ・イタリシア連合の関係者に聞いてもらおうと思ったのである。

 ちなみに、この場には各国の技術関係者や軍事関係者も来ている。

「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。私はこの研究所で解析主任を務めている藤林と申します」

 まだ20代半ばの美しい女性が、白衣に身を包みながら挨拶する。こんな若い女性が研究主任を務めているというのには訳があった。

 彼女はいわゆる『オタク』であった。そしてそのオタク的な存在であるこの世界を科学的に証明しようとしたらどうなるかと考えられる頭脳を持っていた。

 多くの解析を出してみせた結果、彼女は若齢ながら研究所の重鎮を任せられていたのだ。

 藤林のそれまでにはない概念と考え方のお陰で、日本は多くの事実を知ることができた。

「皆さんに本日お見せしたいのは、これです」

 藤林の後ろには大きなガラスがある。その向こう側では、何か小さい物を囲んで研究員たちが準備をしていた。

「藤林殿、彼らは何をしているのだ?」

 藤林は上質な紙でできた資料を一同に配布する。

「これから、『ワイバーン及び巨鳥の飛行原理の証明』に関する実験を行います」

 途端に招待客たちはざわつき始めた。

 彼らの疑問を、代表するかのようにドラゴニュート19世が手を挙げて聞いた。

「ワイバーンと巨鳥の飛行原理とはどういうことだ?」

「はい。ワイバーンと巨鳥に関しては、どのように飛行しているのか、全く不明であり、我が国が従来研究していた生物の飛行原理ではありえない話であったため、研究予算が組まれたのです」

 彼らからすれば『翼があるのだから飛べるのだろう』ぐらいに思っていたのだが、どうやら日本からすればそうではなかったらしいと気付く。

「ガラスの向こう側をご覧ください」

 ガラスの向こう側にある研究室では、小さなテーブルとその上に様々なコードが接続された石のような物が置かれていた。

「あれは、巨鳥の脊髄から採取された器官です。グランドラゴ王国の方の話によれば、王国のワイバーンにも同じ器官が存在するという情報があります」

 これにはグランドラゴ王国側が頷く。

「このような器官は私共がかつていた地球の生物には存在しませんでした。これが飛行に関してなんらかのアプローチを行なっているのではないかと推測し、様々に実験してみました。その結果……」

 藤林は手を挙げて奥へ合図した。

『了解、実験を始めます』

 研究員が近くにある機器を操作する。すると、モニターに何かが表示された。

「これは、送り込まれている電力の信号パターンです。皆さんに分かりやすく言えば、私たち生物は頭の中にある『脳』から電気信号を受け取ることで体を動かす、或いは呼吸などの生命維持活動を行なっています」

 これについては知識のあるグランドラゴ王国のみが頷いた。

「脊髄に埋め込まれていたからには、この石のような器官が何かしらの作用を及ぼすと考えられました。そして……」

 電気信号のパターンがある一定に達し、それを維持するようになると、なんとその石が浮かび上がったのだ。

「な、なんだ!?」

「ま、魔法か!?」

 ケルウスも、隣に座る美月も唖然としている。

「この物体は、一定の電気信号を流すことで周囲の重力及び引力に干渉し、反重力を発生させ、物体を浮遊させることができる物質であると判明しました」

 これまで日本が転移するという物語などの多くは、獣やワイバーンなどの竜と呼ばれる存在が『魔法』の力を借りて飛行できるという設定が多かった。

 接触した当初はこの世界のワイバーンもそうなのではないかと考えられていたのだが、藤林の着眼点によりそれは違うことが明らかになった。

 まだどういう原理で重力と引力に干渉しているのかはわからないが、これは画期的な発見であった。

「この原理を解明することができれば、どうなると思いますか?」

 それに真っ先に気付いたのは、科学立国として日本と共に航空機の研究を始めたグランドラゴ王国であった。

「航空機の離陸滑走距離を、短くできる。いや、燃費なども大幅に変えられるということなのか!?」

「そうです。重力に干渉することで機体そのものが軽くなるのであれば、当然それに伴って燃費もよくなります。また、飛行できる大きさでないにもかかわらず生物が飛行することも可能なのです」

 ワイバーンや巨鳥は翼を広げれば10mを遥かに超える巨大な生物であった。重量も明らかに100kgを超えている。そんな生物が飛翔、しかもワイバーンに至っては体力を消耗するとはいえ垂直離着陸が可能ということに日本政府及び技術者たちは疑問を抱いていた。

 その答えが、この器官だったのだ。

「我が国では既にこの物体に関して更なる研究を進めるように予算が付きました。いずれは戦闘機やヘリコプターのような飛行物体にこれを搭載することで、その離陸に必要なエネルギーの多くを相殺できると考えられているのです」

 その発言に、座っていた各国の人々は『おぉ』と驚きを隠せない。

「なるほど。輸送型の巨鳥が多くの物を運びながら長く飛行できるのは、より強く作用できる器官を持っているからなのかもしれませんね」

「はい。それも含めて今後も研究していきます。制空型、輸送型巨鳥、更にワイバーンでこれらの発達具合に変化があるかもしれません。ですので、今後とも皆様には協力をしていただきたいのです」

「具体的には?」

「サンプルの提供ですね。特に、グランドラゴ王国のワイバーンに関するサンプルは非常に少ないので、できればそれが欲しいのです」

 ドラゴニュート19世は考える。ワイバーンは王国を守る誇り高い存在だ。それを死後に辱めるようなことをしていいのだろうかと。

 だが、彼も発想を変えた。

 死んだワイバーンを研究することで、様々なことが分かるかもしれない。そうすれば、未来を生きる彼らにとってもよいことに繋がるのではないか、と。

「分かった。こちらは会議にかけてみよう」

「我がイタリシア王国でも、巨鳥の検体を提供させていただきます」

 イタリシア王国からすれば日本は自分たちを敗北させた戦勝国である。彼らが要求するのであればすぐに検体を用意するつもりであった、

 これ以後、巨大飛行生物を保有する国からは検体の提供と共に、そのデータをできる限り提示してほしいという提案(実質グランドラゴ王国のみだが)もされた。

 日本としても交流を持っている国の発展は望ましいところなので、徐々に開示していく予定となっている。

「なんということだ……日本は我々の調べがつかなかったことまでも調べようとしている。だがそれは、神の領域に触れないのだろうか……?」

 気になったケルウスは藤林に質問する。

「そうですね。我が国でも、様々なことが倫理上正しいのかと議論されます。はっきり申し上げて、それはかなり手探りです。なので、やってみた感触で感じるしかありません」

 つまり、その人々の感性や感覚に理性が求められるということだ。

「(国民性を引き締めないといけない、か。危うい話だな)」

 だが、人の手が届く事象ならばそれは『神の領域』には程遠いというのも日本や一部の人々は思っていることであろう。

 それもまた間違いではない。だからこそ、人々の感性に委ねなければならないのだ。

 とはいえ、今回の事はそれほど問題視されることなく研究が進められる。

 そして政府及び研究所では、この物質を『重力干渉器官』と名付けていた。



――10月10日 東京都 霞ヶ関 外務省

 ケルウスはこの日、従者達を連れて外務省の服部と会談を行なっていた。内容は、彼の帰国についてであった。

「では、やはり美月さんを連れていきたいと?」

 そう。海上保安庁の職員であり、ケルウスが思いを寄せた黒川美月の件についての『交渉』であった。

「その通りだ。もちろん、日本と違い我が国は大陸を有しているだけで遥かに劣っていることは自覚している。だが、それでも彼女を連れていきたいと思っているのだ」

 ケルウスははっきりと美月のことを『女性として好意を持っている』と宣言した。これに対し、美月のほうからも『彼のことを男性として意識している』という意思を確認している。

 出会いが衝撃的かつ吊り橋効果もあったのかもしれないが、2人は間違いなく惹かれあっていた。

 彼らの旅にずっと同行していた服部もそれは百も承知である。聞けば、美月は海上保安庁を辞めるかどうかを既に上司に相談しているという話も聞いていた。

 実を言えば、服部及び政府の意向としては賛成という意見が強い。旧態然としているとはいえ、一国の王族と日本人が繋がりを持つことは外交的にも大きな利点となる。

 相手の制度などの前時代的なことも考えると、こういう点から相手国の中心存在を切り崩す材料にもなる。

「彼女ともし生活されるということであれば、日本からも『多大なる』支援をさせていただきます。ただ、あとはやはり黒川さんの意思ですね。彼女がこの日本を離れて、遠い国までお嫁に行きたいかどうか……それだけが問題ですね」

 もちろんケルウスとて分かっている。日本で生活してみればわかる。これほど豊かで恵まれた生活をしていた人物が、いきなり辺鄙な場所で生活してほしいと言われれば躊躇いもするだろう。

「……そうですね、私も最終的には美月殿の判断に任せたいと思っている。だが、本当にできることならば……」

 どうやら、ケルウスは相当に惚れ込んでいるらしい。服部もそんな彼のことは理解できるので生温かい視線を向けつつ返す。

「分かりました。後は当事者同士でお話をお願いします。それ次第で政府も対応させていただきますので」

「どうか、よろしく頼む!」

 結果を言うならば、ケルウスは美月にプロポーズし、美月もそれを受けた。

 彼女は海上保安庁を退職し、アヌビシャス神王国へ行くと宣言したのだ。



――11月15日 横浜 海上保安庁第三管区

 ここにはダークエルフ一行と海上保安庁を退職し、アヌビシャス神王国へ赴き相手方の『ご両親』にお目通りをしに行く美月の姿があった。

 そして、アヌビシャス神王国と国交を結ぶべく彼らと最も長く接していた外務省の服部も、ここへ赴いている。

 彼らは今回、海上保安庁の巡視船に乗ってアヌビシャス神王国まで赴くことになっていた。未知の海域であることから、海賊などに遭遇する可能性が高いと想定され、海上保安庁の巡視船が派遣されることになったのである。

 彼らが第3管区の待機室で待っていると、海上保安庁の制服を着た2人の男が入ってきた。

 前に立っている男は若く、一歩後ろにいる男は40代半ばくらいに見える。

「どうも、海上保安庁第三管区所属巡視船『いつくしま』船長の斯波と申します」

「同じく、副船長の風間と申します」

 2人の敬礼に服部や元職員であった美月も敬礼で応える。

「本日は皆さんをお送りするために参りました。準備はよろしいでしょうか?」

 それに全員が『はい』と返す。

「では、すぐに乗船してください。出発時刻が迫っております」

 斯波船長はそれだけ言うと踵を返して船へ戻っていった。

 ケルウスは斯波の放つ雰囲気に緊張していた。

「み、美月殿の職場にはあのような恐ろしげな男がいるのか……」

 すると、美月が苦笑いした。

「すみません。斯波さんはちょっと感情表現が得意な方ではなくて……悪い人ではないんですけど」

「そうなのか?」

「実は、斯波さんとは本土にいた時に色々教えてもらったことがあったんです。一見不愛想ですけど、根は優しいですし、家族思いの方なんです」

「そうなのか……」

 ケルウスには一見そうは見えないと思ったが、日本には『人は見た目によらぬもの』という言葉があり、自分の国にも同じ意味の言葉はあることを思い出した。

 彼らは乗船し一路、アヌビシャス神王国へ向かうのだった。


前回厳しい感想をいただきましたが、『書きたいことを書いている』タイプの小説なので、できる限り事実に即するようにと考えていますが、ズレる場合も出てきます。

どうか、注意はもちろんOKですけど生温かい目で見守って下さい……。

それと、今回登場した皇族は現実のものとはかかわりがありませんのであしからず。

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[気になる点] 今後役に立つという理由で素材を取る為だけにワイバーンを繁殖させるなら少なくともグランドラゴ国から離れた場所でやらんとね。 検体ってことで国王があっさり決めたけど、信仰を踏みにじるのは日…
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